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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-23. 創られし巫女の役目

「ねぇ、藍寧さん。さっきのダンジョンを消さないでいる理由って本当の話なのですか?」

男性三人と別れた後、市街の方に戻りながら藍寧さんに聞いてみた。

「ええ、本当の話です。もともと私たちはダンジョンを消滅させるために創られたと言っても良いのですから」

「え?そうなんですか?」

姫愛が話に入ってきた。姫愛は、男性三人が見えなくなったところでさっさと元の身体に戻っていたので、いまはもう愛花ではなくて姫愛なのだ。

「そうですよ。姫愛さんはアバターの胸にある紋章を知っているでしょう?あれは、時空修復用の杖を掲げた巫女の上半身を模して描かれたものと伝えられています。紋章として胸に刻んでいるくらいですから、創られし巫女の本来の役目であったと言っても問題ないとは思いませんか?」

創られし巫女の役目。確かに目的があったから創られたのだ。封印の地の巫女は、封印を護るという役目を持っているように、創られし巫女もまたダンジョンを消滅させるという役目を担っていた。それはそうだろうと納得しつつ、私はふと一つの疑問を持った。

「あの、創られし巫女の役目はそうかな、と思うのですけど、それってかなり昔の話ですよね?」

「そうですけれど?」

「ダンジョンを消滅させようとして創られて、それを実行したけど失敗に終わったのですよね?」

「ええ」

「それなら、いまここで創られし巫女を増やす必要はなさそうなのに、なぜ姫愛を巫女にしたのでしょうか?」

「いまの巫女の役目はダンジョンを消すことだけではありませんし、もう少し人手が必要になったからです」

私は詳しいことを聞いてみたいと思ったのだが、どうもこれ以上は教えて貰えそうな雰囲気ではなかった。

「どうやら陽夏さんは、私たち創られし巫女のことに興味があるみたいですね。どうでしょう、連絡先を交換しませんか?もし気になることがあれば、連絡して貰えればお話できることもあるかも知れませんから」

「はい、お願いします」

私は藍寧さんとスマホの連絡先の交換をした。そして藍寧さんは、次の新幹線で東京に戻るからと言って、市街の入口で別れて真っすぐ駅に向かって行った。姫愛と私はのんびりとウィンドーショッピングをしながら、宿に戻った。



翌日、ロゼマリのロケの撮影を行った。軽井沢ということで、テニスコートを借りて、姫愛と私の試合しているところを撮影した。姫愛とは、前にもテニスとやったことがあるが、そのときよりも随分と上手になっていた。それでも第一セットは、7対5で私の勝ちだった。

「姫愛、テニスが上手になったじゃない」

試合途中の休憩時間に姫愛に話し掛ける。

「えへへ、ロケでテニスやるって聞いたから、特訓してみたんだよね」

「え?特訓でそんなに急に上達するものなの?」

「それがですねぇ、アバターの身体でプレイすると自動で補正が入るんだけど、それを繰り返して自分のものにすると、元の身体でも同じ動きができるようになるんだよね。だから、アバターの身体で、何度もテニスの試合をやったんだ」

