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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-22. 超大型魔獣の討伐

現れた愛花さんは、頭の両脇で髪を団子にしていました。巫女の力で髪が白銀に輝いて、バーチャルアイドルのロゼそっくりの後ろ姿です。その愛花さんの攻撃は強力でしたけれど、魔獣が素早く頭を避けたために致命傷にはなりませんでした。ただ、危険を感じたのか愛花さんから少し離れるような挙動を見せ、そこでできた隙を見て愛花さんが私の方に走ってきました。

「琴音さん、ここからは摩莉と私で攻撃しますから、下がっていてください」

「愛花さん、私も一緒に戦えますけれど」

「ごめんなさい。私の方が一緒に戦うことに慣れてなくて、力任せに振った剣が琴音さんに当たっちゃうかも知れないから、離れておいて欲しいんです」

「そう言うことなら分かりました。遠くからの援護射撃なら良いですね?」

「はい、それでお願いします」

先程の戦いを見ただけで、明らかに私よりも愛花さんの方が攻撃力が上なことは分かりましたので、この場は愛花さんに譲ることにして私は後ろに下がりました。

さて、私の方に現れたのが愛花さんとなると、母の方に現れたのは摩莉、つまりアバター姿の朱音と言うことになります。残念ながらとぐろを巻いた魔獣の体に阻まれて、摩莉の姿は確認できていません。まだ戦いの最中ですけれど、ロゼマリのマリの姿にどう似ているのか早く見てみたい気持ちもあったりします。この緊迫した場面で不謹慎と怒られそうですけれど、愛花さん達なら何とかして貰えるのではという期待もありました。

そんな私の気持ちを他所に、愛花さんはこちら側、摩莉が向こう側と双方から剣で魔獣への攻撃を続けています。二人の剣は、私達の攻撃よりよほど魔獣を傷付けているものの、魔獣の方も体をずらして攻撃される個所を散らしながら傷をどんどん再生していて、イタチごっこの様相を呈してきました。

愛花さん達も不味いと思ったのか、魔獣を囲むように防御障壁を展開しようとしましたけれど、途中で魔獣に割られてしまっています。

「あの二人でも難しいのかしら?」

私の心の中に不安な気持ちが湧きつつあるとき、魔獣の上に人影が見えました。ロゼマリのマリにそっくりでしたので、あれが摩莉だと分かりました。髪は白銀のポニーテール、愛花さんとお揃いのTシャツに色違いの短パン姿です。

摩莉はそのまま魔獣の体の上の方に登っていきます。頭を攻撃しようと言うことでしょうか。けれど、摩莉がもう少しで頭に攻撃できそうというところで、魔獣が摩莉ごと体を地面に叩き付け、摩莉は魔獣の下敷きになって地面に叩きつけられてしまいました。そして、魔獣は怒りで興奮したかのように、起き上がるや否や摩莉のいる辺りを目掛けて黒い弾を乱射し始めたのです。

「あ、お母さん達が危ない」

摩莉が叩きつけられたところは運悪く母達の側でしたので、黒い弾は母達の方にも向かいました。母達は防御障壁を張ることで耐えようとしていましたけれど、黒い弾が何発か当たるとその防御障壁も割れてしまいました。そこに新たな黒い弾が飛んでいて、どうしようと思ったところで摩莉が黒い弾と母達の間に転移したのが見えました。でも、それだと今度は摩莉が危ない、と思う間もなく摩莉の前に防御障壁が現れ黒い弾を防ぎました。

え?誰が?と見ると人影が現れました。黒髪で頭の後ろで髪をまとめて簪を挿しているその姿は、灯里さんの護衛についていた筈の柚葉ちゃんのものです。柚葉ちゃんは浮遊陣の上に背筋を伸ばして立ち、空中で防御障壁を張って魔獣の黒い弾を防いでいました。

魔獣の黒い弾の攻撃は、それほど時間が経たないうちに打ち止めになったようで、その後、口を開けて柚葉ちゃんの方に襲い掛かろうとします。でも、その攻撃も防御障壁に阻まれ、それによって魔獣の動きが止まったところに、愛花さんが剣を打ち込みました。そこで魔獣は愛花さんに攻撃対象を変えて襲い掛かります。愛花さんは器用に魔獣の動きを避けながら、剣を打ち込み続けています。柚葉ちゃん達が何か話をしているらしく、愛花さん一人で戦っている状態でしたので、私は離れたところから魔獣に向けて光星砲を撃って愛花さんを援護しました。愛花さんは相変わらず魔獣に決定的なダメージは与えられてはいないものの、心なしか先程より動きが良いように感じます。この魔獣との戦いに慣れた、というにはあまりに早いように思え、軽い違和感を覚えました。

それから、その違和感は更に強まります。柚葉ちゃんと話をしていたらしい摩莉が、浮遊陣に乗って上空に昇っていくのが見えた時、愛花さんは魔獣とぶつかり合っていてそれは見えていなかったと思うのです。周りの状況把握もできず、誰の指示の声も聞こえないにも関わらず、愛花さんは魔獣から距離を取るように動き、それを支援するよう柚葉ちゃんが光弾を放ちました。そして愛花さんが魔獣からある程度のところまで下がると、まるで示し合わせていたかのように愛花さんと柚葉ちゃんの二人が同時に手を左右に広げ、そこから二人を結ぶ円孤が描かれたのです。そして、その二人の手先からその円に沿って淡い銀色の半透明な帯が何本も現れて、互いに編み上がっていったかと思うと、魔獣を縛り付けて拘束しました。見事な連携技です。出来過ぎなくらいに。

