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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-28. 克服

「柚葉ちゃん」

トラのような大型の魔獣を斃した後始末をしてから、私はお願いモードに入った。

「なんでしょう?」

「既にアバターだと何気なくやっても強い力が出せることは分かったんだけど、試してみたいことがあるんだよね」

「陽夏さんが体を壊して力を使えなくなった原因のことですか?」

「そう。同じことをやって、問題ないってことを確認したいんだけど?」

「トラウマの克服ですね。構いませんけど、摩莉さんは大丈夫ですか?」

「故郷の問題を決着付けるためにも、いまならできるってことを確かめておかないと。だから、覚悟決めてやるよ」

「それで陽夏さんが体を壊したのは何をしたからなのですか?」

「三連星集束砲を撃とうとしたんだよね」

「三連星集束砲?」

「柚葉ちゃん、光星砲とか集束砲は分かる?」

「光星砲は分かりますけど、集束砲は知らないですね」

「集束砲は、光星砲を束ねて強力な光の束にする砲撃なんだ」

「実際にはどうやるのですか?」

「集束陣を用意して、そこに光星砲を当てて発動させる」

「作動陣を重ねて使うんですね。面白そうです。標的になりそうな魔獣を探しましょう」

どうやら柚葉ちゃんの探求心をくすぐったようだ。

「丁度良さそうな魔獣がいます。あちらに行きましょう」

早速柚葉ちゃんはターゲットを見つけて移動し始めた。

「ねえねえ、摩莉。その三連星集束砲って強そうな名前だけど、本当に強力なわけ?」

「そうだよ。力が強すぎて、体を力で焼いちゃったんだよね。だから、使うのは怖いんだけど、怖がるだけだと先に進めないから、頑張ろうって思ってる」

「別に無理しなくても、十分強いと思うんだけど」

「それはそうだけど、昔失敗したことがきちんとできたら、先に進めると思うんだ」

「分かったけど、気を付けてね」

「ありがとう、愛花」

本当、こういうとき愛花は優しいんだよね。

愛花と私は話をしながらも、先に行く柚葉ちゃんに付いていっていた。10分ほど歩くと目的地にたどり着いたのか、柚葉ちゃんの歩みが止まった。

「あの魔獣なんかどうですか?」

柚葉ちゃんに示された先には、サイみたいな大型の魔獣がいた。皮が厚くて貫通させるのが大変そうだ。

「うん、良さそう。じゃあ、やってみようか」

ふと、手に持っている剣を見た。剣は要らないかな?

「どうしましたか?剣じゃない武器が欲しいのですか?」

「良く分かったね。そう、槍か杖があればと思って」

「槍ならお貸ししますよ」

柚葉ちゃんが槍を呼び出して私に差し出してくれた。私は剣を送還して、柚葉ちゃんから槍を受け取った。

「それじゃあ、行くね」

私は二人から離れて、少し魔獣の方に近づいた。複数作動陣を起動するので二人から距離を取りたかったのだ。

二人から十分距離を取ったあと、私は槍を構える。槍は無くてもできるのだけど、この方が照準を合わせやすい。槍の前に集束陣を、自分の左右と上に合計三つの光星陣を描く。そう、以前はこれらの光星陣から集束陣に向けて光星砲を放ち、集束陣にあたったところで、強い力が体を流れて体を焼いたのだった。そのことを思い出して怖くないと言ったら嘘になる。とはいえ、ここで止まってしまったら、前には進めない。私は腹を決めてすべての光星陣に力を籠め、集束陣に向けて光星砲を撃った。それら三つの光は集束陣で束ねられ増幅され、強い光の束が螺旋を描きながら魔獣に向けて放たれる。そしてその光の束は、そのまま魔獣の体を貫通し即死させ、後ろにあったダンジョンの壁も大きく抉った。

