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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-16. 設置された魔道具探し

姫愛が大型の魔獣を斃したあと、私は姫愛とダンジョンを出たのだけど、その前に、姫愛から多段の遠隔探知と転移を教わった。戦えないとはいえ、できることは多い方が良いと思ったからだ。姫愛の転移は、お師匠様の柚葉ちゃんから伝授された高速の転移だった。柚葉ちゃんの転移を見た時からどうやっているのか気になっていたけど、漸く知ることができた。いつも転移陣を描いてから転移することに慣れていた身としては、描こうと思うだけで起動するというやり方には戸惑ったけど何度か練習してスムースにできるようになった。嬉しい。

ダンジョンを出たあとは、一旦星華荘に戻って、着替えてから仕事に向かうことにした。ダンジョン入口脇のダンジョン管理協会でも着替えられるのだけど、家のシャワーでゆっくり体を洗いたかったし、部屋で一休みもしたかったのだ。

そして夕方のいつもの時間に星華荘を出て仕事に向かった。姫愛は、仕事に来る前に柚葉ちゃんに会って来たらしい。それで灯里ちゃん含めて話をしようということで、翌日の土曜日の朝に秋葉原に集まることになった。


その土曜日の朝、約束の時間の少し前に集合場所のファストフード店に入り、朝食用のセットを買って奥に進んだら、姫愛が既に来ていて、私と同じ朝食のセットを食べていた。

「姫愛、おはよう」

「おはよう。陽夏も朝ごはん?」

「そうだよ。姫愛もだよね」

「うん、そう」

灯里ちゃんはまだのようだった。私は姫愛の向かいの席に座って、朝食のセットを食べ始めた。そして、食べ終わらないうちに灯里ちゃんが来てしまった。灯里ちゃんは、朝食は食べて来たらしい。灯里ちゃんには申し訳なかったけど、姫愛と私は時間を貰って朝食を食べ切った。その間灯里ちゃんは私の隣に座って、ドリンクを飲みながら待っていてくれた。

急いで食べたら、姫愛を追い越して先に食べ終えてしまった。気は逸るが、姫愛が食べ終えるのを待ってから、話を催促した。

「食べ終わってすぐで悪いけど、姫愛、調べて来たこと教えて貰っても良い?」

「うん、良いよ。ん?」

話そうとしていた姫愛が固まった。何かあったのだろうか。

「どうしたの?姫愛」

「あ、いやぁ、何でもないよ、陽夏。大丈夫だから」

「それで、柚葉ちゃんは、どうやって渋谷を特定していたの?」

「えーと、三ヵ所のうち、二ヵ所に魔獣避けの魔道具があるのを確認していたって言ってたよ」

「魔獣避けの魔道具?」

「うん、それが置いてあると、魔獣が出ないんだって」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、今度もその魔道具があるかを確認すれば?ん?」

魔道具なんて特殊なもの、一体誰が持ち出したのだろう?

「あのさ、姫愛」

「うん、何かな、陽夏」

「魔道具って言ったよね」

「そうだねぇ、魔道具って言ったような気がするねぇ」

「柚葉ちゃんが魔道具のことを知っているのは良いよ。物知りだから」

「うん、そうだよ。お師匠様は何でも知っているよ」

「姫愛の言い方からして、魔道具を置いたのは柚葉ちゃんじゃないと思うんだけど、誰が置いたんだろう?」

「誰だろうねぇ」

「大体、魔道具を置いたのは、渋谷に絞るためだよね。どうして渋谷に絞ろうとしたんだろう」

「どうしてだろうねぇ」

ん?何で姫愛は歯に物が挟まったような答え方をしているのだろう?

「陽夏さん、渋谷に絞ったのは、渋谷に現れたかったからではないですか?」

「渋谷に現れたかった?魔獣が?」

いや、魔獣が魔道具を設置するわけは無いよね。魔獣使いがいたとか?

「渋谷に現れたのは魔獣だけではないですよね?」

「えーと、現れたのは魔獣と、魔獣を斃した、あっ」

あ、そっか、藍寧さんか。姫愛も藍寧さんが設置したことを知っていたから、そちらの方に話を持って行きたがらなかったんだ。姫愛にどうしようかという目で見たら、心なしか冷たい反応だった。悲しい。そうだよね、もっと早く気が付くべきだったよ。

「ええ、魔獣を斃した女の人がいますよね。その人が渋谷にしたかったのではないかと」

「そうだよ、そうなるよね」

今更だけど、姫愛のフォローにまわる。

「そ、それじゃあ、今度もどこかに絞るために魔道具を設置しているかもね」

それって、もう藍寧さんが魔道具を設置したってことだよね。とはいえ、藍寧さんのことは聞けないから、柚葉ちゃんに聞いてみたかって話で大丈夫かな。

「姫愛、柚葉ちゃんは、どこに絞りそうかって話していた?」

「上野かなぁって言ってたよ。あそこは駅前に大きな横断歩道があるからって」

「だったら、大崎と赤羽に魔道具があるだろうってことだよね。探しに行ってみる?」

「探してみたいですね。ネットで呟くのに、いい加減なことを呟きたくないですから」

えーと、この話の流れで良かったのだろうか。ともかく灯里ちゃんからすれば出現場所さえ特定できれば、今回の問題は解決だよね。



さて、最初は大崎に行くことになった。電車に乗って向かったのだけど、もうすぐ大崎というところで、微妙に力の波動を感じた。結界の魔道具を力で動かしているからかも知れない。

