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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第8章 繋がりを求めて (灯里視点)
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8-16. 上野の巫女

はぐれ魔獣出現の警告を受けるとき、いつも出現地点の候補は三つ示されていた。そして、それら三地点の距離は数km(キロ)以下だった。それが今回は上野か大崎か赤羽。一番近い上野と赤羽間でも8km以上、今までの倍以上の距離がある。嫌な予感がして仕方が無い。

今日は日曜日なので母が家にいる。だから、出来れば母と話がしたかったのだが、私は既にロゼマリとのコラボ企画の撮影のために電車に乗ってしまっていた。今から家に戻ると撮影に遅れてしまうし、このまま行くしかない。こんな状態で姫愛さん達に会うことになるとは、ついてない。

お蔭で撮影の時も、集中力を欠いた状態になっていた。コラボの撮影の中で、投げられたパチンコ玉を箸で取るゲームをしたが、私は全然取れなかった。パチンコ玉は見えていたのに体が思ったように動かない。全部を取っていた姫愛さんは何かが変で、私も体調が万全なら陽夏さんくらいは取れただろう。

それにしても、姫愛さんは終始テンションが高かった。何かが姫愛さんに起きたのかも知れない。

そして、撮影後に姫愛さん達と話している時に、姫愛さんの変化に思い至った。姫愛さんが眼鏡をしていない。いつもなら撮影中まではコンタクトレンズをしていて、撮影後は眼が疲れたからと言って眼鏡に替えていた。しかし今日は眼鏡に変えようとしていない、いや、そもそもコンタクトレンズをしていない。

「姫愛さん、控え室では眼鏡してましたよね?コンタクトは合わないって。それに今、コンタクトもしてませんよね?」

「え、ああ、いやぁ」

姫愛さんの目が泳ぐ。

「姫愛、視力矯正の施術を受けたんでしょ?」

「あ、そうそう、そうだった」

陽夏さんのフォローにホッとした様子の姫愛さん。そこで安心してしまって良いのだろうか。私は何か怪しいと思ったままなのだが。

姫愛さんは、そのままはぐれ魔獣に出会った話に移っていった。どうやらその話題は、私に話しても問題ないらしい。となると、メッセージが来なかったのは、そう思わなかっただけなのか。

そのはぐれ魔獣の話の中で、気に掛かることがあった。姫愛さんにお師匠様と言われている高校生の柚葉(ゆずは)ちゃんが、姫愛さんに魔獣が渋谷に出現すると言ったらしい。その柚葉ちゃんは、私と同じように姫愛さんの前に現れると考えたからだろうか。いや、証拠も無しに事前に姫愛さんに話すとも思えない。私も渋谷に現れるのではとは考えていたが、正直なところ半信半疑だった。

「出来ればどうして渋谷だって分かったのか、聞いてみて欲しいのですけど?」

「それは良いけど」

姫愛さんは了承してくれたものの、どうしてそれをお願いされるのかが分からないと言った表情をしていた。でも、その疑問を実際に口にしたのは陽夏さんの方だった。

「でも、どうして灯里ちゃんは、この話題を気にしているの?」

まあ、姫愛さんにお願いした時点で、予想された質問ではある。何か言い訳して誤魔化そうかとも考えたが、ロゼマリのプロジェクトは黎明殿関係だし、それならこの二人に話しても問題は無いと考えてしまおう。

「そのぅ、私、分かるときがあるんです。魔獣がいつどこに現れるのか」

私は二人に自分の能力のことを説明した。加えて、今日受けた警告のことも話してしまった。お蔭で少し肩の荷が減ったような気がする。実際には問題は欠片(かけら)も片付いていないのだが。

コラボ撮影の日以降、姫愛さんからの連絡を心待ちにしていたが、姫愛さんから中々連絡が来なくてやきもきしてしまった。結果として、タイムリミットにほぼ近い金曜日の夜にチャットで会いたいとの連絡が来た。

翌朝、姫愛さん、陽夏さんと秋葉原で落ち合う。姫愛さん経由の柚葉ちゃん情報によれば、白銀の巫女は魔獣避けの魔道具を二箇所に設置して、魔獣の出現場所を決めていたそうだ。そして、今回ももう設置しているかも知れないとのことで、それを探しに行くことにした。

最初は大崎へ。柚葉ちゃんの追加情報によれば、魔道具は六角形の形に置かれているそうだ。

でも、その情報だけでは手掛かりが少なすぎて魔道具を見付けられる気がしなかった。柚葉ちゃんは、前の時にどうやって魔道具を見付けたのだろうか。私はいっそのこと柚葉ちゃんを呼ぼうかとも考えた。しかし、私がそんな提案をする前に、魔道具の配置情報だけで陽夏さんが魔道具を見付けてしまう。陽夏さんは「いつもと違う何かを感じる」と言っていた。陽夏さんも、私とは違う何かの能力を持っているのか。色々なことがあって、私は混乱していた。

その後、赤羽へ向かった。赤羽でも陽夏さんがあっという間に魔道具を見付けてしまう。もしかして、陽夏さんが設置したのではないかと思える程に。でも、陽夏さんには動機は無い。いつも姫愛さんと一緒だからだ。これまでの白銀の巫女の動きは、姫愛さんに接触するためだったように見えていた。だから陽夏さんではない。それと今回の件、白銀の巫女が上野を選ぶ理由が分からなかった。

