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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-38. チーム戦

「摩莉さんのあの攻撃でも駄目でしたか」

残念そうではあるものの、想定内とも取れる冷静な感想が柚葉ちゃんの口から漏れました。

「やはり、力の相性があるのかも知れませんね」

「力の相性ですか?」

私は柚葉ちゃんが何のことを言っているのか分からず、問い返してしまいました。

「私、火竜と戦ったときに言われたんです。力の相性が良かったから斃せたんだって。少なくとも火竜には、私の力は強く働いたのだと思います。そして、氷竜が火竜と対になるものだというのであれば、もしかしたら」

「柚葉ちゃんの力は氷竜に対しても相性が良いかも知れないということですか?」

「はい」

柚葉ちゃんは、氷竜のいる岩壁の穴をひたすら見詰めています。

「だけど、今の私の力でどこまで通用するかは分かりません」

「何故ですか?」

「あの時、私は力を暴走させて火竜にぶつけたんです。そしてその後、力が暴走しないようにして貰いました。だからきっと、あの時ほどの威力は出ないんじゃないかと」

「柚葉ちゃんの心配は分かりますけれど」

私が言葉を区切ると、柚葉ちゃんは私の方に振り返りました。

「火竜の時も、そんな心配して戦ったのですか?」

「いえ、確かにあの時は、無我夢中でしたね」

柚葉ちゃんは、フッと微笑みました。もしかしたら、緊張していたのでしょうか。

岩壁の方では、相変わらず戦いが繰り広げられていました。一時は摩莉の攻撃で怯んでいた氷竜も、徐々に復活して、氷の壁を使った防御中心だった戦い方を止めて、ブレスを使った攻撃中心の戦法に変えてきました。そのため、花楓さん達はブレスを避けながらの攻撃となって、弾幕の密度も低下してしまったため、摩莉が再度攻撃を撃ちこむ隙を作れていません。

そんな中、花楓さんは有麗さんから渡されたガトリング砲を摩莉に渡して、今度は自分で集束砲を撃っていました。集束砲を何度か撃ち、そして、それらの攻撃が氷竜に効いていないことを確認すると、花楓さんは攻撃の手を休めて私達の方を見ました。

花楓さんは迷いのある様子で、しばらくそのままこちらを見ていましたけれど、拳を握りしめると体ごとこちらに向き直り、それから私達の前、少し離れたところに転移してきました。

