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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-9. 続ダンジョン探し初日

最初に見付けたダンジョンの消滅に成功した後、私達は美玖ちゃんの転移で車のところに戻りました。そして、藍寧さんが考えたこじ付けのシナリオに問題が無いかを調べに、美玖ちゃんが一人で沢を上流へと上って行きました。私は美玖ちゃん一人に行って貰うのは気が引けたのですけど、美玖ちゃんに任せておけば10分もしないうちに戻ってくるだろうからと藍寧さんに諭され、待っていることに。私が普通に探知できる範囲の中なので、探知で美玖ちゃんの位置を追跡していたのですけど、美玖ちゃんは確かに早くて、道の無いところなのに普通に走る速度で移動して、本当に10分も掛からずにダンジョンを見付けた場所に到着していました。

「美玖ちゃん、ありがとう」

「いやいや、大したことあらへん」

転移を使って戻って来た美玖ちゃんに感謝の意を示すと、照れたような反応が返って来ました。

「美玖さん、お疲れ様。途中はどうでしたか?」

「歩いて行くのに障害になりそうなところはあらへんね。問題なしやと思うわ」

「それなら良かったです。では、ここの調査はこれで完了ですね」

私達は再び車に乗って移動を開始しました。

時間は既にお昼過ぎています。なので、次のエリアに行く前に、若桜にある道の駅に寄ってお昼を食べて、元気を蓄えました。

昼食後は、車で国道沿いに進みながら、新しいダンジョンが見つかるかどうか調べていきます。来る前に決めていた調査範囲は、大体は国道から10km以下でしたから車の中から調べるので事足りていましたけど、一部それ以上離れたところもあって、そう言うときは車から降りて美玖ちゃんに転移で連れていって貰いました。

そして懸命にダンジョン探しを進めたものの、中々新しいダンジョンは見つかりません。まあ、管理されていないダンジョンがそんなに沢山あったら、それはそれで問題ですし、そうした意味では見付からない方が良いのですけど、私個人としては困ることなので悩ましいです。

私のダンジョン探しに並行して、美玖ちゃんははぐれ魔獣探しをしていました。はぐれ魔獣探しは、地域担当の本部の巫女の役目だそうで、年に数回実施しているのだそうです。でも、探知可能範囲は非公開、転移できることも秘密で、わざわざダンジョン協会の人の運転する車でパトロールしているのだとか。本部の巫女も苦労しているんだなぁと思いました。

「はぐれ魔獣のパトロールも珠恵ちゃんみたいに気心の知れとる人が一緒やと楽しいんやけどな」

美玖ちゃんの気持ちは分かる気がします。

「どや?今度のパトロールの時も、珠恵ちゃん一緒に行かへん?きっと珠恵ちゃんが一緒やと、協会からは藍寧さんが来はるやろうし、それならウチも気い使わへんでも良かね」

「どうして私が一緒だと藍寧さんが来ることになるの?」

「そんなの決まっとるやん。珠恵ちゃんの能力が秘密だからや。ダンジョン協会でも藍寧さん以外は知らへん筈やし。そやかて、珠恵ちゃんもその能力のことはダンジョン協会の人でも絶対に話したらあかんで」

