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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-18. 道場探し

「もう一つの話とは何だ?」

織江さんが灯里ちゃんに先を促しました。

「最初に一つ聞きたいんですけど」

「何だ?」

「人って何処まで強くなれますか?」

「は?」

灯里ちゃんの雲を掴むような質問に、流石の織江さんも即答できなかったようです。

「お主、何故それを尋ねる?」

「私、見たんです、剣の打ち合いを。勿論、模擬試合みたいなものだったので、使っていたのは木剣だったんですけど、二人とも凄く速くて、力強くて、動きが美しくて素敵でした。人ってあんな動きが出来ちゃうんだぁって思ったんです」

灯里ちゃんの眼にハートマークが浮かんでいるように見えます。余程灯里ちゃんの心に響いたみたいです。

「なるほどな、それで先の質問に繋がる訳か」

「そうなんです。頑張れば、私もあんな風に動けるようになるのかなって」

「それなりに鍛え続ければ、出来るようになるのではないか?とは言え、お主が見て美しいと思うほどであったのなら、一年やそこら鍛えただけのものではないだろうがな」

「まあ、それはそうですよね」

「だが、体を鍛えるのは悪いことではない。心行くまでやってみれば良かろう」

「それでなんですけど」

灯里ちゃんがしおらしくなっています。

「強くなるためにどうしたら良いかなって」

灯里ちゃんは織江さんを見ていましたが、織江さんは八重さんの方に目配せしています。それについては、八重さんにフォローしろと言いたいみたいです。

織江さんの合図を理解したのか、八重さんはやれやれと言った体です。

「まずは基礎をきちんと固めて磨くことだと思うがな。灯里は、どういう風に強くなりたいんだ?柔道、剣道、空手、ボクシング、ムエタイ、薙刀など色々あるぞ」

「私はやっぱり剣を使えるようになりたいですね」

「それは魔獣と戦うと言うことか?」

八重さんの問いに、灯里ちゃんは少し考えこみました。

「そういうつもりでは無かったですけど、魔獣と戦えるようになるのなら、戦ってみたいです?」

「魔獣との戦いはお遊びでは無いのだぞ?」

「はい、それは分かってます」

灯里ちゃんは、微笑みと共に答えました。曇りの無いその瞳に何か覚悟のようなものを感じます。でも、八重さんの言うように、簡単なことではないのですけど。

「ねえ、灯里ちゃん、ダンジョンに入ったことはあるの?」

不安を感じた私は、思わず灯里ちゃんに聞いてしまいました。

「無いよ。でも、魔獣は目の前で見たことがあるんだ。ほら、さっき見せた上野の動画でバリアを張って貰ってた人たちがいたでしょ?あれ、私なんだ。魔獣見たのが初めてで、しかも大きかったでしょう?腰が抜けて動けなくなっちゃってて」

あはは、と顔を赤らめて恥ずかしそうに笑う灯里ちゃん。

「いや、灯里ちゃん。大型魔獣を目の前にして腰が抜けても恥ずかしくないし、と言うか笑い話では済まなかったかも知れないじゃない?」

「まあ、そうなんだけど、あの時は陽夏(はるか)さんが一緒にいたし。あ、陽夏さんって、さっき物凄く強いと言っていた二人のうちの一人ね。上野の時は、まだそんなに強いなんて知らなかったんだけど、一緒にいると妙に安心感があって。それに白銀の巫女は絶対現れるって思ってたし」

「待って待って。おかしくない?白銀の巫女が絶対に現れるって、どうしてそんなことが言えたの?」

「うーん、それ言っちゃって良いのかなぁ。あの、ここでなら言っても良いですか?」

灯里ちゃんは、伺うように織江さんの方を見ました。

「この場なら構わん」

「じゃあ言っちゃうけど、魔獣を上野に出るように仕向けたのって、白銀の巫女だから」

「え?」

私は一瞬固まりました。

「魔獣を斃す筈の巫女が、自分で魔獣を呼び出しているってこと?」

そんなことがあっていいのかと、多少混乱気味です。

「珠恵ちゃん、ごめん。説明が足りなかったね。多分だけど、魔獣が出て来るのは止められないんだよ。白銀の巫女がやっているのは、被害がなるべく少なくなるように魔獣の出現場所を絞っているんだと思う。それで出て来た魔獣を斃してお終い」

「えーと、ワザと魔獣を出現させているんじゃないことは分かったけど、魔獣が出現することを予め知っていたってことだよね?」

「うん、そうだね」

心なしか灯里ちゃんの返事の歯切れが悪くなってきたような気がしました。確信が無いと言うことかな。

「どうやったら魔獣の出現を予め知ることができるのかな?」

「我には心当たりがあるが」

灯里ちゃんが、え?という感じで織江さんの方を見ました。

「時空認識だ」

「時空認識、ですか?」

今度は灯里ちゃんが、織江さんに質問しています。

「そうだ。はぐれ魔獣は、どういう理屈かは分かっておらぬが、時空の狭間を超えて来ると見られておる。時空の狭間の中で、ある程度この世界に近付くと、この世界での出現時間と場所が大体決まるのだろう。時空認識の能力があれば、時空の狭間の中をこの世界に近付いて来る魔獣のことを知覚したり、出現場所を特定できたりするのだ」

