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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
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5-10. 捜索

「お母さん大丈夫ですか?」

「ええ、少し眩暈がしただけだから」

母は、朱音の家出にショックの表情を隠せないでいました。私は一昨日に朱音の話を聞いていたからか、事態を多少冷静に受け止めることが出来ているようです。

「行動派の朱音らしいですね」

「琴音、何呑気なことを言っているのですか」

あ、心の中で呟いていたつもりが声に出して言ってしまっていたようです。

「朱音なら強いですし、大丈夫かなって」

「強ければ良いと言うものでもないでしょう。世の中、色々あるのだから」

「まあ、確かにそうですね。朱音は素直だし人が良いから騙され易いかも知れませんね」

「そうでしょう?貴女ももう少し心配しなさいな」

母の気持ちも分かりますが、まずは現状把握でしょうか。私は母の言葉に生返事をしながら、改めて朱音の部屋の中を見渡しました。

「えーと、ほとんどものを置いていっていますね。無い物といえば、いつもダンジョンに行くときに使っていたナップザックでしょうか。あと、リュックサックも。リュックサックに着替えを入れていって、あとはダンジョンで魔物を斃してお金を稼ぐつもりなのかも知れませんね」

「魔獣を買取に出しても、大したお金にはならないでしょうに」

「そうですけれど、その日食べる分くらいは何とかなると思いますから」

大型の魔獣ならもう少しお金になりますが、今の朱音が一人で大型の魔獣に挑む危険を冒すとは考えられませんでした。

「そうなると、ダンジョンに近いところということかしら」

「そうでしょうけれど、やっぱり人の多いところではないでしょうか」

「仙台とか?」

「仙台かも知れませんけれど、もしかしたら東京かも」

「東京?」

「ええ、役に立つことを探しに行ったのですから、東京の方が色々ありそうと思って行くかも知れないなって」

「東京なんかに行かれてしまったら、探し出すのも一苦労ね」

「いえ、その気になれば、割りと直ぐに見付かると思いますよ」

「どうやって?」

どうやら母は、まだ動揺が続いていて思考力が落ちているようです。冷静に考えれば思い付くのは難しくは無いと思うのですけれど。私は母を安心させるように微笑みながら答えを口にしました。

「花楓さんですよ」

「花楓さん?」

「本部の巫女は私達よりも強い力が使えますから。探知範囲も私より広い筈です」

「でも、広くても人が多いと大変では無くて?」

「だから花楓さんなんです。対象にマーキングさえしてあれば、人が多くても区別できますから。花楓さんなら、朱音のことはマーキングしていると思うのです」

「でも、花楓さんにはこちらからは連絡できないわよ」

「本部の事務局に連絡すれば、花楓さんに繋いで貰えますよ。ただ、今日は日曜日でお休みと思うので、連絡できるのは明日になってしまいますけれど」

「そうね。どちらにしても朱音が家を出たことは事務局に連絡しないといけないから、そのとき一緒に花楓さんと連絡が取れないか相談してみましょう。流石に一晩くらいなら朱音も大丈夫でしょう。明日の朝に事務局に電話してみます」

今後の対応について見通しが立ったことで、母にも冷静さが戻って来たようです。


翌日、私はいつも通り調理師学校に行きました。母は言っていた通り、午前中に事務局に連絡を入れたそうです。そして、私が家に帰ったときには花楓さんにも連絡が付いて、朱音を見つけて貰えたとのことでした。

「それでお母さん、朱音は何処でしたか?」

「東京にいたみたい。ただ、しばらく様子を見たいと事務局から言われてしまったの」

「様子を見てどうするのでしょう?」

「何か考えがあるみたいなのよね。今度の週末に花楓さんをこちらに寄越すって言ってたわ」

「それでは、花楓さんが来るまで待ちましょうか」

事務局が居場所を掴んで陰ながら見守っていてくれているらしく、心配は無さそうでしたので私達は週末に花楓さんが来るのを待ちました。

そして週末の午後、予告通りに花楓さんが家に来ました。いつも来るときと同じように、車を運転してです。前に花楓さんに、転移で来ても良いのではないですかと質問したことがあります。その時の答えは、車で来れば他の人にも花楓さんが来たことが分かるから、その方が良いということでした。確かに転移だと外の人には分からないですから、そういう考え方もあるのかと思ったのでした。

そして、私もまたいつものように玄関で花楓さんを出迎えて、リビングまで案内しました。リビングには、碧音お婆さん、天音お婆さんと母が待っていました。祖父と父も朱音のことは気になっていたのだとは思うのですけれど、巫女の集まりなので気を利かせて外に出ていました。