そんな上達方法があったとは知らなかった。

「それって、テニスだけじゃなくて戦いにも有効ってことだよね?」

「そうだよ。もしかしたら、私だってアバターで戦い続けたら陽夏にも勝てるようになっちゃうかも」

「そんな簡単に長年の修練の賜物を超えられたら困っちゃうよ。分かった、今度どこかでやってみようよ、そう簡単には超えられないことを教えてあげるから」

「そんなこと言っちゃって良いのかなぁ。私が言っちゃうのもなんだけど、アバターは本当に強いよ」

姫愛の言う通りにアバターは強いのかも知れない。けれど、私も負けてはいられない。ともあれ、それは先の話だ。まずは目の前のテニスの試合を終わらせないと。

「姫愛、分かったから。そろそろ次のセットを始めましょうよ」

「うん、今度は私が勝つね」

次の試合はもつれにもつれ、タイブレークに持ち込まれたけれど、最終的には第二セットも私の勝利で終わった。ここまで苦労させられるとは、アバター訓練法侮れじ。

「ふふ、姫愛、ストレート勝ちだよ」

「悔しい。あと一息だったのに。もっと練習して次こそは勝つから」

「いや、テニスの企画はしばらくやらないんじゃない?試合時間が長すぎだよ。この試合、どうやって編集するんだろう?」

そう、姫愛と私の実力が近くなったがために、試合が随分と長引いてしまったのだ。編集する人には申し訳ないことをしてしまった。

テニスの後は、市街に繰り出してゲームセンターでクレーンゲームをやり、こちらは姫愛が圧勝した。姫愛は結構器用なんだと感心させられた。

それから宿に戻ったら、卓球台があったので卓球の試合もやった。姫愛は卓球までは練習していなかったらしく、こちらは私の圧勝だった。

そして、その晩は皆で打ち上げをして、軽井沢ロケが終了した。



ロケから帰った翌朝、私は目が覚めた後もベッドの中で横になっていた。今日はオフの日なので、別に一日中ベッドの中にいても問題はない。でも、ぐうたらしたいからベッドの中に居続けたのではない。

軽井沢で藍寧さんと話したこと、愛花として姫愛がやったことを思い返しながら考えていた。私は黎明殿の巫女の役目は、封印の地を護ることだけだと思っていた。それがために高二のときに、強い力を使おうとして体を壊してその役目がまっとうできなくなってしまった後、自分の立ち位置を見失ってしまった。家族はそんなことは一切言わなかったが、周りの人たちは、私のことを役立たずだと陰口を叩いていた。まさか、身体強化で聴力を強化した本人に聞かれていると思っていたのかいなかったかは分からないが、私には皆聞こえていた。そして私にはそれに反論するだけの自信も無かった。精神的に追い詰められた私は、高校の卒業式が終わるとすぐに故郷を捨て、巫女の役目も捨てて東京に出て来た。それ以来、巫女の役目とは縁の無い暮らしをしてきた。

その生活に変化の兆しが訪れたのは、昨年の夏のロケで意図せず南の封印の地に行ったときからだった。あのロケで柚葉ちゃんと出会ったからといってすぐに何かが変わった訳ではない。でも、柚葉ちゃんも力の制約を持ちながら、封印の地の巫女としての役目を果たそうとしていた。もしかしたら、私も気の持ちよう次第で違ったかもしれない。そんな風に思えないこともなかったが、残念ながらそれは結果論でしかない。既に故郷を出てから何年も経っていて、今更元には戻れなかった。

そして、更なる変化が訪れる。姫愛が藍寧さんに出会い、黎明殿の巫女になった。まさか力を持たない姫愛が巫女になるとは思っていなかった。とはいえ、その姫愛も力を使う上で制約があった。それは、ダンジョンの中で私を助けようと強い力を出そうとしたときに顕在化する。姫愛もまた強い力によって体を焼かれそうになり、あわや私と同じように強い力が使えなくなるところだったのだ。しかし、その制約もアバターの身体に切り替えることで解消される。姫愛のアバターである巫女のロゼ、あるいは愛花は力の制約もなく、思いのままに力が使える。そして、藍寧さんことアーネから聞いた、創られし巫女の役目。封印の地を護るだけが巫女の役目ではないという話。私が巫女の役目を捨てたのも、故郷である封印の地との関わりを持ちたくなかった故だ。封印の地に関わらずとも担うことのできる巫女としての役目があるのであれば、それは否定するものでもない、いや寧ろやってみたいと思う気持ちがある。

私は東京に出て来てからも、体を動かすことは止める気になれなかった。巫女としての役目は捨てたけれど、だからと言って何もしたくないというのでもなかったのだ。目標を見失っていた私にもやれることがあると言うのなら、挑戦してみたい。しかし、力によって体を壊したという過去が、決心を鈍らせる。

いや、もう、すべてを捨ててこれ以上失うものもないのだから、と自らを鼓舞して、ベッド脇にあった自分のスマホを取り上げて藍寧さん宛にメッセージを打った。


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