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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-36. 雪原に現れしモノ

「ここはそんなに雪が降らないのに」

私は呆然として、目の前の景色を眺めていました。目の前には木が無く視界が開けていますが、一面が白い雪に覆われています。

「北御殿のところでは降ってなかったですし、局地的な雪ですね。昨晩降ったのでしょうか」

柚葉ちゃんは冷静に分析しています。

「あら、琴音たちも着いたのね」

後ろから声が聞こえました。振り返ると、母に天音お婆さん、そして碧音お婆さんもいます。

「はい、お母さん。今着きました。お母さん達はいつからここに?」

「15分くらい前かしらね。花楓さんに連れてきて貰ったの」

「そう言えば、花楓さんは?」

「上の方を見てくるって行ったんだけど、まだ帰って来ないの」

「花楓さん、随分向こうまで行ってますね」

柚葉ちゃんには、花楓さんの居場所が分かるようです。

「どちらの方ですか?」

「あそこですね」

柚葉ちゃんが指差して方向を教えてくれました。

目の前の雪原は傾斜になっていて、先に行くほど標高が上がっていきます。柚葉ちゃんの指は、頭よりも高い位置まで上がっていて、その指の差した先に花楓さんがいるのだとすると、かなり山を登っていることになります。

「そこに氷竜がいるということなのでしょうか?」

「分かりません。封印の間は探知できない結界の中にあるようで見つけられないですね。花楓さんも動き回っているので、まだ場所が特定できていないと思います。この寒さの原因が氷竜の冷気だと考えれば、雪原の中央が怪しいですが、山の斜面や風向きの影響を受けるので、正確な位置は分からないですね」

「それでも柚葉ちゃんなら分かったりしないのですか?」

「いえ、無理です」

流石の柚葉ちゃんでも、結界で隠された封印の間は見つけられないようです。花楓さんは見付けられるのでしょうか。

辺りには動物の影はなく静かです。しかし、封印の間の中で氷竜が暴れているのか、ときどき地面が揺れるのを感じます。

「こうして氷竜が出てこないということは、封印の間は相当に堅い岩の中にあるということなのでしょうか」

「そうかも知れません」

「でも、そうすると、いつ出て来るか分かりませんね」

「はい。なので、岩盤を崩して、氷竜に攻撃できるようにしたいのですが、場所が分からなければ、それができません」

「碧音お婆さんは、封印の間がどこにあるのか知っていますか?」

山の方を見ていた私達の隣に、いつの間にかやってきていた碧音お婆さんを見ました。

「いや、知らないね。いままでそれを気にする必要も無かったしな」

「そうですか」

困りました。何も手掛かりがありません。

「何か探知で引っ掛かるものがあれば」

「柚葉ちゃん、それってマーカーのこと?」

「そうです。もっとも封印の間の中にマーキングしてあっても、ここからの探知では引っ掛からないと思いますが」

「それは結界のせい?」

「ええ、普通のマーカーでは駄目なんです。ん?いえ、もしかしたら?」

柚葉ちゃんは腕組みをして考え始めました。

「何か思いついたのですか?」

「できるかは分かりませんが、やってみる価値がありそうなことを思い付きました」

柚葉ちゃんは腕組みを解いて、碧音お婆さんの方を向きました。

「碧音さん、北御殿の地下の封印の間への入口に入れて貰えませんか?」

「それは構わないが、あそこの転移陣は使えなくなっているとふーちゃんが言っていたのじゃぞ、良いのか?」

「はい、転移はしませんから」

「ん?そうか」

碧音お婆さんも私も柚葉ちゃんの意図が分かりませんが、柚葉ちゃんはやる気に満ちてます。

「それじゃあ、愛花さんと摩莉さんにも手伝って貰うので、二人を呼びますね」

柚葉ちゃんは、私達から少し離れたところに進み出て、片膝をついてしゃがみ込みました。そして両手を雪面に付けると、その両手を起点に自分から離れた方向に作動陣を二つ描きました。その作動陣の模様が浮遊転移陣だと気が付いた時には、それぞれの作動陣の上に人影が現れていました。

「愛花さん、摩莉さん」

「あら、清華ちゃん、おはよう」

愛花さんが清華ちゃんに手を振って挨拶しました。

「姉さん、氷竜はどこ?」

摩莉(朱音)は辺りを見回しています。

二人とも、お揃いのスポーツ用タイツに、トレーニングパンツ、上は色違いのトレーナーです。トレーナーの右胸にはロゼマリのイラストが描いてあり、さらに愛花さんの背中にはロゼの、摩莉の背中にはマリの似顔絵が大きく描かれていました。

「氷竜は封印の間から、まだ出られていないようです。それにしても、いつもはロゼマリに似ないようにしていると思ったのですけれど、今日はロゼマリそのものではないですか」

