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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-14. ダンジョン調査

大学生活は、まずまず順調に始まりました。同じ学科の人達の顔も段々分かってきました。大学の講義は、学科に関係なく聴講できるもが多いのですが、必須の英語など幾つかの講義は地球科学科の学生だけで行われるようになっていて、その時は学科の全員が集まります。それで、月曜日と木曜日の一限にその必須の英語があって、その英語の前にホームルームの時間が取られています。ホームルームでは、学科内の連絡事項の伝達や話し合いが行われることになっていて、今の大きな議題は六月初旬に予定されている大学祭の準備についてです。大学祭は、一年前、私が鴻神研究室を訪れるきっかけになったオープンキャンパスを兼ねた催しです。早いもので、もう、一年が過ぎてしまいました。大学祭での地球科学科一年の出し物は、食べ物の屋台にする方向ですけど、ホットドッグにするか、アメリカンドッグにするかで熱い議論が交わされています。正直私はどちらでも良いので、早く議論が収束しないかなと思いながら話を聞いているだけなのですけど、灯里ちゃんはアメリカンドッグを盛んに推してます。雪希ちゃんは私と同じく沈黙を守っています。

そう、一緒に鴻神研究室に行って以来、灯里(ともり)ちゃんと雪希(ゆき)ちゃんとは仲良くなって、お互いに名前呼びするようになりました。偶に一緒に研究室に顔を出しに行ったりもしています。ただ、雪希ちゃんは相変わらず織江さんのことを恐れていて、私の後ろに隠れていることが多いです。織江さんは、全然怖い人では無いのに。それに雪希ちゃんは結構力が強いのです。先日、研究室で話の流れで腕相撲をすることになったのですけど、雪希ちゃんにはまったく敵いませんでした。身体強化をかければ互角くらいかも知れないかな。でも、雪希ちゃん達には巫女だと言ってないし、身体強化を使うのは反則っぽいのでやってません。そして、そんな雪希ちゃんに織江さんは何気に勝ててしまうのです。まあ、それくらい強くないと、オリエンテーションの日に、雪希ちゃんを研究室まで引っ張ってこられないかと妙に納得してしまいました。世の中、強い人っているんだなって思っていたら、織江さんから鍛え方が足りないんじゃないかと指摘されてしまいました。私も巫女なので、ダンジョン探索ライセンスのB級は持っていますけど、それだけです。そこまで戦いに執着してないですし、日頃の鍛錬もさぼってやっていませんし。

そんな風に大学での日々が過ぎて行く中、四月の下旬に莉津さんからメッセージが来ました。話したいことがあるので、大学の帰りに事務局に来られないかと言う内容でした。莉津さんから連絡があるのも珍しいことだと思いながら、その後の予定を頭の中で組み直しました。

「呼び出しちゃってごめんなさいね。内密の相談だから」

事務局のフロアに入ると会議室に案内されて、そこへ莉津さんも来ました。いま会議室で話をしているのは莉津さんと私の二人です。

「何かあったのですか?」

内密と言われて、何か不味い問題でも起きたのかと想像してしまいました。

「あー、いえ、内密と言ってもトラブルでは無いのよ。ただ、貴女の能力に関係することだから」

「あ、そういうことなんですね。ダンジョン関係ですか?」

「ええ、そう。今日、新しいダンジョンが見つかったのよ。それで、早速明日調査のために本部の巫女を現地調査に派遣するんだけど、珠恵さん、興味があるかなと思って」

「それは見てみたいです」

と、そこで明日の講義日程を思い浮かべました。

「ただ、一限が必修なので、それは出たいのですけど」

「それに出ると何時になりそう?」

莉津さんに場所を確認して、スマホで電車の時刻を検索します。

「そうですね。正午には到着できます」

「だったら、食事をして13時集合で良い?多分、そこまで時間は掛からないと思うから。もうダンジョンの場所は分かっていますし」

「はい。13時でお願いします」

「それでは、その時間で他の人の予定も確認してみます。それで、今回の参加者なのですけれど、本部からは地域担当の有麗さんに行って貰うつもりです。あと、ダンジョン協会からは、石動(いするぎ)さんが来るそうです」

「石動さんですか?」

「ええ、藍寧さんの部下の男の人。だけど、藍寧さんみたく何でも話せる相手ではないですから、言動には気を付けて。石動さんは、珠恵さんが秋の巫女なのは知っていますけど、巫女の力の具体的なことも、貴女の能力のことも知らないので、間違って漏らさないように注意してくださいね」

「分かりましたけど、そしたら私の参加理由は何と言えば良いでしょうか?」

「事務局から派遣された有麗さんの助手ってことで良いと思いますよ。珠恵さんはアルバイト登録していますしね。もし更に何か問われても、封印の地の巫女としての勉強の一環で、本部の巫女の仕事を学んでいます、と答えれば良いでしょう」

「はい、そうします」

確かにその理由なら、今の自分の状況にピッタリです。そうして、ダンジョン調査への私の同行が決まりました。

翌朝、ホームルームと、その後の一限の英語の講義に出たあと、私は電車で現地に向かいました。お昼を食べて、少し早めでしたけど待ち合わせ場所の駅の入口に行って他の人を待ちます。暫くすると、有麗さんと思しき人が来ました。

