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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-14. 灯里の能力

日曜日は、コラボ企画の撮影だった。なので、控室に居たのも姫愛と私だけではなかった。

「灯里ちゃん、お疲れ様」

そう一緒だったのは、灯里ちゃんだった。つまり、バーチャルアイドルの天乃イノリとのコラボ企画だったのだ。昨年高校三年生だった灯里ちゃんは、今年無事受験で合格して、大学に通っている。大学に入っても、ポニーテールを続けている。可愛いくて、明るい彼女の性格に良く似合っている。今回は、灯里ちゃんが大学に入って、初めてのコラボ企画だったので、一緒に仕事をしたのは久しぶりのことだった。

だから、姫愛が喜んではしゃぐのは分からないでもなかった。でも、調子に乗り過ぎだったと思う。今日の企画は、投げられたパチンコ玉を箸で取るというものだったが、姫愛は余裕で取りまくっていた。一方、灯里ちゃんは全然取れないし、いや、取れないのが普通だし、私はその中間でどれくらいならバランス取れるのか、とても苦心させられた。勿論、本気でやれば全部取れるが、そんな目立つことを私はやる気がなかった。

姫愛と灯里ちゃんは、その企画の話で盛り上がっていて、私は姫愛が変なことを言わないかと冷や冷やしながら聞いていた。そして会話が進むうちに、話題は姫愛が白銀の巫女様を目撃したことに変わっていった。会話の中で、姫愛のお師匠様がやっぱり柚葉ちゃんであることが分かったけど、大体予測出来ていたので、驚きはなかった。どちらかというと、姫愛が柚葉ちゃんから渋谷で魔獣を目撃すると予告されたことへの灯里ちゃんの食いつきが半端ないことの方に驚いた。

なので、それまで私は黙って会話を聞いていたのだけど、たまらず口を挟んでしまった。

「でも、どうして灯里ちゃんは、この話題を気にしているの?」

「え、いや、そのぅ」

灯里ちゃんが口ごもった。

「言いたくないなら、言わなくて良いんだよ」

私だって、姫愛にも話していないことがあるのだから、灯里ちゃんにも無理強いするつもりはなかった。灯里ちゃんは、最初は伏し目がちにしていたけど、何かを決意したかのように顔を上げた。

「あの、こんな話信じて貰えないかも知れないんですけど」

私は姫愛と顔を見合わせ、互いに微笑みながら目で頷き合った。

「大丈夫、姫愛も私も灯里ちゃんを信じるから」

「ありがとうございます。あと、この話は内緒にしておいて貰えますか?」

「ええ」

「そのぅ、私、分かるときがあるんです。魔獣がいつどこに現れるのか」

魔獣の現れる時間と場所が分かる能力なんて、聞いたことが無かった。少なくとも巫女の力ではないと思われた。姫愛は知らないだろうけど、得意不得意の差はあっても、基本的に巫女の力は、皆同じように使えるのだ。一人だけが特定の能力を持つことはない。灯里ちゃんからは巫女の力も感じないし、巫女の力ではない別の何かの力なのだろうか。情報が少なすぎるので、灯里ちゃんに話の先を促すことにした。

「うん、それで?」

「5月のときも分かったんです。でも、場所は、渋谷か目黒か半蔵門のどれか、ということまでしか分からなかった。だから、柚葉ちゃんという子が渋谷って特定した理由が知りたくて」

「それは姫愛が聞いておいてくれるから」

「はい。それで実は、私、自分の心の中だけに留めておけなくて、でも人には言えないし、なので、裏アカウント作ってネットで呟いていたんです。そしたら、それが結構有名になってしまったみたいで」

