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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-34. 超大型魔獣

その日は四日後にやってきた。前日までに、藍寧さんは魔獣避けの魔道具を秋田と酒田に配置し終わり、後は召喚陣で呼び出すだけの状態になっていた。姫愛と私は、支援が必要になるときまで待機ということで、どこで待機しようか相談したが、結局、高速道路のサービスエリアまでバンで行って、そのときまでバンの中で待機することにした。バンは、春の巫女の清華ちゃんのお父さんが用意してくれた。どうやら、清華ちゃんのお父さんは本部の権限強化プロジェクトの協力者らしい。運転手も清華ちゃんのお父さんの関係者で、ちゃんと話をしてあるので、私たちが突然消えても大丈夫だそうだ。

現地である北の封印の地には、清華ちゃんと柚葉ちゃんが向かった。最初は事務局に出入りしている清華ちゃんだけでという話をしていたらしいのだが、灯里ちゃんがどうしても行きたいということで柚葉ちゃんも護衛として付いていくことになったのだそうだ。

まあ、灯里ちゃんは封印の地に行きたがっていたからね。魔獣の出現を予測したのだから行く権利があるとか主張したのだろう。危険だと分かっていても行こうとするなんて、余程行きたかったに違いない。不幸中の幸いというか、出現予定日が日曜日だったので、清華ちゃんと柚葉ちゃんは学校を休まずに済んだ。

魔獣の出現はお昼過ぎということになっていた。私たちは朝、都内の集合場所に集まり、昼前には予定していたサービスエリアに到着し、そこでお昼を食べながら時間を待った。藍寧さんとの話の通り、姫愛と私は集合したときからアバターの姿、つまり愛花と摩莉だった。服装は派手にすると反感を買うかも知れないことを心配して、普通にダンジョンに行く戦い易い服装でという指定だった。でもせっかくのリアルのロゼマリペアのデビュー戦なので、姫愛と買い物に行き、お揃いのロゼマリのキャラクターTシャツに色違いの短パンを用意した。Tシャツに合わせて私達の髪型もロゼマリと同じにした。私はポニーテールだし、愛花(姫愛)は髪を頭の両側でお団子にしている。小さな銀の花の付いたヘアピンは、おまけで付けたらしい。愛花の銀色の髪に良く似合っている。

このロゼマリの扮装をするにあたっては、姫愛と私の間で議論があった。姫愛は二人一緒で参加する最初の戦いなのだから絶対ロゼマリの格好が良いと言い、私は灯里ちゃんがいるから止めておいた方が良いと主張したのだ。そして、結局私の方が折れた。まあ、確かに記念すべき初戦だから、私も後で後悔したくは無いと思ったのだ。きっと、灯里ちゃんには突っ込まれるけど、頑張ってしらばっくれようということにした。それもまた良い思い出になると信じて。

とはいえ、サービスエリア内では心配だったので、二人ともサングラスをしていた。勿論、髪の色は銀色に変えないようにして。

そうして、サービスエリアで過ごすうちに約束の時間の近くになったので、私たちはバンの中に入り、探知で北の封印の地の様子の確認を始めた。

「超大型の魔獣なんて、ドキドキするね」

「どんな相手かも分からないのに、愛花は余裕だね」

「そりゃあ不安もあるけどさ、心配してても始まらないし」

「まあ、そっか」

藍寧さんとの話で、魔獣は北御殿前の広場に出現させることになっていたので、私たちはその広場を中心に探知で確認していた。その探知によると、広場を囲むように人が並んでいるのが分かった。力を感じないので、普通の人のようだ。持っているのは盾だろうか。魔獣の出現に備えているのは分かるが、超大型の魔獣相手に普通の人が盾だけで抗いきれるのだろうかと心許なさを感じる。