「うん、分かったよ。莉津さんにも似たようなこと言われてたし」

「そや、莉津さんや藍寧さんの言うことを良く聞いておくのがええよ」

その話し振りから美玖ちゃんが二人を信頼していることが良く分かります。莉津さんも藍寧さんも頼れるお姉さん的な雰囲気を醸していますものね。

そんな会話をしているところで、私の能力に引っ掛かるものがありました。

「あの、ダンジョンみたいなものがありそうです」

「何処どこ?」

美玖ちゃんが私の方を振り向いて来ました。

「美玖ちゃん、地図見せて貰えますか?」

私のお願いに、美玖ちゃんは素直にタブレットを差し出してくれたので、私は表示されている地図を確認します。

「えーと、大体ここですね。蒜山(ひるぜん)の西側1~1.5kmくらいのところです」

「ここにはダンジョンの印があらへんから、あれば新しいダンジョンということやね」

「そうですね。先程と同じように沢から上ることにして、そこに一番近付ける道を探しましょう。美玖さんお願いできますか?」

「藍寧さん、ウチに任しとき」

その時点では、まだ国道を走っていて、もう少しで岡山に入ろうかというところでした。そこから直線距離では10kmほどでしたけど、道を探しながら進んだので少し時間が掛かって、車を止めて降りたのは、それから20分ほどしてからです。

それからの行動は、最初にダンジョンを見付けた時と同じです。車を降りたところで、地図上の場所を特定して、美玖ちゃんの転移でその場所に移動しました。そして、新しいダンジョンを発見。これで二つです。

ダンジョンの中を調査したところ、先程より少し大きく五層までありましたけど、魔獣のことを含めても小型ダンジョンだということになって、美玖ちゃんが消滅を試すことになりました。

美玖ちゃんは時空修復の杖を呼び出すと、それに力を込めて、杖の機能を起動させます。すると、杖から時空に干渉する力が放出されますが、やはり力の出る向きがバラバラで効率が悪そうに見えます。

「美玖ちゃん、時空に干渉する力の向きって制御できないの?」

「え?何か向きが悪いんか?ウチにはその力は見えへんのやけど」

「そうなんだ。向きがバラバラなんだよね。だから、揃えられればと思ったんだけど」

「そか。分からへんけど、ダンジョンの方向を意識してみるわ」

それから、確かに美玖ちゃんの言葉通り、杖の力の向きが少しダンジョンの方を向いた感じでしたけど、向きが揃わないのは相変わらずです。それでも、何とかダンジョンを消すことは出来ました。

「どやった?ダンジョンは消せたみたいやけど」

「うーん、余り変わらなかったかな」

「そか、何や難しいんやな」

「そうだね。自分で試してみたいけど、私が使うと危ないんだよね」

「それは絶対ダメや。珠恵ちゃんに危ないことはさせられへん」

「あの、それならなんですけど」

美玖ちゃんとの会話に藍寧さんが入ってきました。

「この杖に仕込まれている作動陣を直接起動するというのはどうでしょう?」

作動陣は、巫女の力を使うための模様のようなものです。美玖ちゃんの転移に使っていた転移陣も作動陣の一つです。

「作動陣の形が分かるんですか?」

「ええ、魔道具には水晶のようなものが嵌められていて、そこに軽く力を注げば埋め込まれている作動陣が現れますから。この杖にも先端に水晶のようなものがありますよね」

言われてみれば、確かに装飾に囲まれた杖の先端の中央部分に水晶のようなものが嵌っています。美玖ちゃんが左手を水晶の傍に添えて力を注ぐと、水晶の上に模様が現れました。

「これが作動陣。試してみて良いですか?」

「珠恵ちゃん、ちょっと待ってや。この作動陣、リミッターが付いてへんから」

「リミッター?」

「力の出力制御や。封印の地の巫女はリミッターが付いてない作動陣を使うと危ない時があるんや」

美玖ちゃんは目の前に現れている作動陣を観察しながら何かを考えているようです。それから、左手を宙に掲げると、掌の前に作動陣を描きました。

「珠恵ちゃん、リミッター付きだとこうなる筈や。覚えられはる?」

「はい、こうですね」

私は右手をかざして、その先に作動陣を描きました。

「そやな」

そのままその作動陣に力を注ぐと、杖と同じ力が作動陣から出ているのを感じました。そして、これなら力の働く方向を制御できそうです。私は結果に満足して、作動陣を解除しました。

