表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
237/393

7-16. 二年への進級

四月になり、新年度が始まりました。私達は大学二年生です。

だからと言って、研究室に新一年生が来るわけでもなく、どう考えても大学入学早々にこの研究室に良く顔を出していた私達の方が変だと言うことを再認識させられた形です。

前の年度に研究室に所属していた四年生の四人のうち、三人は卒業後に就職しましたが、天草さんは大学院に残って、ここの研究室の新しい修士一年になりました。織江さんは博士二年に、萌咲さんは修士二年に。修士二年だった朝霧さんは、博士課程に進学して博士一年です。織江さんは、もう趣味で大学院生やっているように見えますが、朝霧さんは真面目で、だからこの先もずっと大学に残って研究を続けることまで考えて博士課程を選んだような、そんな印象があります。

朝霧さんは遺跡や遺物など歴史的なものに興味があって、他の大学や研究機関から遺跡調査の手伝いの依頼の声が掛かると、喜んで出掛けていってます。遺跡は世界遺産と重なるところもあるので、灯里ちゃんと話が合うようで、たまに二人で盛り上がっています。まあ、単に趣味が合うと言うだけで、それ以上の関係に進展している雰囲気ではないです。

天草さんは、四人いた卒業生の中で一番大人しくて地味だったので、今一つどんな人か分かっていませんでしたが、最近になって自称オタク、いえヲタクであることが分かりました。それが知れたのは、研究室のお茶の会話の時に、天草さんがアニメやゲームが好きで、特に妹もの良いと熱弁したところに、私が「天草さんてオタクみたいですね」とコメントしたことがきっかけです。

「白里さんは、オタクという言葉を良く知っていたね」

「そうですねぇ。私、高校時代は天文部だったんですけど、アニメ研究部と兼部している人が多くて、そこで結構オタクって言葉が使われてたんです」

「ふーん、なるほど、そういうことなんだ。白里さん、僕はね、オタクに見えるかも知れないけど、オタクじゃなくて(うぉ)タクなんだ。そう、(うぉ)タク、拘りを持った趣味人。分かって貰えるかな?」

「え、えーと、はぁ」

私にはオタクとヲタクの違いが全然分かりませんが、天草さんにはそこに拘りがあるのだと言うことは理解できました。私達の会話を横で聞いていた珠恵ちゃんが「うわっ、それどーでも良い話だわ」とかブツブツ言っていますが、私は拘りがあるって良いことではないかなぁって思います。

そんなヲタクの天草さんは、バーチャルアイドルも好きだそうで、ホワイト仮面ユキコの動画が投稿されているのをいち早く見つけると、織江さんにユキコの動画のプロジェクトに参加させて欲しいとお願いしてました。でも、卒論が終わるまで駄目と言われ、我慢の日々が続いていたのです。そしてようやく、大学院進学を機に織江さんの許可が出て、プロジェクトへの参加が叶いました。今は、織江さんに3Dアバターのモデリングについて教えて貰っていて、新しいユキコの衣装をデザインすると張り切っています。大学院に進学したのは、研究を続けるためではなかったのでしょうか。織江さんが付いているから大丈夫とは思いますが、ユキコに変な衣装を着せようとしないで欲しいものです。

さて、そんな風に研究室に小さい変化がありましたが、同じようにアルバイト先にも小さい変化が。四月の半ば過ぎに、新一年生のアルバイトが一人増えました。工学部に入学した寺前潤子(じゅんこ)ちゃんです。同じシフトになった日の賄の時の会話で、彼女もダンジョン探索の経験があると分かりました。

「潤子ちゃん、サークルには入ったの?」

「ええ、ダンジョン探索サークルに」

「えっ?潤子ちゃんダンジョン探索に興味あるの?」

「ありますよ。私、不思議なことが好きなんです。ダンジョンって、存在そのものが不思議ですよね。だから前から中に入ってみたいと思ってました」

「あれ?じゃあ、まだダンジョンに入ったことは無いってことぉ?」

潤子ちゃんは首を横に振りました。

「去年の春に入っていたことがあります。ですが、その後、受験だったので入るのは止めていて。それで、先週、サークルの新歓を兼ねたダンジョン探索のときに、久しぶりにダンジョンに入りましたね」

