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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-14. イベントの告知

駒込駅前でのはぐれ魔獣の出現の動画も、織江さんが手早く編集してくれました。

凄いと思ったのは、織江さんが魔獣の出現の様子をしっかりと撮影していたことです。普通なら、私達の動きを追って『ダルマさんがころんだ』ならぬ『中型魔獣があらわれた』の様子を撮影しているところと思うのですが、旋風が吹き始めたところから、旋風の方にカメラの向きを変えて撮影していたのです。なので、魔獣の出現もバッチリ捉えられていました。今回の動画は、その場面だけでも貴重だったのではないでしょうか。お蔭で、再生数はダンジョン探索実況よりも増えました。なお、今回も魔獣討伐シーンは省かれています。と言うか、盾に囲まれていたので、撮影出来なかったそうです。

「織江さん、魔獣の出現がどうして分かったんですかぁ?」

「勘だよ勘。まあ、お主達の遊んでいるのばかりを撮っていてもとも思ったしの。丁度魔獣が現れてくれて助かったわ」

「でも、灯里ちゃんしか出番が無かったですけどねぇ」

「お主達のところからは少し離れていたので仕方がないのではないか?そうした意味では灯里は頑張ったよな。もう少し遅ければ、盾の壁にも参加できなかった故」

そう、あの後、灯里ちゃんは息を切らしていて大変そうでした。でも、魔獣の討伐に参加できたので、顔には満足そうな笑顔を浮かべていました。

さて、私達はそれからも幾つかのユキコの動画を作成して、投稿してきました。ですがそれも、年が明けて一月が終わる辺りでまでです。一月の終わりに、動画投稿は暫くお休みするとの宣言が織江さんからありました。元々、大学受験の高校生向けで、大学入試の願書締切が一月末だったことによります。

二月に入ると、卒業論文作成が佳境となり、研究室の中はとても忙しそうな雰囲気になりました。所属もしていない私達が気楽には入れ無さそうな空気が漂い、加えて、講義が終わりレポートなどの期間に入ったこともあって、自然と研究室から足が遠のきました。

そうした状況に合わせるように、灯里ちゃんや珠恵ちゃんと合う頻度も減りました。灯里ちゃんは元から忙しい人なのでいつものことです。珠恵ちゃんは従妹が東京に来たそうで、日頃は個別に行動しているから問題ないとは言っていて、私ともまったく会わないこともないのですが、何となく誘い難くなった感じです。

それでも三月後半になると従姉が大阪に帰ったと連絡があって、また二人で打ち合いの練習をするようになりました。この時期になると、随分と春めいて来ていて気温も上がり、打ち合いをするときは、上着を脱いでも汗を掻きます。なので、珠恵ちゃんはロング丈の長袖のカットソーにパンツ、私は長袖のカットソーにハーフパンツ姿です。

「暫く打ち合いやってなかったけどぉ、珠恵ちゃん、随分と戦い方が変わったよねぇ」

久しぶりに珠恵ちゃんと打ち合って、以前との違いを大きく感じました。打ち込みの強さは変わらないのに、前と比べて、とてもやり難いと感じます。

「えー、まあ、雪希ちゃんには分かっちゃうか。そうなんだよね、知り合いに強い人がいて、教わったんだけどさぁ。前に雪希ちゃんに言ったことが自分自身に跳ね返って来ちゃったと言うか、そんな感じで」

「もしかして、『戦う相手を良く見るように』って言ってた話?」

そうなのです。ダンジョン探索実況の撮影の後、珠恵ちゃんと打ち合いするときに、良く言われるようになりました。実況のときに、私が魔獣を斃せているのに、攻撃を繰り返したことが珠恵ちゃんとしては許せなかったのだとか。

