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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-38. 知恵との試合

翌日、私達は御殿前広場に集まりました。試合だったら道場ではないのか、と言う声もありましたけど、祖母に一蹴して貰いました。広場で試合をしたいと祖母に進言したのは、勿論、私です。道場では狭すぎて、全然力が発揮できませんからね。私もそれなりにやる気です。

ここに集まっているのは、祖母、母、叔母、梢恵ちゃんに知恵ちゃんだけです。私はこれから始まる試合を他の人には見せたくありませんでした。祖母もそれは分かってくれて、参加者を絞ることができました。ただ、叔母は、私が無様な負け方をするのを他の人に見せたくないからだとか言っていたらしいです。相変わらずの自信家ですが、どこからそんな自信が出て来るのでしょうか。

開始の時間になり、知恵ちゃんと私だけが木剣を手にして広場の中央に立ち、他の人には母屋の前まで離れて貰いました。そして、ゾーンを起動し、広場を囲むように結界を張ります。織江さん達がどこから観戦しているのかは分かっているので、そこがきちんと結界の中になるようにしてあります。さらに、知恵ちゃんと私の二人だけが入る、可能な限り大きな円を描き、そこに防御障壁を築きました。見ている人にも邪魔されたくありませんから。

「ちょっと珠恵ちゃん、防御障壁とかに力を使うとか、戦う気あらへんの?うちに負けたときの言い訳?」

知恵ちゃん、分かっているのかな?普通なら、これだけの結界と防御障壁張るの、結構大変なんだよね。多分、知恵ちゃんには出来ないと思うんだけど。実際、母と梢恵ちゃんは、既に顔を青くしています。

「知恵ちゃん、反対ですよ。私は物凄く本気です。手加減なんてしませんから」

私は知恵ちゃんに言い返します。心の中では手加減する気満々ですけど。

「知恵ちゃんこそ、ちゃんと戦えるのか心配ですよ」

「珠恵ちゃん、何言うてるの?ウチ、この一週間、美玖ちゃんに特訓して貰うたんやから」

ほう、梢恵ちゃんは、ちゃんと知恵ちゃんに私の言葉を伝えていたみたいです。

「そうですか、安心しました。それじゃあ、時間ですし始めましょうか。知恵ちゃんから攻撃してきて良いですよ」

「珠恵ちゃん、ウチを馬鹿にして、後でどないなっても知らへんかんね」

知恵ちゃんが感情的になっています。戦う時に感情的になっては、十分に力を出せないのですけど、知恵ちゃんは分かっているのでしょうか。

私の懸念を他所に、知恵ちゃんが攻撃を仕掛けてきました。最初はオーソドックスに、木剣で攻撃をしてきます。右に左に打ち込んでくるのを、私も木剣で受けます。どうやら、身体強化と言うより、身体強化陣を使っているようです。確かに、その方が、ギリギリまで身体能力を上げられます。でも、知恵ちゃんには悪いんですけど、私は身体強化を使わずに受けます。それでも、まるで余裕です。何しろ、力の眼を使い、さらにゾーンを使って自分の身体をアバターと同等にしていますからね。前に、季さんから自分の身体をアバター化した巫女の話がありました。それが出来るのだから、ゾーンの中でアバター化を仮想的に実現することも出来るのです。普通、アバターでも身体能力は1.5倍くらいに設定しますけど、私は3倍にしています。知恵ちゃんがどれほど身体強化をしても2倍かそこらが限界なので、追い付けるはずがありません。

「な、何でや?」

知恵ちゃんは、すべての打ち込みが余裕で躱されていて、訳が分からないという顔です。しかし、それくらいで挫ける知恵ちゃんではありません。

「だったら、もっとや」

知恵ちゃんは自分の周りに光星陣を描いて、木剣の打ち込みに合わせて光星砲も撃って来ました。でも、自分の神経を同時に複数に集中させることはできないので、結局は順番があるのです。その順番さえ見極められてしまえば対応はできます。私は光星砲の攻撃は、防御障壁で受けるようにしました。それも、受け方としてとても難しい極小の防御障壁を光星砲の射線上に配置するというやり方でです。