そうした私の疑問は兎も角、出現場所は上野に絞れたのでネット上で呟くことにする。場所は、上野、浅草、秋葉原で良いだろう。スマホを操作してネットへの呟きを終わらせる。

「これで終わりですね。陽夏さん、姫愛さん、ありがとうございました」

「うん、どういたしまして」

「それじゃ、駅に行こっか」

姫愛さんはくるりと半回転して前に進もうとしたところで、石に躓いて転びそうになる。

「おっとっと」

手を広げてバランスを取り、転びそうになるのを堪えていた。

「あははは、躓いちゃったよ」

そのおっちょこちょいぶりが姫愛さんらしい。陽夏さんも姫愛さんのその様子を見て笑顔になっていた。

さて、明日は魔獣が出現する日曜日だが、どうしようか。

兎も角、今回は白銀の巫女の意図が良く分からない。私にとっては、実際に上野へ見に行って確認する以外の選択が思い浮かばなかった。

なので翌朝、ゆっくり目の朝食を食べると、私は家を出て上野に向かう。上野のどこに出現するかは不明だが、大型魔獣であるのなら、なるべく開けた場所の方が被害は少なさそうだ。白銀の巫女が魔獣の出現場所を制御できるか確信は無かったものの、これまで姫愛さんの前に魔獣が出現していることを考えれば、制御できるのだろうと思えた。

上野で電車を降りて正面玄関に出る。目の前はかなり開けている。ここでもアリかなと思いながら歩いて行くと、陽夏さんがいた。

「陽夏さん、おはようございます」

「おはよう、灯里ちゃん。危ないから来ないかと思ってたよ。巫女様のことが気になったの?」

「それもありますけど、大型の魔獣が暴れて怪我する人が出ないか心配で、見に来ちゃいました」

陽夏さんがどう関係しているのか分からないので、見に来た理由を付け足しておく。それに、もし陽夏さんが何か関わっているのなら、陽夏さんの近くに魔獣が現れるかも知れない。だから私は若干無理矢理に陽夏さんと一緒に魔獣の出現まで待たせて貰うことにした。

「もうそろそろ来そうな時間だね」

暫くの後、陽夏さんが告げる。陽夏さんは何かを知っていて教えてくれたのか、単に時間の話をしているだけなのか、陽夏さんの表情だけでは伺い知れない。

それがどちらであったにせよ、陽夏さんの言葉通りに、その時がやって来た。

目の前の横断歩道の歩行者用の信号機が点滅し、赤色の表示に変わる。その一瞬の後、横断歩道の真ん中に小さな竜巻のようなものが巻き起こった。そして、その竜巻が消えたと思うと、そこに魔獣が出現していた。それは、普通のゴリラの二倍以上はある、大きなゴリラのような魔獣だった。

目の前に現れたその魔獣がとても大きく、恐ろしいものに見えた私は、不覚にも腰を抜かしてしまった。

「灯里ちゃん、大丈夫。動かなくても」

恐怖に動けないでいる私に、陽夏さんが優しく声を掛けてくれた。陽夏さんはいい加減なことを言う人ではない。何か成算があってのことだと信じよう。

私が自分の心を鼓舞しているところに、駆け寄ってきた人がいた。その人は白銀の巫女と同じ姿をしていたが、顔が違う。

「ロゼ?」

その表情は、バーチャルアイドルのロゼにそっくりだった。

「でも髪型が違う」

普段、ロゼは頭の両脇で髪の毛を丸めていたが、目の前のロゼは白銀の巫女の髪型と同じにしている。

ロゼは、黙って私達の前に障壁(バリア)のようなものを張ると、魔獣の方に立ち向かっていった。

「あれ、ロゼですよね?髪型はいつもと違いますけど」

私の見間違いではないことを陽夏さんに確認する。

「そうだね、ロゼそっくりだね」

陽夏さんはロゼではないと言いたいのだろう。でも、そっくりだと言った時点で、私の見間違いではないことは裏付けられている。

それから巫女姿のロゼは、魔獣を力で圧倒し、最後には剣で両断して一人で斃してしまった。それを目の前で見ていた私は、その強さに感激した。

だが、その感動に浸れたのも束の間、巫女ロゼが私達の前に展開していた障壁を解除し、反転して颯爽と去ろうとしたところで、自分で斃した魔獣の腕に足を引っ掛けた。

「おっとっと」

巫女ロゼは、両手を広げてバランスを取り、転ぶことは無かったが、その光景は先日見たばかりだ。

「え?姫愛さん?」

ああそうか、と思った。姿をどう変えているのかは分からないが、ロゼ似の巫女は姫愛さんだ。オフの日まで姫愛さんが陽夏さんと行動を共にする必要は無いとは言え、昨日、魔道具まで一緒に探していた三人のうち、陽夏さんと私は上野に来た。それに姫愛さんは、これまで何度も白銀の巫女を目の前で見て来ている。その姫愛さんが今回ここに居ないのは、自分で白銀の巫女役をやるためだったのだ。

後ろにいる陽夏さんが巫女ロゼを罵るような言葉を発し、それに巫女ロゼが反応していることからも、その推測は裏付けられ、加えて陽夏さんもそれを知っているのだろうと推察された。

さて、この件、これから私はどう立ち回ろうか。


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