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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-6. 事務局長との対話

電話をしてから二日後の15時、私は約束通りに新大阪駅の南口に立っていました。梢恵ちゃんも一緒です。

「笛野さんにはここに居てって言われたけど、どうやって連絡取り合うつもりなのかな?」

「そんなん、決まっていると思わへん?珠恵ちゃんにしか分からへん方法なんて一つしかあらへんし」

「それって、もしかして――」

私が答えを言うより前に、あの感覚が私のアレの存在を教えてきました。

「珠恵ちゃん、どうしたん?」

「梢恵ちゃん、感じるよ。あっちみたい」

「それなら行こか。周りにもよう気い付けてな」

「うん、分かってる」

私は目的地の位置を把握すると、少し遠回りしながらそちらの方に向かいました。実家の関係者が私に張り付いているほど暇人ではないとは思いながらも、多少の警戒は必要と考えたからです。人通りの少ない路地を通り抜けて進んだ先には、小さな喫茶店がありました。

「この喫茶店みたい」

「お洒落な喫茶店やな。珠恵ちゃん、中に入ろか」

「そうだね」

私は扉を開けて中に入りました。

「いらっしゃいませ」

女性の店員さんに出迎えられました。

「あのう、ここで待合せしているのですけど」

「はい、どちらのお客様でしょうか?」

店員さんの問い掛けに対して、アレの反応がある右奥の方を指し示しました。

「あちらの奥のテーブルみたいです」

「畏まりました。そちらへどうぞ」

私達は店員さんの了解を取って奥へと進みました。

そしてアレの反応のあるテーブルまで行くと、そこには二人の女性が座っていました。そう、二人です。お店に近付いているときから二人だとは分かっていましたけど、事務局長の笛野さんが、事務局の人を連れてきているのかな、くらいに思っていました。しかし、実際に見てみると。

「やあ、珠恵。久しぶりだな。お主、息災だったか?」

「織江、あ、いや、オリヴィエさん?」

そう、西早大の大学祭のときに会った鴻神研究室のオリヴィエさんが座っていました。今日は、ゴスロリではなくて、白のブラウスに黒のフリルのミニスカートに黒のロングのストッキングと言う夏向けの出で立ちですが、ツインテールの髪型と醸し出す雰囲気は大学祭のときのままでした。

「おう、如何にもオリヴィエだが。覚えてくれていたようだな。それで、そちらの女子(おなご)はどちら様だ?」

「珠恵の従姉の西峰梢恵言います。よろしゅうに」

「梢恵と言うのか。我は魔王が眷属、闇のオリヴィエ、よしなにな」

「え?マオウ?」

梢恵ちゃんがオリヴィエさんの言葉に付いていけず、目を白黒させています。

「あまり織江の戯言に惑わされないようにね」

「おいコラ莉津(りつ)、戯言言うな。それから我はオリヴィエだ」

笛野さんのフォローにオリヴィエさんが喰いつきました。

「だったら学生証を見せて貰える?そこには朱野織江って書いてあるのではなくて?」

「それはそうだが、それは仮の名前として仕方なくだな」

「はいはい、分かってます」

オリヴィエさんの反論を軽くいなすと、笛野さんは席から立ち上がりました。

「二人とも初めまして。私は黎明殿本部事務局長の笛野莉津です。よろしくね」

「西峰珠恵です」

「西峰梢恵です。よろしゅうに」

「はい。珠恵さんに梢恵さんですね。私のことは莉津と呼んでくださいな。今日は変なのが付いて来てしまってごめんなさいね」

「莉津、変なのとは我のことか?」

「あら?そう聞こえてしまいました?」

「それ以外にどう聞き取れと?まあ良いわ。話を先に進めよ」

何だかオリヴィエさんと莉津さんのやり取りは、とても息が合っていてコンビのような感じです。二人の相性が良いのでしょうか。

「そうですね。それじゃ、座って話をしましょうか」

梢恵ちゃんと私は莉津さんに促されるがままに座りました。元々莉津さんとオリヴィエさんが向かい合わせに座っていたので、梢恵ちゃんが莉津さんの、私がオリヴィエさんの横の席に着く形になりました。

