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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第6章 導く者 (珠恵視点)
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6-1. 大学祭

私は、東京の早央大のキャンパスから西早大のキャンパスに歩いて向かっています。今日は6月の最初の土曜日。天気は良く晴れていて、大学巡り日和です。高校三年生の私は、来年受験する大学を見定めるために、大学巡りを敢行中。

歴史が好きなので、文学部史学科のある早央大のオープンキャンパスを兼ねた大学祭を訪れていました。早央大を一通り見学した後、時間が余ったので歩いて行けるところにある理系の大学である西早大にも行くことにしました。西早大も丁度早央大と同じ日程で大学祭をやっていることも好都合でした。

西早大には歴史に関係する学科があるかは知らなかったのですけど、折角近くまで来たので、寄ってみても良いかな、というくらいのノリです。

早央大から道路沿いに約20分歩いて、西早大に到着しました。大学の門の前には大きなテントがあって、そこで受付をしているようです。私もその受付の列に並びました。

「こんにちは」

「こんにちは」

私の順番になると、受付にいたお姉さんが、私に笑みを向けて挨拶してくれました。

「西早大の大学祭へようこそ。受付しますので、ここに名前と年齢を書いてください。20歳以上でお酒を飲む人は、身分証明書の提示もお願いしています。あと、高校生でしたら、学校の名前も書いて貰えると嬉しいです」

「はい、分かりました」

私は、特に差し障りも無かったので、指し示されたところに府立淀川高等学校 西峰珠恵(たまえ)17歳と書きました。

「あら、大阪から来てくれたんですね。遠いところありがとうございます。それでは、これが大学祭の案内冊子です。存分に楽しんでいってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

私は冊子を受け取ると、受付を離れて大学の構内へ入ります。

構内は、道路沿いに様々な出店が並んでいて、沢山の人でごった返していました。食べ物関係の出店が多いでしょうか。そして、広場のように開けているところには、ステージが設置され、バンド演奏が行われています。一方、校舎の中では、学科や研究室あるいはサークルの展示がなされているようです。そんな風に、目移りしそうなもので溢れていたのですが、それらすべてを差し置いて、私には気になるものがありました。

ソレは、私に取っては馴染みの感覚でしたけれど、大学と言う場にはそぐわないものです。何故ここにあるのか、気になって仕方がありません。実を言えば、早央大に行っていたときから気が付いていて、私が志望大学の候補に入れていなかったこの大学に来ようと思った大きな理由でした。

私は、自分の感覚に従って、目的地に向かいます。受付で貰った学園祭の案内冊子から、理学部棟の中であることまでは特定できています。フロアは四階か五階でしょうか。私は理学部棟に辿り着くと、中に入ってエレベーターに乗り、五階のボタンを押します。エレベーターには他に人が居らず、まっすぐ五階まで昇ると、扉が開きました。

このフロアでは展示をしている教室はなく、大学祭への来客は立ち入らない場所のようで、廊下は閑散としています。私は誰にも見咎められることもなく廊下を歩いて行き、とある部屋の扉の前に到着しました。私が気になるソレは、この部屋の中にありそうです。扉には「鴻神研究室」と書かれた札が挿されていました。

私は目的地を目の前にして躊躇しました。学生でもない私が突然部屋の中に入っていっても良いのだろうか。ここまで何も考えずに来てしまいましたけど、ハタと冷静になってしまいました。

しかし、思い悩んでいた時間はそれほど長くありませんでした。何故なら、私が結論を出す前に部屋の中から扉が開かれたからです。

「珍しい客人だの」

私が思い悩む必要がなくなってホッとするより早く、扉を開けた女性から声を掛けられました。その女性は、ウェーブの掛かったセミロングの髪をツインテールに束ね、背丈は私より少しだけ低く、白と黒のゴスロリの衣装をその身に纏っていました。

「どうした?何を呆けておる?中に入るが良いぞ」

大学の研究室にはこういう人がいるのが普通なのかと考えて動きが止まっていたら、入室を促されてしまいました。

「あ、は、はい。失礼します」

私は逆らってはいけない気がして、促されるまま研究室の中に入ります。

研究室の部屋の広さは高校の教室より同じか少し狭いでしょうか。中にはパソコンを乗せた机や、何か分からないものが沢山乗っている作業台があり、壁際には本棚や戸棚が所狭しと並んでいます。

「お主、名は何という?我は闇のオリヴィエなり」

「オリヴィエさん?」

「うむ、然り」

「初めまして。私は西峰(にしみね)珠恵(たまえ)と言います」

「西峰?珠恵と申すか。魔王のお導きに感謝を」

魔王?言葉遣いやら服装やらツッコミどころ満載のこの人にどうコメントして良いのか分からず固まっていると、オリヴィエさんの方が勝手に話を進めてくれました。

「お主、どうしてこの場所にやってきた?何かに惹かれて来たのではないのか?」

「え、ええ。ここに無い筈のものがあるのを感じたので」

「無い筈のものとな?」

オリヴィエさんは私に微笑みを向けました。

「それはこの部屋の中にあるのか?」

何となく、私を試している風な顔付きと口調です。

「ええ、あるにはあるのですけど」

「何か問題があるのか?」

「普通だったら、ダンジョンの入口があるんです。だけど、ここにはダンジョンの入口は無いみたいで」

「でも感じるのではないのか?」

「はい、その作業台の上に」

「構わぬから近くに寄ってみるが良い」

私はソレを感じる場所に近づきました。そう、いつもダンジョンの入口で感じるものが目の前にあるのに、ダンジョンは影も形もありません。違和感を覚えながらも、作業台の上の、ソレのある位置を見ると、そこには一辺の長さが掌の大きさくらいの黒い箱のようなものがありました。

