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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-9. 動画のネタと撮影

「それで、織江ちゃん。雪希ちゃんで決まりとして、これからどうするの?」

問い掛けたのは有麗さん。

「そうだな。大まかに言えば、動画のネタ出し、撮影、編集、投稿だが、細かい作業は色々とあるな。有麗、お主には頼みたいことがあるのだが」

「何?」

「二つあってな、一つは3Dアバターの衣装デザインの見直しの手伝い、もう一つは動画のサムネイル描きなのだが」

「衣装のデザインの見直しは良いけど、サムネイルって動画一覧のところに表示する画像のことだよね?」

「如何にも」

「だったら、私、出来ないよ。流石にバレちゃうから」

「やはり、お主でも気にするか」

「勿論気にしてるよ。何?私が秘密に無頓着だと言いたいの?」

「いや、そのトレーナーを着ている時点で、良く分からんのだが」

そうなのです。有麗さんは、自らのキャラクターが描かれているトレーナーを着ています。その絵柄はどう見ても有麗さんが描いたものに思えます。

「何、これのこと?これは、事務局の人がプロのイラストレーターに頼んで書いて貰ったんだから、問題ないの」

「そのプロのイラストレーターって、お主がアシスタントしている人物ではないのか?」

「そうだよ。何か問題ある?まあ、サムネイルもそのイラストレーターにお金払って描いて貰うってことなら、まあ、良いかもね」

「まったく、お主という奴は。人の足下を見おって」

「織江ちゃん、私の腕は安くないんだって」

「お主、結局、自分だと言っておるではないか」

「そうなんだから仕方ないじゃない。このトレーナーのイラストだって自分で描いたんだし」

「何故そこで開き直る?秘密を守る話はどうなった?」

「だから、外ではこれを自分で描いた何て言わないって。ここの人達は、私が絵を描いているのを何度も見ているから隠しようがないじゃない」

「お主、ファンのサインでも絵を描いておるではないか」

「あれば、サインだからデフォルメしてるし、『私が好きなイラストレーターの真似っこです』って言ってるよ」

「そうか、分かった。サムネイルをお主に頼むのは諦めよう」

「うん、助かる。でも、他の人の作画の手伝いならしても良いよ」

「他か。お主らの中に絵心のある奴はおるか?」

織江さんは私達を見回しますが、手を挙げる人はいません。皆、絵を描いたりしないのかな?

「あのう」

私は控えめに手を挙げました。

「お、雪希か、描いてくれるのか?」

「有麗さんには遠く及びませんけれど、やってみますぅ」

「ああ、頼む。有麗、手伝って貰えるのだよな?」

「良いよ。じゃあ、雪希ちゃん、連絡先交換しておこうか」

そうして、私は有麗さんへの連絡手段を手に入れました。

その後、皆とはどんな動画にするのかアイディア出しをしました。ゲーム実況のゲームは私が見繕えば良いので、どちらかと言うと研究室紹介ネタの方ですが、専門的な歴史の知識も無いだろう高校生向けに、どうすれば興味を持って貰えそうかが悩みどころです。結局、その場の議論で出たのは、過去書いた論文で参照した古文書や、歴史的建造物あるいは遺構などを紹介するのはどうかと言うものでした。ただ、古文書は研究室で所持していない物が多く、紹介するとなると所有者に許可が必要だろうと言うことで、八重さんと織江さんに先生と相談して貰うことにしました。

その上で、当座撮影が可能な最初の研究室と自己紹介やゲーム実況について、次の土曜日に会議室を借りて撮影することにしました。流石に研究に勤しむべき平日に撮影をするのは、織江さんとしてもどうかと思ったみたいです。八重さんは、研究室の宣伝なのだから別に気にせず平日に撮影しても良いのではと言ってくれていましたが。

また、新規のネタは随時募集と言うことで、他の人とも話をしてみて欲しいとお願いされました。私の場合、相談相手になりそうなのは、弟と真弓くらいかなぁ。丁度その日は、バイトのシフトが入っていたので、早速話をしてみることにしました。

「雪希の研究室で、バーチャルアイドルの動画を作るの?面白そうなのだな」

工学部棟の喫茶室の営業が終わり、その日の賄いを食べながら真弓達に話題を振ってみました。一緒に食べているのは、真弓の他は葵衣さんだけです。店長の美波さんは、閉店後のお仕事中です。私は話に乗ってくれるか心配でしたが、真弓は興味を持ってくれたようです。

