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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-21. 蹟森への帰還、そして戦い

土曜日の朝、お店を出ると大久保から電車に乗って新宿に向かいました。柚葉ちゃんと話をしたときに、どうやって蹟森に行くかという話になり、結局皆で一緒に電車で行くことにしました。集合は新宿駅の改札の内側に9時半です。

私が集合場所に到着したのは集合時間より10分くらい早かったのですけれど、他の()達はもう集まっていました。どうやら一番乗りは灯里さんだったようです。初めての封印の地への訪問で、興奮して早く目が覚めてしまったそうで、灯里さんの蹟森行きへの意気込みを感じさせます。

灯里さんとは初対面でしたので、初めましての挨拶を交わし、それから皆で電車に乗って移動を開始、東京からは約二時間、一ノ関にはお昼過ぎに到着しました。予め実家には知らせてありましたので、父が車で迎えに来てくれていました。

車の後部座席には、灯里さん清華ちゃん柚葉ちゃんに乗って貰い、私は助手席に乗り込みました。車は市街地を抜け山の中に入っていきます。窓から外を眺めている灯里さんが、私に聞いて来ました。

「蹟森ってもうすぐですか?」

「あと二、三十分くらいでしょうか」

灯里さんは相変わらずのテンションの高さです。電車の中でも一番口数が多かったのが灯里さんでした。まあ、清華ちゃんは大人しいですし、柚葉ちゃんは必要以上のことは話そうとしませんし、私もどちらかと言えば聞き役の方が良いので、自ずと灯里さんが話す状況になっていたとも言えますけれど。そのため、電車の中では灯里さんの大学のことや仕事の話を色々聞かせて貰いました。私は朱里の様子が聞きたくて、灯里さんの仕事の話について質問したりしていました。一方、柚葉ちゃんは大学のことに興味を持ったのか、灯里さんの大学生活の話への喰いつきが良かったです。

車の中では、この辺りの名所旧跡の話を中心に、灯里さんの世界遺産好きのことや、先日の東北ロケのときの様子を聞いたりしているうちに、蹟森に到着しました。


蹟森に到着したときの灯里さんの興奮は大きくて、父が車を駐車場に入れるや否や外に飛び出して見学に行く勢いでしたけれど、柚葉ちゃんに引き留められ、引きずられるようにして母屋の方に連れて行かれました。こういうところ、柚葉ちゃんはしっかりしています。

灯里さんも一応常識は弁えていて、柚葉さんに諭されると素直にそれに従っていました。

とは言え、荷物を客間に運び入れ、リビングで私の家族との挨拶を済ませたところで我慢の限界だったらしく、柚葉ちゃんに見学の許可をおねだりしていました。柚葉ちゃんはやれやれといった感じでしたけれど、碧音お婆さんの「見に行きたいのなら、行ってくるがいいさ」という後押しもあって、灯里さん、柚葉ちゃん、清華ちゃん、私の四人で北御殿の見学に出ました。

まずは全体の建物の配置を見ようと言うことで、靴を履いて外に出て北御殿の前の広場に行きます。

「南に正門があって、南東に舞台、その北側に道場と母屋、正門の真北に御殿ですね。正門や母屋の形が違うけど、配置は南御殿と同じですね。清華のところも同じ?」

「はい、柚葉さんの言うように、正門や母屋の形は違いますけれど、配置は東御殿も同じですね」

「なるほど、だとすると西御殿も同じ造りかも知れないですね。フムフム。あ、琴音さん、写真撮っても良いですか?」

「自分の思い出用でしたら構いませんけれど、ネット上に掲載したり不特定の人に配ったりしないでくださいね」

「そんなことしませんよ。高校の頃から言われていて、ずっと守って来たことですから」

「そういえば、灯里さんは、清華ちゃんの高校の先輩でしたね」

「そうなんです。任せてください」

灯里さんはドヤ顔ですけれど、何を任せるのか私には良く分からなかったりします。でも、大丈夫かな、と思いました。灯里さんに明日の戦いを見せるかどうかについて、本部の方でも議論があったみたいですけれど、そちらも結局良いことになりましたし。

私の許可を得た灯里さんは、御殿のあちらこちらを写真に撮って回っていました。北御殿の敷地内と外から見て回った後は、建物の中を皆で連れ立って歩きました。灯里さんが目新しいものを見つけては写真に撮って質問をしてくる一方で、清華ちゃんや柚葉ちゃんは自分の実家とそれほど変わらないなという雰囲気でした。

その後は、北御殿の前に立ち並ぶ集落を見に行ったり、北の封印の地を取り囲む森に入ったりしているうちに暗くなり、実家の母屋に戻りました。


翌日、いよいよ大型魔獣と戦う日。決戦のときは、お昼過ぎということになっていました。

ただ、時間はこちらの都合に合わせて調整できるのですけれど、どんな魔獣が出て来るのかの情報は皆無で作戦らしい作戦を立てることが出来ていません。戦いの手順も大雑把なものしかなく、最初に冬の巫女が魔獣と戦い、それで駄目なら本部の巫女が加勢するというものだけでした。

