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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-18. 仮面武闘会本選

第二ブロックの予選で本戦出場を決めた私は、その後の第三ブロックの試合を見学して、どんな人達が勝ち残るのかを確認しました。

「雪希ちゃん、どう?勝てそうかな?」

問い掛けて来たのは、隣に座って見ていた萌咲さんです。

「全体的にレベルが低いですよね。まあ、勝ち残った人はそこそこのレベルかなぁ。でも、第三ブロックの人達になら勝てそうな気がしますぅ」

素直に感想を言ったのに、萌咲さんは笑い始めました。

「雪希ちゃん、良いと思う、その感じ。このまま明日も勝っちゃいそうかもね」

「この後に強い人が出て来るかも知れないですよぉ」

「それじゃ、雪希ちゃんは、午後の試合も見ていくの?」

「いいえ。試合を見ているより、身体を動かしたいかなぁって」

私は振り返って反対側に座っていた珠恵ちゃんの方を向きました。

「ねえ、珠恵ちゃん。午後、練習に付き合って貰いたいのだけどぉ?」

「良いけど、何処でやる?」

「いつもの理学部棟の裏かなぁ。あそこなら気兼ねなく出来るから」

「分かった。じゃあ、お昼食べて大学に行こう」

「うん、ありがとう」

それから皆で原宿の駅の反対側まで歩いてお昼を食べ、それで解散になりました。私は珠恵ちゃんと、研究室に戻るつもりだった織江さんの三人で大学まで行き、その後は日が暮れるまで珠恵ちゃんと打ち合いの練習をしました。

午前中の試合で、余りにあっさりと勝ててしまったので、調子が狂ってしまい、本選に向けて少し不安があったのです。珠恵ちゃんと何度か模擬試合をして、結局負け越してしまったものの、いつもの感覚で打ち合えたので、自分はこれで大丈夫なんだと思えました。

お蔭でその夜は、不安もなく、ぐっすりと眠れました。これで負けてしまったら、それはその時の話です。

明けて、本選の日。

集合時間は前日より30分早くて、受付が9時半、試合開始は10時です。

服を着替えて試合場に行くと、予選のときに四面に区切られていたコートが中央の一面だけになっていました。そして、両脇には3Dアバター表示用のモニターが設置されています。

午前中は、16試合。本選に残った全員が一度ずつ戦います。本戦初戦の相手だけは初見での対戦になりますが、その後は、一度は戦い方を見ている相手と言うことです。なので、自分の試合以外のときは、勝った方の人の特に気になる特徴というか癖をなるべく頭に入れるようにしてました。

私の出番は第七試合。対戦相手は「ゲームマスター武蔵」という名のゲーム実況を中心に動画を投稿している男の人です。何合か剣を打ち合ってみて、少しは戦武術を習ったことがあるのか、ゲームで覚えたのかは分からないですが、筋は悪くはないと思いました。でも、如何せん、パワーも持久力も無さ過ぎです。何回も打ち合い続けるだけで、目に見えて息が上がっていました。剣の動きも鈍くなった後は隙だらけになって、簡単に二本取れました。やっぱり、ゲームをやってばかりじゃなくて、少しは身体も動かした方が良いんじゃないかなぁ。

試合後は、コート脇の控え席で見ていても良いし、退場しても構わないと言われていましたが、私は控え席に戻って残りの試合を観戦するのを選びました。そして、午前中の全試合を見終わると、織江さん達に合流して昼食に。

食事中の話題は、どうしても試合のことになってしまいます。

「ねえ、雪希ちゃん。全部の試合を見てどうだった?勝てそう?」

勢い良く聞いて来たのは私の向かいに座っていた灯里ちゃん。

「そうだねぇ。午前中勝った15人のうちで要注意は3人かなぁ」

「それって、男の人2人に、女の子?」

「うん、珠恵ちゃんもそう思った?」

「他にも実力を見せてない人がいるかもだけど、立ち振る舞いからすると、その3人だと思う」

流石、珠恵ちゃんです。自分の見立てが合っていたと思うと、安心できます。

「ちょっと、二人だけで分かり合ってないで、私にも教えてよ」

「あー、灯里ちゃん、ごめん。男の人2人は、筋肉ムキムキだった人と、ズルの人って言えば分かる?」

「何となくだけど、珠恵ちゃんの言っている人達は想像付いた。あと、女の子の方は言われなくても分かるよ。動きがとても綺麗だった子だよね。私、あの子の動画見たことあるよ。戦武術の紹介動画、投稿してたよね?」

「うーん、私は見たこと無いや。雪希ちゃんは?」

「私は昨日見たよぉ。勝ち残った人の中で、一人だけプロフィールに戦武術ってあったから」

そう、見るには見たのですが、投稿されている動画は、型の紹介ばかりで、実戦の動画が無かったので、動画では実力が推し量れていません。午前の試合を見て、若そうだけど、しっかりとした動きをする子だなと思ったのでした。

「それで、あの女の子なんだけどさ」

何か珠恵ちゃんが言い難そうな表情をしています。

「ん?」

「隠し玉を持っているかも知れないから、気を付けて。織江さん、そうですよね?」

珠恵ちゃんの視線が、灯里ちゃんの隣に座っていた織江さんの方を向きます。

「そうだな。隠し玉は持っていると考えておいた方が良いだろうな。相手が隠し玉を使おうと思う前に勝負を決めてしまえ」

「えーと、それって、どうすれば良いのでしょうかぁ?開始早々二連撃とかですか?」

「いや、雪希、それは逆だ。今まで通りの立ち回りだけで何とかするのだ。下手に二連撃を使うと、お主に隙が出来るし、あ奴の隠し玉を誘発する恐れがある故、控えた方が良いぞ」

