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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-26. 真夜中の研究室

夜中に研究室で魔道具の設置を行うことについては、織江さんから承諾が得られました。

織江さんからは学生が帰るのはきっと遅くなるだろうとのことでした。織江さん以外の学生が帰ったらメッセージを送って貰うことにしておきましたけど、帰りが遅くなることを想定して、私は寝る準備まで終わらせた上で、レポートに取り組みながら待っていました。そして、予め言われていた通り、織江さんから連絡が来たのは、日付が翌日になるまで残り30分を切った時間になってからでした。

私は連絡を貰うと、織江さんから借りている手提げ袋を持ち、玄関で突っ掛けサンダルを履いてから、研究室の中に直接転移しました。そこには誰もいなかったのですけど、続きの部屋に人の気配がします。きっと織江さんでしょう。

「織江さん、こんばんは」

私を声を掛けると、続きの部屋から人が出てきました。

「おう、珠恵か。遅くなって悪かったな」

案の定、織江さんでしたけど、顔はスッピンで、タンクトップに短パン姿です。

「織江さん、何でそんな格好なんですか?」

「何でって、寝るときはいつもこの格好だが。お主も寝るときまで化粧はしたりせんよな?それにお主も部屋着ではないか」

「それはそうですけど、私は転移で移動しますから。織江さんは、その格好で家まで帰るんですか?」

「ああ、そのことか。我は隣の部屋で寝ておるからな。学生寮の部屋はあるが、そこに行くのは洗濯をするときだけだ」

「そうですか」

前々から続きの部屋の中に簡易クローゼットがあったりして、何かと思っていましたけど、どうやら織江さんの着替えが入っていたみたいです。

「お風呂はどうしているんですか?」

「風呂か?洗濯で学生寮に戻った時に、ついでに入っておるが。それ以外の日は、シャワーだけだ。この建物にシャワー室はあるからの」

なるほど。学科のオリエンテーションのときに、シャワー室についての話は無かったのですが、存在しているのですね。

「それで、今日はもうシャワーは浴びたってことですか?」

「ああ、学生が皆帰ってからシャワー室に行って来た。だから連絡が少し遅くなってしまったのだ。珠恵には、悪かったのだが」

「いえ、大丈夫です。私も先にお風呂には入っていましたし。それにしても、皆さん遅いんですね」

「まあ、お主も知っての通り、午前中に来るものはおらぬからな。皆、昼過ぎに来て夜中に帰る。夜型ばかりだ。社会人になってから苦労しないか心配になるよの」

織江さんの言い方だと、講義の有無は関係なさそうですね。

「お主は朝から活動しておるよな。そろそろ寝る時間ではないのか?」

「ええ、まあ。なので、さっさとやってしまいましょうか。まずは観察ですね」

私は筆記用具とレポート用紙を取り出すと、時空活性化陣を起動して時空の狭間の観察を始めました。あと一日半くらい。観察対象の孤立異空間は、当初見つけた時よりも、随分と近付いています。ただ、動きは昼間から変わっていないので、観察結果を描くのに、それほど時間は必要としませんでした。

「事前の観察はこれくらいと思いますけど、織江さん、二箇所目は何処にしますか?」

「池袋ではどうだ?あそこは駅前は広いが、人通りが多すぎて、魔獣が何処に現れるか予測し辛いし、出現したときの被害も大きくなりそうだからな。消去法的に大塚が出現地点となるが、万が一に備えて有麗を待機させておけば、被害は抑えられるだろう」

「分かりました。それでは、池袋に設置します」

私は作業台の上に池袋一帯の地図と六つの穴の開いたプラスチック板の定規を取り出し、さらにその脇に魔道具を並べると作業を開始しました。

まずは中心点を探すところから始まります。池袋の駅の辺りで、時空活性化陣と探知陣を起動して、円の一つが正面に視える場所を探さないといけません。作動陣を起動できるのは、遠隔探知の範囲内ですけど、私の遠隔探知は2kmそこそこなので、池袋までは届きません。それで、遠隔探知の縁の方で探知陣を起動し、二段の遠隔探知で池袋を範囲内にします。その上で、時空活性化陣と探知陣を更に起動。かつ、すべての作動陣は、人の目に触れないように、描かずに起動しないといけないのです。今までやったことのない方法なので、昼間、家で繰り返し何度も練習して、何とかできるようになりました。

「どうだ?できそうか?」

織江さんに声を掛けられました。集中しているので織江さんの顔を見ることは出来ませんが、声色からすると心配しているようです。

「正面を探すのが思ったより難しいですね。最悪、藍寧さんにお願いすることもできますけど、もう少し挑戦してみます」

「うむ、よろしく頼む」

織江さんに言った通り、正面の位置を探すのが結構難しいのです。孤立異空間は見つかるのですけど、見た目だけで判断しなければならず、何をもって正面とすれば良いのか判断基準が分からなくて悩みました。しかし、悩みながら孤立異空間の観察を続けている中で、気が付いたことがありました。孤立異空間の二つの円は片方ずつ順番に濃くなったり薄くなったりするのですけど、その片側が濃くなった時、視る角度によって一番濃い位置がずれているようなのです。つまり、何か偏っているのだろうと思えました。となれば、何も偏りがないところが正面かも知れません。そう考えて場所を変えながら観察を繰り返すうちに、東口広場のある地点で、片方の円に濃さの偏りが無いところを見つけました。

「ようやく見つけたと思います。ここですね」

私は地図上の一点に印を付けました。

「おお、珠恵、よくやった」

ここまで来れば、後は何とかなりそうな気がしました。

プラスチック板の定規を地図の上に乗せて、中心点を合わせ、少しずつ定規を回転させながら、六角形の頂点のそれぞれの位置が魔道具を設置するのに適しているかを確認していきます。道路や歩道が多くて、位置決めが難しかったのですけど、何とか設置できそうな場所を見つけられました。

「こんなところでしょうか」

私が示したのは、建物の屋上やアーケードの屋根の上、植え込みの中など、人が通らないし、見付かりにくい場所だと思われる六地点です。

「うむ、良いのではないか?」

「では、設置していきますね」

織江さんの了解も得られたので、私は作業台の上に置いてあった魔道具を取り、巫女の力を注いで起動してから、転移を使って順番に選んだ地点に転送していきました。その上で、それぞれの場所に隠蔽を掛けておきます。

「できました」

完了すると、顔を上げて織江さんを見ました。

「ご苦労だったの。それで、早速だが、孤立異空間の観察をして貰えるかの?」

「はい」

魔道具の設置に比べれば、観察するのは朝飯前の作業です。レポート用紙の新しいページに、観察結果を描き込みました。円が二つの時は、順番に濃くなったり薄くなったりの動きがあったのですけど、一つになると動きが見えなくなりました。

「円が一つになりましたね」

「予想通りよの。そして、その円には偏りがあるのだな?」

「ええ。正面から視れば、偏りが無くなると思いますけど」

「そこが一番出現確率が高いと言うことか」

「どうなのでしょう?魔獣は人けが多いところには出現しないことになっていたと思うのですけど?」

「だよな。なので、このまま放っておいてどうなるかも興味はあるのだが」

織江さんは、ニヤついた笑顔を私に向けました。

「珠恵よ。どうせだから、もう一つ実験をしてみる気はないか?」

織江さんのその提案は、自分自身でも興味を惹かれたので、やってみることに同意しました。準備が必要ですけど、明日一日あれば何とかなると思います。


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