「花楓さん、どうかしたのですか?」

「ケジメをつけに」

花楓さんの視線は、柚葉ちゃんの方を捉えていました。そして、柚葉ちゃんの目の前まで歩み寄ります。

昨夜(ゆうべ)は悪かったな」

花楓さんの目には懺悔の色が映っています。

「いえ、花楓さんの気持ちも分かりますから」

「あの後、有麗に物凄く怒られたんだよね。柚葉ちゃんのせいじゃないのにって。まあ、それはその通りだったんだけど」

「理屈では分かっていても、そうそう簡単に気持ちが切り替わりはしないですからね」

「高校生の柚葉ちゃんにそう言われちゃうと、私、立つ瀬が無いんだけど」

花楓さんは申し訳なさげな表情をしながら、柚葉ちゃんの反応を見定めようとしている風に見えました。

柚葉ちゃんは、やれやれと言う感じに肩を竦めて見せました。

「花楓さんの謝罪は受け入れます。それでどうしますか?別に今、ただ謝りに来たんじゃないですよね?」

「いやぁ、だから柚葉ちゃんさぁ、悪かったから、あまり棘のある言い方しないで貰えるかなぁ」

「いえ、これが私の普通なんですが」

何だか柚葉ちゃん、貫禄ありますね。女子高生の筈なのですけれど。

「分かった分かった」

両手を挙げた降参のポーズを取りながら、花楓さんは続けました。

「ここに来たのは、今からでも昨日柚葉ちゃんが提案してきたことをやれないかと思ってなんだけど」

「勿論、私は良いですが、花楓さんは良いんですか?」

「色々試してみたけど、効果なかったからね。流石に私も意地を張り続けていて良い状況じゃないことは分かっているから」

そして花楓さんは顔を赤くしながら右手を柚葉ちゃんの方に差し出しました。

「私からお願いしても良いかな?一緒に戦って貰えますか?」

柚葉ちゃんも右手を出して、差し出された花楓さんの右手と握手しました。そして、花楓さんに微笑みました。

「はい、よろしくお願いします」

昨晩、二人の間に何かがあったようですけれど、上手く収まったようで良かったです。

「柚葉ちゃん、昨日は本当にゴメンね。感情がコントロールできなかったと言うか、その場の勢いと言うか、少し言い過ぎちゃって」

「いえいえ大丈夫ですよ。『正式な巫女になったばかりのお子様が何言っているの』とか、『力を十分に出せない封印の地の巫女が本部の巫女と一緒に戦えるわけないだろ』とか言われたことは、全然気にしてませんから」

「いやいや、無茶苦茶根に持っているよね、それ」

どうやら花楓さんは随分と酷いことを柚葉ちゃんに言っていたみたいです。でも、柚葉ちゃんは笑いながら言っているので、その言葉通り、それほど気にしてはいなさそうです、多分。

柚葉ちゃんは、花楓さんの突っ込みにも笑顔で応えていましたけれど、その後、花楓さんと握っていた手を離すと、真剣な表情なって口を開きました。

「それで氷竜と戦ってみてどうですか?」

「硬いよね、とても。柚葉ちゃんの力は相性が良いのかも知れないけど、それでも正面から行くのは辛いんじゃないかな」

「そうですね。弱点はあると思いますか?」

「今まで全然攻撃出来ていないところじゃないかと思うんだけど。つまり、多分――」

「お腹、ですね。花楓さん、試してみましょう」

花楓さんと柚葉ちゃんは頷き合うと、浮遊陣に乗って岩壁に向かいました。

岩壁の穴では、有麗さん、愛花さんと摩莉が、引き続き有麗さんの創った武器で氷竜のブレスを避けながら攻撃していました。けれど、花楓さん達が岩壁に向かうと同時に愛花さんが摩莉に何かを叫んでいて、それを聞いた摩莉は武器を手放して岩壁から少し距離を取ったと思うと、氷竜の正面の位置から光星砲での攻撃を始めました。

有麗さんと愛花さんは、武器での攻撃を続けていますが、段々と岩壁に近づいています。柚葉ちゃんは、移動を途中で止めて待機状態に。花楓さんも、有麗さん達同様に岩壁に近づいています。

「氷竜を誘い出そうとしているみたいじゃな」

碧音お婆さんが、摩莉達の動きを見ながら呟きました。

「お母さん、あの動きは、もしかして?」

天音お婆さんが何かに気が付いたようで、碧音お婆さんに尋ねています。

「多分そうじゃろう。もう少し見ていれば分かる」

碧音お婆さんの言う通り、正面にいる摩莉を攻撃しようと、氷竜は前の方に出てきていました。氷竜が先程より前に出ていると思い、よく見ると、有麗さんと愛花さんが氷竜に攻撃しながら、氷竜の足下の岩を削って氷竜が前に出やすいようにしていることに気付きました。

そして氷竜の前足が穴から出たところで、有麗さんと愛花さんが武器を放り投げ、花楓さんも含めた三人が同時に作動陣を描き始めました。

最初は単にそれぞれの岩に突いた手を中心とした円を描いたのですが、次に三人の手を結ぶ三角形が描かれ、更にその三角形の頂点を結ぶ円が現れて段々と複雑な模様が組まれていきます。そして、一つの大きな作動陣が完成すると、その作動陣は強く輝き始め、合わせて氷竜が麻痺したかのように動きを停めました。

「お母さん、あれは?」

「三連麻痺陣じゃな。となると思っていた通りか」

「碧音お婆さん、思っていた通りとは何ですか?」

「三連作動陣は巫女がチームを組んでいないと使えないんじゃ。今、あの三人はチームを組んでる」

「チーム?一緒に戦うということですか?」

「いや、巫女のチームとは、能力で繋がり合った巫女のまとまりのことを言うんじゃ。その繋がりの中で意思を伝達し、力を使った連携技も使える、強大な敵を相手にするときの戦法なんじゃ」