「くそっ、これだったらどうや」

今度は、浮遊陣も使って上からも攻撃をしてきました。確かに飛べない相手なら、空中からの攻撃は有効ですけど、攻撃の密度はどうしても下がりがちです。私にとっては、逆に余裕が出来たような感じです。

知恵ちゃんは思い付く限りの攻撃を仕掛けてきましたけど、私はそれらをすべて余裕で受け切りました。流石の知恵ちゃんも、一通りの攻撃の試した後に、立ち止まらざるを得ませんでした。

「知恵ちゃん、そろそろ私から行っても良いかな?」

私は木剣を投げ捨てました。知恵ちゃんは、私が何故木剣を捨てたのか不思議そうな表情でしたけど、木剣を使ったら一撃で終わりそうだったからです。

私は、足で地を蹴り知恵ちゃんの方に突進し、素早く知恵ちゃんの目の前まで行くと、拳を握り知恵ちゃんの鳩尾(みぞおち)に拳骨を一撃入れました。まともに一撃を食らった知恵ちゃんは、派手に後ろに吹き飛び、防御障壁にぶつかり、跳ね返って地面にうつぶせに倒れました。

「あれ、やり過ぎちゃったかな?」

これでも手加減したつもりだったのですけど。

後何秒かで知恵ちゃんが動き出さなかったら助けに行こうかと思っていたところで、ようやく知恵ちゃんが動き始めました。うー、こちらの心臓に悪いです。

知恵ちゃんは地面から起き上がり、木剣を構え直しました。打ち込まれたところは、治癒で治しているようです。その目はまだギラギラして諦めるようすは微塵もありません。叔母の様子もちらりと見ましたけど、同じく応援継続の構えです。母娘共に諦めが悪くて、とても面倒です。このまま知恵ちゃんが動けなくなるまでボコボコにするのも一案ではありますけど、後味の悪い結果になりそうで、その案を採用する気にはなれません。

やはり、予定通りに進めるしかなさそうです。

「ねえ、知恵ちゃん、賭けをしない?」

「賭けって何でや?」

「だって、知恵ちゃん、このまま戦っても諦めないでしょう?それだとキリが無いからね。もう賭けで決めようかと思って」

「どんな賭けをしよう言うの?」

「これから私が魔獣を一体呼び出すから、それを五分以内に斃せたら知恵ちゃんの勝ち、知恵ちゃんが五分で斃せなくて、私が斃せたら私の勝ち」

「え?そんなんでええの?だったら、うちが勝つで。うち、A級ライセンス持っておるんやから」

「なら、賭けが成立ってことで良いね」

「ええよ」

「それじゃ、呼び出すよ」

私は目を閉じて、力の眼で時空の狭間にあるお目当ての魔獣が一体入った小さな異空間を探します。いくら何でも一つくらいはある筈だと思いながら。最悪、あちらの世界から一体引きずり出す必要があるかもと考えていましたけど、杞憂に終わり、目的に叶う異空間を一つ見付けました。

「知恵ちゃんの相手は、この魔獣!」

私は見付けた異空間を時空の窓にぶつけ、魔獣を出現させました。その魔獣はネコのような魔獣でしたが、大きさは今まで見たどの魔獣よりも大きいです。そう、私が探して見付けたのは超大型魔獣でした。

「なんやこれ。こんな大きな魔獣が居るんか?」

知恵ちゃんは、超大型魔獣のことは知らないみたいです。北の封印の地に出た超大型魔獣のことは美玖ちゃんも知っていると思うのですけど、知恵ちゃんには伝えていなかったのですね。

