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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
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4-10. 姫愛と巫女

姫愛が白銀の巫女様を二度目に目撃したときから一か月近くが経過した。最初と二度目の間が大体一か月だったので、次があるとすればそろそろと思われる時期だ。姫愛が何となく落ち着きがなくなって、ソワソワしているような雰囲気を漂わせるようになった。

「姫愛さ、最近浮ついてない?」

「え?そうかな?」

「何か、落ち着きがない感じがすると言うか」

「いやぁ、そんなことはないと思うんだけど」

おかしい。何か怪しい。

「姫愛がソワソワしているのは、巫女様絡みだと思うんだけど、不思議なんだよね」

「何が?」

「姫愛、先週末くらいから、巫女様の話を全然しなくなったよね」

「え?そうだっけ?」

「そうだよ。いつもなら、一日に一度や二度は巫女様の話題になるのに、それが無くなったんだもん、変に思うよね」

姫愛の目が泳いでいる。どうやら隠そうとして逆に失敗しているパターンでないだろうか。まあ、でも、まだ会っていないのなら、話に進展はないだろうし、しばらく様子見した方が良さそうな気がした。

「まあ、いいや。姫愛、今度巫女様に会ったら、すぐに教えてね」

「うん、それは勿論」

「じゃあ、約束で」

「うん、約束ね」

この会話をしたのは水曜日のことだったが、すぐに約束が果たされることとなった。


翌日の木曜日。午後からの仕事に向け大体いつもの時間に星華荘を出た。過去巫女様が現れた時は、たまたまなのか星華荘を出る前に足止めされていたので、スムースに外出できた今日は違うのかな、と思ったりした。それで、錦糸町から地下鉄に乗って渋谷に向かったのだが、その途中で電車が止まってしまった。どうも先の駅で非常停止ボタンが押されたらしい。そういったことはたまにあるので、仕方がないと思いながら電車が動き出すのを待った。

そうして渋谷に着き、ハチ公のところのスクランブル広場のところまで来たら、魔獣が出たということで騒然となっていた。どうも、ついさっき出たばかりのようだった。残念ながら、また巫女様を見逃してしまったようだ。交差点を見ると、魔獣を運ぶトラックがやってきて、魔獣を荷台に乗せようとしていた。

私は魔獣には興味が無かったので、そのままスタジオに入ったのだが、控室にはまだ姫愛はいなかった。姫愛は、そのあとしばらくしてからやってきた。

「おはよう、姫愛。遅かったね」

「ゴメン、陽夏。でも、今日、魔獣と巫女様に会えたんだ」

「うん、私が駅についたときは、既に終わってたけど、駅前は魔獣が出たって騒ぎになってたよ」

「そうなんだぁ」

「そう言えば、魔獣を見たなら、私より早く着いてたってことだよね?何で遅くなったの?」

「それなんだけどさ、私、会って話をしたんだ、あの人と」

「白銀の巫女様?」

「そう、巫女様。名前はアーネって言ってた」

「アーネ?」

聞いたことが無い名前だった。しかし、巫女の話をここでこのまま続けるのは不味い。

「姫愛、話すのは少し待って」

私は離れたところに置いてあった鞄を取りに行った。そして姫愛の前に戻り、鞄を膝に乗せてから、中を開けて会話結界の魔道具に力を籠めて起動した。会話結界の魔道具は容器になっているのだが、その容器に付いている透明な石に力を籠めると設定した範囲内でしか声が伝わらなくできる。今回は起動時に、姫愛と私の座っているところを範囲として指定した。

「ごめん、お待たせ」

「何をしてたの?」

「ん?いや、忘れ物をしたかなぁって、確認したくなって」

少し苦しい言い訳だけど、ここで魔道具の説明はできないから何とか誤魔化そうとした。姫愛は何か思ったかもしれないけど、それ以上その話題には突っ込んでこなかった。

「それで、姫愛、アーネって言ったの?その人」

「そう、陽夏知ってる?」

「知らない。聞いたことがない名前だよ」

私は、首を横に振った。と、しまった、巫女に対する質問に真面目に答えてしまった。考えたら、姫愛は私が巫女とは知らないんだった。不味ったと思ったが、姫愛は違和感を持たなかったようなので、そのまま話を続けることにした。

