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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-12. ダンジョン探索実況

「トモコちゃんにタマコちゃん、ダンジョンに入る準備は良いかぁ?」

「おー」

今三人で盛り上がっているのは、東京ダンジョンの入口前。トモコ、タマコ、と呼んでいるのは、皆マスクをして動画の撮影をしているからです。灯里ちゃんは、紅色のマスクを着けています。因みに珠恵ちゃんは濃い紫のマスクです。黒も悪くは無かったのですが、彩りが欲しいねと言う話になり、珠恵ちゃんが闇なんだから濃い紫で良いのではないかと提案したら、織江さんも納得したのでそう決まりました。なので、灯里ちゃんが紅仮面トモコ、珠恵ちゃんが闇仮面タマコと名乗ることにしています。

全員、ヘルメットにはライトだけでなくて小型カメラが付いていて、腰に付けた装置で録画できるようになっています。でも、ダンジョンに入る前の今は、織江さんがハンディカメラで撮影しているところです。私達は三人とも長袖のTシャツに短パン。肘と膝にプロテクターを着けて、お揃いの格好をしています。

灯里ちゃんと私は、さっきまで講習に参加してました。講習は午前中は座学、午後が実技で終わったのは15時です。講習の最後にライセンス証が貰えて、その後、織江さん、珠恵ちゃんと合流しました。

講習の実技でも魔獣とは対峙しましたが、あの時は人が多かったし、指導員も付いていたので怖くなかったです。でも、今度は三人ですし、まだダンジョンにも慣れていないので、少し緊張しています。

剣と防具は協会のレンタル品を借りました。防具と言っても皮の胸当てです。戦武術をやっているときに、いつも着けていたこともあり、これを着けていると少し安心です。灯里ちゃんも同じように皮の胸当てをしています。盾については、私もですが、珠恵ちゃんも盾を持っていると戦い難いということで、灯里ちゃんだけ盾を借りて持っています。グループの中で一人くらいは盾を持っている人がいた方が安全なように思えますし、丁度良かったかな。

「それじゃあ、ダンジョンに行こー」

撮影中なので、いつもよりテンション高めに二人に号令を掛けると、ダンジョンの中に向かいます。

ダンジョンの中は本当に真っ暗で、ヘルメットに付けたライトの灯りだけが頼りです。講習の実技のときは人が多かったし、指導員も複数人いたこともあって余り気になってなかったのですが、こうして三人で入ると不気味な雰囲気を感じます。

「ねえねえ、少人数で入ると、少し怖いよねぇ」

灯里ちゃんも私と同じ気持ちのようです。そこへ心なしかひんやりとした空気が流れ。

「ひゅー、恨めしやー」

「きゃー、何ちょっと、止めてよー」

灯里ちゃんが半分パニックのようになっています。

「あっはっは、トモコちゃん、可笑しい」

珠恵ちゃんの悪戯のようです。ヘルメットのライトを消して、灯里ちゃんの後ろから近付いて、息を吹きかけて驚かせたのでした。

「ちょっと、タマコちゃん、酷くない?」

灯里ちゃんは怒ったような声になってます。

「ごめんごめん。トモコちゃんの怯えた様子を見てたら、つい悪戯したくなっちゃって。でも、怒ったから緊張がほぐれたんじゃない?緊張して怯えていると、いざという時に体が動かないから、早くこの状況に慣れちゃった方が良いんだよね」

「確かに緊張はほぐれた気がするけど、何か納得いかないよ」

二人のやり取りを見て、私の緊張もほぐれたように思います。流石はダンジョンに慣れている珠恵ちゃんでしょうか。

「それじゃあ、予め決めた順番で進もうか。盾を持ったトモコちゃんが先頭、次にユキコちゃん、最後に私ね」

「はーい」

この順番は、盾を持った人が先頭なのが良いことと、動画のメインキャラを演じる私がカメラに映るようにということ、それに経験者の珠恵ちゃんが後ろからフォローして不慣れな私達二人が早くダンジョンに慣れるようにということで決めました。