「どうやった?」

「はい、この作動陣だと時空に働きかける力の大きさや向きが制御できますね」

「それは良かね」

美玖ちゃんも喜んでくれました。

「それじゃ、二人とも続きをやりましょうか」

藍寧さんの言う続きとは、車に一旦戻って、美玖ちゃんに車からここまでのルートの確認をして貰うことです。その作業も10分と経たずに終えてしまい、私達は車に乗ると、ダンジョン探しと魔獣探しを継続しつつ、宿泊予定地である米子の皆生(かいけ)温泉に向かいました。

その先の道中で何かが見つかることも無く温泉宿に着いた私達は、部屋で一息ついてから宿の中の温泉へ。海の見える露天風呂に入って、旅行気分を満喫しました。しかし、私の胸は標準くらいですけど、藍寧さんはそれより立派で、美玖ちゃんのは更に立派なものが。藍寧さんは私より背が高いこともあって、比べようがないのですけど、美玖ちゃんは私と背の高さは殆ど同じなのに。何か悔しくてジーっと見つめていたら、恥ずかしいからそんなに見るなと美玖ちゃんに言われてしまいました。まあ、確かに今はそちらを気にするより、折角の温泉を楽しまないとだよな、と思って、海の方に視線を向け、湯船の中からボーっと海の様子を眺めます。今日は風も少なく波も穏やかです。太陽の光が海に反射してキラキラして綺麗で、いつまで見ていても飽きません。

十分に温泉に浸かったあとは、夕食。米子と言えば松葉ガニですけど、漁ができるのは冬場だけなので、残念ながら食べることはできず。美玖ちゃんは、今度は冬に来ようと勢い込んでいました。

そして、夜。部屋で三人で話をしていました。でも、昼間の移動で疲れたのか、話をしていても眠くなってしまったので、先に布団に入って横になりました。藍寧さんと美玖ちゃんは、窓際の広縁で寛ぎながら、時たま会話をしているようです。その会話の合間も静かなときに、私は寝入ってしまいました。

その後、ふと目を覚ましたときには、まだ広縁の灯りは点いていて、誰か人の気配がありました。藍寧さんでしょうか。

そんなときに、会話の声が聞こえてきました。

「美玖さんは珠恵さんに甘いですね。わざわざ時空修復陣にリミッターを付けてあげたりして」

「そんなん、大したことじゃなか」

美玖ちゃんは照れたような声です。

「そやけど、珠恵ちゃんはウチに取っては大切な人やからな。ねぇ、藍寧さんさぁ、珠恵ちゃんもこっちに引き込めんのかなぁ」

「それはどうでしょうね。何が良いのかは、これから次第だと思いますよ」

「ウチは、珠恵ちゃんをあの家に置いておくのは嫌やねん。西の封印の地は、知恵に任しとけばええんや」

「でも、それだと西の封印の地だけ孤立してしまうかも知れません。それはそれで問題ですからね」

「そやかて、あの内輪で競い合うことしか能の無い連中と一緒にいさせておくのはなぁ」

「まあ、あの人達にも、もう少し外に目を向けて貰わないといけないですね。美玖さんはもう聞きましたか?今日、南の島で異変が起きたことを」

「ああ。なんや凄いものが出たらしいな。でも、それを夏の巫女が一人で斃したちゅうて、ホンマの話なんか?」

「ええ、本当のことです。南森柚葉(ゆずは)さんが一人で。明日、本部の巫女が行って確かめることになっています」

「本部の巫女って、千景(ちかげ)さんか?九州地域担当の」

「そうです。きっと詳細は伏せられるでしょうけど、西の封印の地にも連絡が行く筈です。それで少しは緊張感を持って貰えれば」

「どうなんやろ。知らせを聞いて、ことの重大さに気が付けるんかな?」

「美玖さんは手厳しいですね」

「まあ、散々な。いや、もう考えるだけでも胸糞悪うなるから、この話題は止めにしよ」

藍寧さんがフフフと笑っている様子が聞こえてきます。

その後は、また静かになって、私は再び寝入ってしまいました。


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