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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第1章 南国の雪 (柚葉視点)
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1-23. 火竜との戦い

「どうしようか」

私は防御障壁を展開し、焔を避けながら封印の間の中を飛び回っていた。火竜が闇雲に焔を撒き散らしているので、中々近づくことができない。近付いたとしても、先ほどのように鱗一枚割るだけでは、大したダメージにもなりはしない。地道に同じ場所を攻撃すれば或いは、とも思ったが、余り現実味を覚えなかった。

封印の間の壁は、どこも焔の熱で溶けて泥々になっていた。もう、封印の間の中は相当な熱さになっているに違いない。冷却が使えるようになって本当に良かった。しかし、どうやって攻撃したものだろうか。素手はダメ、槍も余り効果がないとなると、巫女の力を使った遠隔攻撃だろうか。いや、たおせる確証もなしに力を暴走させるのは愚策だ。でも、そうなると攻撃のすべがない。

私が考えていると、上の方で防御障壁に当たるものがあった。何かと思ってみれば、焔の熱で封印の間の壁が溶けて、滴り落ちたものだった。防御障壁を展開していたから当たらなかったが、直接当たったら火傷していたところだ。

ん?これが火竜に当たれば火竜も火傷をするかもとも思ったが、直ぐに思い直した。あんなに焔を噴きまくってこの中を熱くしまくっている火竜が、熱い液体で火傷をするとは思えなかった。よく見れば火竜にも溶けた雫は落ちていたし、だからといって何も感じているようにも見えなかった。

溶けた雫は柔らかいから駄目だけど、これが堅い岩礫だったら少しはマシだろうか。そうだ、岩礫なら作ることができる。冷やして固めればいい。私は上昇して封印の間の天井の方に上がった。固めた岩は横から投げるより、上から落とした方が簡単だと考えたからだ。天井に着くと、防御障壁の上半分を解除して手を天井に近付ける。そのまま手を着くと火傷をしそうだったので、手を着けようとしていたところに掌をかざして冷却する。何となく大丈夫そうというところで、冷却を止めて恐る恐る指を付けて熱さを確認すると、十分冷めていることが分かった。それで私は冷めたところに手を着いて、その周辺が同じくらいまで冷めるまで力を注ぎ込んだ。そして冷めて固まった部分を剥がすために掌底破弾で衝撃を与える。すると、私の思惑通りに冷めた岩の塊が天井から剥がれた。私はすかさず横に避けつつ、岩の塊が魔獣の頭に落ちるように軌道修正を試みる。岩は落下し、火竜の体にぶつかった。火竜の鱗に傷はできていなかったが、火竜が鳴き声を上げていたのでダメージは与えられたと思う。

「それじゃあ、これを繰り返しますか」

私は気合を入れて少し横に移動し、岩を剥がした隣の区画で同じように冷却し、岩を剥がして落とし火竜にぶつけた。そしてまた一つ、もう一つ、私は順番に溶けた天井を冷却して固めて剥がして、順番に火竜目掛けて落としていった。そして、天井の溶けた部分が粗方無くなったところで下を見ると、火竜が落とされた岩塊に半分埋もれているのが見えた。でも、体力は有り余っているようだったし、怒り狂っていた。

一方、私は落とすものが無くなって困っていた。天井はあるのだが、土塊のようなものであってそれほど堅くなかったので冷ました岩の塊ほどの威力は期待できなかった。

天井からの攻撃が止んだことで、火竜の方に周囲を伺う時間が出来た。そして火竜は私を見付けると、大きく口を開いた。また焔の攻撃かと思ったが、何かが違う気がした。そう、焔を吐くときには、口の周りに小さな炎が見えていたのだが、今の火竜の口の周りにはそれがない。

私は自分の直感に従って幻獣から一番遠くなる天井中央奥に移動し、自分を囲むように防御障壁を三重に張った。その時、魔獣の口から衝撃波が放たれた。私は防御障壁ごと吹き飛ばされ、天井にぶつけられ、気を失いかけた。凄まじい衝撃波は、一番外側の防御障壁を簡単に破り二番目の防御障壁にも亀裂が入った。私は一番内側にもう一つ防御障壁を張り、ともかく衝撃波の直撃を浴びないように防ぐので精一杯だった。しかし、突然、防御障壁に掛かる圧力が下がった。

「え?これは」

気が付くと周りには何も無かった。

いや、そうじゃなくて、私は空中に浮かんでいた。下を見ると穴があって、その奥には火竜の影が見えた。私は火竜の衝撃波によって封印の間の天井を突き破って空中に飛び出てしまったらしい。上から見た穴の周囲は土や岩だけだが、その外側は木々が並んだ森になっている。よくよく見れば、穴はいつも登っている島の北側の山の山頂の真ん中に開いていた。

