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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-20. 雪希との試合

戦武術講習初日のトーナメント戦、決勝に勝ち上がったのは雪希ちゃんと私でした。自分のことで精一杯だった私は、雪希ちゃんの試合は見られていません。雪希ちゃんがどんな戦い方をするのか楽しみです。

初日最後の試合、初級や中級の人達も周りに座って見学みたいです。公式戦でもないのに、緊張感があります。私の方は、治癒を使わずに耐えていますけど、疲れて来ています。日頃の運動不足が祟ってます。片や雪希ちゃんはと言えば、普通にしているし余裕がありそうです。

このままでは不利だろうと言うことは分かっています。治癒を使うことも頭をよぎりました。でも、使ってしまったら、雪希ちゃんに対してズルしているような気がしたし、ここまで治癒を使わずに頑張ってきたことが無駄になると考え、思い留まりました。

「ねえ、珠恵ちゃん、疲れてない?少し休まなくて良いの?」

雪希ちゃんが心配そうに声を掛けてくれました。

「ありがとう、雪希ちゃん。でも、大丈夫だよ。雪希ちゃんと決勝で戦えて嬉しいんだ。私、精一杯やるから、雪希ちゃんも全力でやってね」

私にも封印の地の巫女としての意地があるんです。

「私も珠恵ちゃんと決勝に出られて嬉しい。でもぉ」

雪希ちゃんの言葉が止まりました。

「でも?」

私が首を傾げると、雪希ちゃんは顔をプルプル振って、気合を入れました。

「ううん、ごめん。やるよ、全力で」

いつもの雪希ちゃんは、ほんわかした雰囲気ですけど、目の前の雪希ちゃんからは、ピリっとした感じがします。でも、少しだけ?

私達は礼をして木剣を構えると、審査役の先生の始めの号令で、打ち合いを開始しました。

雪希ちゃんが、一合、二合と打ち込んできます。雪希ちゃんの太刀筋は素直ですけど、早くて重いものでした。打ち込みを正面で受けるときは、きちんと両手で木剣を持たないと、力押しで押し切られてしまいそうです。

雪希ちゃんの打ち込みの連続に、私は防戦一方になってしまいました。しかも、力強い雪希ちゃんの打ち込みを受けているので、どんどん疲れが溜まります。私は、雪希ちゃんの打ち込みを正面から受けないようにしつつ、なるべくコンパクトな動きを心がけて、体力の温存を図ります。

何度となく続く雪希ちゃんの攻撃を受け続けると、流石に雪希ちゃんも疲れたのか、勢いが弱まって来ました。雪希ちゃんの攻撃は、速いのですけど、分かり易いので対応はそこまで難しくありません。勢いが弱まれば、付け入る隙はあるのです。

私はタイミングを見計らって、反撃しました。すると雪希ちゃんは咄嗟に後ろに下がり、私から距離を取ります。

「珠恵ちゃん、凄い。これだけの攻撃を全部受けちゃうなんて。いままでの人は、これで勝てていたのに」

これって、私の実力が評価されたってことかな?でも何となく、まだ全力ではないと言われているようで、複雑な心境です。とは言え、もうかなり疲れていて、反論する気力が湧きません。取り敢えず、笑顔を返しておきます。

「そうだね、分かった。これで最後にするよ」

私が返事をしなくても、雪希ちゃんは話を進めてくれました。助かります。

さて、ここで何を仕掛けてくるのでしょう。雪希ちゃんの気配に変化を感じました。私は何処から攻撃が来ても良いように体の真ん中で木剣を構えると、体中の全神経を研ぎ澄ませて、雪希ちゃんの次の打ち込みに備えます。

それから暫く雪希ちゃんと私とが木剣を構えて静止したまま、時が流れました。このまま休ませて貰えると助かるなと思いましたが、そうはならず、雪希ちゃんの肩が動いたかと思うと、鋭い打ち込みが入ってきました。

これまでになく速い二連擊です。最初の打ち込みを受けると、即座に空いた反対側に打ち込みが来ます。力の眼のお蔭で、辛うじて剣筋を見極め、受け切ることが出来ました。雪希ちゃんの木剣が、私の木剣で私の体に僅かに届かないところで止められています。

「嘘」

雪希ちゃんが驚いた顔をしています。それだけこの攻撃に自信があったのでしょう。

「残、念、だったね」

そう言わずにはいられませんでした。ついでに笑みを作ってみせようとしたのですけど、雪希ちゃんには笑みに見えたでしょうか?