その時、頭上に力を感じて見上げてみると、摩莉が光星陣を展開していました。自分の周りに等間隔に六つの光星陣を。更に魔獣の方に向けて集束陣が二つ重なるように描かれています。そんなことをして体を痛めないのかと心配になりましたけれど、考えてみれば怪我をして以降、朱音はトラウマで光星砲すら打てなかったのです。いまこれだけの陣を描けているのは、トラウマを乗り越え、問題なく集束陣が撃てるという確信があってのことなのでしょう。

「良かったね、朱音」

そう思うと同時に、光星陣が輝き、集束陣に集まった力の光が増幅され魔獣に降り注ぎました。愛花さんと柚葉ちゃんの拘束を破れず、身動きが取れなかった魔獣は、集束陣の一撃に直撃されて、斃されました。

あれだけ苦労した魔獣も最後はあっけないものです。本部の巫女がそれだけ強いと言うことなのでしょうか。いえ、摩莉があの強力な集束砲を撃てたのも、柚葉ちゃんと愛花さんが魔獣を拘束したからです。思い返せば、柚葉ちゃんが参戦してから戦いの空気が変わった気がします。柚葉ちゃんは私達と同じ封印の地の巫女、夏の巫女の筈なのに、何かが違うと言うのでしょうか。

私がそんなことを考えている間に、上空にいた摩莉が柚葉ちゃんのところに降りていって、愛子さんもそこに駆け寄り三人で喜び合っていました。私はその光景をみつつ、歩いて母達に合流しました。母達はを言うと、魔獣が斃されて安堵しつつも、自分達では魔獣を斃せなかったことを残念がっているような微妙な雰囲気でした。

「いまは悔いていても仕方がありません。彼女達にお礼を言いましょう」

母はそう言うと、立って彼女達のところへ行き、お礼を言って頭を下げました。天音お婆さんも私も、母と一緒になって頭を下げて、感謝の気持ちを示しました。それに対して愛花さんは照れていましたけれど、摩莉は愛花さんの後ろで固まっています。その摩莉の様子を、私は無理も無いと思いました。だって、摩莉のことを朱音とは知らない母や祖母から頭を下げられているのですから。

そんな摩莉に、母が問いを投げかけました。

「あの、先程は、なぜ私の攻撃を止めたのですか?」

どうやら母が何か無理をしようとしているところに、摩莉が転移して来て止めたときのことを聞こうとしているようです。

「あの技は危険です。あれを使えば、体が焼かれて二度と強い力が使えず、魔獣と戦えなくなかったかも知れません。しかも、あの魔獣にどこまで通用するかも分からなかったのです。そんな状況であの技は使ってはいけません」

ああ、と私は思いました。摩莉は自分が以前怪我したときのことを重ねているのだと。きっと、母も当時の朱音と同じことをやろうとしたに違いありません。

「でも、そうしなければ琴音が、いえ娘が魔獣に倒されていたかも知れないのです。それを助けられると思えば、これから先魔獣と戦えなくなったとしても構いません」

私のことを思う母からすれば当然の行為だったのかも知れません。でも、摩莉はそうは思わないようで、母に食って掛かりました。

「構わないわけないでしょう。戦えなくなった瞬間、それまで助けてもらっていた恩も忘れて、役立たずだとか、無駄飯食いとか事あるごとに言われるようになるのよ。そんな風になるのを見過ごせるはずがないでしょ」

そうか、そんなことがあったのですね、朱音。

「そ、そんな筈は」

「そんな筈はない?随分とお気楽ね。だったら今からやってみる?魔獣と戦えない巫女がここの人達にどれだけ冷遇されるのか身をもって知ることができるわよ。私がどれだけ惨めな思いをして暮らしていたのか――」

言葉を途中で飲み込んだ摩莉の顔は、しまったと言っているかのようでした。本当はそんなことを言うつもりではなかったのでしょう。でも、きっと、自分が経験してきた辛い思いを母に味合わせたくない一心でのことだと私には思えました。

とは言え、摩莉の姿で言っても、母にはその真意は伝わらないことでしょう。私はある決意を胸に、静かに前に進みました。そして摩莉の言葉を引き取るように言葉を添えます。

「そうですよね、苦しかったのよね。ここから飛び出したくなるくらいに」

私は摩莉、いえ、朱音を見詰めます。それから視線を母の方に向けました

「ねぇ、お母さん。分かりませんか?見た目は違いますけれど、この()は朱音ですよ」

そして再び朱音に向き合います。

「ね?そうでしょう、朱音?」

私は朱音に近づき、その身体を腕でギュッと抱きしめました。

「本当に辛かったのですね。ごめんなさい、今まで何もしてあげられなくて。そしてお帰りなさい、朱音」

本部の巫女の正体を教えるのはルール違反かも知れません。けれど、いまここで言わなければ、朱音の想いが無駄になります。私にはそれは耐えられないことでした。

とは言え、私にしても母のことを言えた義理ではありません。朱音がこれだけの想いを抱えていたことに気付けていなかったのですから。私の腕の中で泣き出した朱音の泣き声を聞きながら、私は反省するとともに心の中で朱音に謝り続けたのでした。


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