どうやら山頂の真下に封印の間があったらしい。もう少し周りに目を向ければ北側は森が続いており、南側には南御殿や中央の家々に加え、少し先の東側には港も見えた。山頂よりも見晴らしが良いので、こういう景色も悪くはないと思ったが、いまは景色を堪能している場合ではなかった。

吹き飛ばされた山の欠片は、あちこちに散っていた。中央の方にも飛んでいったかも知れないが良く分からなかった。欠片は穴の中にも落ちたようで、火竜の周りにも欠片が見えた。その火竜は体を揺すりながら、少しずつ上に登ろうとしている。私の落とした岩の塊を足下の方に落として、それを足場にしているみたいだった。このままだと、封印の間の穴から這い出てしまそうだ。

火竜が封印の間の穴から完全に出てしまうと、羽が自由になって飛び出してくるかも知れない。そうしたらもう斃すのは無理だろう。そうなったら、どんなことになるだろうか。これだけの火竜相手では、巫女がどれだけ居れば勝てるか分からない。とてもじゃないが、お母さんと瑞希ちゃんと島の人たちだけでどうにかなる相手ではない。そして、被害に会うのはこの島だけでは済まないだろう。

私はふと視線を上げた。山頂よりも高いところからの光景は、山頂から見るよりもさらに海の面積が大きく、島が小さく見えた。大きな海の中にある私たちの住んでいる小さな島。島の中央から御殿にかけて、多くの人がいるのが探知によって確認できる。そう、先日山に登ったときも決心したんだった、私は私の大切な人たちを護るんだと。

だから私はここで火竜を斃す。

「どうやって攻めよう?」

遠距離攻撃は、力の暴走を恐れて小さな力で攻撃しても効果があるとも思えなかったし、逆に力の暴走覚悟で強い攻撃をしても、障壁か何かで防がれてしまうかもしれない。力を暴走させてしまったら、火竜ではなく私の方が終わってしまう。当たるかどうかも分からない中、そんな分の悪い賭けはできない。

となるとやはり、近接戦闘しかないか。近接戦闘は先程封印の間の中でやっている。何度も攻撃することはできないし、普通の攻撃では斃すことは無理なのは分かっている。しかし、鱗は割れたのだ。もっと強い力で攻撃すれば通用しそうな気がする。

「まあ、やるしかないよね」

全力の一撃を火竜にぶつける。それしかないと思った。

下の穴を見る。火竜はまだもぞもぞと動いている。やるなら今しかない。私は深呼吸すると、右手に持った槍を立て、体中に巫女の力を行き渡らせた。そしてその力をどんどん強くしていく。限界と思えるほど体を力で満たすと、改めて下の穴の中を見る。火竜の姿が良く見える。思った以上に冷静になっている自分に驚くが、火竜を斃すにはこの冷静さを最後まで失ってはならない。

私は浮遊転移陣を操作して火竜の体の真上に位置するように移動させた。そこで力を槍に乗せると、浮遊転移陣を解除して火竜に向かって降下を始めた。

「皆を護るんだ」

お父さんやお母さんや恭也や分家の叔父さんたちや叔母さんたち、瑞希ちゃんや麗奈ちゃんや花蓮ちゃんや保仁くんや卓哉くん、トメさんや島のみんなの笑顔が頭をよぎる。皆が笑顔を失うようなことは私がさせたりはしない。

「皆を護るんだ」

護りの心に呼応するかのように、私の力がどんどん増大していく。その力を懸命に槍の穂先に集めていく。落ちていく私を火竜は危険と判断したのか、こちらに向けて焔を吐いてきた。私は穂先から円錐状に防御障壁を張るとともに、体の中の力を放出して冷却することで焔に対抗する。何としてもこの一撃を外すわけにはいかない。

「皆を護るんだ」

火竜はもう目の前だ。避けさせやしないとばかりに火竜の周りに防御障壁を立てて固定する。この身体もあと一瞬だけ持てばいい。それで大切な人たちが護れるのなら。火竜は咄嗟に頭を避けたが、背中の方ががら空きになった。身体強化された目に先程私が割った鱗が見える。少しでも火竜を斃す可能性を上げようと、割れた鱗目掛けて槍を突き立てる。

「お願い、皆を護らせて」

槍の穂先が火竜の体に突き立った感覚を得たその瞬間、祈りとともに増大に増大を重ねた力を火竜の体の中に開放した。

そして、私の意識が飛んだ。


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