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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第7章 胡蝶の記憶 (雪希視点)
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7-3. 戦武術

真弓とアルバイトした日は、帰りも途中まで真弓と一緒です。

「それじゃ、私はここで降りるのだ。雪希、またね」

「うん、バイバイ、真弓」

電車が沼袋に到着すると、真弓は電車から降りていきました。真弓の家は、ここから南に10分程度歩いたところにあるのです。そうした家の近さも、高校時代に仲良くなれた理由の一つかなと思います。

私は真弓と別れた後、電車をもう三駅分乗ってから降り、家まで歩きました。

「ただいまぁ」

玄関を開けて声を掛けますが、返事はありません。いつものことです。

私は、気にせずに家に上がり、リビングの扉を開けて、もう一度「ただいま」と声を掛けました。

「おかえり」

「おかえり、姉貴」

母と弟の守琉(まもる)が、リビングで一緒にテレビを見ていました。

「雪希は夕飯食べて来たんだろう?」

「うん、今日はバイトだったから、賄い食べて来たよ」

「そうかい。そんなら良かった。お風呂沸いているから先に入ったらどうだい?」

確かに二人がテレビを観ているうちに、お風呂に入った方が良さそうな気がします。

「そうだね。そうするかなぁ。父さんは?」

「まだだよ。今夜も遅いんじゃないのかい?」

「そうなんだ。父さん、忙しいんだねぇ」

「まったく、無理し過ぎて倒れないかと心配だよ」

「早く帰ってくると良いね」

私は母との会話を切り上げてリビングから出ようとしました。

「姉貴、荷物が届いてたよ。玄関に置いておいたけど見た?」

「え?うん、これだよね。ちゃんと見付けたよ」

その質問に答えるように玄関で手にしていた箱を掲げて、守琉に見せました。

「これ、守琉が受け取ってくれたの?」

「ああ、たまたま家にいた時に来たから。それ、新作のゲームだろ?」

「ふふふ、そおだよぉ。早速やろっかなぁ。受け取ってくれてありがとね」

「大したことないって」

私は守琉に手を振って、今度こそリビングから出て、二階の自室に向かいました。

自室に入ると、背負っていた鞄を下ろし、守琉が受け取ってくれた荷物の箱を開いて中を確認します。期待通り、新作のパズルアクションゲームが入っていました。

「さて、早速やりたいところではあるんだけどぉ」

やり始めると、いつになったらお風呂に入るか分からないし、部屋着に着替えてリラックスしたいのもあるので、まずはお風呂に入ることにします。着替えを持って、お風呂場へいざ行かん。

着ていた物を脱いで風呂場に入ると、シャワーで頭、身体、顔と洗ってから、ゆっくり湯船に浸かります。極楽極楽。

湯船に深く浸かりながら、右腕を湯から出して湯船の縁に肘を載せます。そして右手に力を入れると、堅い力こぶが出来ました。特に身体を鍛えているのでもないのに、筋力があって昔から不思議でした。小さい頃は、力があって父に凄い凄いと言われ、おだてられるようにして近所にあった戦武術道場に通い始めて、最初の頃は楽しく練習していました。小学校の三年生の時のことです。

それから週に二回通い続けて剣の型も覚え、同じ年頃の男子にも負けないくらいに強くなりました。でも、小学校六年生の時に、憎からず思っていた同学年の男子に、心無い一言を貰ったのです。

「まったく、強ければ良いってもんじゃないぞ。可愛げがないんだから、このゴリラ女」

ガーン。それはその子の負け惜しみだったのかも知れませんが、私の心に大きく刺さりました。

それをきっかけに、私は戦武術道場に通うのを止め、体育の時でも目立たないように全力を出すのを控えるようになりました。それは、中学高校を経て、大学に入った今でも続いています。

そして、戦武術の代わりに夢中になったのがゲームです。学校から家に帰ると、部屋に籠ってゲームをやりまくるようになったのです。ゲームはRPGも、アクションゲームも色々やりました。その中で、一番自分に合っているなと思ったのはパズルアクションゲームです。パズルアクションゲームは、パズルの要素とアクションの要素が織り交ざったもので、私は、どちらかというとアクション性の強いものの方が好きです。今日届いたのも、パズルアクションゲームのタイトルの新作です。