「ライトがあっても前が見難いから、目だけじゃなくて、耳とか五感をすべて研ぎ澄ませて気配を探りながら進むんだよ」

何だか珠恵ちゃんから凄い注文が飛んできたような。まあ、気持ちは分かるんですが。

「えー、タマコちゃん、先に行かない?」

灯里ちゃんが救いを求めるような声色で珠恵ちゃんに訴えかけます。

「トモコちゃん、大丈夫だって。私は後ろにいるけど、きちんとフォローするから」

「うー」

前を向いているので顔が見えませんが、灯里ちゃん、涙目かも知れないです。

でも、それから暫くは、魔獣にも他の人達にも出会うことなく、ダンジョンの奥へと進みました。ダンジョンの中は真っ暗ですが、目が慣れると、ところどころにヒカリゴケがあって淡い光を放っているのが見えます。

ダンジョンの中は、狭くなったり広くなったり、あちこち分岐していたりで複雑です。それでも東京ダンジョンの一層だと、迷いそうなところには反射板が設置されていて、大体の方向が分かります。緑の反射板を左手に、赤の反射板を右手に通路を進めば入口に戻れると、講習のときに教えて貰いました。逆に言えば、赤の反射板を左手に進めばダンジョンの奥に進むことになります。と言っても、分岐するところでは、どちらも赤の反射板が左にあったりして、判断が付きません。そうなると、灯里ちゃんはどうしたら良いか困って後ろを振り返って相談してきます。勿論私に言われても困ってしまうのですが、珠恵ちゃんは割と簡単に「真っ直ぐで良いんじゃない?」とか「好きな方で大丈夫だよ」とか返事をしてくれます。なので、自然と珠恵ちゃんが進む方向を決めるようになりました。

「タマコちゃん、どうしてどっちに行ったら良いのか分かるのぉ?」

「ん?勘と言うか、気配を感じると言うか」

「勘で行き先決められちゃうなんて、タマコちゃんて勇気があるんだねぇ」

「いや、勘だと言われても動じないユキコちゃんにも吃驚だよ」

「ん?何かタマコちゃんと一緒だと安心なんだよぉ。タマコちゃんとなら何処にでも行けそうな気がするぅ」

「ううっ、その全幅の信頼が重い」

「え?私、重い女?タマコちゃんの友達失格ってことぉ?」

「ユキコちゃん、ちょっと待って」

珠恵ちゃんに後ろから肩を掴まれました。

「どうしたの?タマコちゃん?」

「あのですね。私の言葉をいちいち真に受けて貰って、戸惑いを隠せないというか何というか」

「何か問題があったのぉ?」

「いや、私、無意識に突っ込みを求めていたのかも知れないな、と」

「え?」

「ほら、ユキコちゃんはほんわかしてノンビリとした感じだし、トモコちゃんは天真爛漫で人を疑うことを知らなさそうって言うか、二人とも突っ込みキャラじゃないでしょう?それは良いんだけど、偶に、『違うだろう』って突っ込んで欲しくなる時があるのですよ」

