表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第5章 姉妹の絆 (琴音視点)
141/393

5-1. 日常の朝

「お姉ちゃん、今朝も魔獣はいないね」

妹の朱音(あかね)は、辺りを見回しながら私に問い掛けました。

「そうみたいね。でも、良かった。魔獣はいないに越したことないもの」

「そうだけど、戦えなくて詰まんない」

「何言っているの。戦わないに越したことは無いでしょうに」

「えー、だって魔獣と戦う時くらいしか思い切り力を使えないんだもん」

朱音は魔獣が見つからなくて不満そうな顔をしています。

今、朱音と私は朝の見回りに来ています。ここは北の封印の地、蹟森から西側にある山裾を登ったところです。蹟森は周りを森で囲われていて、その森のどこも人けが少ないので、時折ダンジョンから出て来た魔獣や、ダンジョンも無いのに出現するはぐれ魔獣が森の中にいることがあります。森自体は、あまり人が入ることがないので魔獣がいてもすぐに危険ということではありませんけれど、里に下りてくることもあるので早めに見つけて斃しておいた方が良いのです。なので、朱音と私は朝学校に行く前に森の中を回って魔獣がいないか確認するのが小さい頃からの日課になっていました。

私は北杉琴音(ことね)、北の封印の地を治める黎明殿の冬の巫女の一人です。短大に通っている19才。いま二年生で来年春には卒業です。妹の朱音も去年見習いから正式に冬の巫女になりました。いまは高校二年生の16才。黎明殿の巫女とは、この世界を外敵から護るために特別な力を与えられた人のこと。その力は親から子へと引き継がれていくのですが、何故か女の子の方にしか力は現れないそうです。そして、女の子でも力が発現しないこともあるのです。幸い私達姉妹には両方とも力が発現して、こうして一緒に魔獣探索をしたりすることができています。

黎明殿の巫女が治める封印の地は東西南北の四つがあります。私達は北の封印の地に住んでいますけれど、これまで他の封印の地の巫女に会ったことはありません。その代わりと言うものでもないですけれど、本部の巫女には知っている人がいます。本部の巫女は黎明殿本部に所属している巫女のことで、封印の地の巫女とは違って親から子へと引き継がれるものではありません。なのに何故かいる、不思議な人達です。その中で私が知っているのは、烏丸(からすま)花楓(かえで)さんです。本部の巫女は何人かいますが、担当地域を分けて活動しているそうです。花楓さんは以前は関東地方と東北地方の両方を担当されていたのですけれど、8年前に関東地方は別の人が担当することになったとのことで、それ以降、東北地方専門になりました。花楓さんはしばしば北の封印の地に足を運んでくれて、東北地方の他の地域や、さらに他の地方の状況などを教えてくれます。それに料理上手で、色々な料理を作ってくれました。そんな花楓さんの影響もあって私は短大に入るときに栄養学を選びました。卒業するときには栄養士の資格が取れる予定です。

さてと、話が随分と横に逸れてしまいました。朱音はいつもの魔獣探索に出たものの、魔獣に遭遇せず物足りないのでしょう。しかし、それが普通です。そんなにしょっちゅう魔獣に出会うような世の中になっては、危なくて仕方がありません。

「そんなに魔獣と戦いのなら、今度ダンジョンに行きましょう」

別にダンジョンは朱音の鬱憤晴らしの場所ということではないのですけれど、偶には発散させてあげないと可哀そうですからね。

「本当?行こう、行こうよ。お姉ちゃんありがとう」

朱音はポニーテールの髪を揺らして喜びながら飛び跳ねています。朱音は小さい頃は髪をショートにしていましたけど、中学生から伸ばし始めてポニーテールにするようになりました。

「どういたしまして。それで朱音の探知にも魔獣は引っ掛かっていないのよね?」

「うん、何も。お姉ちゃんの方もだよね?」

「ええ」

探知は巫女の力の使い方の一つで、目では見えない遠くの魔獣を見つけることができます。探知範囲は大体数kmでしょうか。朱音も私も大体同じくらいの範囲を探知することができます。巫女の力は色々使えて、他にも身体強化や治癒や加熱など。でも、封印の地の外に出た時は人前では使わないように厳しく言われていて、朱音も私もその言いつけはきちんと守っています。