「それでさぁ、真弓。研究室に関係することで、高校生が興味を持ってくれそうなネタが無いか考えているんだけど、何か良い案ないかなぁ」

「そこはズバリ弟くんに聞いてみればと思うのだ?」

「そうだね。それは聞いてみるつもりなんだけどぉ」

「これから通おうかってところのことだから、何か夢があると良いよね」

葵衣さんは、少しぽわーっとした雰囲気がありますが、結構鋭いのです。

「夢ですかぁ。うーん、就職で有利になりそうとかいう方向の夢は難しそうな気がするかなぁ」

「それだったらロマンを求めては?女子は無理でも男子はロマンへの憧れはあると思うのだ」

「そうだねぇ。歴史にロマンを感じる人もいるし、それならありそうかなぁ」

葵衣さんや真弓の意見を聞きながら、確かにありそうとは思いつつも、具体的な動画ネタは思い付かず、後で織江さんに相談してみようかと考えました。因みに、家に帰ってから我が弟に聞いてみたら「姉貴が出るなら何でも見るよ」と言われました。まったく参考になりません。でも、動画投稿したら、クラスには拡散してくれるそうなので、視聴者獲得の役には立ってくれそうです。

そして、土曜日。

朝、研究室に顔を出したら、居たのは織江さんと珠恵ちゃんの二人だけでした。

「おはようございますぅ」

「雪希ちゃん、おはよ」

「おう、雪希、おはよう。早速だが、必要な荷物を台車に積み終わり次第、会議室に移動するぞ」

「はい」

織江さん達は、既に台車を持って来ていて、モニターにノートパソコンやモーションキャプチャー用の機材などを台車に積んでいるところでした。

「まずはこれだけあれば足りるかの」

「織江さん、会議室は三階でしたよね?足りなくても、取に来れば良いですよ」

「まあ、そうだな。珠恵よ、研究室の鍵を事務室まで持って行っては貰えぬか。我は予備の鍵を持っている故、ここを出るときそれで施錠して行くつもりだ」

「分かりました。じゃあ、織江さんは雪希ちゃんと先に会議室に行っててください。私は鍵を返して来ますので」

「うむ、頼んだぞ」

珠恵ちゃんは、織江さんの助手としてテキパキと動いています。今日は、織江さんが撮影、私が演者で、珠恵ちゃんは私達のお手伝いと言うことになっているのです。

珠恵ちゃんが鍵を返しに出ていった後、私は織江さんと台車を押して会議室に向かいます。研究室を出て、織江さんが鍵を掛けるとエレベーターホールへ。エレベーターが2フロア降りて、廊下を進めば会議室です。会議室の中は、長方形の形に机と椅子が並べられていました。それを撮影し易いように配置換えをし、機材を置いていきます。私が家から持ってきたゲーム機も設置して、大体準備が出来ました。

「では、雪希は、そこの椅子に座って貰えるか」

「分かりましたぁ」

私が座る席は、会議室の壁の前に一つだけポツンと置いてありました。椅子の目の前には会議用の長テーブルはなく、椅子から少し離れたところに足を折り畳んだ長テーブルを三段に重ねて、その上に大きめのモニターが置いてあります。モニターにはバーチャルアイドル再生用アプリの画面が表示されていて、ユキコが映っています。

ユキコと言うのは、私に激似の3Dアバターの名前です。白い仮面を付けているので「ホワイト仮面」にしようとか織江さんは言ってましたが、私が人の名前っぽいのが良いと言ったら、私の名前をもじってユキコになってしまいました。

「雪希、テストのために少し話して貰えるか?」

「はい。あー、あー、聞こえますか?私は鴻神研究室宣伝係のユキコです。織江さん、これでどうですかぁ?」

「よし、一度再生してみる」

直後、モニターの画面が切り替わり、テストで録画したものが私の声と共に再生されました。

「問題ないようだな。では、本番に行こうか。雪希、台詞は覚えているか?何なら、モニターのところに紙を貼っておいても良いが?」

「いえ、大丈夫ですぅ」

「それなら、始めようか。お主なら問題ないとは思うが、早口にならないようにな。あと、最初だけ『ホワイト仮面ユキコ』と名乗っては貰えぬか?」

あー、まだ織江さんから「ホワイト仮面」が抜けて無かったです。

「分かりましたぁ。最初だけですよぉ」

やれやれと思いながら、織江さんの頼みを聞くことにしました。

「では、録画を開始している故、いつでも始めて良いぞ」

「はい」

私は姿勢を正し、一度大きく深呼吸してから話し始めました。

「皆さん、初めまして。私は西早大理学部地球科学科鴻神研究室の宣伝係のホワイト仮面ユキコです。これから皆さんに、学科や研究室のことなど、色々情報をお届けしたいと思います。よろしくお願いしますね」

あー、恥ずかしい。恥ずかしくて、顔が火照って熱いです。きっと赤くなっていることでしょう。私の顔が直接撮れられていないのが救いです。あれ、でも3Dアバターの頬が赤くなっている。そんなところまで反映しなくて良いのにぃ。


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