「え?」

三連星集束砲を放った私自身、唖然としてその抉れた跡を見た。体を強い力が流れたようにも思うが、まったく抵抗がなかったので、実感が伴っていない。

「おおおっ、摩莉、凄い、撃てたね、おめでとう。だけどこれ、滅茶苦茶強いよね。ダンジョンの外で撃つのは危ないんじゃない?」

「うん、私もいまそう思った」

「とても面白かったです。光星陣と集束陣以外にも組み合わせられるものがあるかも知れないですね。色々試してみたいです」

ん?柚葉ちゃんの興味は別のところにあるみたいだ。

「柚葉ちゃんは、今ので集束陣を覚えたの?」

「ええ、覚えました。新しい作動陣が覚えられて嬉しいです。摩莉さん、ありがとうございます。でも、この集束陣、どうやって知ったのですか?」

「家の蔵を整理したときに、古い紙を見つけて、それに書いてあったんだよね」

「その紙には他の作動陣は書いてなかったんですか?」

「光星陣と集束陣の組み合わせのことだけが書いてあっただけで、他には書いてなかったよ」

「それ以外の紙も?」

「うん、そのときに探してみたけど、他に紙は無かったよ」

「そうですか。残念ですね」

柚葉ちゃんの顔に落胆の色が見えた。でも、気持ちを切り替えたのか、またいつもの前向きで明るい顔つきになった。

「摩莉さんの見つけた紙はまだ持っていますよね?」

「無くしてはいないと思うけど、その紙、実家に置いてきちゃったんだよね」

「だったら、やっぱり故郷との問題の決着を早く付けて貰わないとですね」

「うん、分かってる」

そう、分かってはいるけど、気乗りはしない。

「期待していますからね」

そんな私の気持ちを見透かしてか、柚葉ちゃんはプレッシャーを与えてくる。高校生なのに気迫に満ちた笑顔だ。私も伊達に苦労はしていないので、その笑顔に対抗しようかと思ったが、冷静に考えるとそれ以前にやるべきことがあることに思い至った。

「あのさあ、柚葉ちゃん。故郷のことは考えるんだけど、もう一つお願いがあるんだよね」

「何かありましたか?」

「ほら、アバターの身体を使うと強くなるのは良いんだけど、制御できないと周りが危険な技しかなくなっちゃったんだよね。だから、周りに危険が及ばないような近接技があれば教えて貰えないかなって」

「まあ、本当は早く力の加減を覚えて欲しいのですけど、一つ教えられる技がありますよ」

「柚葉ちゃん、お願い」

私は両手を合わせてお願いした。

「分かりました。私が勝手に考えた技ですけど。力を掌に集めておいて、敵に手を突くと同時にその力を相手側に押し込んで爆発させるんです」

「凄く簡単そうに聞こえるんだけど、どんな感じか一度やってみて貰っても良い?」

「ええ、じゃあ、そこの岩でやってみましょうか」

柚葉ちゃんは、ダンジョン内の空洞の中に下から飛び出している岩のところに行って、その横に立つ。

「良いですか。良く見ておいてくだいね。あと、飛び散った岩が飛ぶと危ないので、体の周りに防御障壁張っておいた方が良いですよ」

愛花と私は岩と柚葉ちゃんが両方見える位置に立ち、素直に防御障壁を張った。

「こうして、掌の辺りに力を集めます」

見えてはいないが、確かに柚葉ちゃんの右手の掌の辺りに強い力が集まっているを感じる。

「そして、岩に手を突いてそのまま力を押し込んで爆発させます」

そう言いながら、柚葉ちゃんは手を岩に突いた。次の瞬間、力の爆発を感じたと思うと、岩が砕け散っていた。

「こんな感じです」

「凄いね。これだけでも十分戦えそうだよ」

「他の岩で試してみますか?」

「試したいけど、どうせだったら魔獣相手にやってみたいな」

「だったら、さっきの魔獣を片付けてから次の魔獣のところに行きましょう」

そうだね。片付けないとだよね。

そして片付け終えた私たちは、次の魔獣のところに来ていた。イノシシみたいなのの大きい奴だ。

「え、摩莉、あの突進してくるの相手にやるの?」

「いざという時に、どんな相手が来るかも分からないんだから、ここはやるしかないんだよ」

まあ、確かにどれくらい通用するかは分からないけど、さっきの柚葉ちゃんの実演を見る限り、頭部に直撃すれば、一撃で斃せるだろう。

私は右手の掌に力を集めながら、魔獣の方に駆けていく。魔獣も私を見つけて、こちらの方へ突進しようとしてきた。私は身体強化して相手の頭部目掛けて飛び上がるが、それでも高さが足りなかった。右手を使うわけにはいかなかったので、咄嗟に左手を出して魔獣の鼻に手を掛けると、体を勢いよく持ちあげる。それで、ようやく相手の顔の上に出られた。私は相手の眉間目掛けて右手を突き出し、手を突いた瞬間に力を押し込んで爆発させた。爆発の勢いで身体が浮いて、魔獣が通り過ぎた後に地面に着地した。振り返ると、魔獣は少し進んだところで倒れていた。

「うん、これは良さそうだね。柚葉ちゃん、ありがとう」

「どういたしまして」

「これって技名あるの?」

「私は掌底破弾って呼んでます」

「掌底破弾ね、分かった」

だけど何だか柚葉ちゃんが呆れたような目をしているが。

「摩莉さん、あのジャンプは何だったんですか?」

「いやぁ、愛花とか高く飛んでいたんで、出来ると思ったんだよね」

「あれば、浮遊陣を使っているんです。摩莉さんには浮遊陣も教えないといけないですね」

「あ、そうだったんだ。浮遊陣も教えて欲しいな」

ということで、私も浮遊陣を覚えた。


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