「それでは、今朝も魔獣は見付からなかったということで家に戻って朝ご飯にしましょう」

封印の地の周りの森を一周し終えたところで、私は朱音にそう促しました。

「そうだね。ご飯を食べて学校に行かないと。今日の一限は何だったかな?えーと、今日は水曜日?」

家の方に向かいながら、朱音は今日の授業のことを考え始めたようです。

「そうですね。水曜日ですよ」

「じゃあ、一限は英語か。あ、しまった、英語の予習忘れてた」

「あらあら、だったら早く帰らないと」

「今から急いで帰っても、家を出るまでには終わらないから良いよ。学校に行きながらやる」

「まったく仕方がない人ですね」

のんびりした会話をしてはいますが、実際のところは身体強化を掛けて走っています。森の中の巡回路は、私達の探知範囲に合わせて家から大体2kmくらい離れています。巡回路から家まで、普通に歩くと20分以上掛かってしまいますから、いつも身体強化を掛けて走っています。それで5分くらいで家に着けるのです。

家に着くと軽くシャワーを浴びてから出かける服に着替え、食堂に行きます。食堂では祖母と母が朝食の準備をしていて、父は食卓で新聞を読んでいました。

「お父さん、おはようございます」

「ああ、琴音、おはよう」

朱音と私が巡回に出るときに顔を合わせていなかった父に挨拶をすると、朝食の準備の手伝いに向かいます。そして朝食の準備が整う頃に朱音がやってきました。

「それじゃ、朱音も来たし、朝ご飯を食べましょうか」

母の声で皆が席に着いて一緒に食べ始めました。学校までの通学時間が掛かるので、朝食は7時前と早いのですがいつも家族一緒です。私が高校の頃は、朝、父か母に学校まで車で送っていって貰っていて、その頃からの習慣です。

ご飯を食べ終わると、軽い化粧とセミロングの髪をとかして、出掛ける準備を手早く整え、いつでも出られるようにしてリビングで朱音を待ちます。朝は大抵朱音の方が遅いのです。朱音はお化粧はしていないのですけれど、さっきの話からすると、今日使う教科書などを鞄に詰めているのではないでしょうか。

「ごめん、お姉ちゃん、待たせちゃったね」

「まだ十分間に合いますから大丈夫ですよ。それでは行きますか?」

「うん、行こ。お母さん、行ってきまぁす」

「はい、二人とも気を付けて行ってらっしゃい」

「行ってきます」

母に見送られて朱音と一緒に家を出ます。

私は朱音と家の裏手に置いてある車のところに行きます。家の裏手と言っても玄関も裏手なので、家を出てすぐのところです。私の家は黎明殿の北御殿の敷地の中にあるのですけれど、御殿側を表、御殿とは反対側を裏手と呼んでいます。御殿に出入りし易いように表側にも家の出入り口はあります。でも、そちらの方は玄関というより通用口みたいな造りになっています。

私の車は軽自動車です。遠出はしないですし、小さい方が小回りが利く上に、何よりガソリン代が安いですからね。でも、きちんと雪国仕様で四輪駆動になっています。車の運転免許は高校三年のとき、18才になると直ぐに自動車学校に通って取りました。そして短大に合格したときに朱音の送迎をすることを条件に両親に車を買って貰いました。私の短大がお休みでも、朱音の学校があるときはわざわざ送り迎えしないといけませんけれど、そんなことはあまりなくて、いつも朱音と登下校とも一緒に車で移動しています。

私は車の鍵を開けると、運転席に乗り込みました。朱音も助手席に入ってきます。

「ちゃんとドア閉めて、シートベルトもしてね」

「うん、やった」

エンジンを掛けてから、安全を確認して車を出します。そのまま裏手を進んで車用の出入り口から道路に出て、一関に向けて車を走らせます。

車が走り出すと、朱音は鞄から筆記用具に辞書に教科書を取り出し、英語の予習を始めていました。

「朱音、そんなことしていて酔わないでよ」

「大丈夫だって、私酔ったこと無いから」

「そう願うわ」

私は朱音の予習の邪魔をしないように黙って車を走らせました。

時は四月の下旬、桜の花が咲いて新緑が芽吹く季節。今のような穏やかな日常がいつまでも続いて欲しいと思うのでした。


第五章が始まりました。朱音高校生、琴音短大生のところからです。

本章は、これまでの集大成という意味も兼ねて、悩みながらも力を入れて書いてます。

お楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