「そうなると、隠し玉を使わなくても勝てそうと思わせつつ戦って、勝つってことですね」

とても難しい注文なのですがぁ。

「然り。お主が一本取った直後が一番危険だろうな。相手を追い詰めないよう、受けを主体にするのも良いかも知れぬ。何にせよ、相手をよく見て慎重に事を進めるが吉だ」

「私には難しそうなんですがぁ。途中で誰かに負けたりしませんかねぇ」

「今から弱気になってどうする。安心しろ、お主と当たるまで、あ奴が負けることはあるまいて」

「うー」

少々気が重くなりましたが、どのみち通らないと行けない関門ですからね。織江さんのアドバイスを頭の隅に置いて頑張るしかありません。

食事を終えると、再び試合のコートへ。午後は、まず二回戦八試合を実施した後、動画の入賞作品の発表です。

その二回戦は、特に波乱もなく終わりました。私も、マークしていた三人も勝ち上がり、準々決勝に進んでいます。

二回戦の後は、動画関係の三部門、つまり『歌部門』『ゲーム実況部門』『おもしろ動画部門』の結果発表ですが、残念ながら研究室の動画はどれにも入賞できませんでした。知名度低いですし、仕方ありません。やはり目指すは武闘部門の優勝です。

と言うことで、気合を入れて臨んだ決勝トーナメントのクジ引き。準々決勝以降の対戦がこれで決まります。クジ運はまあまあだったでしょうか。

準々決勝の最終試合、マークしていた三人には当たらず、速攻で二本取れました。対戦相手の方は、私の動きが良く見えていないので、フェイントを使うと直ぐ隙が出来たのです。この後も、同じくらいの相手なら楽なのですが、残念ながらそうはいかないことが分かっています。

準決勝は、マークしていた男の人です。強そうな男の人は二人いましたが、幸運にも準々決勝でその二人がぶつかったので、対戦するのは片方で済みました。勝ち残ったのは、食事の中で話をしていた「ズルの人」です。何がズルかと言うと、アクションは別の人にやって貰う取り決めだと主張して、当人はコート脇で声だけの参加なのです。そんな分担制ってあり得ないと思っていたのですが、それに対する禁止規定が無いので良いのだとか。アクションの人は戦武術が上手い人だったので、当然のように勝ち上がって来たのです。

運営が良くても、私は物凄く腹が立っています。もう一人マークしていた女の子が決勝に進んだのを確認すると、絶対にこの人達を先には進ませないと堅く決意してコートの上に出て行きます。相手の男の人は、良く鍛えられた体つきです。ただ、戦武術の経験がどれだけかは未知数です。準々決勝の試合を見たところでは、上級者だとは思いましたが、師範クラスの凄さは感じていません。少なくとも互角の戦いは出来る筈。

私達が指定の位置に立ち、互い人向き合ったところで、ピーッという試合開始のホイッスルが鳴りました。

しかし、コート上の動きはありません。私は相手の技量の見極めのために最初は受けに徹しようと考えたから動かなかったのですが、相手も同じに考えたか、カウンター狙いなのか。睨み合っていても時間の無駄なので、私は剣の構えを解き、右手でぶら下げるように木剣を持ちながら、前に歩き出します。こうしていれば、いずれ打ち込みに来るでしょう。私も馬鹿ではないので、感情のままに打ち込みに行ったりはしません。相手に腹を立ててはいますが、それと試合とは別です。冷静に相手の力量を見極めて、叩き潰すのです。

何をするでもなく歩いて近づいて来る私に焦れたのか、男の人は前に出て打ち込んで来ました。私は、その打ち込みをすべて正面から受け止めます。私相手なら、力づくで何とかなると思ったのでしょうか。何度打ち込んでも、私の受けに乱れが出ないので、より強力な打ち込みをしようと考えたのか、男の人は大上段に構えました。その開いた腹にすかさず木剣を叩き付けます。一本。

「馬鹿じゃないの」

おっと、口が滑ってしまいましたぁ。一本を入れた直後、相手の真横で言ったので、どう考えても聞こえてしまったよなぁ。でも、いくら私が受けに徹していたからと言って、試合の最中に相手の目の前で隙を作って良い筈もないのに。

一本が入ったので所定の位置に戻って、再びホイッスルが鳴り、試合が再開します。

今度は男の人が仕掛けてきました。私に向けて走り込み、打ち込んで来ます。しかも、今度はフェイントも組み合わせて。さっきの動きは私を舐めていたからだったのですね。これが本気と言うことですか。でも、この程度で私に勝つのは無理ですよ。

男の人の猛烈な打ち込みを凌ぎ、隙を見て反撃しようとしたら男の人は下がって距離を取りました。そこへ間を置かず、今度は私の方から攻め込みます。木剣を左上に構えて相手に右肩目掛けて剣を繰り出す姿勢を見せながら、思い切り気を放ちます。相手には、私が本当に斬りかかって来たように見えていることでしょう。

そこですかさず逆サイドにステップして、木剣を右に構えて相手の左わき腹目掛けて打ち込みました。この戦法、実は珠恵ちゃんにはまったく通用しませんが、この男の人には有効だったみたいです。合わせて二本で私の勝利です。

やった、手も足も出させずに勝ってやった。女の子相手に何も出来ずに負けるとか、雇い主に絞られるかも知れないですが、そもそもそういうことやろうとした雇い主が悪いんです。

ふと、選手の控え席を見ると、例の女の子が目を輝かせて私のことを見ているのに気付きました。「決勝戦では良い試合をしようね」と言う気持ちで、彼女に向けて微笑んでみましたけど、伝わったかな。


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