「はい、知恵ちゃん、五分で頑張ってね。弓恵さん、時間を測ってくれませんか?」

「分かりました」

祖母には予め言ってあったので、準備は万端です。タイマーで五分を測り始めてくれました。

知恵ちゃんは、魔獣と対峙しています。私は、自分のゾーンの中で、魔獣の知覚の外にいるイメージを思い浮かべているので、魔獣には知恵ちゃんしか見えていない筈です。

知恵ちゃんが動けないでいるうちに、魔獣の方が動き始めました。魔獣が前足で知恵ちゃんを横から叩こうとしましたが、知恵ちゃんが前に出たので空振りになりました。知恵ちゃんは、そのまま魔獣に攻撃を仕掛けていきました。そして、何度か攻撃に成功して傷を負わせましたけど、魔獣の傷は直ぐに再生してしまうので、ダメージになっていません。

「三分経ちました、あと二分です」

祖母の声がしました。

「まだや、まだこれからや」

知恵ちゃんは、不利だと分かっているだろうに、まだ諦める気配がありません。魔獣の攻撃もまだ知恵ちゃんにまともに当たっていませんが、知恵ちゃんの動きを学習して、段々狙いが良くなってきているように思えます。

「あと一分」

知恵ちゃんの時間が無くなってきました。知恵ちゃんは浮遊陣で浮かび上がり、魔獣の顔を狙いに行きました。しかし、動きが遅くて魔獣の格好の的になってしまっています。魔獣はチャンスを逃さず、前足で知恵ちゃんを横から叩きました。知恵ちゃんは叩き飛ばされ、浮遊陣も消えて地上にぶつかってから、何回転か転がりました。さらにそこへ魔獣が爪を出して襲い掛かります。

「時間切れです」

祖母の声が響くと、直ぐに私は動き出して魔獣の前足を止めました。少しでも遅れたら、知恵ちゃんは無事では済まなかったと思います。

「知恵ちゃん、残念でしたね。あなたの負けです」

「まだ負けやない、珠恵ちゃんが斃せるか分からへんねん」

「ああ、それなら今から見せてあげますよ。ただ、その前に」

私は叔母の方を見ました。

「絹恵さん、良いですね。知恵ちゃんの負けですよ」

「いや、負けてへん。知恵はまだ挫けていないんや。まだまだ戦える」

「そうですか、このまま戦えば死にますよ」

いい加減面倒になって来たので、私は魔獣と戦った挙句、魔獣に斃されてしまった知恵ちゃんのイメージを叔母の魂に刻み込みました。すると叔母の顔が恐怖の色に変わります。

「いやや、知恵を失うのはいやや」

今のが相当効いたらしく、叔母は泣き始めました。

「それじゃあ、ここまでで良いですね」

最早、私の問い掛けに返事をする気力も無く、泣き続けています。それだけ愛おしいなら、何故戦わそうとしたのでしょう。まったく理解できません。

ともかく、叔母は片付いたので、後は知恵ちゃんです。

私は知恵ちゃんの方を振り返り、宣言します。

「知恵ちゃん、待たせたね。今から魔獣を斃すから良く見ててね」

私は、叔母と知恵ちゃんに話し掛けるために魔獣の動きを止めていた拘束陣を解くと、掴んでいた魔獣の腕を捻り、魔獣を転がしました。そして、知恵ちゃんが落とした木剣を拾い、力の刃を乗せて頭上に掲げます。

このままでも斃せますけど、もう少し派手にした方が力量の差が分かり易いでしょうか。

私は仮想的にアバター化した体に巫女の力を行き渡らせます。これで、髪は白銀に、目は濃い銀色になる筈です。この前、季さんと試したときは鏡で見せて貰った自分の姿を見て、自分で感動してしまいました。この姿を見せれば、知恵ちゃんも少しは考え直すでしょうか。

私は更に木剣に乗せた力の刃を強化し、木剣の刃よりずっと先まで力の刃を伸ばします。

魔獣は起き上がって私に向かってきますが、そんなことお構いなしで木剣を一気に振り下ろします。その一撃で魔獣は両断され、地面に斃れました。

「どう?一瞬だったでしょう?私の勝ちだね、知恵ちゃん」

私はにこやかに知恵ちゃんに微笑み掛けましたけど、知恵ちゃんは呆然とした顔をしていました。周りを見回すと、母と梢恵ちゃんも呆然としていて、祖母は当然の結果ですねと言わんばかりの笑顔でした。


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