時間になると、天音お婆さん、母、そして私の三人が北御殿の前に並びました。碧音お婆さんは戦うのは難しいとのことで、北御殿の中で待機して、いざという時には防御障壁を張って北御殿を守る役をお願いしました。灯里さんはどうしても戦いが見たいと言うので母屋の前にいて貰い、清華ちゃんと柚葉ちゃんは灯里さんの両脇に並んでいます。

北御殿の前の広場には、さらに蹟森の集落に住んでいる男の人達が盾を持って集まってきてくれていました。嬉しいことに私達が戦い易いようにチャンスがあれば盾で魔獣を抑え込んでくれるとのこと。私達は集まってきてくれた男の人達に感謝しながらも、危なかったら直ぐ逃げるようにと念押ししました。

皆が配置に着くと、母が厳かに開戦の宣言をしました。

「これから魔獣との戦いを始めます。皆さん、十分に注意して臨んでください」

それから母は、手に持っていた杖を上に掲げ、広場の真ん中に召喚陣を描いて起動させました。

すると、召喚陣を囲むように小さな竜巻が発生するとともに、その召喚陣の上の空間がゆがみ、ゆらっとしたかと思うと、黒い鱗に覆われたヘビのような魔獣が現れました。その魔獣は今までに見たことも無い大きさです。高さにして7~8m、全長は20~30mくらいでしょうか。これは相当な頑張りが必要そうに思いました。

その魔獣に向けて母が光弾を放ちました。事前の打ち合わせで、まずはどこまで攻撃が通用するかを試してみることにしていましたので、予定通りの行動です。しかし、堅い鱗に阻まれて、光弾ではまったくダメージを与えることでできません。

母は続けて光星砲を放ちます。それによって魔獣の鱗に傷を付けられはしたものの、ダメージを与えるには至りませんでした。どうやら苦戦しそうです。

母の攻撃は魔獣に対してダメージを与えられませんでしたけれど、敵認定はされたようで、魔獣が口を開けて私たちの方に迫ってきました。でも、それは防御障壁で阻むことができました。

「お母さん、どうしましょうか?」

「もっと強い攻撃をしないと駄目みたいね。私が集束砲を撃つから、琴音は魔獣の気を引いて貰える?」

「はい。だけど、お母さん、集束砲のときの光星陣は一つだけにしてくださいね」

「ええ、分かっているわ」

今回、魔獣と戦うにあたって、攻撃手段をどうするかを母達と考えました。以前、朱音が怪我をしたこともあって、集束砲を使うかを話し合い、使うにしても光星陣は一つだけにすると決めたのでした。事前に一度試していて、母は光星陣一つの集束砲は問題なく撃てることは確認済でした。

私は母に言われたように魔獣の注意を引くように攻撃を仕掛けました。そして母の撃った集束砲が魔獣に当たり、その身体の一部を抉りました。けれど、魔獣の再生力が強く、それほど間を置かないうちに傷を癒してしまいました。とは言ってもそれなりに母の攻撃は効いたようで、私が剣で攻撃してもなかなか私の方に魔獣の注意を引けません。

それだけ母の方に注意が向いているのであればと、今度は私が陣を描いて魔獣の頭目掛けて光星砲を撃ちました。その攻撃は、狙い通りに魔獣の頭を傷付けましたけれど、致命傷にはならず、追撃できないうちに再生してしまいました。

さらに悪いことに、魔獣が口から黒い弾を吐いて攻撃をしてきたのです。一瞬、防御障壁で防ごうかと考えたものの、危ない気がして後ろに下がって避けました。黒い弾は私がいたところにぶつかり、地面に大きな穴を開けるほどの威力がありました。咄嗟の判断でしたけれど、避けて正解でした。

魔獣の攻撃の威力を見て、男の人達は命の危険を感じたようで、北御殿の広場から逃げ出してしまいました。魔獣がこの強さであれば、仕方の無いことです。ともかく、魔獣の注意がこちらに向いたので、黒い弾に気を付けながらも魔獣への攻撃を続けます。どれだけ戦いを続ければ魔獣が疲れるかは分かりませんが、こちらは怪我をしていませんし、治癒を使って回復しながら戦えるので持久戦で行けば何とかなるかもと思っていました。

しかし、私が魔獣に攻撃を仕掛けているとき、母が再び集束砲を撃とうとしていたのを何者かが現れて邪魔したようです。私は戦いに集中していたので、探知の視界の片隅で誰かが現れたらしいことを捉えたに過ぎません。何が起きたかを知りたくても、母達の方からの攻撃が無いがために、魔獣は私の方に集中して攻撃を仕掛けてきていて、周りの状況を確認している余裕がありません。そんなとき、魔獣の目の前に別の人影が現れました。その人影は、現れるやいなや魔獣の頭目掛けて銀色に光る剣を打ち下ろしました。

「愛花さん」

その現れた人影はお店の常連である愛子さんのアバターの姿である、愛花さんでした。


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