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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-4. 戦武術の講習

灯里ちゃん、珠恵ちゃんと私の三人で獅童道場に行くことを決めた後、何時行くかで悩みました。結局、一番スケジュールが厳しい灯里ちゃんに配慮するなどの理由で、夏休みになってから始まる女性向けの五日間の短期講習を受けようと言う話で決まりました。

その講習の初日は、私は高円寺まで二人を迎えに行きました。獅童道場は家からも歩いて行けますが、電車で行くなら鷺ノ宮より高円寺の方が近いのです。高円寺の駅を経由すると、私の歩く距離が倍以上に増えてしまうので、灯里ちゃん達は最初遠慮しようとしてました。でも、準備運動にもなるからと話をして、初日だけ迎えに行くことにしたのです。

駅から三人でお喋りしながらでも10分程度で到着。道場に着くと受付に行きました。受付の人は残念ながら替わっていて、私の知らない人でした。着替えて道場に行くと、まだ子供の部をやっていて、その先生の内の一人は、小学生のときに教えて貰った先生でした。馴染み先生の顔を見て、懐かしい気持ちになりました。

他方、灯里ちゃんは、子供の部の終わりを待っている女性の集団の中に、高校の後輩を見付けてました。知っている人が多ければ多いほど、灯里ちゃんとしてもリラックスできるので良いなと思いましたが、女性の部の最初にあった技能別のクラス分けでは、灯里ちゃんだけが初級になってました。なんとまあですが、灯里ちゃんは社交的なので大丈夫でしょう。

さて、上級になったのは八人で、その中に灯里ちゃんの後輩の土屋さんと、珠恵ちゃんが含まれていました。

「珠恵ちゃん、上級なんだねぇ。戦武術やっていたの?」

「うん、まあ、中学生の時までね。その後はずっとサボってたから、どこまでやれるか心配だよ」

「ふぅん」

そうなると、私よりブランクは短いってことですね。でも、どうなんだろう?私の剣のスピードに対応できるのかな?まあ、やってみればすぐに分かりますか。

講習の前半は、剣の型の確認や、魔獣との戦い方で、大体は昔やったことでした。忘れていたこともあったので、良い復習になりました。珠恵ちゃんと組んで練習していて、珠恵ちゃんの動きを見てましたが、これくらいの練習だと普通にこなしていて、力量を推し量るところまではできてないです。

そして後半は、一対一の打ち合いのトーナメント戦。上級クラスは八人なので、三回戦目が決勝です。くじ引きでトーナメント表のどこにするかを決めたら、珠恵ちゃんとは決勝まで行かないと対戦できない結果になりました。お互いどこまで勝ち上がれるか競争です。

珠恵ちゃんも含めて、初めて対峙する相手で情報も無いのでどんな試合になるかも分かりませんでしたけど、まあ、講習の一環なのでそこまで気張らなくても良いかなと考えてリラックスすることにしました。

そんな気持ちで臨んだ一回戦と二回戦は、私の力押しだけで勝ててしまいました。二人とも、基礎はしっかりしていのだけど、私ほど強い打込みは経験が無かったのかも知れません。私への打込みも、そこまで強くなかったですし、パワーファイター相手が苦手だったのかなぁ。

二戦目の打ち合いにも勝利して珠恵ちゃんの方を見たら、そちらはまだ打ち合っていました。相手は灯里ちゃんの後輩の土屋さん。テクニックは珠恵灯里ちゃんの方が上みたいでしたが、珠恵ちゃんは明らかに疲れています。サボっていたから体力が落ちているってことかな。

それでも、フェイントなどを駆使して珠恵ちゃんが勝利しました。

「ふぅん」

さて、決勝戦はどうしようかなぁ。今までと同じように力押しするのもありだけど、あれだけ疲れていれば、いきなり二連撃をお見舞いするだけでも終わりそうだなぁ。まあ、剣を構えた時に決めれば良いかな。

珠恵ちゃんは土屋さんと少し話をしていて、だけど話が終わったら私の方を見て笑顔を見せました。準決勝に勝ったから、次は二人で戦おうねということだと受け取りました。うん、そうだね、珠恵ちゃん。

そして私は珠恵ちゃんと向き合います。勝負の世界と考えれば情けは不要だけど、今は講習中なんだから構わないよね。

「ねえ、珠恵ちゃん、疲れてない?少し休まなくて良いの?」

私の言葉に、珠恵ちゃんは首を横に振りました。

「ありがとう、雪希ちゃん。でも、大丈夫だよ。雪希ちゃんと決勝で戦えて嬉しいんだ。私、精一杯やるから、雪希ちゃんも全力でやってね」

「私も珠恵ちゃんと決勝に出られて嬉しい。でもぉ」

私がいきなり全力でやったら、終わってしまいそうな気がして。

「でも?」

珠恵ちゃんがどうしたの?って顔をしている。そうだよね、珠恵ちゃんがそういうなら、きちんと応えないと。

「ううん、ごめん。やるよ、全力で」

ここで心が決まりました。奇襲みたいないきなりの二連撃は止めて、本気の力押しで行こう。

私は剣を構え、始まりの合図と共に珠恵ちゃんへの打ち込みを敢行しました。右へ、左へ、それなりの速さで連続して打ち込んでいきます。疲れているので耐え切れないだろうと高を括っていましたが、珠恵ちゃんは、想像以上にしぶといです。私の力強い打ち込みを、正面から受けないように上手く捌いて凌いでいます。珠恵ちゃん、思った以上に強い人との戦いに慣れてる。