「そう、その話。私、自分は出来ていると思っていたんだけど、実は全然駄目だったんだよね。それを思い知らされて、特訓させられちゃって」

「うー、珠恵ちゃん、そんなに強くならなくて良いのにぃ」

「雪希ちゃん、何言っているの?この前まで、雪希ちゃんの方が優勢だったよね。今で丁度五分くらいじゃないかと思うんだけど?」

はい、客観的に見れば、珠恵ちゃんが正しいとは思うのです。

「そうかもだけどさぁ、私としては珠恵ちゃんより圧倒的に強くを目指してたんだものぉ」

「いやいや雪希ちゃん。私なんかを目標にしないでさ、風香さんにすれば?目標は、より高く、ね」

「珠恵ちゃん、物事には順番があるんだよ。風香さんを目標にするなんてまだまだだってばぁ」

「まあ、そう言いたくなる気持ちは分かるけどさ。それじゃ、もう一本やる?」

「やる」

そして、再度珠恵ちゃんと向き合い、剣を構えて打ち合いを始めます。これまで出会った人の中で、ただ一人対等に打ち合える相手。それが珠恵ちゃんです。実力が拮抗した人との打ち合いが楽しいと知ったのも、珠恵ちゃんがいたからです。でも、だからこそ、珠恵ちゃんより強くなりたい。これまでそういう風に強くなりたいなんて思うことが無かったので、とても新鮮です。

純粋な強さへの欲求、それは当然のように心の中に存在するもの。でも、ただ強さを求めたとき、そこで得るものは何だったっけ?私が求めたのは単なる強さではなかったような。いや、そんな風に思っていたのはいつのことだった?

気付いたら、珠恵ちゃんの木剣が私の胸の下に突き立てられていました。

「あのさ、私相手の打ち合いの最中に考え事とか、雪希ちゃんらしくないけど、どうしたの?」

「え?あ、ごめん。私、どうしちゃったかなぁ」

流石に、自分が求める強さについて迷いが生じたとは言えません。

私は取り繕うような笑顔を珠恵ちゃんに見せますが、珠恵ちゃんは怪訝な顔です。これは珠恵ちゃんに説明しないと駄目かなと思い、口を開こうとしたところで、後ろから声が掛かりました。

「二人とも、やってるね」

振り返ると、そこには笑顔の灯里ちゃんがいました。

「うん、まあ」

直前の打ち合いで、考え事をして一本取られたこともあって、曖昧な返事になってしまいます。その時、私は自分のことで手一杯で、周りの様子に気が付けていませんでした。

「珠恵ちゃん、どうかした?」

灯里ちゃんの声に、とっさに前に向き直ると、珠恵ちゃんが灯里ちゃんを見て、呆けたような顔をしているのが見えました。

「え?あ、いや何でもないよ。しかし、そうかぁ、そう来たかぁ」

後半、独り言のようにブツブツ呟いていましたが、どうかしてしまったのでしょうか。

呆けた状態から立ち直ると、腕を組んで右手で顎をさすっています。

「珠恵ちゃん、何かあったの?」

私の問い掛けに、珠恵ちゃんが手をブンブン振って答えました。

「何も無い、何も無いよ、本当に」

怪しい。とても怪しい。でも、こういうときは、珠恵ちゃんは話してくれないから、見逃すしかないかなぁ。

「灯里ちゃん、話があるって言ってたよね。研究室に行こうか?」

取り繕うような珠恵ちゃんの発言に、灯里ちゃんも私もどうしようかと思って、お互いの顔を見ますが、ここで珠恵ちゃんを追及しても得る物も無さそうだし、仕方が無いかとその提案に乗っかって研究室に移動することにしました。

「それで灯里よ、話とは何だ?」

研究室に入り、作業台の周りでお茶を飲んで一息ついたところです。集まっているのは、私達一年生三人と織江さんの他に、萌咲さん、八重さんです。有麗さんにも声は掛けたのですが、今は〆切近くで忙しくて無理との返事が来ていました。

それまで、お茶台の周りで銘々好きなことを話していましたが、織江さんも灯里ちゃんから予め言われていたようで、頃合いを見て皆の前で話を切り出してくれました。

「えーとですね、イベントが企画されたんですけど、興味あるかなって」

灯里ちゃんは鞄の中を探り、一枚のチラシを取り出し、作業台の上に置きました。皆がそれを覗き込みます。チラシには「バーチャルアイドルコンテスト」と大きく書いてありました。

バーチャルアイドルのイベントのお知らせです。


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