「それで、何かダンジョンを調べてみたの?」

「いえ、まだそこまでの余裕はないですよ。中は真っ暗ですし、魔獣も出ますから、緊張しっ放しで。そう言えば、地球科学科の研究室の紹介動画でダンジョン探索実況ありますよね。あれ、女の子三人しか出て来ないんですが、本当に三人で探索しているのか知ってますか?」

潤子ちゃんの言葉を聞いて、真弓がニヤついた顔で私を見ました。

「雪希、潤子ちゃんに教えてあげたらどうなのだ?別に秘密ではないのだろ?」

「ひ、秘密じゃないけど、面と向かって言うのが恥ずかしいようなぁ」

真弓と私が何を話しているのか分からず、潤子ちゃんはキョトンとした顔のままです。そんな潤子ちゃんに、真弓がドヤ顔で説明します。

「潤子ちゃん、良く聞いておくのだ。あの鴻神研究室の紹介動画に出て来るホワイト仮面ユキコを演じているのは、何と、この雪希なのだ」

真弓に言って貰ってもやっぱり恥ずかしい。顔が火照っているのを感じます。

「え?雪希さん、二年生でしたよね?何で研究室の紹介動画に?もっと上の学年の人達がやっているのかと思ってました」

「まあ、普通、そう思うよなぁ。でも、雪希達は、去年入学したときから、あの研究室に入り浸っているのだよ。だよね?雪希」

「うん、そう」

「へえ、何だか、面白そうですね」

潤子ちゃんがキラキラした目で見詰めてきます。ま、眩しいよぉ。でも、潤子ちゃんの言う通りだと思う。

「きっかけは無茶苦茶だった気もするけど、今は楽しい。とは言っても、まさかバーチャルアイドルをやることになるとは思ってなかったよ。ダンジョン探索もね」

「それで、さっきの話ですが、ダンジョン探索は三人だけでやっているんですか?」

「そうだよ。他の二人も学科の同期の友達なんだ」

「三人だけで怖くないですか?サークルは五人以上で入る決まりですし」

「そうだね。最初は緊張したけど、怖いって思ったことは無いかなぁ」

「でも、あの暗闇の中で、いつ魔獣に出会うか分からないじゃないですか」

あー、確かに言われてみれば。

「余り気にしてなかったけど、そうだね。でも、三人でダンジョン探索しているときって、何となく分かる気がしてたんだよなぁ、魔獣が来そうかそうじゃないか。何でだろう?」

今まで珠恵ちゃんと灯里ちゃんとしかダンジョンを探索したことがなかったので、それが当たり前だと思っていたんだけど、もしかして、そうじゃないってことかなぁ。今度ダンジョンに入るときに少し気にしてみようかなぁ。

私が黙って考えごとを始めてしまったので、潤子ちゃんが焦ってフォローしてくれました。

「あの、大したことではないので、雪希さん、考え込まないでください」

「あ、うん、潤子ちゃん、大丈夫だよ」

潤子ちゃんが気にしないように、笑顔を向けました。

「それよりさぁ、動画のコンテストがあるんだよね。潤子ちゃんにも投票して貰えると嬉しいなぁ」

そう、バーチャルアイドルのコンテストは、武闘部門だけ戦武術の実技でトーナメント形式の試合なのですが、それ以外はすべて動画の採点で決まります。その採点の半分は、視聴者の投票による得点とのことなので、知っている人達には投票をお願いしています。当然、真弓には既にお願い済みです。

潤子ちゃんのお友達にもコンテストの話を広げて貰うようにお願いして、これで少しは票数が稼げたでしょうか。

四月も終わりになると、コンテストの武闘部門の試合があります。まずは予選です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