直ぐに終わるだろうと思って勢い良く打ち込み続けていたので、私の方も疲れてきて剣の勢いが弱まってしましました。すると、珠恵ちゃんはすかさず反撃してきます。

勿論、それくらいの反撃は余裕で対処できますが、一旦下がって珠恵ちゃんとの距離を取ります。

「珠恵ちゃん、凄い。これだけの攻撃を全部受けちゃうなんて。いままでの人は、これで勝てていたのに」

珠恵ちゃんの奮戦ぶりに感動して、思わず言葉が出てしまいました。珠恵ちゃんは黙って私に微笑み掛けます。うん、まだ試合は続いているんだ、お喋りしている場合じゃない。

「そうだね、分かった。これで最後にするよ」

そう、不意打ちではなく、堂々と宣言してあげよう。

私の言葉に、珠恵ちゃんが身構えているのが分かります。私は剣を構えて呼吸を整えます。珠恵ちゃんも構えたままこちらの様子を伺っています。

よし、行こう。

私は体中の力を振り絞り、高速で二連撃を打ち込みます。右へ、そして剣を戻しつつ、そのまま反対の左へ打ち込みました。

「嘘」

思わず口を突いて言葉が出てしまいました。これで勝負が決まると思っていたのに、予想に反して私の木剣が珠恵ちゃんの木剣で止められていたのです。

「残、念、だったね」

今まで黙っていた珠恵ちゃんが言葉を掛けてきました。しかも、私を挑発するかのように。疲れているはずなのに、二連撃を見極めて止めてしまうとは。珠恵ちゃんは凄いと思うけど、とても悔しい。今度こそと思って距離を取り直します。

「もう一度」

今度は左上から、そして右から。先程とは方向を変えてみましたが、それでも珠恵ちゃんに受けられてしまいます。本当にまぐれでも何でもなく、私の剣筋が見えているんだ。

「もう一度」

この二連撃を受けられてしまっては、他に攻撃の術はありません。ここで普通の連続打ち込みに戻そうか。いや、それで勝っても全然嬉しくありません。私の全力は二連撃でこそ発揮できるのですから。

「もう一度」

流石に繰り返し過ぎたようです。力が弱まったのか、珠恵ちゃんが慣れたのか、二連撃の後に珠恵ちゃんが反撃して来ようとしました。不味い、隙だらけで、守りが間に合わない。

私は最早観念していました。そんな時です。

「あっ」

珠恵ちゃんが変な声を出して床に突っ伏していました。

「え?」

私は何が起きたのか分かりませんでした。

珠恵ちゃんは床に突っ伏した状態から半回転して、足を抱えます。

「脚つったぁ」

何とまあ。本当に運動不足なんだぁ。先生がやってきて、珠恵ちゃんの脚を伸ばしてあげています。

「珠恵ちゃん、大丈夫?」

珠恵ちゃんのことが心配になって、覗き込みます。

「ありがとう、もう大丈夫だよ」

先生に脚を伸ばして貰った後は、疲れた様子は相変わらずですが、楽になった顔をしていました。

珠恵ちゃんのトンだハプニングで試合の終わりが締まらないものになってしまいましたが、審判の先生に私の勝利宣言をいただいて、トーナメントは終わりました。

珠恵ちゃんに祝福され、灯里ちゃんには感動して貰えたようで、それはそれで嬉しく思いました。しかし、最終的には勝てはしたものの、珠恵ちゃんは強敵でした。と言うか、珠恵ちゃんの脚がつらなければ私の方が負けていた流れです。同年代の人に対して全力で戦ったのに負けるなんて、小学生の頃には無かったことです。でも、負けた気もする。ん?あれ?どこでだっけ?

その時、目の前にニッコリ笑っている女の子の姿が浮かび上がりました。女の子は、小屋の前にある広場に木剣を持って立っています。ああ、そうだ、私はこの子に負けたことがあったっけ。でも、いつのことだったんだろう?

「雪希ちゃん、どうかしたの?」

灯里ちゃんの声に我に返ると、里の光景は消え、道場の様子が再び目に入ってきました。

「ううん、何でもないよぉ」

心配そうな顔をしている灯里ちゃんに笑い掛けて安心させようとします。でも、あの光景は一体何だったんだろう?


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