そう、髪型もロゼマリとまったく同じなのです。

「まあ、こういう時くらいしかロゼマリの格好ができないから。気合入れて似せてみたんだけど、どう?」

「良く似てますよ」

「おお、本当に動画の二人にそっくりじゃの」

碧音お婆さんも感心していました。母や天音お婆さんも愛花さんと摩莉の姿を見て、喜んでいます。

「それで、柚葉ちゃん、そろそろ私達の出番?」

「ええ、手伝って欲しいことがあります」

柚葉ちゃんは立ち上がって二人の方を向きました。

「愛花さん、摩莉さん。私はこれから碧音さんと北御殿に行って、封印の間に通じる転移陣を起動します。起動すれば探知に引っ掛かると思いますので、お二人は花楓さんと合流してから、岩場に攻撃をぶつけて封印の間に通じる穴を掘ってください。氷竜にいきなり上空に出られると困るので、穴は出来るだけ横向きでお願いします。あと、何かあれば愛花さん経由で連絡しますので」

「うん、お師匠様、了解」

「柚葉ちゃん、花楓さんは?」

「あちらの方です。摩莉さん、分かりますか?」

「あ、あそこね、見付けられた。ありがとう」

「それじゃ、お願いします。あと、この前お話したこと覚えてますか?」

「覚えてる。大丈夫だから」

柚葉ちゃんと摩莉は何かを確認するように頷き合いました。

そして、愛花さんと摩莉は、浮遊転移陣に乗って花楓さんの方へ向かい、柚葉ちゃんは碧音お婆さんの手を取り、北御殿へと転移していきました。

それから5分もしないうちに、摩莉達が山の斜面の岩肌に向けて光星砲や集束砲を放ち始めました。どうやら柚葉ちゃんの作戦が成功して、封印の間の場所が特定できたようです。その場所は思ったよりも近く、摩莉達の様子も目視で確認できるほどです。

ただ、流石は氷竜が暴れてもビクともしない岩の塊だけあって、摩莉達もそう易々とは穴を開けられず、三人で繰り返し攻撃をぶつけていました。

そうして摩莉達が岩場相手に手こずっている間に、柚葉ちゃんと碧音お婆さんが戻ってきました。

「まだ穴が開けられていないようですね」

「ええ、柚葉ちゃん、岩場相手に苦戦しているみたい」

「大規模に破壊して氷竜に外に出て来られても困るので、慎重にやっているんです。時間は掛かるかも知れませんが、仕方ありません」

柚葉ちゃんの口調は冷静を務めているように聞こえます。でも、その顔には自分でやりたいという色が浮かんでいるように見えなくもありません。とは言え、四季の巫女は後ろにいるようにと指示を受けているので、ここで待機しているしかありません。

「柚葉ちゃんは見ているだけで大丈夫なのですか?」

私の問い掛けに、柚葉ちゃんはこちらを向いて笑顔を返してきました。

「琴音さんは、私のことを良く分かっていますね。でも問題ないですよ。私、いくら何でも好き好んで危険に飛び込もうとは思わないですから」

「え?そうなのですか?」

私が意外そうな顔をしたのがご不満だったのか、柚葉ちゃんは少し膨れっ面になりました。

「琴音さんには、私はそういう風に見えていたのですか。まあ、良いですけど」

「ごめんなさい、冗談です」

私が微笑むと、柚葉ちゃんも顔を戻して微笑み返しました。そして目線を岩壁に戻しました。

「柚葉ちゃん、先程はどうやって封印の間の位置を特定したのですか?」

「転移陣の共鳴現象を使ったんです」

「え?ああ、この前の猫探しと同じことですね?」

「はい、北御殿にある封印の間の入口の転移陣を起動すれば、封印の間の方の転移陣も共鳴しますから、それで探知に引っ掛かるのではと思ったんです」

「なるほど、それで封印の間の入口の転移陣を起動しに行ったのですね」

そんな見つけ方があるとは思いつきませんでした。

「ところで、もうすぐだと思います」

確かに、岩壁が先程よりずっと削れてきています。

それから幾度か攻撃の光が見えた後、岩壁にヒビが入ったかと思うと、崩れて穴が開きました。

次の瞬間、その穴から強力な冷気とともに氷が混じった風が吹きました。幸い、空いた穴の向きはこちらから外れていたので、冷気の風は私達から大きく逸れましたが、風の当たった木々は凍り付いてしまいました。

「あれは、氷竜のブレス?」

「そうだと思います。当たったら凍ってしまいますね。この距離なら、防御障壁と加熱で耐えられるとは思いますが」

「でも、ここなら穴の向きからずれているので当たらないのではないですか?」

「そうでしょうか」

柚葉ちゃんは、真剣な眼差しで空いた穴の方を見ています。

「柚葉さん、出てきますね」

清華ちゃんの口調から緊張感が伝わってきます。

穴のところでは、花楓さん達が中に向かって攻撃をしているようです。しかし、それをものともせずに、幻獣の頭部が穴の中から現れました。

そう、見えたのは青い竜の頭部でした。


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