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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-31. 東北ロケ

しばらくは何事もなく日々が過ぎていった。

何もイベントが無かったのではない。灯里ちゃんが、また魔獣の出現を予測した。だけど、灯里ちゃんのマークが厳しくて、姫愛も私も動くことができず、魔獣の討伐は事務局にお願いして他の巫女を派遣するようにお願いした。何が起きていたかというと、魔獣の出現当日が、天乃イノリとロゼマリのコラボ企画の収録日となってしまったのだ。そして、収録の当日、早くから事前準備と称して灯里ちゃんとの打合せが設定されたりして、仕事から離れられない状況に陥っていたのだった。

どうもこれ、灯里ちゃんが働きかけたらしいんだよね。温和そうな感じなのだけど、執念深いところがあるのだろうか。良い子なんだけどね、本当に。

とは言っても、天乃イノリとのコラボの動画収録は楽しかった。女三人寄れば姦しいとは良く言ったもので、賑やかなトークに、ゲーム対戦に、それではそれで夢中になった。その会話の流れで、今度一緒にロケに行くことになった。

「ロゼやイノリちゃんは、何処か行きたいところあるの?」

「ロゼはやっぱり、テーマパークとか遊園地?」

「浦安とか大阪とか長崎?」

「そうそう」

「何かロゼらしいね。それで、イノリちゃんは?」

「私はですねぇ、いま世界遺産がマイブームなのです」

「へぇ、世界遺産ってどこにあるの?」

「実はみんな良く知っているところなんだよね。例えば、広島の原爆ドームとか、広島の厳島神社とか、姫路城とか、白川郷と五箇山の合掌造り集落とか」

「そこは知ってるけど、世界遺産だったんだ」

「そうなんですよ」

「え?で、イノリちゃんは、世界遺産巡りしているの?」

「そこまで気合いが入っているわけじゃないんだけど、たまに気が向くと行ってたりします」

「それで、今度はどこに行きたいとかあるの?」

「そうですねぇ、平泉とかどうですか?」

「平泉かぁ。一ノ関の少し先だよね。奥州藤原氏で有名な中尊寺とか」

「そうです。良く知ってますね」

「まあ、ちょっとね。ロゼはどうなの?」

「知らないけど、みんなで行けるなら楽しそうだから良いよ」

いや、高校の授業で習ったよね。あ、日本史取ってないのかな。まあいいや。

「私も他に行きたいところないし、平泉で決定ね」

「おー」

皆で盛り上がって、平泉を中心とした東北ロケをすることが決まった。



その東北ロケが敢行されたのは、コラボの収録の後三週間ほどが経ってからだった。

当日は、朝早く集合して車で移動した。集合は、朝6時半に新宿。最近、起きるのが遅くなってきていたので、時間通りに起きられるか緊張してしまい、中々寝付けなくて苦労してしまった。姫愛は夜型なので、集合場所が家から近かった割には集まったときに辛そうな顔をしていて、姫愛には申し訳ないけど笑ってしまった。

新宿を出てから東北道に入って北上、途中サービスエリアで休んだり、お昼を食べたりしながら進んで、13時半くらいには一ノ関エリアに到達した。宿に入るにはまだ早いので、少し観光をしようということで、厳美渓に向かう。緑の木々が生い茂る中に聳える切り立った岩の間を流れる川の姿は、とても雄大な眺めだった。

時間もあったし、せっかくだからと川下りの舟に乗る。舟の上からだと岩々を見上げる形となり、そのどっしりとした佇まいに圧倒された。

90分の船旅を終え、厳美渓の風景を堪能した私たちは、平泉の宿に向かう。宿に入ると部屋割りが行われて、姫愛と灯里ちゃんと私が同室になった。姫愛と内緒の話はできないけど、灯里ちゃんと一緒なのは嬉しい。

部屋に入って一休みしてからお風呂に入る。姫愛は風呂上りに卓球をやりたがったが、残念ながらこの宿には卓球台は無かった。姫愛は、卓球を特訓してきたらしいんだけど、それってアバターを使っての練習のことじゃないよね?テニス並みに上達すると、相当強くなっていると思うけど、宿の卓球にそこまで入れ込まなくても良いんじゃないかなぁ。また、灯里ちゃんに怪しまれることになってしまうんじゃないかと心配になった。ともかく、ここには卓球台が無くて助かった。

お風呂の後の夕食は、地元で採れる山菜などを使った和食料理だった。お米も勿論地元産で、炊き加減が丁度で味わい深く美味しかった。食事を食べ終わった後も、しばらく食堂で話をしていたが、食堂の閉まる時間が来たところでお開きとなり部屋に戻った。

部屋は三人だけど、女子三人だから部屋に戻っての会話も途切れることがない。しかし、折角女子だけだからと恋バナしようとしてみたけど、誰も浮いた話が無くてそのときだけ沈黙があった。勿論、私は生活するのに精いっぱいで、それどころではない。

