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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
238/393

7-17. 仮面武闘会予選

「えい、やー」

私は気合と共に木剣を力一杯打ち込みます。しかし、上手く受け流されてしまい、そこで出来た隙を突かれて、木剣を喉元に突き付けられてしまいました。

「参りました」

私は木剣を収めると、礼をしてから打ち合いの相手に近付きました。

「やっぱり、風香さんには勝てないですよぉ」

コンテストの武闘部門の予選の前日、私は獅童道場に来ていました。その日は風香さんが道場に出ていたので、打ち合いの相手をして貰っています。夏休み以降、たまに道場に来て教えて貰い、少しは上達していると思うのですが、風香さんのレベルにはまだ全然届いていません。

「そう簡単に超えられても困るけど、雪希ちゃんもレベル高いと思うよ。今度の試合では、そうそう負けないんじゃないかなぁ」

「そうなんですかねぇ。最近は珠恵ちゃんに負け越しているし、風香さんだけじゃなくて陽夏さんとか美鈴さんとか、私より強い人は他にもいるのですけどぉ」

「うーん、類は友を呼んじゃうのかな?世間一般は、そこまでじゃないって。相手を良く見て、油断しなければ大丈夫だよ」

まあ、確かに、集まるのは武闘家ではなくて、バーチャルアイドルだからなぁ。風香さんの言うことの方が当たっているのかも。どうも心配性なので、悪い方に考えがちです。もう少し気楽に構えておけば良いのかなぁ。

「風香さん」

「何?」

「あのぅ、もう一本付き合って貰えませんかぁ」

風香さんの言うことも分からなくもないのですが、そう簡単に気持ちは切り替わりません。申し訳ないと思いながらも、お伺いを立ててみます。

「いいよ。好きなだけ付き合ってあげる」

風香さんは私のお願いに、笑顔で応じてくれました。お蔭で、心行くまで予選に向けた調整が出来ました。

そして、翌日。

バーチャルアイドルコンテストの武闘部門の予選の日です。

「雪希ちゃん、おはよう」

手を振りながら灯里ちゃんが駅の改札から出てきました。ここは、原宿です。今日と明日、この近くの体育館で武闘部門の試合が行われるのです。

「私、皆を待たせちゃった?」

灯里ちゃんが心配そうな顔で周りを見回します。

「灯里ちゃん、大丈夫だよ。私も今さっき来たばかりだから」

そう答えたのは珠恵ちゃん。珠恵ちゃんは、家が近いので、丁度良い時間を見計らって家を出て来たと言ってました。

他に来ているのは、織江さん、萌咲さんに天草さんです。八重さんは家でお子さんの相手だそう。残念です。男子で唯一参加の天草さんは、周りが女子だらけと言うことよりも、生でバーチャルアイドルが見られることの方にワクワク顔です。それで良いのでしょうか。

私達は連れ立って歩きながら思い思いにお喋りをしていて、歩く速度はゆっくりでしたが、それでも10分も掛からずに会場の体育館に到着しました。

「おおっ、おっきいねぇ」

体育館の建物の前で、灯里ちゃんが感慨深げにしています。

「同時に四つの試合をしますからねぇ」

武闘部門への参加は、全部で345組です。予選を通過して本選に参加できるのは32組。なので、10~11組ずつ32のグループに分かれて、それぞれでトーナメントを実施して本選参加者を決めて行きます。グループの数が多いので、ABCDの四つのコートに分かれて同時並行で試合をします。それぞれのコートに時間ごとに第一から第八のブロックが設定され、予めコートとブロックが連絡されているので、予選のときはその時間に合わせて行けば良いことになっています。鴻神研究室紹介サイトは、Cコートの第二ブロック、受付が10時までで試合は10時半からです。

受付をして中へ入ると、ロビーには結構人がいました。今日は予選なので、参加チームの関係者しかいない筈だから、閑散としているかと思っていたので意外です。コスプレのような姿の人もいますが、バーチャルアイドルのイベントですから、いるのが普通でしょうか。

ロビーに設定されている売店では、バーチャルアイドル関連のグッズを販売していて、天草さんは早速そちらへ。私は、珠恵ちゃん、灯里ちゃんと一緒に女子更衣室に向かいます。織江さんたちは、真っすぐCコートの応援席に行くからと言って、途中で別れました。

「二人とも、付き合って貰っちゃって悪いねぇ」

「良いんだって、私達も着替えるんだから」

武闘部門の試合は、ネット配信されることになっています。配信されるのはバーチャルアイドル、つまり3Dアバターの動画だけでなくて、生の映像もです。なので、試合では仮面を付けることが推奨されています。

試合に出られるのは3Dアバターを動かす人だけなので、研究室の中では私だけ。それで最初は私の格好をどうするか考えていました。そして、仮面を付けるとなれば、いつもダンジョン探索実況で仮面を付けて撮影していたので、その格好で良いよねと話をしたところ、灯里ちゃんから折角のイベントなんだし、ここはミニスカートとショートのスパッツで可愛く決めなくちゃだよ、とダメ出しが。私は恥ずかしいと駄々をこねたのですが、灯里ちゃんも同じ格好して応援するからと言われ、仕方なく灯里ちゃんの案を採用することにしました。私達の会話を黙って聞いていた珠恵ちゃんも、巻き込まれる形で同じ格好をしてくれると言ってくれました。楽しそうにしている灯里ちゃんの気持ちに水を差すのもどうかと考えたのかどうなのか、珠恵ちゃんの心中は謎です。

