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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-26. 柚葉と清華の練習

「それで、ふーちゃんは、もうここには来ないのかい?」

重い話をしたためか、少し疲れた様子で碧音お婆さんは、花楓さんに問い掛けました。

「碧音さん達が来るなというなら来ないよ。折角、任務が終わってもここに来続けて良いって許可を取り付けたのに残念だけど」

「来るなとは言わないよ。母さんとの話も聞きたいしな」

「ありがとう、碧音さん。だけど、空ちゃんとのことは私が話したくなるまで待ってね」

「ああ、それで良い」

碧音お婆さんと花楓さんの間に緩んだ空気が流れました。話は終わったようです。

「ねぇ、花楓さん」

「何?琴音ちゃん」

「花楓さんは、摩莉には会ったことあるのですか?」

「ううん。彼女は関東圏で見つかったことになっているから、有麗(うらら)の担当なんだよね。だから私はまだ会ったことがないんだ。でも、同じ本部の巫女だから、そのうち顔を合わすと思うよ」

「そうですね。もし会うことがあったら、私のお店にも顔を出すように伝えて貰えますか?」

「え?琴音ちゃんのお店に行ってないの?」

「無いですよ、一度も。家を飛び出て後ろめたい気持ちもあったのだと思いますけれど、そろそろ来てくれても良いかなって思うのですよね」

「本当、そう思うよ。朱音ちゃんに会ったら伝えとく。でも、琴音ちゃんのお店に行ってないって、人生損しているよね。お店はいい雰囲気だし、コーヒーはいい味と香りだし、スイーツもパスタも美味しいし」

「え?」

えーと、いままで花楓さんはお店に来たことが無かったような。

「え?あっ、えーと、そういう風に事務局の人達が言ってたから」

どこか焦っている様子の花楓さんです。

「あー、まあ、確かに事務局の人達は来てくれたことがありましたね」

確か、最初は探偵社の本荘さんが奥様を連れてきてくれて、その後、奥様が勤め先の事務局の人達と来てくれたこともありました。

「花楓さんも機会があったらお店に寄ってくださいね」

「うんうん、是非寄らせてもらうから」

大げさに首を縦に振りながら、花楓さんは約束してくれました。

「そういえば柚葉ちゃん達はどうしているんだっけ?」

「先程、剣の稽古をしに道場に行く話をしていましたよね」

探知で確認したら、今も道場にいるようです。

「今も道場のようですけれど、見に行きますか?」

「うん、彼女達がどんな強さなのか興味あるから見てみたいよ」

私は花楓さんと連れ立って、道場に向かいました。

道場では、灯里さん、柚葉ちゃん、清華ちゃんの三人とも動き易そうな短パン姿で、私達が着いた時には、柚葉ちゃんと清華ちゃんが剣を持って向き合っているところでした。

「灯里さん、二人は何をしているの?」

「ああ、琴音さん。今まで私に剣の稽古を付けて貰っていたんですけど、二人の打ち合いが見たいってお願いして、ちょうど今打ち合いを始めるところなんです」

「へー、それは丁度良かった。私達も見させて貰おう」

花楓さんは道場の隅に座って見物の姿勢に入りました。灯里さんと私も、その隣に並んで座りました。

柚葉ちゃん達は、私達が道場に入ったことには気が付いている筈ですけれど、目を逸らさずに真剣に相手のことを見ています。

「じゃあ、清華、行くよ」

「はい、柚葉さん」

お互いに声を掛け合うと、二人は打ち合いを始めました。身体強化を掛けたのみで打ち合う、レベル1の打ち合いです。でも、それにしては力の波動が弱いような。

「ふーん、二人とも相手のフェイントにきちんと対処できているね。筋が良い」

「二人は強いですか?」

灯里さんが、花楓さんに問い掛けました。

「うーん、今のところは、基礎がしっかり出来ているとしか言えないけど」

花楓さんは困った風にコメントしました。そう、二人とも素直な剣筋ですし、これなら私も相手が務まりそうな気がします。

周りでのそのような会話は二人にも聞こえていそうですが、まったく気にする素振りも無く真剣な打ち合いを続けていました。

何分か打ち合いを続けた後、二人は一旦距離を取って向き合いました。

「清華、次、良い?」

「勿論です」

そして二人が前に踏み込もうとするとき、二人から感じる力の波動が強くなるのを感じました。

それから始まった打ち合いは、先程よりも速さも力強さも大きく増したものになりました。

「凄い、二人とも速いです」

灯里さんは、嬉しそうに見ています。あの打ち合いが見えているのでしょうか。私はときたま剣筋が見えないのですけれど。

「まさかレベル1.5?」

花楓さんの呟きを、私の耳が拾い上げました。

「花楓さん、レベル1.5とは何ですか?」

「本部の巫女が身体強化した状態での打ち合いのレベル」

「本部の巫女は身体能力が高いから、そのまま打ち合って丁度レベル1くらい、身体強化すると1.5になる」

「では、二人とも本部の巫女と同じくらいということですか?」

「そうなるけど、そんなことってあるものなのか」

花楓さんは、真剣な面持ちで二人の打ち合いを見ています。

二人は間断なく、打って、受けて、フェイント掛けて、受け流してを繰り返しているようでしたけれど、やはり私の目ではすべてを追い切れません。残念ながら、私では二人の相手は務まらなさそうです。