お主には出来ていないがな、と言わんばかりの視線が、織江さんから私にぶつけられました。

「それって、巫女の能力なんですか?」

灯里ちゃんが、畳み込むように織江さんに尋ねます。

「時空認識は、巫女の中でも出来るものが殆どおらん。だから、巫女の力とは異なる能力だろうと思われておる」

「そうですか」

灯里ちゃんは、何か考え込むような仕草をしました。

「灯里よ。お主、何か気になることがあるのか?」

「あ、いいえ、大丈夫です」

灯里ちゃん、目が泳いでますよ。でも、ここは黙っていてあげましょう。

さっきの話で、魔獣が上野に出現した理由は分かりましたけど、どうも灯里ちゃんも、上野で偶然魔獣に遭遇したんじゃなくて、上野に魔獣が出現することを知っていたような口ぶりでした。そのことは、きっと織江さんも気が付いている筈です。

私が織江さんがどう反応するのか気になって見ていました。そこで織江さんが発した言葉は非常に簡単なものでした。

「そうか、ならば良い」

織江さんは、灯里ちゃんが自分から言う気になるのを待とうと言うのでしょう。私もそれが良いと思いました。

「さて、話を戻すとするかの。八重、魔獣との戦いも想定した剣の技を磨くとなると――」

戦武術(せんぶじゅつ)だな。いくさ()武術とも言うが」

織江さんの言葉を引き取って八重さんが答えました。

「戦武術の道場は幾つかある。それから、この大学に戦武術のサークルもあったと思うが」

「サークルも興味はありますけど、最初はきちんと道場で習おうと思います」

「そうだな。そうなると、何処が良いかな?」

「あのぅ」

八重さんが考えようとしているところに、雪希ちゃんが手を挙げました。

「雪希ちゃん、何?」

灯里ちゃんも雪希ちゃんの方を見ます。

「道場に行くなら、獅童道場はどうでしょうかぁ?家から近くて通っていたことがあるんです。あそこなら、女性の師範代もいますし」

「ああ、そうだな。私もあそこは良いと思うが。そこの師範の娘は私の高校の同級生だ」

「八重さん、風香さんの同級生だったんですかぁ?」

「そうだ。風香は高校の頃から強かったぞ。実力は、どの師範代よりも上だろうな」

「その人が、女性の師範代なのですか?」

八重さんに問い掛けたのは灯里ちゃんです。

「いや、彼女はフードコーディネーターの仕事に就いたので、師範代はやっていないと思うが」

「フードコーディネーターですか?」

「ああ、風香曰く、『食に目覚めた』のだそうだ。大学もそちら方面の大学に進学していたな」

とても強いのにフードコーディネーターってギャップを感じますけど、そこは人それぞれですからね。

「それでも風香さんは、道場に顔出すことはあると思いますよぉ。私が通っていたときにも、ときたま顔を出していましたし、だから私も風香さんのことを知っているんですけどぉ」

「その風香さんのことも気になるけど、ともかく私は獅童道場に行くよ。雪希ちゃんは、通ってたことがあるんだよね?良ければ一緒に行かない?」

「そうですね。久しぶりですけど、私も一緒に行きますぅ」

「珠恵ちゃんも行かない?」

灯里ちゃんから水を向けられて、私はどうしようかと考えました。高校に入って以降、体を鍛えるのはサボってばかりでしたけど、機会があるなら行くのも悪くないと思うことにしました。

「うん、私も行く」

そうして、三人で道場に行くことが決まりました。

その後、家に帰ると、私は練習用の道具を入れた手提げ袋を持って、公園に向かいます。

公園のいつも練習に使っている木の枝から、ネットに入れたゴムボールをぶら下げます。そして、私は目隠しをして、木剣を構え、ゴムボール目掛けて剣を振り下ろします。剣はボールに当たり、ボールは向こう側へと飛ばされますけど、紐で枝に繋がれているので、また戻ってきます。その戻って来たボール目掛けて、また剣を振ります。

そう、これは織江さんに言われていた、力の眼の練習です。最初の頃は、全然出来なくて、途方に暮れそうでした。けれど、やっていくうちに段々と視えるようになったので、面白くなってきたところです。ボール一つだと、動きが単調で軌道が読み易く、そろそろボールの数を増やそうかと考えています。今は試験期間中とは言え、気分転換も兼ねて、一日に一度はやるようにしています。

時空認識の能力の強化のために始めた練習ではありながら、力の眼は戦いの時にも使えそうです。私が灯里ちゃんの誘いに乗ったのには、この力の眼が戦いでどれくらい有用かを確かめる良い機会になりそうに思えたこともありました。


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