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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-22. 巫女の仕事

「あの、こちらに町役場の高橋さんはいらっしゃいますか?」

藍寧さん、愛花こと姫愛、そして私の三人は、林の中に集まって話をしている男性三人に近づいた。

「私が高橋です。あなた方は?」

「申し遅れました。私、ダンジョン管理協会の国仲と言います。新しいダンジョンが見つかったという報告を受けてこちらに派遣されてきました」

「ああ、そうでしたか。いらしてくださってありがとうございます。それでそちらのお二人は?」

「私は黎明殿の事務局から派遣されてきた巫女の姫山です。それからこちらは事務局の受付見習いの西神です。今日は現場の仕事を知りたいとのことで連れてきました。すみませんが、見学させてください」

「西神です。お邪魔しないように見ていますので、よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします。改めまして、私が町役場の総務課所属の高橋です。隣が総務課課長の佐藤、それからここの地区の自治会長の土屋さんです」

「よろしくお願いします」

私たちは互いに挨拶しあった。男性三人から名刺をいただいてしまった。藍寧さんも男性陣に名刺を渡していた。

「それでは早速ダンジョンの調査を行いたいと思いますが、よろしいでしょうか」

「構いませんが、調査とはどのような?」

「まずは中に入ってみて、他の人が迷い込んでいないかと魔獣の種類を確認します」

「分かりました」

「皆さんはここでお待ちください」

藍寧さんが高橋さんと話を付けてくれた。そして、藍寧さんと愛花、私の三人はダンジョンの方に向かった。男性三人を護るように立っていた剣と盾を持った人たちのところに行って、藍寧さんが高橋さんとの話の内容を告げた。藍寧さんの話にその人たちは納得したらしく、ダンジョンに向かっても良いことになった。

「あなたはここで待っている?」

藍寧さんは、悪戯するような顔を私に向けた。

「ここで待っていたら巫女様の仕事が見られないので、付いていきたいです」

「分かったわ、付いていらっしゃい」

「あのう、ダンジョンは危険ですので、一般の方はお止めになった方が」

剣と盾を持った一人の男性が親切にも忠告してくれた。

「ええ、そうね、ありがとう。でも、この娘は見習いだけど、それなりに訓練を積んでいるから十分に強いわ」

藍寧さんは、男性に向けて妖艶な笑みを浮かべた。何かすごい迫力を感じる。男性も同じように思ったのか、腰が引け気味だった。

「それなら構いませんが、危険ですので十分ご注意ください」

「ご忠告ありがとう。注意するわ」

藍寧さんは向きを変えてダンジョンの方に歩き始め、愛花と私がそれを追う形になった。あれ?ここは巫女である愛花が先頭じゃなくて良かったんだっけ?藍寧さんがすっかり場を支配してしまっているのですけど。



ダンジョンの中は、他のダンジョンと似たようなもので、真っ暗で洞窟のような空間が続いていた。

「さて、ダンジョンの中でやることは三つです。一つは、この中に生存者がいるかどうかの確認、二つ目は、中にいる魔獣の種類の確認、三つ目は、通知石の有無の確認です」

「藍寧さん、通知石って何ですか?」

私も通知石のことを知らなかったが、愛花が質問してくれた。

「転移石と同じ透明な石なのですけど、転移石とは異なる機能が埋め込まれたものです。起動しておくと、探知に簡単に引っ掛かるようになるのです。それを他の巫女が止めようとすると、起動した巫女に警告が伝わるようになっています。通知石は、巫女が管理されていないダンジョンに入ったときに、起動して入ったばかりのところに置いておくことになっています」

「それがあったらどうするのですか?」

「通知石を通じてそれを置いた巫女に連絡を取って、その後のことを協議します」

「もし通知石があるのに気が付かなかったら?」

「まあ、普通気が付かないことはありませんが、気が付かなければ放っておいて良いことになっています」

「通知石ってそんなに目立つのですか?」

「そうね。私も一つ持っていますから試してみましょう」

藍寧さんは鞄から透明な石を出した。そしてそれに力を込めて起動した。途端に五月蠅い音が響いたように感じた。

「ほら、何だか大きな音が響いているように感じるでしょう?探知を切れば聞こえないけれど、探知を使うと気付かないことがないというのが分かりましたか?」

「はい、良く分かりました。これなら一瞬で気付きます。お願いですから止めてください」

とても五月蠅いようで、愛花が涙目で藍寧さんに訴えていた。いや、だから探知を止めれば聞こえないんだけど。

でも、藍寧さんは愛花のお願いを聞いてすぐに通知石を止めてくれた。

「藍寧さん。止めてくれてありがとう。それで、結局、ここには他の巫女の通知石は無かったってことで良いのですよね?」

「はい、愛花さん、そうなりまね。それで、人と魔獣の調査ですけれど、どちらも第五層まで確認することになっています。まず人の方ですが、普通の人は、迷い込んでも第五層まで辿り着くことはありません。それから魔獣ですが、第五層で大型の魔獣がいなければ、あるいはダンジョン自体が第五層までもなければ、小型のダンジョンということになります。皆さん探知できますか?」

