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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-7. 集合

莉津さん達と話をしてから五日後の朝、私は約束通り新大阪駅に来ていました。集合場所は、東口改札前です。

今日は私の他に二人来ることになっていますけど、私はその二人とも初対面です。一応、私の写真を渡して貰っているので会えないことは無い筈。梢恵ちゃんは、物凄く来たがっていましたけど、バイトがあるから来られないと悔しがっていました。

集合時間の10時まで、まだ少し間があります。手持ち無沙汰で、通路を行き交う人達を眺めていることくらいしかやることがありません。忙しなく歩いて行く人、一緒にお喋りしながら歩いて行くグループ、スマホを見ながら歩いている危ない人。色んな人が通っていますけど、通路の隅にポツンと立っている私に注意を向ける人は殆どいません。まあ、目立たない格好なので、それが普通なのだと思います。

そんな時、通路の向こうから手を振りながらやってくる女性の人影がありました。ウェーブの掛かった栗色の髪の一部を、頭の両側で銀の髪留めを使って結わえたツインテールに、ピンクと白の柄のカットソー、先端に白のレースが付いている臙脂(えんじ)色のフリルのミニスカート、レモンイエローのスパッツを身にまとい、腰には帯剣ベルトを巻いた上で鞘に収まった剣を下げていて、おまけに白縁のサングラスをしています。私には出来ない選択だなぁと思いつつ、視線が分からないので何処に向かって手を振っているのかと周りを見回してみましたが、他にその女性と待ち合わせている風な人もいません。まあ、大体腰に剣を下げている時点で、そうかなぁとは思ったのですけど、本当に私なの?と半信半疑の状態で、その場に立ち尽くしていると、私の前まで来てしまいました。

「おはよ。珠恵ちゃんやね?うちのこと分かるん?」

「え?」

私と待ち合わせていると言うことは、というか写真で見た髪型そのままなので、最早疑いようもないのですけど、ステージ上ならともかく普段からこんな格好をしているとは。私が半ばパニックになっているのを見て楽しんでいるその人は、サングラスを外し、顔を露わにしました。

「ウチが八尋(やひろ)美玖(みく)やねん。よろしゅうに」

「西峰珠恵です。初めまして、八尋さん」

「そんな他人行儀になる必要はあらへんで。同じ巫女仲間なんやから。ウチのことは美玖ちゃんって呼んでな」

「美玖、さん」

「美玖ちゃん、や」

「だけど、私より年上ですよね?」

「そやけど、二つしか(ちご)うとらんやんけ。そんなの同じようなもんや。せやから、美玖ちゃんて呼びや」

「はい、美玖、ちゃん」

「ん、珠恵ちゃん、そや」

美玖ちゃんは満足げに微笑むと、再びサングラスを掛けました。

「それでもう一人はまだ来てへんのやな?」

「はい、まだ美玖ちゃんだけです。まだ集合時間になっていませんし」

「東京から来るはずやから、きっと10時丁度の列車で来はるよ」

それからしばらく、私達はそこでもう一人が来るのを待っていました。先程とは違って、通りかかった人がチラチラこちらを見ることがあります。まあ、皆、この人を見ているんだろうな、と美玖ちゃんを見ました。

「ん?どしたん?」

「何か美玖ちゃん、輝いている気がして」

「え?そなん?力は抑えているつもりなんやけど、まだ足りないんかな?」

「いえ、そう言う意味じゃなくて。けど、言われてみれば、全然力を感じないや」

そう、普通なら、少しは力の気配がするものなんですけど、美玖ちゃんからはそれがまったく感じられません。

「そや、封印の地の巫女とは(ちご)うて、力を抑えた本部の巫女を力の気配で見つけるのは不可能なんや」

「そうなの?どうして?」

「ウチも難しいことは分からへんけど、封印の地の巫女は身体中に力が分散しとって、その力の発散を完全には抑えきれないらしいんや。本部の巫女は身体の中の力の通りが良いんで、力を体の中心に集めて外への発散を抑えられるって話やで」

「ふーん、そうなんだ」

そんなところに本部の巫女と封印の地の巫女の違いがあるとは思っていませんでした。と言うか、これまで本部の巫女は、その存在は知っていましたけど、会ったことが無かったのです。今回一緒になった美玖ちゃんが、私が初めて会った本部の巫女になります。