話をしながら、姫愛と私は酎ハイを飲んでいた。灯里ちゃんは未成年なのでジュースだ。とはいえ、姫愛も私もそんなに酔っ払ってはいない。酔っ払った状態というのは、状態異常の扱いのようで、治癒を掛けると酔いが飛んでしまうのだ。体に力を流すだけで治癒は自動で掛かってしまうので、お酒を飲むときは体内を流す力を弱めにして、程よい酔い加減を維持するのだポイントだったりする。

さて、話はロケのことになり、平泉を選んだ理由についての会話になった。

「灯里ちゃんは、世界遺産巡りがマイブームって言うのはこの前聞いたけど、どうして今回平泉を選んだの?」

「それは、私の大学のことに関係するんです」

「大学?」

「はい、私、今年大学に入ったんですが、その学科は地球科学科と言って、地球に関する色々なことを科学するところなんです」

「うん、何か面白そうだね」

「面白いですよ、実際。その中でも私が特に興味を惹かれるのが、日本の書物や遺物から昔に何が起きたのかを科学的に検証する研究と言うのがあるのですけど」

そこで、灯里ちゃんの言葉が止まった。何か躊躇するようなことがあるのだろうか。灯里ちゃんは、言葉を切ってから下を向いていたが、意を決したかのように顔を上げて私たちを見た。

「その研究が主要な題材としているのが、黎明殿なんです」

「え?」

思いもかけないところで、黎明殿の名前が出て来たので、固まってしまった。

「黎明殿の昔の出来事について研究しているってこと?」

「はい、そうです」

そんな研究をされていることは聞いたことが無かった。でも、黎明殿の昔のことは、実は余り伝わっておらず、分からないことも多い。そういう意味では興味がそそられる研究ではある。

「灯里ちゃんは黎明殿がどんなものか知っているの?」

「私は見たことがないですけど、高校には黎明殿の巫女の人がいましたから、説明を受けたことがあります。そういう陽夏さんも黎明殿を知っているんですよね?どうして知っているんですか?」

あ、不味い。うっかり黎明殿を知っている人間としての聞き方をしてしまった。

「いや、知り合いに黎明殿ことを知っている人がいて、その人から教えて貰ったことがあって」

「あ、そうだったんですね」

何とか誤魔化せたのだろうか。お願いだから、突っ込まないで欲しい。でも、こちらからは質問したくなってしまうところが辛い。

「あの、もし良ければだけど、灯里ちゃんが知っている黎明殿の巫女の人が誰か教えて貰っても良い?」

「良いですよ。私、今年の3月までは督黎学園という高校に通っていて、私が三年生のときの一年生に東護院清華さんという子がいたんですが、その子が黎明殿の巫女だったんです」

「へぇ、灯里ちゃんも清華ちゃんの知り合いなんだね」

姫愛が会話に参加してきた。

「私もってことは、姫愛さんもですか?」

「そう。私がダンジョンの探索ライセンスを取ったときに、ダンジョンの入り方が分からなくて困っていたら、清華ちゃん達が誘ってくれたんだ」

「そんなことがあったんですか。それっていつ頃です?」

「うーんと、今年の五月の終わりくらいかな?」

「あ、私が卒業した後ですか」

「そうそう」

私は、柚葉ちゃんのことにまで話が飛んでしまうと崎森島のことや話したくないところまで話が広がりそうで冷や冷やしながら聞いていたが、姫愛は柚葉ちゃんのことまでは言及しなかったので助かった。それで、私は自分の聞きたいことに話を変えてみる。

「ねえ、灯里ちゃん。話戻しちゃって悪いけど、黎明殿で昔に起きたことについては、何か聞いた?」

「えーと、そうですね。いまは黎明殿の御殿は、四つの封印の地にあるだけですけど、昔は中央御殿というのがあったらしいです」

「え?中央御殿?そんなのがあったんだ」

私は中央御殿のことは聞いたことが無い。

「ええ、それで、聞いた話ですけど、中央御殿は今もあるかも知れないって」

「そうなの?でもどこに?」

「それが謎なんです。でも、そういう謎って解きたくなりますよね。とてもワクワクしちゃいます」

「うん、とても興味が湧くね」

この話題への喰いつきが良すぎると、巫女かもと疑われる可能性もあるので、なかなか強く言えないけど、自分に関係する謎なんて、気にならないわけがない。

そこで、ふと冷静な自分に戻る。あれ、これ何の話だったっけ?

「それで、平泉を選んだ理由なのですけど」

私の想いが通じたのか、灯里ちゃんの話が戻った。

「この辺りに、封印の地があるらしいという話を聞いて、出来ることなら見に行きたいなって」

あー、そこに繋がっていたのか。

「灯里ちゃんは封印の地が何処にあるのか知っているの?」

「いいえ、知りません。一般には公開されていないですし、許可した人しか辿り着けないらしいって聞いてます」

何だ、そのことは知っていたんだ。

「行けないって知ってて選んだんだね」

「少しでもどういうところにあるか知りたくて。それにここには世界遺産もありますから」

「そうだよね。少しでも近くに行きたいって気持ちは分かるよ」

「分かって貰えて嬉しいですっ」

灯里ちゃんが笑顔になった。

私たちはそれからも話を続け、そして、夜は更けていった。


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