「それで相談があるというお話でしたよね?」

「はい、あのう、私の受験に関係することなんですけど」

そう言うと、私はオリヴィエさんの方をチラリと見ました。

「ん?お主、何故不安そうな顔で我を見る?もしや我が居ると不正を疑われるのではと心配しておるのか?」

「ええ、同じ大学ですし」

私がコクリと頷くと、オリヴィエさんは笑いました。

「何を馬鹿なことを言っておる。我は一介の学生だぞ?入試に関与できるわけがなかろう」

「そうなんですか?」

「当たり前だ。莉津、こ奴に言ってやってくれ」

「まったく、貴女の日頃の態度が疑いを招いているんじゃないの。でも、珠恵ちゃん、大丈夫よ。この()はこう見えて、割りと根は真面目だから」

「『割りと』は余計だ」

莉津さんのフォローに憮然とした顔のオリヴィエさん。この様子なら信じても良さそうに思えました。

「分かりました。お話します」

私は、地球科学科の特別選抜のこと、自分の特技を活かしてダンジョン探しをしてみようかと思っていることを二人に伝えました。

「ウチらが心配しているのは、ダンジョンを見つけた実績が特別選抜の条件にある成果として認められるかなんやけど」

「なるほど、それを心配しておったのか。莉津、説明してやれ」

「貴女、学生なんでしょう?もう少しその態度改めたら?」

「我だってTPOは弁えとるよ。しかし、いまこの場は問題なかろうて」

「まったく、やれやれね。それでダンジョンを見つけることが成果として認められるかですけど、それなりに認められると思うわ。ただ、時空の活性化状態の探知が出来ることは黎明殿の中でも伏せておいた方が良いでしょうね」

「そうなんですか?」

「ええ、稀有な能力ですからね。少なくとも本部の巫女でそれが出来る人はいないわ。それが出来ると知れたら、悪目立ちしてしまうでしょうし、下手をしたら、日がなダンジョン探しをすることになってしまうかも知れないわよ。それでも良い?」

「それは避けたいです」

「そうよね。だから、ダンジョン探しは良いけれど、能力を気取られないようなやり方が必要よ」

そんな都合の良いやり方があるのでしょうか。私はウーンと唸ってしまいました。

「要は、ダンジョンを見つけたのが能力のお蔭と分からへんようにすれば良いんやね?例えば、時間を掛けて歩き回って見つけた言うたり」

「え?じゃあ、『偶然見つけました』でも良いってこと?」

「そうだな。ただ、偶然も過ぎれば怪しまれるからな、何らか理由付けがあるに越したことはあるまいて」

ダンジョンが見つかる理由。今まで探知以外でダンジョンを認識したことが無いので、どんな理由があり得るのか全然思い付けません。

「こんな情報があるのよ」

莉津さんが鞄からタブレットを取り出して、アプリを起動しました。すると、画面上に地図が現れ、その上に★や●の記号がプロットされていきました。

「これは何ですか?」

「これは、これまでに確認されたダンジョンとはぐれ魔獣の情報なの。(星型の記号)がダンジョンで、(丸の記号)が魔獣。色が明るいほど最近確認されたもの。ダンジョンの方は今もあるものは明るくて(中抜きの星)(塗りつぶした星)は消滅させたもので、明るいほど最近消滅させたもの。星が大きいと大型ダンジョン、小さいと小型ダンジョンね」

「ねえ珠恵ちゃん。こうして見ると、何や傾向があるような感じがせえへん?」

「うん、何か面白い」

梢恵ちゃんと私は、記号が散りばめられた地図に見入りました。

「お主らも分かるか。これだけの情報があれば、ダンジョンがあるかも知れないところはある程度は絞れるのだよ。だが、それでも尚ダンジョンを見つけるのは難しく、労力が掛かる。それゆえ、魔獣による大きな被害が出たところ以外では放置されているのが現状だ。だから珠恵よ、お主がダンジョンを二つでも三つでも見つければ喜ばれるのは間違い無い」

「それって、この情報でダンジョンのありそうなところを探してダンジョンを見つければ良いってことですか?」

「ええ、そう。私達も困っていたから助かるわ。事務局からお仕事としてお願いしたいと思っているの」

「でも、ありそうではないところで見つかるかも知れないですけど?」

「その場合だがな」

オリヴィエさんがここがポイントとばかりに、人差し指を立てました。

「さっさとそのダンジョンを消してなかったことにすれば良いのだ」

「え?証拠隠滅?」

そんなことして良いんですか?

「そこまでする必要はないわよ。貴女が見つけたと公表しなければ良いだけでしょう?」

「ああ、そうですよね」

まともな莉津さんのフォローに、私はホッとしました。

「じゃあ、やって貰える?」

「はい、私にやらせてください」

「それじゃ、詳細を詰めましょうか」

それから私達は、調査の日程や手順について話し合いました。


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