私の顔が雪希ちゃんの目にどう見えたかはともかく、雪希ちゃんは悔しそうな顔になって、一旦下がりました。

そして、木剣を構え直します。

「もう一度」

雪希ちゃんは、気合いの掛け声と共に、再度二連擊の打ち込みを放ちました。先ほどとは違う角度で来ましたが、それも受け切ります。

「もう一度」

更に二連擊が繰り返されます。でも、段々とスピードが落ちてきています。雪希ちゃんも限界ギリギリなのでしょう。それに二連擊を放った後は、一瞬動きが止まるようです。

ならば、反撃できるかもしれない。私は次の二連擊が来たら、残る力を振り絞り、反撃しようと考えました。

「もう一度」

来た。二擊目を左に弾くと、木剣を右に振り、前に出ます。そこで、木剣を打ち込めば。

「あっ」

思い描いていた通りに木剣が当たり、私の勝ち、となるつもりだったのですが。

「え?」

雪希ちゃんは何が起きたのかと言う表情をしています。そのとき、私は、練習場の床に突っ伏す形で雪希ちゃんの傍らに倒れていました。しかし、すぐに横に転がり、仰向けになってから、足を引きます。

「脚つったぁ」

日頃の運動不足が祟りました。折角調子良かったのにと思っても後の祭り。

指導の先生がすぐに側に来て、私の脚を伸ばしてくれると、痛みが収まってきました。

「珠恵ちゃん、大丈夫?」

雪希ちゃんが心配そうに覗き込んで来ました。

「ありがとう、もう大丈夫だよ」

それにしても締まらない決勝戦になってしまいました。

雪希ちゃんから差し出された手を取って立ち上がると、審判役の指導員が雪希ちゃんの勝利を宣言します。決勝戦を見ていた人達が拍手で雪希ちゃんを讃えています。私も一緒に拍手をしながら、自爆してごめんね、と心の中で謝っていました。

「雪希ちゃん、優勝おめでとう」

灯里ちゃんのところに歩きながら、雪希ちゃんに声を掛けると、照れたような反応がありました。

「うん、ありがとう。だけど、私、ブランクを感じちゃった。また道場に通おうかなぁ」

「え?ブランクなんて感じさせないほど、速かったよ。あの二連撃」

「そう?前に通っていたころは、先生達以外に止められたこと無かったんだけどな。珠恵ちゃんだって全然やってなかったとか言いながら、私の二連撃を止めるなんて凄いよ」

「お蔭でへとへとだけどね。やっぱり暫くやってないと駄目だな」

すると、雪希ちゃんがウフフと笑いました。

「そうだね、最後は残念だったものねぇ」

どうやら思い出し笑いのようです。私が最後の反撃をしようとして転んだことを思い出したのですね。我ながら無様な光景だったと思うので、笑われても仕方がありません。

そんな雪希ちゃんを引き連れて灯里ちゃんのところに行くと、灯里ちゃんは目を輝かせて私達を迎えてくれました。

「二人とも凄い打ち合いだったね。雪希ちゃんの打撃は速いし、それを珠恵ちゃんは全部受けちゃうし。私もそんな戦いがやってみたいって思ったよ」

「雪希ちゃんは、またここに通おっかなって言ってたよ。灯里ちゃんも一緒に来たら?」

「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、私、結構忙しくて時間が厳しいんだよなぁ」

「それじゃ、校舎の裏とかで練習する?珠恵ちゃんや私が教えるんでも良いならだけどぉ」

雪希ちゃんの方法なら、空いた時間にやれそうです。

「え?私は嬉しいけど、それは二人に悪いんじゃない?」

「大丈夫だよ。身体を動かす良い機会になるから。珠恵ちゃんもそうでしょぉ?」

雪希ちゃんは、少しニヤニヤしながら、私の方を向きました。

「うん、そう。身体を動かさないと、とても不味いと思い知ったよ。でも、雪希ちゃん、笑っていられるのは今のうちだけだからね。次は絶対、一撃お見舞いしてあげるんだから」

「楽しみに待ってるよぉ、珠恵ちゃん」

雪希ちゃんは楽しそうです。まあ、今日は雪希ちゃんが勝ったのだし、今のところは花を持たせておいてあげましょう。

「あ、でも、木剣とかどうしようか?」

灯里ちゃんの問い掛けに、雪希ちゃんと私は顔を見合わせました。でも、思い付く方法はたった一つしかありません。私が微笑むと、雪希ちゃんも同じことを思ったのか微笑みました。そして、改めて灯里ちゃんの方を見て、口を開きます。

「研究室に置いておけば良いんじゃない?」

まだ研究室には所属していませんけど、きっとあそこなら問題ありません。


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