うーむ、ゲームのことを思い出したら、やりたくなりましたぁ。そろそろやりますか。

私はお風呂から出て、部屋着を着ると、自室に戻ってゲームを始めました。これは楽しめそうです。

小遣い稼ぎにアルバイトも始めましたし、これから色んなゲームを買って遊ぶぞぉ。そんな感じで大学に入っても、中高時代の延長で、家でのゲーム生活は続いていました。

そんな状況に転機が訪れたのは、6月の大学祭も終わって7月に入り、試験とレポートの期間に入ったときのことです。灯里ちゃんが、突然、強くなるために戦武術(せんぶじゅつ)道場で習いたいと言い出したのです。

その日、数学演習の試験が終わったとき、私は珠恵ちゃんと一緒に灯里ちゃんに声を掛けられました。最初は試験をやっていた教室で話を始めたのですが、途中から研究室に移動して織江さん、八重さんも交えた話になりました。

灯里ちゃんの話は、白銀の巫女や黎明殿の本部の巫女から始まり、それから戦い方を覚えたいと言う話に移りました。詰まるところ、巫女達の働きに触発されて、灯里ちゃんも戦えるようになりたくなったと言うことなのかな?

「戦武術の道場は幾つかある。それから、この大学に戦武術のサークルもあったと思うが」

八重さんの言葉に、灯里ちゃんは決意に満ちた顔で口を開きました。

「サークルも興味はありますけど、最初はきちんと道場で習おうと思います」

「そうだな。そうなると、何処が良いかな?」

話をしていて、私が真っ先に思い付いたのは、小学生の頃に通っていた獅童道場です。あそこなら、まだ私が知っている先生もいるだろうし、私の知っているところなら灯里ちゃんにも安心に思って貰えるかな、と考えました。それで、八重さんに向けて手を挙げてみます。

「あのぅ」

「雪希ちゃん、何?」

八重さんと一緒に、灯里ちゃんも私の方に向きました。

「道場に行くなら、獅童道場はどうでしょうかぁ?家から近くて通っていたことがあるんです。あそこなら、女性の師範代もいますし」

「ああ、そうだな。私もあそこは良いと思うが。そこの師範の娘は私の高校の同級生だ」

え?師範の娘って風香(ふうか)さんですよね?

「八重さん、風香さんの同級生だったんですかぁ?」

「そうだ。風香は高校の頃から強かったぞ。実力は、どの師範代よりも上だろうな」

「その人が、女性の師範代なのですか?」

灯里ちゃんが興味深げに八重さんの方を見ました。

「いや、彼女はフードコーディネーターの仕事に就いたので、師範代はやっていないと思うが」

「フードコーディネーターですか?」

「ああ、風香曰く、『食に目覚めた』のだそうだ。大学もそちら方面の大学に進学していたな」

そうなのです。風香さんは、私が小学生の時にはもうフードコーディネーターのお仕事を始めていたのです。

「それでも風香さんは、道場に顔出すことはあると思いますよぉ。私が通っていたときにも、ときたま顔を出していましたし、だから私も風香さんのことを知っているんですけどぉ」

「その風香さんのことも気になるけど、ともかく私は獅童道場に行くよ。雪希ちゃんは、通ってたことがあるんだよね?良ければ一緒に行かない?」

「そうですね。久しぶりですけど、私も一緒に行きますぅ」

「珠恵ちゃんも行かない?」

珠恵ちゃんは少し迷って、でも、灯里ちゃんに向かって頷きました。

「うん、私も行く」

こうして、久しぶりに戦武術の道場に行くことになりました。

その日、私は何だかウキウキした気分で家に帰りました。試験期間なのでバイトは休んでいて帰り時間も早いので、家に着いてもまだ明るい時間です。

私は自室に入って鞄を置くと、長いこと立て掛けたままだった木剣を引っ張り出し、埃を払ってから綺麗に磨きました。そして、庭に出て素振りをします。身体が温まったところで、剣の型を一通りおさらいしました。灯里ちゃんと一緒に行ったときに戦武術の「先輩」として見っともないことはしたくないので、前もって確認です。でも、大丈夫、身体が動きを覚えていました。

それならばアレも、と調子に乗って小学生の頃に得意にしていた二連撃をやろうとしたら、手から剣がすっぽ抜けてしまいました。力加減を間違えてしまったみたい。何か、小学生の頃より大きくなって、身体のバランスが狂ったと言うか、剣を振るう力が予想以上に強くなっていような。うーん、これだと手加減しないと不味いかなぁ、でも、先生から見たら手加減していることがバレバレだろうしなぁ、でもなぁ、と思考が堂々巡りし始めました。


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