「困ったことが起きたの?」

「いえ、ネットの方は大丈夫です。だけど、今度が問題で」

「今度何かあるの?」

「嫌な予感がするの。多分、今までとは比較にならないくらい危険な魔獣が出てきそうな気がするんです」

「危険な魔獣が出てくる、という確かな予感がするってこと?」

「そうです。実際に出現すると思われる場所も、前より離れていて。今度現れそうなのは、上野か大崎か赤羽なんです」

「確かにそれを聞くだけでも凄そうだね。それで、そのことはネットで呟いたの?」

「いえ、危険だってことは言わなくても、今までとは場所の間隔が大きく離れているのは分かってしまうので、騒ぎになるんじゃないかと思うと怖くて。でも、いままで私の呟きを見て、そこを避けていた人がいたとしたら、やっぱり情報は流さないといけないかなって思ったり、どうしたら良いのか分からないんです」

「それで5月のときのを渋谷って特定した方法を知りたいと思ったって言うこと?」

「そう。特定できるなら、そこを含めてこれまでと同じくらい離れた場所を三箇所呟けば、良いかなって」

「まあ、確かにその方がいつもと変わらないように見えるとは思うけど。それで、今度はいつなの?」

「来週の日曜日、一週間後」

「姫愛、今度お師匠様に会うのは?」

「明日の放課後」

「じゃあ、姫愛は明日、お師匠様に話を聞いてきてくれる?それで方法が分かったら、明後日に集まる?」

「良いよ、陽夏」

「陽夏さん、私も大丈夫」

「じゃあ、そういうことで。姫愛、連絡お願いね」

「分かった」

今度出現するだろう魔獣の話は、姫愛の確認が済んでからで良いとして、私はもう少し灯里ちゃんに聞いてみたかった。

「灯里ちゃん、魔獣の出現が分かるようになったのって、最近のこと?それとも昔から?」

「そうですね。どちらかというと小さいときからですけど、前はごくたまにしか分からなかったんです。最近、分かる頻度が上がっているように思います」

ふむ。そうならば、生まれながら持っていた能力の可能性が高そうだけど。

「ねえ、灯里ちゃん。答え難ければ答えてくれなくて良いんだけど、ご両親のどちらかが同じ能力を持っていたとかある?」

一瞬、灯里ちゃんの顔が暗くなった。聞いてはいけない質問をしてしまったか。

「陽夏さん、私、物心付いた時には養子になっていたので、産んでくれた両親のことを知らないんです」

「え、あ、そうだったんだ。言い難いことを言わせちゃってゴメンね」

「いえ、大丈夫ですよ」

灯里ちゃん、本当にごめんね。でも、そうなると出自が分からないってことなのか。灯里ちゃん自身は良い子だと思うんだけど、巫女をやってきた身としては、どうしても背後関係が気になってしまう。とはいえ、いますぐ行動を起こすことでもないので、頭の隅に置いておいて、まずは灯里ちゃんのフォローをせねば。

「灯里ちゃん、幼いときから大変だったんだね」

私は灯里ちゃんに抱き付いた。

「いまは養子にしてくれた両親が優しくしてくれますから」

「そう、良かった。優しい両親に会えて。巡り合わせに恵まれたんだね」

灯里ちゃんに抱き付きながら、私はうんうんと頷いたのだった。


さて、翌日の月曜日の夜。姫愛は高校に行って柚葉ちゃんと会っていた筈なのだけど、何も連絡が来ない。どうしたものか悩んだけど、取り敢えずチャットを送ってみた。そうしたら、姫愛から、ショックなことがあって柚葉ちゃんから聞けてないとの返信が来た。柚葉ちゃんと何かあったらしい。話の内容が良く分からなかったのだが、そのままチャットで聞けそうな雰囲気でも無かったので、水曜日に仕事で会ったときに直接話をして欲しいとのお願いを書いておいた。それに対して、少し間はあったものの、了解の返事が来た。魔獣が出現する日が近づいているものの、姫愛の問題を解決しないことには話を先に進められないのだろうとの予感があった。柚葉ちゃんともチャットはできるので、姫愛の落ち込んでいる理由を柚葉ちゃんに聞こうかとも考えたが、結局は姫愛の問題なので、水曜日まで待つことにした。


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