「これは何ですか?」

私がその箱のようなものを指差すと、オリヴィエさんは得心したかのように頷きました。

「それは魔道具だ」

「魔道具?」

「お主は魔道具を知らぬのか?」

「あ、いえ、知ってますけど、魔道具って巫女しか使えませんよね?オリヴィエさんは巫女なんですか?」

「ああ、そのことか。いや、我は巫女ではないぞ。お主は汎用魔道具を知らぬのだな?汎用魔道具は、巫女ではない者でも使えるようになっている魔道具なのだ。ほれ、その横の摘まみを、その手で回してみよ」

私は言われるがままに、魔道具の横に出ていた摘まみを回してみました。すると、先程まで感じていたものが急に消えました。

「消えた」

「分かったか?汎用魔道具は、誰でも使える便利なシロモノだ。もっとも、予め巫女に頼んで力を籠めておいて貰わないと使えないがな」

オリヴィエさんは両手を腰に当ててドヤ顔してます。

「じゃあ、この研究室に巫女がいるんですか?」

「いや、力を籠めるのは、本部の巫女に頼んでおる。同じものが幾つかある故、月に一度力を籠めて貰えば十分なのよ」

私は、その魔道具を持ち上げて観察しました。そこには足が付いていて、横に出ている摘まみが一つ、天板の中央に透明な水晶のようなものが嵌っています。

「これは何の魔道具ですか?」

「時空活性化の魔道具だ」

時空活性化?知らない単語が出てきました。私が何のことか分からない顔をしていることを見て取ってのか、オリヴィエさんは言葉を付けたしました。

「二つの時空が繋がっているとき、その繋がっている部分は活性化している状態にあるとされておる。この魔道具は、二つの時空を繋げる機能は持たず、単にその場の時空を活性化状態にする効果をもたらすものだ」

「二つの時空が繋がっている?」

「お主は感じられるのではないのか?ダンジョンの入口は、まさに時空の接合点。活性化状態にあるのだよ。お主はダンジョンの入口を感じ取っているように思っておるかも知らぬが、実のところは活性化状態にある時空を認識しておるのだ」

そして、オリヴィエさんは私の目の前にやってきて、両手で私の両腕を掴みました。

「お主のその才は稀有なものだぞ。どうだ、この研究室に来ないか?」

オリヴィエさんが迫ってきて怖いのですけど、両腕を掴まれていて逃げることもできません。どうしよう?と思っていたところに、扉から誰かが入ってきました。

その人は、膝上丈のタイトスカートを着た女性でした。入ってきて直ぐに私達のことに気が付いて、こちらを見ました。

織江(おりえ)。お前、何してる?その子が怯えているぞ」

織江ってオリヴィエさんのことかな?そうか、ちゃんとした名前があったんだ。「織江」と呼び捨てにされているけど、私より年上だよね。だとしたら、織江さん?

私が相変わらず織江さんに拘束されながらも、少しホッとした気分でいるところに、女性はやってきて、織江さんを私から引きはがそうとしてくれました。

八重(やえ)こそ何をするのだ。我は有望な若者を我らが研究室に勧誘しておるだけだ」

「勧誘?強要の間違いじゃないのか?」

「断じて違う、勧誘だ」

「そうか?ならもう少し穏便にやったらどうだ?逃げてしまいそうにも見えないが。怯えさせたら逆効果だぞ」

「うむ、それもそうか」

女性、八重さんと言うらしい、に説得され、織江さんは私から手を放しました。

「織江が悪かったな。基本的に悪気は無いんだが、人の気持ちに疎いところがあってな。駄目なときは駄目だとハッキリ言わないといけないんだ」

「ハッキリ言ったら、怒ったりしないんですか?」

私が恐る恐る聞くと、八重さんは笑顔で答えました。

「そこは大丈夫だ。織江は余程のことが無い限り怒らないからな」

「我は寛容だからの」

織江さんは、また両手を腰に当ててドヤ顔をしています。

「まあ、立ち話もなんだから、座らないか?好きなところに座ってくれて良いよ。今、お茶を持ってくるから」

「はい」

私は作業台の周りに置いてある椅子の一つに座りました。

これからどんな話になるのか分かりませんが、何だか面白そうな人達というのが私の第一印象です。


第6章の始まりです。

登場キャラクターがかなり変わっておりますが、お話は繋がっていますし、同じキャラクターも出てきますので、先を楽しみにしながら読んでいただければと思います。

よろしくお願いいたします。

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