麻痺陣の影響で氷竜が動きを停めると、摩莉が私達のところに戻ってきました。

「摩莉、どうしたのですか?」

「チーム戦が始まったから。チーム戦のときは、姉さん達を護りながら見ているように言われたんだよね」

何故かは不明ですけれど、摩莉はチームに含まれていないようです。

岩壁の方では、穴の下方に位置している花楓さんが左手で麻痺陣を描きつつ、右手でも別の作動陣を描いています。そして、描き終えられた新しい作動陣が起動すると同時に、氷竜を取り巻く穴の周りの岩が変形し、氷竜に向けていくつもの棘を伸ばしました。

それらの棘のうち、氷竜の背中側に伸びたものは、氷竜の鱗に当たった瞬間に砕けてしまいました。一方、お腹の方に伸びた棘は、氷竜の腹の皮に突き立ちはしたものの、皮を突き破るには至らず折れてしまいました。先程花蓮さん達が言っていたように、お腹が弱点かは不明ではあれど、背中よりは柔らかそうです。

花蓮さんは麻痺陣を維持しながら、落ちて来た岩の棘のかけらを防御障壁で避けた後、再度右手で作動陣を描いて起動させました。今度は、氷竜の前足から腹の下の岩が凹み、氷竜が前のめりになりました。さらに、氷竜が突っかえていた岩の穴が大きくなり、翼の付いた背中が穴から出てきています。

「氷竜が穴から出てきてしまいます」

「ここで一気に決めようというのじゃろう」

花楓さんは氷竜の下から、帯状の力の膜を投げ、氷竜の首に巻き付けました。片や、氷竜の上の方にいた有麗さんと愛花さんも、それぞれ帯状の力の膜を氷竜に向けて投げ、翼が開かないように翼と胴体をまとめて巻き付けていきました。そして、花楓さんが帯を強く引くと、氷竜は穴から出ながら前方に半回転し、斜面の上に仰向けになりました。

さらに花楓さん達は素早く動き、花楓さんが氷竜の頭の先、有麗さんと愛花さんが氷竜の左右の位置について、大きな作動陣を起動しました。

「あれは、麻痺陣と拘束陣の三連複合陣じゃな」

氷竜は仰向けのまま動けないでいます。その状況を待ち構えていた柚葉ちゃんの作動陣が強く輝き始めました。

柚葉ちゃんの作動陣は一つではありません。柚葉ちゃんはいつの間にか槍を手にしていて、氷竜に向けて構えていましたが、その柚葉ちゃんの周りには12の光星陣が並んでいます。それぞれの光星陣の中央には異なる絵柄が描かれていますが、あれは黄道十二星宮のシンボルでしょうか。そして槍の先端にも光星陣があり、その光星陣の周りに12の集束陣が並んでいます。集束陣の中央にも黄道十二星宮のシンボルが描かれていて、光星陣のシンボルの位置から時計回りに1/3周、つまり120度ずれています。さらに槍の先端から離れたところに集束陣とそれを取り囲む12の集束陣が、大きさは一回り小さくなりながらも、やはり黄道十二星宮のシンボルが時計回りに120度ずれた状態で並んでいます。それから最後に集束陣が一つだけ。これだけの規模の作動陣を動かして、柚葉ちゃんの身体が大丈夫なのか心配になってしまいます。

その柚葉ちゃんは、氷竜から目を逸らすことなく力を作動陣に込めています。作動陣は、力を籠められた分だけ輝きを増し、同時に柚葉ちゃんの髪も身体も白銀に輝き始めました。そのすべてが輝きに満ちると、光星陣から光線が放たれました。その光線は螺旋を描き光星陣と同じシンボルの集束陣を通過していきます。そして最後の集束陣で、中央から発射された光星砲に合流しますが、完全には一体化せず、螺旋の形を残しながら氷竜目掛けて突き進みます。その光は、氷竜の腹を易々と突き破り、氷竜の体に大きな穴を開けました。

「勝負あったな」

碧音お婆さんの声を聞きながら、柚葉ちゃんの攻撃の威力に呆然としていました。


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