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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-39. 強さの理由

それからしばらく、その場を沈黙が支配しました。

柚葉ちゃんは浮遊陣に乗って空中に浮かんだままでしたけれど、白銀の輝きは徐々に薄れていき、槍は送還していました。

一番早く動いたのは、花楓さんでしょうか。氷竜の頭の方にいた花楓さんは、立ち上がると氷竜の頭部に近づいて、本当に斃せたのかを確認していました。そして、確認が終わると、氷竜の体の方に降りてきて、腹に開いた大きな穴を調べてから、私達の方に歩いて来ました。

その花楓さんの動きに合わせ、有麗さんと愛花さんも一緒になって歩いて来て、柚葉ちゃんも空中から降りて来ました。

その間も、皆、無言です。遂には、皆が私達のところに集まりました。

沈黙を最初に破ったのは花楓さんでした。

「あのさ、柚葉ちゃん。さっきの技は何?」

「|黄道十二星宮《Zodiac Sign》(Canon)のことですか?」

「技の名前はどうでもいい。というか、あれ、オリジナルは十二支だったよね」

「それは私の趣味で」

「うん、まあ、そこも良いことにしよう。それより何より、何であの技が使えるわけ?季節の巫女が普通に使いこなせる技じゃない筈なんだけど?」

花楓さんの言葉を聞いた柚葉ちゃんは、はぁ、と溜息をつきました。

「柚葉ちゃん、何故そこで溜息?」

「あ、いえ、花楓さんに向けたものではないです。今回、私が決心しなければいけないことがあったということです」

「決心って何を?」

「私がこれまで曖昧にしてきたことを、明らかにするということです」

「柚葉さん、それって」

清華ちゃんが心配そうな表情で柚葉ちゃんを見ました。

「うん、清華、大丈夫だから」

柚葉ちゃんも清華ちゃんを見てから、改めて花楓さんに向きなおし、右手を胸元に当てました。

「花楓さん、こういうことです」

その言葉と同時に、柚葉ちゃんの着ていたカットソーの大きく開いた胸元に、光る数字が現れました。

「ごじゅうよん」

花楓さんは、その数字を読み上げると、そこで口を閉ざしました。

「そう、夏の巫女にして、創られし巫女No.(ナンバー)54南森柚葉、それが私だということです」

しばしの沈黙の間。再び口を開いたのは花楓さんでした。

「そうか、そうだったんだ。何?これまで戦いの度にアバターに切り替えていたってこと?」

花楓さんの問い掛けに、柚葉ちゃんは首を振って答えました。

「私の元の身体はもう無いんです。火竜との戦いのときは本当に相討ちだったんですよ。辛うじて生き残ったのは、あのときこのアバターの身体を創ってくれた人がいたからです」

「え?あ、ごめん、余計なことを聞いちゃって」

「いえ、どちらにしても、今回の戦いが終わったら言うつもりでしたから」

そういう柚葉ちゃんの顔には決意の色が見て取れました。

「それで、これからどうするんじゃ?」

碧音お婆さんが問い掛けます。

「私の目標は変わらないですよ。封印の地の封印を元に戻すことと、ダンジョンと魔獣をこの世界から無くすこと。そのために頑張るだけです」

「そうか、分かった」

「そう言えば、ここも幻獣がいなくなってしまったので、封印の間にある魔道具の管理は、蹟森の皆さんにやって貰わないといけないと思います」

「万葉さんの話にあった魔道具のことじゃな?」

「はい。丁度穴が開いてますし、見に行きませんか?」

「そうじゃな。氷竜はどうする?」

「あ、氷竜は、この前蹟森に出た魔獣と同じところに転送するようにと事務局から言われてます」

碧音お婆さんの問い掛けに答えたのは清華ちゃんでした。

「清華、分かった。じゃあ、氷竜は私が転送するから」

皆は柚葉ちゃんを先頭にして、岩の斜面伝いに封印の間の横に開いた大きな穴のところまで登ります。途中、柚葉ちゃんは氷竜を転移陣で転送していました。

穴の中は、氷竜の冷気が残っていてひんやりしています。奥の方を見ると、見慣れた封印の間の壁が見えます。しかし、いつもはあった封印が無くなり、大きな縦穴が開いています。

「花楓さん、さっきの技で岩壁の穴を塞げられますか?出来れば外から封印の間に入れないようにしたいのですが」

「外に飛び散った破片も掻き集めれば出来ると思うよ。一人でやるより三人でやった方が良いから、柚葉ちゃん、チーム戦を起動して貰える?」

「ええ、良いですよ」

柚葉ちゃんが答えると、花楓さん、有麗さん、愛花さんの三人が向き合って膝を付いてしゃがみ、右手を地面に当てて三連作動陣を描きました。そしてそれが起動すると、岩壁が変形して穴を塞ぎました。

