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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-24. 藍寧との対話

夕方、私は有楽町の喫茶店にいた。藍寧さんに会いたいと言ったら、ダンジョン管理協会での仕事が終わってからなら構わないと言われ、この時間と場所を指定された。店内はダークブラウンの木目調の内装で、落ち着いた雰囲気を演出している。

私は珈琲を飲みながら藍寧さんの到着を待っていたが、とても緊張していた。そう、オーディションを受けるときと同じような感覚だった。藍寧さんに拒絶されてしまったらどうしようかと、心配で仕方がなかった。そうは言っても、その藍寧さんが店の傍まで来ているのは探知で分かっていたので、どの道なるようにしかならないといい加減覚悟を決めるしかなかった。

「陽夏さん、お待たせしました」

「いえ、大丈夫です。そんなに待っていませんから」

お互い力が使えて探知で相手の場所も分かるので、どんな行動をしていたかは筒抜けだけど、そこは知らないふりをするのが礼儀だろうと勝手に考える。実際、藍寧さんもその点を掘り下げては来なかった。

「藍寧さん、何か注文しますか?」

「そうね、私も何か珈琲をお願いしようかしら」

藍寧さんは水とおしぼりを給仕してきた店員に珈琲を注文していた。そして、おしぼりで手を拭きながら、私のことを観察するように見ていた。

「ねぇ、陽夏さん、あなた緊張しているの?」

私の緊張は、傍から見ても丸わかりのようだ。

「はい、とても緊張していると思います」

「それだけ大切なお話ということですね。聞かせて貰えますか?」

「あの、私、故郷にいたときに体を壊して強い力が使えなくなってしまって、それで故郷にいられなくなって東京に出て来たんです」

私は何とか藍寧さんの理解を得ようと頑張って話し始めた。

「これまで私は巫女の役目は封印の地を護ることだって思っていたので、東京に来て巫女の力を使わずに過ごしていても何ともなかったんです。だけど、藍寧さんとお話して、巫女の役目が封印の地を護るだけじゃないって分かって、だったら私も巫女として何かできるんじゃないかって思ったんです。でもそのためには」

「アバターが必要になる、ということですね」

「はい、そうなんです。それを藍寧さんに相談したくて」

ああ、言ってしまった。藍寧さんの返事が怖い。

「お返事する前に確認があるのですが」

「はい、何でしょう?」

「アバターを使って活動するということは、封印の地の巫女としてではなく、創られし巫女としての立場を優先することになりますけれど、それはよろしいのですね?」

「はい、問題ありません」

「創られし巫女として、封印の地に赴くこともあると思いますが、それも構いませんか?」

「はい」

「例えアバターの身体を使ったとしても、分かる人にはあなたであることが分かってしまいますけど」

「それはマーキングによって、ということですか?」

「いえ、マーキングは身体の方に付けられるので、元の身体に付けれらたマーキングはアバターには引き継がれません。でも、あなた方の力には微妙に個性が混じっているので、分かる人にはそれで分かってしまうことがあるでしょう」

「力に個性があるのですか?」

「ええ、私や愛子さん、いえ、あなたにとっては姫愛さんのように主様の力を使う人の力は皆同じなのですが、生まれながらにして力を持っている封印の地の巫女は、それぞれ力の波動に個性が含まれているのです。それは明確なものとして捉えるのは難しいのですけど、感覚的に同じか違うかは分かる人には分かってしまいます」

「それって、私の家族でないと分からないですよね。それであれば問題ないです」

「陽夏さんのお考えは分かりました」

そこでしばしの間があった。藍寧さんは特に思い悩んだ風でもないのだけど、ここでどうして溜めているのか気になる。そして、このタイミングで藍寧さんが注文した珈琲が届いた。藍寧さんは珈琲を一口飲んでから先を続けた。

「私たちとしても、陽夏さんの加入は歓迎したいところなのですが」

え?「が」ってことは駄目ってこと?

