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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-33. 織江への相談

梢恵ちゃんは、それからずっと私のところに居候し始めました。私はベッドですけど、梢恵ちゃんは予備の布団で床の上に寝ています。

せっかく東京に来たのだからと、昼間は企業説明会の情報を探して申し込んだり、就職セミナーに参加したり、忙しそうにしています。私に気兼ねなく行動して貰うために、予備の鍵を渡しておきました。

梢恵ちゃんもですが、私もこの時期はもう講義は無くて、試験もレポートも一通り終わったので、自由と言えば自由です。

ですが、目的もなく出掛けるような性分でもなく、家でゴロゴロするのもどうかと思うと、何をするのか悩みます。勿論、トレーニングは毎日続けています。織江さんと話をしようと思うと、研究室には午前中に行った方が良いので、午後帰ってきてからトレーニングをしていて、出かける用事が無い日は、午前中にトレーニングです。私がどんなトレーニングをしているのか、梢恵ちゃんが興味があると言うことでしたので、一度一通りのメニューを見せてあげたのですけど、何故毎日そんなにやっているの?という顔をされました。自分としては、それくらいやらないと体力が落ちそうで心配なのですけど。梢恵ちゃんも一緒にやれば良いのに、と誘ったところ、私は巫女やあらへんからやらんで良いのや、と遠慮されました。

そういうものでもないように思うものの、実際、自分も全然やっていなかった時期があったことを思うと、梢恵ちゃんのことは言えないなと考えて黙っています。

そんな生活をしている中でのある日の午前中、私は研究室で織江さんとお茶を飲みながら話をしていました。

「それで、梢恵との共同生活はまだ続いているのか?」

「ええ、続いていますよ。もっとも、それぞれ自分のやりたいことをやっているので、煩わしく思うこともないですし、お互い干渉もしないようにしていますからね。続けようと思えば、まだまだ続けられると思いますけど」

「しかし、問題の解決にはなっていないな」

「そうなんですよね。結局はそこをどうにかしないといけないんですよね」

「さっさと、一度知恵と手合わせして、圧勝すれば良いのではないか?」

「そのことは梢恵ちゃんとも話したんですけど、これまでのことを考えると、それくらいでは叔母さんが諦めないんじゃないかと思うんですよね」

「半殺しくらいすれば、納得せんのか?」

「駄目だと思いますよ。それくらいだったら、治癒で治せちゃいますから。まだ逆転できるとか言いそうです」

「それはまた難儀な相手だな」

織江さんも、私の言いたいことを理解したのか、溜息混じりに呟きました。

「そうなんですよね。それに、私、まだまだ知恵ちゃんを半殺しにできるほど強くもなれていないですよ」

「ゾーンの訓練はしておるのか?」

「街中でゾーンの訓練なんて出来る訳ないじゃないですか」

「別に街中でやらずとも訓練は出来ると思うが。時空管理室には行っておらんのか?」

「北の封印の地の観戦以来、行っていないですね。行くとなると、決心が要りますし」

「季のことか?」

「ええ、トレーニングの相手をした後、何時になったら帰れるか考えると不安になりますよね」

「その気持ちは分からんでもないが。お主の場合には、腹を空かせて行けば良いのではないか?ゾーンの訓練をして十分体力を使えば、良い感じのタイミングで腹が鳴るのではないか?まさに腹時計だな」

あっはっは、と織江さんは、自分のジョークで受けています。

「織江さん、120%他人事ですね。私のお腹がそんなに都合よく鳴るとは限りませんよ」

「そうか?珠恵なら出来そうな気もするが」

織江さんは、まだ頬が緩んでいます。まったく人のことを何だと思っているのでしょう。

「すまんすまん、冗談故、そう怒るでない」

「別に怒ってなんていませんけど」

「そうか?それで話を戻すが、ゾーンの訓練は室内でもできるぞ」

「そうなんですか?」

「如何にも。珠恵よ、足労だが購買部あたりに出向いて、要らないダンボールを出来るだけ譲り受けてきては貰えぬか?」

「何に使うんですか?」

「決まっておろうに、ゾーンの訓練に使うのだ」

「分かりました。行ってきます」

私は研究室を出て購買部に向かいました。購買部のサービスカウンターで尋ねてみたら、裏手の搬入口にいる人に頼めば貰えるはずだからと言われて裏手へ向かい、そこで抱えられるだけのダンボールを貰うことが出来ました。