その波動は駅に着いても大きくは変わらなかった。どうやらある程度波動は均一のようだ。ただ、部分部分で波動の強さが違うところがある気がする。

「んー、何かありそうな気がする」

「陽夏、分かるの?」

姫愛が何か知っているだろうから、聞いてみようか。いまここで藍寧さんの名前は出せないから、柚葉ちゃんの名前を出してみようか。

「難しいんだけど、いつもと違う何かを感じるんだよね。魔道具って、どう配置されているか柚葉ちゃんは、言ってた?」

「えーと、黒い薄い円筒形のものを、正六角形の形に配置してあったって言ってたかなぁ」

うーん、この波動の違いを分かり易くするにはどうしたら良いかな。波動と同じくらいの力を出して比較すれば良いけど、自分を中心に力を出すと均一にはならないしなぁ。そういえば、姫愛から多段の探知を教わったとき、探知範囲ならどこでも作動陣を発動できるということも教わった。もしかしたら、探知範囲内なら万遍なく力を放出できるのではないだろうか。

試してみたら、上手くできそうだった。それで、波動と同じくらいの強さの力を探知範囲内に放出して、強さに差があるところを探すと、12か所あるようだった。正六角形と言っていたけど、どうやら正六角形が二つあるらしい。今回、大型の魔獣だから二重にしたのかも知れない。それで姫愛との話の辻褄は合いそうだ。

「正六角形ね。だとすると、あっちかな」

波動の強さに違いのある12か所のうち、一番近くにあるところに向かって歩いていった。姫愛が何とも言わないから、間違えてはいないだろう。

「この辺りが怪しいんだよね」

大きな通りから外れた一角だったが、見ただけではどこに魔道具があるかは分からない。放出する力を少し強くしてみる。そうすると、波動の強さと一致するところが円状になった。そこから少しずつ放出する力を強くしていくと、円が段々と小さくなっていく。円が小さくなって点になったところで、その点のある場所がどこかと見ると、近くにある電信柱の裏側だった。それで私は電信柱のところまで走っていって、その裏側を確認してみた。

「あった、これだよ」

電信柱の陰になったところに、黒くて薄い円筒形のものがあった。きっとこれが魔道具に違いない。

「陽夏、凄いね。きっとこれだと思うけど、触らない方が良いよ」

「そうだね、下手に触って、ここに魔獣が出てきちゃ困るからね」

「陽夏さん、吃驚です。どうやって見つけたのですか?」

波動を感じたからとは言えないよね。

「んー、何か変な感じがしたんだよね。そしたら、あった」

「ともかく、これがあるってことは、大崎では無いよね」

「そうですね。大崎ではなさそうですね。だったら、今度は赤羽の方に行ってみませんか?」

そういうことで、今度は赤羽へと向かうことにした。



赤羽に向かう途中で上野を通過したが、上野では波動を感じなかった。なので、上野には魔道具は設定されていないと思われた。そして赤羽に到着する頃、大崎と同じように微妙な力の波動を感じた。

「陽夏、ここはどう?」

「うん、大崎と同じ感じがするよ」

「やっぱり上野で決まりだね」

「そうかもですが、一応魔道具を確認したいです」

やり方は既に大崎で実証済みだったので、大崎の時と同じように感じる波動と同じ強さの力を一面に放出することで、魔道具があるだろう場所は直ぐに分かった。

「大体分かったと思うから、行くよ」

私は駅から離れていき、大通りを渡って更に歩いて公園に入った。

「この公園にありそうだね」

放出する力の強さを変えることで、こちらにある魔道具の場所が特定できた。

「うん、あった。ここ」

生け垣の根元に、大崎にあったのと同じ魔道具が置いてあった。

「ありましたね」

「あったね」

これで場所が上野に確定できた。時間については、姫愛が何か焦りながら答えていたけど、灯里ちゃんは納得していたようなので、大丈夫だろう。灯里ちゃんがネットに呟きを出したことで、目的は達成できた。

「これで終わりですね。陽夏さん、姫愛さん、ありがとうございました」

「うん、どういたしまして」

「それじゃ、駅に行こっか」

灯里ちゃんと向かい合っていた姫愛が、体を半回転させて前に進もうとしたところで、石に躓いて転びそうになった。

「おっとっと」

姫愛は手を広げてバランスを取り、転ぶのを何とか堪えたようだった。探知で見えている筈でも、結局注意がそちらに向いていないと、見逃してしまうのだ。姫愛はそういうおっちょこちょいなところがある。

「あははは、躓いちゃったよ」

姫愛は照れ隠し気味に笑いながら、頭の後ろを掻いていた。

「姫愛らしいね」

駅に着くと、灯里ちゃんは、仕事のために新宿方面の電車に乗っていった。陽夏と私も仕事場のある秋葉原に向かう電車に乗った。

「陽夏、フォローしてくれてありがとうね」

「うん。それにしても魔道具はいつ設置したの」

「昨日の夜中に藍寧さんと。だから、眠い」

仕事の後にやっていたのなら、それは遅い時間になっちゃうよな、と思った。でも、設置しておいてくれたので、今日この調査が出来たのだから助かった。

「そういえば、灯里ちゃんの能力について、柚葉ちゃんや藍寧さんは何か言ってた?」

「お師匠様からは特に何も言われていないよ?藍寧さんには話していないし」

「そうなんだ」

私は少し気になっていたのだけど、灯里ちゃんのことはしばらく棚上げしておくことにするか。


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