その打ち合いも数分続けると、示し合わせたかのように互いに距離を取り、向き合った状態に戻りました。

そこで、柚葉ちゃんが嬉しそうな顔をしました。

「それじゃあ、清華から良いよ」

まだ終わっていないようです。柚葉ちゃんの言葉を聞いて、清華ちゃんも不敵な笑みを浮かべました。

「では、お言葉に甘えて」

二人から更に強い力を感じた瞬間には二人とも前に飛び出していました。そして、清華ちゃんの姿がブレたかと思うと、幾つもの残像が見え、それらが柚葉ちゃんの体に打ち込みを図ったようでしたけれど、気が付くと二人は反対側に走り抜けていました。

その二人は反転して向き合います。

「今度は、私の番ね」

「ええ、どうぞ」

二人の力の波動は弱まることなく、今度は柚葉ちゃんが二人に増えてから前に飛び出して行きました。清華ちゃんも前に出てきましたが、そこに二人の柚葉ちゃんが先程の清華ちゃんと同じように幾つもの残像を作りながら清華ちゃんに打ち込んで行ったようです。そしてまた、三人とも反対側に走り抜け、二人になっていた柚葉ちゃんが一人に戻りました。

そこで二人はまた反転しましたが、清華ちゃんが怒っているようです。

「柚葉さん、その分身は反則だって言いましたよね」

「えー、でもこれだって清華は受けちゃうじゃない」

「それは柚葉さんが二人に分かれた時は、一人一人は少し遅くなるからですよ。分かれる必要無いと思うのですけど」

「いや、もう一人で打ち込むのの限界を感じてるから。二人になって速くなれば、もっと強くなれるってことでしょ?」

「そうかも知れませんけど、分身はレベル2です。レベル1の戦いに持ち込むのはルール違反です」

「えー」

「えー、じゃないです。柚葉さんは、まったくもう」

何だかもう打ち合いどころではなくなっているようですけれど、二人のあの凄まじい打ち込み合いは何だったのでしょうか。

花楓さんの方を見ると、相変わらず真剣な表情をしています。

「何かがおかしい」

私が問い掛けるまでもなく、花楓さんが呟きました。

「どうかしたのですか?」

「ん?ああ、本人たちに直接聞いてみる」

花楓さんは、まだ言い合っている柚葉ちゃん達のところにスタスタと行ってしまったので、私も慌てて追いかけます。

「あのさあ、二人とも」

花楓さんが声を掛けると、柚葉ちゃん達は言い合いを止めて花楓さんの方を見ました。

「何ですか?花楓さん」

先に反応したのは柚葉ちゃんでした。

「清華ちゃんの最後の技、何を使っているの?」

「何をって、作動陣のことですか?」

清華ちゃんが確認します。

「そう。どんな作動陣を使っているのか、教えて貰える?」

柚葉ちゃんと清華ちゃんは顔を見合わせました。それから二人とも花楓さんの方を向くと、柚葉ちゃんが口を開きました。

「身体強化陣ですが」

「ただの身体強化陣?そんなこと無いでしょう?」

「ただの身体強化陣ですよ」

そう答えると、柚葉ちゃんは清華ちゃんの方を向きました。

「ねえ、清華。身体強化陣が良く見えるようにやって貰って良い?」

「分かりました。やりますね」

花楓さんが半信半疑の顔をしている前で、清華ちゃんは開けた方を向いて剣を構えます。そして、清華ちゃんの足下に作動陣が描かれました。私は身体強化陣を知りませんけれど、昨日の夜に柚葉ちゃんが教えてくれたリミッターが付いているのは確認できました。

その状態から清華ちゃんは勢い良く前に飛び出し、先程と同じようにいくつもの残像を残しながら虚空の一点に向けた打ち込みをして、その先に走り抜けてみせました。

「そんな…。リミッター付きの身体強化陣でその技が出来るなんて」

花楓さんは目の前で実演して貰ったにも関わらず、まだ信じられないと言った表情でした。

「まあ、今でこそリミッター付きで出来ますけど、実は最初はリミッター無しの身体強化陣でやったんです」

清華ちゃんが舌こそ出しませんでしたけれど、いたずらっ子のような顔をしました。

「そんなことやったら、体がボロボロになっちゃうんじゃ?」

「ええ、最初は花楓さんの言う通り、体がボロボロになって大変でした。でも、何度か繰り返しているうちに大丈夫になってきて、さらに続けていたら、リミッター付きでも出来るようになったんです」

「え?いや、そんな簡単な話じゃ?え?」

「でも、現に今は出来てますし」

「そうみたいだけど、そんなのってありなの?」

花楓さんはまだ混乱していたようですけれど、清華ちゃんと柚葉ちゃんは涼しい顔をしていました。


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