「あ、珠恵ちゃん、こんにちは」

やっぱり有麗さんでした。有麗さんだと断言できなかったのはサングラスを掛けていたからなのですけど、美玖ちゃんと言い、本部の巫女はサングラスを掛けるのが流行っているのでしょうか。

「有麗さん、こんにちは。あの、そのサングラスは何故掛けているのですか?」

「これ?何となく変装っぽい気分で?」

「Tシャツの左胸のところにURARA(うらら)って書いてありますけど」

そうなのです。今日の有麗さんは、TシャツにGパンで、上にパーカーを羽織っています。パーカーのチャックをしていないのでTシャツの前面が見えているのですけど、その左胸のところに、有麗さんの似顔絵と、その下にURARAとローマ字で有麗さんの名前が書かれているのです。

「そうなの。これ有麗のキャラクターTシャツなんだ。因みに、背中にも絵が描いてあるんだよ、ほら」

パーカーを肩から下ろして、私にTシャツの背中が見えるようにしてくれました。確かに背中にも有麗さんの絵が描いてあります。剣を構えた有麗さんの躍動感のある絵です。

「本当だ。とても上手な絵ですね。パーカーで隠れちゃうのが勿体ないくらい」

「えへへ、ありがとうね。実はこれ、描いたの私なんだ」

「え?そうなんですか?プロみたいじゃないですか」

「プロみたいじゃなくて、プロだから。あ、プロのアシスタントって設定だっけ」

有麗さん、設定って言っちゃって良いんですか?

「それ、聞かないことにしておいた方が良さそうな」

「そうかな?担当さんにもアシスタントで通っているんだけど」

「分かりましたから、この話題はここまででお願いします」

本部の巫女の出自を追究してはいけないと言われてきた私としては、聞きたくもない情報を無理やり聞かされてしまった気分です。

気を取り直して待つことしばし、集合時間になる頃には石動さんも合流して、役場の人も来ました。そして、全員が揃ったところで、役場の車で現場に移動。車に乗っていた時間は十分ほど、それから車を降りて山の中へ入り、沢沿いに少し登ったところにダンジョンがありました。これまで山奥でダンジョン探しをしてきた私にとっては意外なところでしたけど、考えれば日比谷公園にもダンジョンはあるので、そんなものなのでしょうか。

そこから、いつもの手順に則ってダンジョンの調査を有麗さんが行いました。ダンジョンの中に入ったのは、有麗さんと私だけです。以前のダンジョン探しの時は藍寧さんも一緒に入っていたので、てっきりダンジョン管理協会の人も入るものかと思っていたのですけど、調査の実施は黎明殿側なので協会職員は参加の必要はないのだそうです。

調査した結果、ダンジョンは小型のものだと確認できました。魔獣が12頭も出て来た割りには中の魔獣の数は多くはありません。残念ながら魔獣の生態は良く分かっていないので、何とも判断のしようがなくて、調査時の状況を確認することしかできません。

ダンジョンの中を調べ終わり、外に戻ろうというところで、有麗さんに話し掛けられました。

「珠恵ちゃん、ダンジョンを消すのは私がやるけど、消す前に観察してみる?」

「そうですね。5分くらい貰えますか?」

「分かった」

外に出ると、有麗さんは石動さんと役場の人に、ダンジョンの中で調べたことなど話し始めました。その間に私はダンジョンの入口の観察です。

ダンジョンの時空の接合面は、以前の調査時と同じではありましたけど、心なしか不安定な感じがします。確かダンジョンは出来てから時間が経つほど消し難くなるという話でした。だから、以前に見た物は出来てから時間が経過していたので接合面は安定していて、こちらの方は出来て間もないから不安定ということでしょうか。試しに、掌の内側に、外に見えないような小さな時空修復陣を描いて力をぶつけたところ、思った以上に簡単に接合面が小さくなりました。これだと私が何かやったのがバレてしまったのではないかとビクッとして有麗さん達の方を見てみましたけど、有麗さん達は話に集中していてこちらの様子には気付いた素振りがなく、ホッとしました。

これ以上調べることもないので、私はダンジョンの入口から離れて、話をしている有麗さんの後ろに行きました。それだけで有麗さんには通じたらしく、有麗さんはそれまでの話を切り上げて、そろそろダンジョンの消滅を試す方向に会話を誘導してくれました。

そして有麗さんは杖を呼び出し、力を注いで起動します。杖から発せられた力の干渉で、接合面はあっという間に消え去りました。やはり、出来たばかりで不安定だったようです。有麗さんもいつもより簡単だった気がすると言ってました。

無事にダンジョンを消滅できたので、調査は終わりです。役場の人に駅まで送って貰い、そこで解散になりました。有麗さんと石動さんは報告があると言うことで、それぞれのオフィスに向かうそうです。私は五限の講義に間に合いそうでしたので、大学に向かうことにしました。


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