「はい、第五層はあるけど、そこまでの間に人はいないし、第五層に大型の魔獣もいません」

「私も愛花と同じです」

「そうですね。私も同じです。なので、ここは小型ダンジョンで、迷い込んだ人で生きている人はいないということですね」

ここは入口からして小さかったので小型ダンジョンだろうことは予測していたが、今回の調査でそれが確定したことになる。

「それでは、これで中での調査は終わりなので、外に出ましょう」

藍寧さんに促されて、私たちはダンジョンの外に出た。



「藍寧さん、次に何かするのですか?」

「そうですね。ダンジョンが消せるか試そうと思います。その前に高橋さん達に話に行きましょう」

私たちは、剣と盾を持った人たちのところを通過して、高橋さん達のところへ行った。高橋さん達は心配そうな顔で私たちを出迎えた。

「国仲さん、無事に戻られて良かったです。それで、どうでしたか?」

「調査してみましたが、あのダンジョンは小型ダンジョンということが分かりました。また、中に生存者はいませんでした」

「そうですか。それでこの後はどのようにされようと?」

「規定では、新しいダンジョンの発見時は、一度ダンジョンを消滅させられるか試すことになっていますので、そうしようかと」

「え?ダンジョンは消滅させられるのですか?」

「やってみないことには分かりませんが、小型ダンジョンなので消滅させられると思います」

藍寧さんの返事を聞いて、高橋さんはどうしましょうかという顔で佐藤さんと土屋さんの顔を見た。高橋さんの視線を受けた佐藤さんが意を決したように口を開いた。

「ここにダンジョンが出来てしまうと管理する体制を作らないといけなくなります。ですので、消滅させられるのでしたらお願いしたいと思います」

「分かりました。姫山さん、よろしいですよね?」

「はい、頑張ってみます」

話を振られた愛花が焦り気味に答えていたけど、男性陣は期待の眼差しを愛花に向けていた。

私たちは再びダンジョンの方に向かったが、今度は中に入らずにダンジョンの前に立つ。

「では、愛花さんお願いします」

どうやら、事前に話をしてあるようで、愛花は藍寧さんの言葉に頷くと、手の中に杖を呼び出した。杖は、長い棒状だが上の端に装飾が付いている。その装飾には透明な石が幾つか仕込んであるようだった。

「藍寧さん、これは何の杖ですか?」

「時空修復用の杖です。ダンジョンの入口は時空が歪んでいるので、それを修復できればダンジョンを消すことができます」

「なるほど」

愛花は杖に力を籠めると、ダンジョンの入口となっている円形の空間の穴の端に杖の先端を当てた。すると杖の先端が光り、空間の穴が段々と小さくなっていき、最後には消えてしまった。

「愛花さん、お疲れ様でした。ダンジョンは消えたようですね」

「藍寧さん、この杖、物凄く力を使うんですけど。この身体でなかったら、力で焼き切れてしまったんじゃないかというくらい」

「ええ、この杖はアバターの身体でないと使えないでしょう。愛花さんも気を付けてくださいね」

愛花は頷くと、杖を送還した。そして、私たちはダンジョンのあった場所から離れて、高橋さん達の方に向かった。途中、剣と盾を持った人たちのところを通り過ぎたのだが、ダンジョンが消えるのを初めて見たのだろうか驚きに固まっているようだった。

その反応は高橋さん達も同じだった。

「凄いですね。本当にダンジョンが消えるとは思っていなかったです。姫山さん、ありがとうございました」

「どういたしまして」

「こんなに簡単にダンジョンが消せるなら、他のダンジョンも消していけば良いと思うのですが、なぜそうされないのでしょうか?」

質問を振られた愛花は、え?となって藍寧さんの顔を見る。

「これは聞いた話なのですけれど」

藍寧さんが答えを引き取ってくれるようだ。

「ずっと昔に同じことを考えで、ダンジョンを消して回ったことがあったらしいのです。そうしたら、別の場所に大きなダンジョンが現れて魔獣が溢れてパニックになったのです。どうやら、ダンジョンをある程度の数減らすと、別の場所にダンジョンができてしまうことが分かって、それ以来、無暗にダンジョンを消すことは止めることになったそうです」

「そうであれば、仕方がありませんね」

「はい、でも新しいダンジョンは消して良いことになっていますので、連絡をいただいたときは、まず消滅させられるのかを試すことになっています」

「いやはや、今回は助かりました。町としても大助かりです。ありがとうございます」

二人の話を聞いていた佐藤さんがお礼を言って頭を下げた。

「私からもお礼を。これでこの地区の人も安心して寝られます」

土屋さんも佐藤さんに倣ってお辞儀した。

「い、いえ、巫女の役目ですから」

愛花は、少しタジタジになりながら返事を返していた。

「それで、本件はこれで解決ということでよろしいでしょうか。ダンジョン管理協会の方に作業報告書を提出しますので、この書類にサインいただけますか?」

どうやら作業報告書は書式が出来ているらしく、藍寧さんはさっさと記入してしまったようだ。佐藤さんがその内容を確認してから、署名欄に名前を書いた。

「サインありがとうございます。こちらは控えになりますので、お持ちください」

藍寧さんは複写式になっていた二枚目を切り取って、佐藤さんに渡していた。

「それでは、私たちはこれで失礼します。また何かありましたら協会の方にご連絡ください」

私たちはお辞儀をして、その場から立ち去った。男性三人もお辞儀をして私たちを見送ってくれた。


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