ともあれ、女子更衣室に辿り着くと、三人とも着替えました。灯里ちゃんと珠恵ちゃんは試合には出られませんが、私と同じようにマスクをして、皮の胸当ても着けてます。その格好で観客席に行くのも勇気が必要かもと思ってしまいました。もっとも部屋の中を見回すと、他にも着替えている人達がいて、派手な衣装を身に纏っています。試合向きではないし、こういう人達が観客席にいるなら、私達くらいの格好ではそんなに目立たないかなぁ。しかし、改めて良く見ると、この部屋では応援の人も着替えられるので、一概には言い切れないものの、何となく試合向けの格好をしている人が少ないような。私の気のせいでしょうか。

着替え終わったあと、試合開始までまだ少し余裕があったので、灯里ちゃん達と観客席に向かい、織江さん達に合流しました。私達が観客席に着いた時には、もうCコートの第一ブロックの試合は終わっていました。

「おお、雪希も来たのか」

「はい、試合まで時間があったので。1ブロックの試合は見ましたかぁ?」

「ああ、大体準決勝からな」

「試合、どうでしたか?皆強かったですかぁ?」

「一人強そうなのがおったぞ。ただ、後は大したものではなかったな。もっとも、この後のブロックのことは分からぬが」

織江さんの言う通りなら、予選は何とかなりそうです。

「私は、やれるだけのことをやるだけですぅ」

「そうだな」

意気込む私に織江さんは微笑みを返してくれました。

ほどなく試合の時間が来て、私は観客席を離れ試合のコートに入りました。係りの人に控え席で出番を待つようにと指示を受け、そちらの方を見やります。控え席とはコートの脇、壁際に並べてある座席のことです。そして、そこにはドレスや着ぐるみなど、明らかに打ち合いには向かない格好の人達が混じっていました。私は、試合のルールを間違えたのかと思って、割り当てられた椅子に座ると、スマートフォンを取り出してルールを再確認してしまいました。結局、私の記憶違いではなくて安心しましたが、この人達はどうやって闘うというのでしょうか。

私の疑問を他所に、時間が来ると、試合が始まりました。

Cコートの第二ブロックの第一試合。闘うのは、「風紀委員長・鳳嵐子」と、「ゆるゆるクマさん」です。

控え席に座っている私達とはコートの反対側の位置に、大型のモニターが設定してあり、そこにバーチャルアイドルが表示されるようです。第一試合で闘う二人がコートの中に入ると、モニター画面にそれぞれの3Dアバターが表示されました。どうやら生の試合と、バーチャルアイドルの試合が両方見られるようです。面白そう。

二人は順番に名乗りをあげます。

「世界の風紀は私が守る。皆の風紀委員長、鳳嵐子」

えーと、風紀委員長って普通は学校の中の風紀を守る人だと思うのですが、世界ですかぁ。

「ゆるゆるクマさんだぁ。勝つのはオレくまぁ」

着ぐるみのクマさんが、木剣を振り回しながら叫んでいます。気合は伝わってきましたけど、周りがどこまで見えているのか、気になります。

審判員のホイッスルで試合開始。風紀委員長がクマさんのサイドに回り込みながら近付いて、打ち込みます。クマさんは避けることが出来ずに、木剣で打たれてしまいました。これで一本。

そこで二人は一旦、開始位置に戻され、再度ホイッスルが。風紀委員長が先程とまったく同じようにクマさんのサイドに回り込んでもう一本。合わせて二本で風紀委員長の勝利です。

試合時間は四分間なのですが、あっけなく終わってしまいました。

そして、第二試合。「レディ・フォレスト」対「ホワイト仮面ユキコ」、つまり私の出番です。係の人に促されてコートの中へ。

「私は、レディ・フォレスト。私の魅力で貴女を跪かせてあげる」

どうしよう、どこに突っ込んだら良いのでしょう。私の目の前の女性は、深紅のドレスに黒の仮面を付けています。手に持っているのは大きめの扇子。もしかして、その扇子が武器なのでしょうか。それとも、仮面舞踏会と勘違いしているのでしょうか。それに、レディ・フォレストって「森さん」ってこと?私の中で、目の前の女性は、最早「森さん」です。

と、私が呆けていると、審判員に名乗りを促されてしまいました。

「ホワイト仮面ユキコです。よろしくお願いします」

全然気の利いたことが言えませんでしたが、名乗りはポイントに含まれませんので、気にしません。

ホイッスルが鳴ると、予想通り、森さんは扇子を畳んで私に打ち込んで来ようとしました。木剣で扇子を払っても良かったのですが、扇子を叩き壊してしまわないかと心配になったので止めて、扇子を避けながら相手の脇腹に木剣を叩き付けます。それで一本。

二本目も同様に対処することで勝利できました。私が剣を収めてお辞儀をすると、森さんは優雅にカーテシーで応じてくれました。負けてもなお、きちんとキャラを演じています。

森さんとの対戦だけが特別でもなく、予選は他の対戦も似たような感じで私は簡単に勝ち上がれました。一番手強かったのが風紀委員長かなぁ。

ともかく、これで翌日の本選に参加することが出来ます。


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