「花楓さん、いらっしゃい。こちらへどうぞ」

花楓さんと伴ってリビングに入ると、真ん中のソファが空いていて、母が花楓さんに座るように促しました。今日は朱音がいないので、私が食堂からお茶のセットを持ってきて淹れます。

「琴音ちゃん、お茶ありがとう。それから皆さんも今日はお時間いただいてありがとうございます」

「花楓さんがすぐに朱音を見つけてくれて良かったわ。それまでは本当にどうしようかと思っていたから」

母が話の口火を切りました。

「それで、いま朱音はどうしているの?」

「私が近くに行くと朱音ちゃんに気付かれてしまうと思うので、他の人に見て貰っているのですけど、大体は街中の様子を見たり、ダンジョンに行ったりしているみたいです。夜は、有楽町のあたりのインターネットカフェで寝泊まりしてますね」

「はあ、まったくあの子は何をしているのやら。それで様子は分かりましたけど、これからどうしましょう?」

「そのことなのですけど」

花楓さんは言い難いのか一旦言葉を切ると、姿勢を直して母の方を見なおしました。

「本部としては、このままそれとなく朱音さんを保護して、様子を見たいということなのですが」

「それってどういうお話なのかしら?」

「それとなく保護ってどういうことをするのですか?」

母が理解できていないようでしたので、私が代わりに聞いてみました。

「朱音さんを上手いこと誘導して、東護院家に関係している家に一時的に朱音さんを預かっていただく話をしています」

「東護院家って春の巫女の?」

話に追い付いて来た母が、花楓さんに問い掛けました。

「はい。東京には東護院家の息のかかった人たちがそれなりにいます。そこなら朱音さんのことも安心して預けられるとの考えです」

「それはそうですけど、そこまでしていただいてしまって良いのかしら?」

「本部としては、朱音さんが力で怪我をして以降、ずっと気にしていたのです。朱音さんが何かを見つけたいというのなら、それを支援したいと考えているんです」

「そういうことなら、分かりましたけど」

母はまだ気になることがある様子でした。

「そうは言っても朱音さんのことが気になりますよね。それで一つ提案があるのですが」

花楓さんが改まったように母を見詰める。

「何でしょう?」

「どなたか東京に行きませんか?」

「東京へ?」

母は、相談するかのように碧音お婆さんの顔を見ました。

「良いんじゃないのかい?誰かが朱音の近くにいた方が奏音(かなで)も安心だろう?」

勿論、奏音は母の名前です。

「でも、朱音がいなくなったのに、もう一人いなくなってしまって良いでしょうか?」

「それでも三人残るし、いざとなれば花楓さんが来てくれるだろう」

碧音お婆さんは意味ありげな視線を花楓さんに向けました。

「ええ、勿論、私も協力します」

少し焦り気味に花楓さんがフォローしました。花楓さんは碧音お婆さんに何か弱みを握られているのでしょうか。

「ほらな、花楓さんもこう言ってくれているし」

「お婆さんがそういうのでしたら、私は構いませんけど、誰が行くことにしますか?」

「そりゃあ、やっぱり琴音しかいないだろう?」

「私ですか」

話の流れから、薄々は感じていましたが、そういうことになりますか。

「東京に行くと言っても旅行とかではなくて、しばらく住むと言うことですよね?」

花楓さんを見ると、花楓さんは私の言葉を肯定するように頷いた。

「はい、朱音ちゃんのやることがすぐに見付かるとは思えないですし」

「それにここのところ魔獣の動きが少しずつ活発になってきているし、東京で情報集めてこちらに送って貰えると有難いな」

「碧音お婆さん、分かりました。私が東京に行きます」

「ああ、琴音、頼んだよ」

「琴音ちゃん、よろしくね。それで、東京に行くにあたっては、一度東の封印の地の春の巫女に挨拶しにいくと良いよ。住むところも相談に乗ってくれると思うから」

「はい、そうします。東の封印の地に行くのは、調理師学校を卒業してからで良いですよね?もう来週で調理師学校も終わりますので」

「それで良いと思うよ。春の巫女には私の方からそう伝えておくね」

花楓さんは、前には関東地方も担当していたので、春の巫女とは面識があるのですね。

「花楓さん、よろしくお願いします。私も行く日を決めたら先方に連絡入れますから」

そうして、私は春の巫女のところに挨拶に行くことになりました。


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