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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-10. ダンジョン探し二日目

翌朝、早く起きられたら温泉で日の出でも見ようかと思っていたのですけど、気が付いたら6時過ぎで、とっくに陽は昇っていました。それでも、朝湯に入ろうと、布団から出てタオルを持って浴場に行きました。藍寧さんと美玖ちゃんは、まだ寝ているようでしたので、起こさないように静かに部屋を出て来ました。

浴場の洗い場で一通り体を洗ってから、海の見える露天風呂に浸かると、昨日と同じようにボーっと海の方を眺めます。遠くの方を船が移動していたり、カモメが飛んでいたり、朝の爽やかな風を感じながら景色を眺めるのはいい気分です。しばらくそのまま景色を楽しんでいると、私の隣で湯船に入る人がいました。

「珠恵ちゃん、おはよ」

「美玖ちゃん、おはよう。あ、私、起こしちゃった?」

「いや、ウチも目え覚めてたから、問題あらへんよ」

「そうなの?なら良いんだけど」

美玖ちゃんも湯船に浸かり、海の方を見ています。髪の毛は全部一つにまとめているので、いつもは見えないうなじが良く見えます。

そののんびりとした横顔を見ながら、昨晩藍寧さんと話をしていたのを思い出していました。藍寧さんもだけどやけに家の事情を詳しく知っているようでしたし、南の島の異変のことも気になります。でも、そのことを尋ねてしまうと、夜中に起きて話を聞いていたことが分かってしまいます。何だかやってはいけない盗み聞きをしてしまったような、そんな後ろめたさがあって、美玖ちゃんに訊くのが躊躇われました。

「ねえ、珠恵ちゃん」

私が言葉を出せないでいるところに、美玖ちゃんの方から声を掛けられました。

「何?」

「珠恵ちゃん、これが終わって、受験にも合格しはったら、来年は東京に行かはるんよね?」

「そうなるね」

「寂しゅうなるなぁ」

「でも、私達、この調査の旅で会ったばかりだよ」

「そうやけど、この地区で分かり合えるのって珠恵ちゃんだけやと思っとったん。それを今度のことで確認できたわけやけど、そやから残念なんや」

「そう思ってくれるのは嬉しいけどさ。でも、別にこの世の中から消えちゃうわけでも無いし、美玖ちゃんからすれば東京に来るのはそんなに難しくないんじゃないの?」

「まあ、それはそやけど」

「ねえ、美玖ちゃん、私達、友達ってことで良いんだよね?」

「え?ああ、勿論そや」

「友達だったら、いつでも会いたいって言って良いんだよ。私、約束するよ。美玖ちゃんが会いたいって言ったら、必ず会うって。美玖ちゃんが東京に来るのでも、私が大阪に来るのでも、そのとき出来ることをやって、必ず会うから、ね」

私の言葉が終わるか終わらないうちに、美玖ちゃんが私に抱き付いて来ました。

「やっぱ、珠恵ちゃんや。ウチが欲しい言葉を欲しい時に言ってくれはる。ウチはそんな珠恵ちゃんが大好きや」

美玖ちゃんの頬が私の頬にくっついています。その頬を伝う冷たいものがあります。汗、ではないですね。汗はこんなに流れないので。

私は美玖ちゃんの大きな胸に圧迫されて少し息苦しさを感じつつも、美玖ちゃんの身体ごと、その想いを抱き止めようとしていました。

暫くすると、美玖ちゃんの方から離れていって、私の顔を見て微笑みました。

「珠恵ちゃん、おおきに。ウチ、先に出とるから、珠恵ちゃんはゆっくりしていってや」

そう言い置いて、美玖ちゃんはお風呂から出ていきました。これで脱衣所で顔を合わせるのも気まずい気がして、そのまま海を見ながらある程度の時間を潰してから、私もお風呂から上がりました。

お風呂の後は朝食でしたけど、美玖ちゃんは、もういつもの調子に戻っていました。なので、私もそんな美玖ちゃんの調子に合わせました。お風呂の時のことは、一時の気の迷いかも知れないけど、心の内を見せて貰ったのだと思うことにして、あの約束は決して忘れまいと心の中で誓います。