「織江さん、ダンボール貰ってきました」

「ご苦労だったの。三つばかり箱の形にして積み上げるのだ」

織江さんがガムテープを渡してくれたので、それでダンボール箱を三つ作り重ねました。

「できましたけど、これで何をするんですか?」

「これに木剣を上から叩き込んでみよ」

織江さんは、私達が研究室に置いてあった木剣を取り出して手に持っていて、私にそれを渡してくれました。私は重ねたダンボール箱の前で、木剣を構えます。

「これで叩いちゃって良いんですか?」

いまいち何をするか分かっていない私は、織江さんに再確認しました。

「ああ、ともかく一度やってみよ」

「分かりました」

私は上段から剣をダンボール箱目掛けて打ち込みます。木剣の勢いでダンボール箱が凹みました。

「どうなった?」

「どうなったも何も、見ての通りですよ。凹みました」

「ああ、そうだな」

「これで良いんですか?」

「これはな。普通だとどうなるかを再確認しただけだ」

「当たり前の結果のように思うんですけど、やる意味あったんですか?」

「まずは認識を共有したまでだ。さて、今度はゾーンを発動して叩いてみよ。このダンボール箱を真っ二つにするイメージを思い描きながらな」

「はい」

私は再びダンボール箱の前で木剣を構えました。そして、その場でゾーンを発動し、ダンボール箱を真ん中から二つに切断するイメージを頭の中に浮かべます。その状態のまま、木剣を振り下ろしました。

すると、一番上のダンボール箱はイメージした通りに両断され、二段目のダンボール箱の途中で木剣が止まりました。

「ダンボール箱が切れましたね」

「それが、想定した結果の実現の効果だな」

「待ってください。何で木剣でダンボール箱が切れたんです?」

「逆に問うが、お主、木剣でダンボール箱を切れと言われたらどうする?」

「そうですね。木剣に力の刃を乗せるでしょうか。そうすれば、木剣でもダンボール箱が切れますから」

「そうだな。お主はそれが出来ると分かっている。だから、それが結果として現れた。分かるか?」

「え?出来ると分かっていると、それが結果になってしまうんですか?」

「そうだ。ゾーンの力とはそう言うものだと聞いていないのか?」

私は記憶を掘り起こして、前に季さんに言われたことを思い出しました。

「そう言えば、前に季さんに『自分のやれることが最大限に出来る』って言われましたけど、そういうことなんですね」

「ああ、相手と戦う時に何かを思い描いたとき、自分の力で出来る最大限のものが結果として現れる」

「でも、それって、木剣でも相手を傷付けたり、下手をすると殺しちゃったりするかもと言うことですよね?」

「そうなるな。だからこそ、お主はゾーンの力の制御を覚えないといけないのだ」

「どうすれば良いでしょうか?」

「今回、お主の剣は、二段目の途中まで進んだよな。それは、お主のイメージは一段目に対しては明確だったが、二段目については曖昧だったからだ。二段目も完全に切るイメージなら全部切れていただろう。逆に、二段目は切らないというイメージなら、二段目は良いところ凹むだけだ。イメージの持ち方次第で結果が変わる。それを把握し、攻撃する時のイメージの持ち方を学ぶのだ」

「難しそうですね」

「何を言うておる。ゾーンの使い手が、それくらいのこと自由に出来ずにどうする?藍寧や季ならば、これくらい鼻歌唄いながらでもできるぞ」

「藍寧さん達もダンボール箱相手に練習したんでしょうか?」

「お主が街中で練習できないと言うから、家の中で手軽に使えるダンボール箱での練習法を教えてやったのだ。ダンボール箱では風情が無いと言うのなら、マネキンに服でも着せて、服だけ切る練習とかはどうだ?着なくなった古着を使えば、心も懐も痛まぬであろう?」

「あー、なるほど。それを極めれば、肌に傷付けずに服が切り裂けるってことですね。服を全部切り裂いて、戦意喪失させて勝利を得るって方法はありな気がする」

「おいコラ、お主、何を考えておる。そんなことをして勝って、後継者として認められると思うておるのか?」

「そうですよねぇ、無いですよね」

「現実逃避しておらんと、真面目に精進せい」

「はーい」

どうやら、ゾーンの訓練も毎日のトレーニングメニューに追加しないといけなさそうです。


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