「ああ、すみません、駄目ってことではないです」

あ、また顔に出ていたんですね。

「でも、何か問題があるということなのですよね?」

「はい、陽夏さんは、アバターをどうやって創っているか知っていますか?」

「ええと、巫女の力で?」

「そうです。力の通りの良いアバターは、同じ力で創ります。それで、先程もお話したように、あなたの力には個性があるので、あなたのアバターはあなたの力で創らないといけません」

「私の力でですか?それはどうやって?」

「陽夏さん、勿論、あなたがアバターを創らないといけないってことです」

「ええっ」

まさか自分で創れと言われるとは思わなかった。

「私にアバターが創れるのでしょうか?」

「できると思いますよ。私もサポートしますから。でも、ともかくアバターを創ろうとする人の個性にも依存するので、やってみないと分からない部分はあります」

「そうなんですね。分かりました。やれるところまでやりたいです」

「はい、ではやってみましょう」

私たちは互いに微笑み合った。



私は星華荘に戻るとすぐ、自分の部屋に入った。藍寧さんが転移してくることになっていたからだ。部屋の中が散らかっていないことを確認すると、なるべく広い空間を作っておこうと、ローテーブルを部屋の隅に立て掛けた。

そして、すぐに藍寧さん来訪に向けてやることが無くなってしまう。私はベッドに腰掛けるとスマホを取り出し、ネットでの呟きチェックをしながら藍寧さんの到着を待つことにした。ネットの呟きチェックは重要なお仕事なのです。

私がスマホを触りだしてから十分程度経った頃、転移の予兆を感じたと思ったら、藍寧さんが部屋の中に立っていた。

「藍寧さん、こんばんは。そして、ようこそ私の部屋へ」

「陽夏さん、こんばんは。お邪魔しますね」

藍寧さんはシャツとパンツのカジュアルな服装だった。先日会ったときはパンツスーツ姿だったので、カジュアルな装いの藍寧さんは新鮮だった。

「あれ、そう言えば、アーネって呼んだ方が良かったのでしょうか?」

「アーネでも藍寧でも呼びやすい方で構いませんよ」

「それじゃ遠慮なく藍寧さんって呼びます」

「どうぞ」

「それで、これからどうするのですか?」

「アバターの創造は私のプライベート空間でやりますので、まずは帰還用の転移石の設置ですね。そのあと、プライベート空間に転移して、アバター創りをします」

「転移石って、何ですか?」

「転移先として使う石です。これがそうです」

藍寧さんは、ズボンのポケットから透明な石を取り出した。

「これに少しだけ力を流し込むと、転移陣が現れますので覚えてください」

私は転移石を受け取ると、掌の上に乗せて力を少し流し込んだ。すると、言われた通りに石の上に転移陣が現れた。

「藍寧さん、覚えました」

「その転移陣を使うと、どこにいてもこの転移石のところに戻って来られます。それがダンジョンの中でも、私のプライベート空間でも」

「便利ですけど、他の人も使えると、ここに来られちゃいますよね?」

「なので、利用者登録をするのです。そうすれば、登録した人しか使えなくなります。利用者登録の方法は分かりますか?」

「はい、以前やったことがあるので。この転移石の利用者登録をしてしまって良いのですか?」

「ええ、これは陽夏さん用に用意したものなので、お渡ししますから利用者登録をして自由に使ってください」

「ありがとうございます」

私は転移石にさっきより多くの力を流し込んで利用者登録をした。

「それでは、その転移石を部屋の真ん中にでも置いて、私のプライベート空間に行きましょう」

私は藍寧さんに言われるがままに転移石を部屋の真ん中に置いた。

「あ、そうそう。創ったアバターは裸なので、何か適当に着るものがあった方が良いのですけど、用意して貰えますか?」

「部屋着で良いですよね?」

「ええ、十分です」

私は手提げ袋に、部屋着と下着を一揃い入れて持った。

「転移しますから、私と手を繋いで目を瞑っていてください」

藍寧さんと手を繋いで目を瞑ると、転移のときの感覚があった。

「はい。私のプライベート空間に着きました」

目を開けると、そこは実験室みたいなところだった。


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