見た目では、私と同じようなのですけど、どうしてそんな差があるのでしょうか。

「列車が到着したみたいや」

言われてスマホの時計を見れば、丁度10時になっています。少し経つと、改札口の方から人が出て来るようになりました。その人の量は段々と増え、そしてピークを迎えて暫くすると減り始めます。

そんな時、改札から吐き出された人波の中から、一人の女性が私達の方に向けて抜けてきました。ウェーブの掛かったダークブラウンの髪の毛、セミロングのそれの一部をハーフアップにして簪でまとめています。服装は白のブラウスに薄茶色のパンツ姿、小型のリュックのような鞄を背負い、美玖ちゃんや私よりも一回り背が高く、スラリとした体型で足も長く見えます。

「来はったね」

最後の一人はやっぱりこの女性なんだと思いました。この人は綺麗という感じで、美玖ちゃんは可愛い系。平凡な私では釣り合いが取れないような。いやいや、これからやることに容姿は関係ないんだから、と自分を鼓舞します。

「こんにちは。美玖さん、お久しぶり」

「そや、久々やね。元気してはったん?」

「ええ、お蔭様で」

そしてその女性は私の方を向きました。

「初めまして、ダンジョン協会の国仲藍寧(あいね)です」

「私、西峰珠恵です。初めまして」

「ええ、珠恵さん、よろしくお願いします」

「こちらこそ。あの、国仲さ――」

「私のことは藍寧で」

私の言葉を遮った藍寧さんは、笑顔で名前呼びを強要してきました。美玖ちゃんと言い、何故皆さん、こうも押しが強いのでしょうか。

「はい、藍寧さん、よろしくお願いします」

これで三人が揃いました。私の役目はダンジョンを見つけること、そして見つかったダンジョンはダンジョン協会で管理することが決められているので、ダンジョン協会から藍寧さんが来て、そしてダンジョンの調査には本部の巫女が必要と言うことで、この地域担当の本部の巫女である美玖ちゃんに参加して貰うことになったのです。

「では、行きましょうか」

藍寧さんが歩き始め、美玖ちゃんと私がそれに付いていきます。目的地は、レンタカーのカウンターです。ダンジョン探しは今日と明日の二日間やることにしていて、移動はすべて車でということになっています。なので、皆が集まって最初にやることが車を借りることなのです。

今回のダンジョン探し、言い出しっぺは私のようなものなのですけど、結局は、ダンジョン管理協会がスポンサーになってくれたと聞きました。つまり、レンタカーや宿代はすべてダンジョン管理協会持ちです。そして、黎明殿本部事務局にも協会から依頼が来た形になっていて、依頼を受けた事務局が、本部の巫女の美玖ちゃんと、封印の地の巫女である私を派遣したという流れです。私にも少しバイト代が出るということになって、事務局へのアルバイト登録もするようにと言われました。

そうしたことは莉津さんがダンジョン管理協会と調整してくれた後に、電話で私に教えてくれました。私は自分の都合で持ち掛けたことで、皆さんに手間を掛けさせてしまって悪いと思っていたのに、バイト代まで貰ってしまうなんて、と遠慮しようとしたのですけど、小遣いはあっても困らないし、それだけの価値があることなんだから安売りしない方が良いのだと諭されてしまいました。なので、昨日までにアルバイト登録も済ませています。

ここまでやって貰ったので、今日は新しいダンジョンを見なければと思いつつも、見つけられるのだろうかいう不安も感じながら、藍寧さん達と一緒に歩いて行きます。

レンタカーのカウンターでは、藍寧さんが手続きをしました。用意して貰ったのは、小型車です。荷物を積み込むと、藍寧さんが運転席に、美玖ちゃんが助手席に、私が後部座席に着きました。三人のうちで運転免許を持っているのが藍寧さんだけなので、運転は藍寧さんにお任せするしかありません。助手席に入るのが美玖ちゃんか私かについては、一度話し合ったのですけど、美玖ちゃんはナビも出来ると言うことで、美玖ちゃんに助手席をお願いしました。こうして見ると、私は本当にダンジョンを探すだけしかやれなくて、申し訳ない気持ちで一杯です。いえ、ここはマイナスに考えないで、少しでも役に立てそうなことがあれば、積極的にやっていくことにしようと思いました。

「珠恵ちゃん、出発するけどええ?忘れもんとかあらへん?」

「はい、大丈夫です」

「ほんじゃ、藍寧さん行かはります?」

「そうですね、行きましょう」

そうして私達はダンジョン探しに出発しました。


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