さて、朝食も終わって宿を後にした私達は、ダンジョン探しと魔獣探しを継続しながら、先に進みました。でも、ダンジョンは中々見つからず、それらしき反応を見付けたのは、昼食休憩をした頓原の道の駅から暫く進んだときです。そして、その反応が分水嶺の反対側らしいことから、ぐるりと遠回りして山の中に入りこまなければならず、車で最も近寄れるところに辿り着くのに、それから一時間弱の時間を要しました。

「一応、ここもはぐれ魔獣の目撃情報のある沢と同じようですから、これまでと同じように処理しましょうか」

藍寧さんは車から降りると、地図を確認して作業の進め方を決めました。

「そうやね、それでええよ」

「あの、藍寧さん、お願いが」

美玖ちゃんが賛同しているところに気が引けましたけど、藍寧さんに相談してみたいことがありました。

「珠恵さん、何ですか?」

「今度のダンジョンですけど、調査が終わった後、消滅させるのを私にやらせて貰えませんか?」

藍寧さんは、一瞬迷ったのか、美玖ちゃんの方を見ましたが、美玖ちゃんが頷いたのを見て、心を決めたようです。

「良いですよ。やってみてください」

「ありがとうございます」

それで話が決まって、私達は調査に入りました。ここのダンジョンも小型のもので、中に人はおらず、通知石も無かったので、そのまま消滅させることになりました。

「それでは、珠恵さん、消滅させられるか試して貰えますか?」

「はい」

私はダンジョンの入口の前に立ちます。実際に見えている入口とは別に、時空の接合面とその境界が感じられます。私は右手を前に差し出して、その掌の前に時空修復陣を描くと、巫女の力を修復陣に注ぎこんで起動しました。そして、修復陣の干渉力を制御して接合面に当てます。それから試しに干渉力の当てる位置を変えてみました。私の感覚では、修復陣の干渉力は、接合面の中央に当てるより、境界に近い周辺に当てる方が効果的なように捉えられました。

ならばと、今度は左手も前に差し出して、そちらの掌の前にも時空修復陣を描いて起動し、接合面の両端に干渉力が当たるようにしてみます。その効果はてきめんで、片手でやっていたときよりも接合面が小さくなるスピードが上がり、遂には消えて無くなりました。そこで、私は力を注ぐのを止め、時空修復陣を解除しました。

作用を終えた私は両手を下ろし、達成感に満たされながら、藍寧さん達の方に向き直って微笑みました。

「出来ました」

「おー、珠恵ちゃん、凄か」

「初めてなのに、完璧でしたね」

二人に褒められて、照れてしまいます。

「ですが、このことも秘密にしておいた方が良さそうに思います」

ですよね。そんな気はしていました。

「はい、分かりました。秘密にしておくので良いです」

「珠恵さん、ごめんなさい。貴女の能力はきっと役に立つ時が来ます。でも、その時までは内密にしておくべきだと思うので」

「大丈夫ですよ、藍寧さん。分かっていますから」

私が気にしていないことを示すために、改めて藍寧さんに微笑みかけます。藍寧さんは頷くと、美玖ちゃんの方を見ました。

「美玖さんもよろしいですね?」

「ええですよ、珠恵ちゃんが良かとなら」

「それでは、ダンジョン管理協会の記録では、美玖さんが時空修復の杖を使って消滅させたことにしておきます」

藍寧さんは、自分のスマホに記録を入力してから顔を上げました。

「何にしてもこれで三つ見付けましたね。これまでの記録上では、ダンジョンを三つも見付けた人はいないので、凄い成果ですよ、珠恵さん」

「藍寧さんや美玖ちゃんが一緒に探してくれたからです。ありがとうございました」

私は二人に感謝の意を込めてお辞儀しました。これで受験が何とかなれば良いのですけど。あ、あと、お膳立てをしてくれた莉津さんにもお礼しないとです。

それから私達は、作業の続きを終わらせて、車に乗りこみました。

「美玖さん、今日はこれで大阪に戻りますけど、良いですか?」

「え?ああ、はぐれ魔獣探しのことならええよ。残りは別のときにやるから。どのみち四国にも行かなあかんし」

「分かりました。それでは三次から高速に乗りましょう」

藍寧さんの運転する車は順調に走りましたけど、一般道含めて300kmほどの距離があり、ほとんどが高速とは言え三時間以上掛って、漸く大阪に到着しました。

高速を降りると、藍寧さんは車で私を住んでいるマンションまで送ってくれて、そこでお別れです。そうして、藍寧さんと美玖ちゃんとの一泊二日のダンジョン探しの旅が終わったのでした。


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