そして、時間になると、北御殿の横の母屋から人が何人か出て来た。

「摩莉、人が出て来たね。柚葉ちゃん、清華ちゃんと灯里ちゃんは分かるよ。あと琴音さんがいる。そうか、琴音さんて、冬の巫女だったんだ」

「琴音さんって、愛花(姫愛)が良く行く喫茶店の店長さんの?」

「そうそう、喫茶店のって、あれ?そのこと摩莉(陽夏)に話したっけ?」

「前に話してくれたと思うけど」

「そうだっけ?ともかく、琴音さんが巫女なのは知ってたけど、でも、いつ戻ってきたんだろう?」

「愛花が話したんじゃないの?」

「ううん、話してないよ。私は清華ちゃん、柚葉ちゃん、藍寧さんと話しただけだから」

「じゃあ、どこからか伝わったんだね。清華ちゃんや柚葉ちゃんは同じ季節の巫女だから琴音さんのことを知っているんでしょ?」

「うん、そうだね。清華ちゃんも柚葉ちゃんも琴音さんのお店に出入りしているから、そっちから伝わったんだね。それで、あと二人いるけど、その人達も冬の巫女かな?」

「そうじゃない?」

琴音さんを含めた冬の巫女三人が前に出る。柚葉ちゃん、清華ちゃんと灯里ちゃんは安全のためだろう、後ろに残っていた。巫女の三人は武器を持っているようだが、何だろう?探知(遠隔探知)だと、武器の種類までは良く分からない。何となく、二人は剣を持っているようだが、残りの一人は杖か?槍か?

「ねえ、摩莉。杖の人って遠隔攻撃専門ってことかな?」

「え?愛花はあれが杖って分かるの?」

「分かるよ。お師匠様に随分と近接探知を鍛えさせられたからね」

「近接探知?」

「そうだよ、近接探知。摩莉も知ってるでしょ?探知には遠隔探知と近接探知があること」

「知らないよ。探知って今みたく遠くにいる人や魔物を見つけるものでしょ?」

「それは遠隔探知だよ。近接探知はまた別」

「ええっ?でも、愛花だって探知陣は一つしか使っていないよね?」

「だって、同じ探知陣で遠隔探知も近接探知も起動できるから」

「そうなんだ。知らなかったよ」

私がショックを受けている間にも、事態は進行していた。

冬の巫女達が北御殿の前から20mほど前に出たところで立ち止まる。

そこで魔獣を呼び出したのだろう。広場の真ん中に魔獣が出現したのを感じた。

「お、大きい」

愛花の声が漏れていた。確かに大きそうだ。けれど、私の探知(遠隔探知)では、どれだけ大きいか判断付かなかった。

「ねえ、愛花。私、向こうに行きたいんだけど」

「え?まだ早くない?」

「探知だと良く分からないんだもん」

「そっか。でも、戦いに参加するのは不味くない?」

「だから、北御殿の屋根の上はどうかと思って。魔獣が出てきてるし、私達が北御殿の屋根にいても、きっと誰も気づかないよ。どう?」

「うん、良いよ、分かった。摩莉が先に行って?」

「そうするから、愛花も付いて来てよ」

私は急いで北御殿の屋根の上に転移した。続いて愛花も転移してきた。

ここからなら良く見える。出現した魔獣は、上野で見た魔獣の倍以上は大きいヘビのような魔獣だった。その身は、堅そうな黒い鱗で覆われている。

杖を持った巫女が光弾を放つ。力を蓄えているように見えた強く白い光の弾は、黒い鱗で弾かれて魔獣を傷付けることはできなかった。

「光弾は通じないみたいだね、摩莉」

「そうだね。これだと、光星砲でも怪しいね」

「あ、でも、撃つみたいだよ」

愛花の言う通り、先程光弾を放った巫女が右手を前に出し、その前に光星陣を描いていた。その光星陣のところに光が生まれ大きくなると、魔獣に向けて光線が発射される。今度は、鱗に傷を付けられたようだった。しかし、魔獣にダメージを与えるにはまだ弱かった。

杖を持った巫女は、次の攻撃に移ろうとしたが、それまで様子を見ていた魔獣が巫女の方に動き出し、口を開いて巫女たちに襲い掛かろうとした。巫女たちは咄嗟に防御障壁を張って攻撃を防いだ。どうやら防御の方は大丈夫らしい。

柚葉ちゃん、清華ちゃんは灯里ちゃんと一緒に後ろに下がったままだった。柚葉ちゃんが参戦すれば勝ててしまいそうだけど、北の封印の地なので下手に手を出さない方が良いと考えているのか、清華ちゃんと一緒に灯里ちゃんの護りに徹するのだろう。清華ちゃんと柚葉ちゃんの二人がいれば、灯里ちゃんは安心だ。