「あー、そういえば、タマコちゃんは研究室で良く突っ込まれているもんね」

織江さんにですが。

「そうそう。あの感じ?アレが無いと物足りないというか、不味い、私、いつの間にか毒されているのかも」

「そうだね、タマコちゃん、良い感じに毒されてるんじゃないかなぁ。それで、タマコちゃんはこの暗闇の中で何を考えているの?」

「え?暗闇?ああ、そうだったね。ごめん、何か自分のペースが乱れている方に気を取られてて忘れてたよ」

「ちょっとタマコちゃん、この暗闇をどうやったら忘れられるの?」

「あー、そう、そんな感じでも良いから突っ込んで」

お母さん、珠恵ちゃんが変人さんです。

「ねえ、タマコちゃん、この暗闇の緊張感の中でおかしくなっちゃったの?」

「そんなことは全然無いから大丈夫だよ。ごめん、心配させちゃって」

と、そこで前を歩いていた灯里ちゃんが振り返り、私達の方を向いて腰に手を当て仁王立ちしました。

「あのさ、二人とも何でここでそんな呑気な会話をしてられるの?いつ魔獣が出て来るか分からないんだよ」

「そうだよねぇ」

「ごめん」

私達が素直に謝ると、灯里ちゃんはハーっと一回溜息をついてから、身体を少し前の方に向けました。

「それで、この先また分岐があるんだけど、どうする?」

灯里ちゃんの言葉に、私も珠恵ちゃんの方を見ます。

「右に行こうか。もう随分と奥の方に来たし、そろそろ魔獣が出るかも知れないから、十分気を付けて行こう」

「わ、分かった」

灯里ちゃんが少し緊張気味に返事をしています。そうですよね、この暗い中で魔獣が出るかもと言われれば、誰だって緊張します。

そして、その分岐から少し進んだところで灯里ちゃんが止まりました。

「あそこ見て。魔獣だよね」

「本当だぁ」

先の方に、オオカミのような魔獣がいます。

「あの魔獣は習った通りにやれば、トモコちゃんとユキコちゃんで斃せると思うから、やってみてよ。分かると思うけど、トモコちゃんが盾役で魔獣を引き付けて、ユキコちゃんが素早さと腕力で急所狙いね。行ける?」

さっきまでの突っ込み待ちの姿勢とは異なり、珠恵ちゃんは私達にテキパキと指示を与えました。

「うん、やってみる。ユキコちゃんは大丈夫?」

「やる」

話は決まり、灯里ちゃんと私は、魔獣の方に向けて歩を進めます。魔獣も私達には気が付いていて、こちらの方を向いています。

私達があるところまで近付くと、魔獣が急にこちらの方に向かってきました。灯里ちゃんは咄嗟に盾を前面に構えて腰を下げ、迎え撃つ体勢になります。私は灯里ちゃんの斜め後ろから、いつでも出られる準備をして待機です。

魔獣は盾にはぶつかろうとせず、その横をすり抜けて私の方に来ようとしました。灯里ちゃんは、その魔獣の動きを良く見ていて、盾の横に差し掛かった時に盾の向きを変え、盾を体ごと魔獣にぶつけ、魔獣の動きを止めました。

私は灯里ちゃんが盾の向きを変えるときには前に走り出していて、いつでも魔獣の攻撃を受けられるように剣を前に構えて進み、灯里ちゃんが魔獣にぶつかって動きを止めたところで、魔獣の頭目掛けて素早く力一杯剣を振り下ろします。そして、一打で気を抜かずに、二打、三打と連撃します。

「ユキコちゃん、そこまで。もう斃せてるよ」

後ろから珠恵ちゃんの声が聞こえました。言われて魔獣を見ると、確かに動かなくなっています。初めての魔獣との対決で無我夢中になり、冷静さを失っていたようです。

「二人ともお疲れ様。それから初討伐おめでとう。トモコちゃん、魔獣の動きが良く見えてたし、思いきりが良かったね。ユキコちゃんは流石のパワー。普通だったらこうも簡単には行かないから」

珠恵ちゃんの講評を聞いていても、まだぼんやりとした感じでしたが、時間が経つに連れ、少しずつ魔獣が斃せたのだという実感が湧いてきました。

「ユキコちゃん、私達、魔獣を斃せたんだね」

「うん、そうみたいだね」

灯里ちゃんが嬉しそうです。

「それじゃあ、魔獣を入口まで運ぼう。斃した後、運び終わるまでが討伐だから」

珠恵ちゃんの指示の下、魔獣を運搬用の袋に入れて、伸縮式の棒から吊り下げ、灯里ちゃんと私とで担いで入口まで運びました。灯里ちゃんは途中で疲れてしまい、一時、珠恵ちゃんが交代してあげてました。

ダンジョンの外では織江さんが待ってくれていて、三人で魔獣を持ち帰った様子を撮影して貰ったりしました。織江さんは、今夜、動画編集をするそうです。

後で聞いた話では、珠恵ちゃんの毒された発言のところが一番受けたとのこと。まあ、あの話は織江さん絡みのモノなので、織江さんのツボに嵌ったとしても不思議はありません。


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