「出来るだけ厚くしておいてくださいね」

「うん、分かってる」

穴が塞がると、岩はどんどん内側の方に拡がり、穴を背中にしてしゃがんでいた花楓さんの足下まで膨らんで止まりました。

「これで良いと思うけど」

「はい、ありがとうございます」

作業を終えて立ち上がった花楓さん達に、柚葉ちゃんがお礼をしました。穴が塞がり、外の明かりは入らなくなると、天音お婆さんや母が力で光の珠を出して辺りを照らしました。

「では、皆さん、付いて来てください」

柚葉ちゃんは、封印のあった縦穴に沿って歩いて行きます。そして半周した辺りで向きを変えて封印の間の壁に近づきます。壁の前まで行くと、柚葉ちゃんは右手を壁に付き、壁を吹き飛ばしました。きっと、掌底破弾を打ち込んだのでしょう。

開いた穴の奥には通路があるようです。その通路は下り坂になっていて、歩いた先は、封印のあった縦穴の底でした。そこには魔道具のようなものがあったのですけれど、柚葉ちゃんによれば、それは魔道具の制御装置でしかなくて、魔道具の本体は足下にあるのだとか。そして、制御装置経由で魔道具に巫女の力を注ぐ方法を教えて貰いました。

「一日二日放っておいても大丈夫らしいですが、出来れば毎日一度は巫女の力を注いで欲しいのだそうです」

「分かりました。これからこれを私達の日課にしましょう」

柚葉ちゃんの説明を受けて、母が決意を表明しました。碧音お婆さんと天音お婆さんも頷いています。

「あの、お母さん、私も朝こちらに来ましょうか?」

「いいえ、琴音。ここは私達だけで問題ありませんから、貴方はお店の方をきちんとやりなさいな」

お婆さん達も母の言葉に異論は無さそうでしたので、私は母の言葉に甘えることにしました。

「さて、母屋に戻りましょうか」

母の掛け声で、皆は回れ右して元来た通路を戻りました。そして、封印の間の入口に向かう転移陣のある部屋から順番に入口に向けて転移しました。そう、封印の間の隣の転移陣のある部屋は、凍り付いてはいたものの破壊されておらず無事でした。柚葉ちゃんによれば、この部屋は岩壁から離れていたので、岩壁に穴を開ける場所を部屋の位置からずらしたとのこと。お蔭で氷を融かすだけで再び使えるようになり、助かりました。

北御殿から母屋へ移動し、東京に戻りたいのだけどと渋る摩莉を引き連れて、全員でリビングに入りました。私が全員にお茶を出すと、蹟森の巫女を代表して、碧音お婆さんが挨拶しました。

「今日は、皆お疲れじゃったね。封印が破れて氷竜が暴れ出したと聞いた時にはどうなることかと思ったが、協力して斃してくれて助かったよ。ありがとう」

そこで一旦言葉を切ると、碧音お婆さんはお辞儀をしました。それに合わせるように天音お婆さんと母も頭を下げたので、私も一緒に頭を下げました。

そして、頭を上げると、碧音お婆さんは言葉を続けました。

「この後の魔道具の管理は、さっき奏音が言ったように、ワシらでやるから気にして貰わなくて良いよ。じゃが、封印を元に戻す方法が分かったら、直ぐに教えておくれ。この通り、お願いじゃ」

碧音お婆さんは再び頭を下げ、私達もそれに習いました。

「うん、碧音さん、頼まれたよ」

花楓さんが、碧音さんの言葉に応えました。

「出来る限りのことを調べるよ。そして、分かったことは全部伝える。約束するから」

「ああ、頼んだよ、ふーちゃん」

それからは歓談タイムとなり、氷竜との戦いのこと、これからのことなど、それぞれ好き勝手な話をしました。そして、話し始めて30分くらいしたところで、母が皆に声を掛けました。

「えーと、折角朱音、ではなくて摩莉が愛花さんと帰ってきてくれたので、二人の歌を聞いてみたいのですけど、皆さんはどう?」

摩莉は、えー、やだ恥ずかしい、と言っていたみたいですけれど、愛花さんはノリノリでした。そんな愛花さんに引っ張られるように摩莉も最後は歌うことを承諾しました。そして、歌って踊るにはリビングでは手狭と言うことで、皆で道場に移動しました。

それから道場で開かれたロゼマリのライブは、とても良かったです。それまでも動画で見たことはありましたけれど、生だと迫力があって大違い。私もそれなりに感動しながらライブを観ていましたけれど、何と言っても一番感激し興奮していたのはロゼマリ大ファンの有麗さんでした。


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