三人の巫女の方はというと、防御障壁を張って魔獣と睨み合っていた。杖を持った巫女が何か指示をしたらしく、魔獣を向いて左側に立っていた琴音さんが剣に力を乗せて前に飛び出した。

「琴音さんが攻撃に出るみたい」

「そうだね。心配だから、愛花もいつでも出られるようにしてて」

「任せておいて。ここからなら目の前だし、いつでも大丈夫だよ」

琴音さんは魔獣を攻撃していたが、魔獣の体全体を覆っている堅い鱗に苦労しているようだ。ただ、琴音さんは攻撃を続けることで、魔獣の注意を引くことには成功している。琴音さんが戦っている脇で、杖を持った巫女が杖を魔獣の方に向けて構えて、杖の先に作動陣を二つ描いた。手前が光星陣、その先のものは集束陣、そう、集束砲を放とうとしていた。杖を持った巫女は、集束砲を放つのに集中し、右脇で控えている巫女が、魔獣からの攻撃に備えているようだった。だが幸いなことに、魔獣の注意は琴音さんから逸れることが無かった。そして杖を持った巫女が集束砲を放つ。

集束砲は、魔獣の鱗を破り、体の一部を抉った。ただ、そこまで深手にはなっていない様子だった。それに、何と鱗が再生している。琴音さんが傷口に剣を挿して力を放ち、傷を拡げようとしていたのだが、徐々に周りから鱗が再生し、傷口を塞いでしまった。

「えー、鱗が再生しているよね。反則じゃないの?」

愛花が不満そうな声を上げている。まったくその通りだ。

「うん、困ったね。相当強力な攻撃を当てて、一撃で斃さないといけなさそうだよね」

「琴音さん達にできるかな?」

「あの魔獣を一撃で斃すのは難しいんじゃないかな?でも、他にも斃す方法があるかも知れないから、もう少し見よ」

琴音さん達は戦いを続けていた。しかし、先程の攻撃で杖を持った巫女が強敵と認識されたようで、琴音さんが攻撃しても琴音さんの方に気を取られることがなくなってしまった。そのために、琴音さんともう一人の剣を持った巫女とで、杖を持った巫女を護る形になっている。これだと、杖を持った巫女が落ち着いて集束砲を撃てず、防戦一方だ。

魔獣の執拗な攻撃を受けて、杖を持った巫女は攻撃準備を諦めて防御に入った。それを見た琴音さんが二人の巫女から距離を取るように移動し始めた。そして、魔獣の攻撃圏から離れると、剣先を魔獣に向けて構えて光星陣を剣先に出現させた。

「今度は琴音さんが撃つみたいだね」

「うん、魔獣の注意が逸れている今がチャンスだからね。あれ?でも、琴音は集束砲じゃなくて単発の光星砲みたいだけど」

確かに愛花の言う通りだった。剣先の向きからすると、琴音さんは魔獣の頭に当てることを狙っているみたいだ。魔獣は、巫女を攻撃しようとして堅い防御障壁に何度もぶつかっている。そのタイミングを見計らったかのように、琴音さんが光星砲を放つ。光り輝く光の帯は、狙い通りに魔獣の頭を直撃した。魔獣の頭を覆っていた鱗の一部が破壊され傷付いたが、魔獣が大きく頭を振ったため、追撃できなかった。

「二発入れられなかったのは惜しかったけど、琴音さんの光星砲はさっきの集束砲より強くなかった?」

「そうだね。何でだろう?」

魔獣の動きを捉えられず琴音さん達が攻撃しあぐねているうちに、魔獣の頭の傷は再生してしまった。そして魔獣は再生するだけでは収まらず、琴音さんを強く睨みつけた。心なしか、魔獣の体の周りに黒い靄のようなものが纏わりついているように見える。魔獣は口を開けると、黒い弾を琴音さんに向けて飛ばした。琴音さんがバックステップでその弾を避けると、黒い弾は地面に激突して爆発し、大きな穴を開けた。

「あれ、直撃すると危いよね」

「そうだね。防御障壁が耐えられるかどうか分からない」

そして、もちろんただの盾では役に立たない。琴音さんの後ろに並んでいた盾を持った男の人たちは魔獣の射線から避けるように逃げ出し始めた。


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