「それで、どんな話をしたの?」

「私を強くして仲間にしてくれるって言ってた。だけどそのためには、ダンジョン探索ライセンスのB級を取らないといけないって」

「え?ダンジョン探索ライセンスのB級を取れば仲間にして貰えるの?それで良いの?」

何だろう。それって普通に訓練すれば、そんなに苦労しなくても達成できる目標なんだけど、何の意味があるのだろうか。私には、アーネの意図が分からなかった。

「B級って、そんなに難しくないってこと?」

「うんまあ、少し努力すれば、誰でも取れると思う」

「そうなんだ」

あ、そう言えば、私はライセンス持っていないっていう設定だった筈。こんなにスラスラ答えるべきではなかったが、後の祭りだ。姫愛も突っ込んでこないから大丈夫かな。取り敢えず、私自身の方に話題が来ないように、姫愛の話の聞き役を続けた。

そして、アーネの考えが分からずモヤモヤした状態のまま、仕事が始まった。


その日の仕事が終わったときには、大分夜も更けていたが、姫愛と私は軽く飲みに行くことにした。店に入り、ビールのジョッキと料理を注文し、届いたジョッキで姫愛と乾杯してビールを煽る。酒の肴をつまみながら今日の生放送の配信について話をしていたが、いつしか巫女様の話題になった。私は咄嗟に鞄の中の魔道具を起動する。これからは魔道具の入った鞄を手放せ無さそうだ。

「ねえ、陽夏。アーネって、いつもどこにいるんだろうね」

「普通の人の格好して、人混みに紛れているんじゃないかな」

マーキングさえできれば、探知でどこにいるか分かると思うのだけど、私はまだ一度も目撃出来ていないので、マーキングする機会も無かった。

「えー、何か夢が無いよ。いつもは秘密基地みたいなところで魔獣が出てこないか監視しているとかじゃないの?」

「それじゃ何?姫愛は、仲間になったら、仕事もしないで秘密基地に引き籠るの?」

「ううっ、そんな引き籠り生活は辛そうな気がする」

「そうでしょう?普通に仕事をしているのが良いって」

「何だか、仲間になっても地味な生活になりそうだね」

「そんな毎日戦いに明け暮れているような生活じゃあ、姫愛の心がもたないと思うんだけど」

「まあ、それもそっか」

姫愛は巫女の生活にどんなイメージを持っていたのか不安になったけど、自分がそうなれば、普段の生活の延長線上にあることはすぐに分かるだろう。

「それにしても、姫愛は、まずは仲間にならないとね」

「そのためには、B級ライセンスの取得だね。ねぇ、陽夏ってダンジョン探索ライセンスのこと知ってたよね。ライセンスの取り方も知ってる?」

えーと、私はライセンスは持っていないけど、ライセンスのことはある程度知っている事情通という設定にしてたっけ?

「うんまあ、最初はダンジョン管理協会の講習会を受けるんだよ。そうすればC級のライセンスが貰えるよ」

「講習会って何処でやってるの?」

「基本的に講習会は、ダンジョンでの実技もあるから、ダンジョンのあるところだよ。日比谷公園にある東京ダンジョンは大きくて有名だし、あそこにある協会で講習会を受けられるんじゃない?他の場所が良ければ、ダンジョン管理協会のホームページで確認すれば分かると思うよ」

「分かった、ありがとう。それでB級になるにはどうするの?」

「B級は、中型以上の魔獣単独討伐20体を達成すれば取れたハズ」

「単独討伐しないといけないの?大変そうだけど」

「まあでも武器と防具が揃っていれば、そんなに難しいことじゃないと思うんだけど」

「え?陽夏って、B級取ったの?」

あ、しまった。姫愛に怪しまれてしまった。事情通なんだから、基本的に伝聞じゃなきゃいけないのに、自信満々に経験あるような言い方をしてしまったよ。何とか誤魔化さないと。

「ううん、ライセンスは持ってないよ。聞き齧っただけ」

まずい、動揺の色を隠しきれていない。姫愛が眼鏡越しに思いっきり疑いの眼差しで見ているし。

「そう?まあ、まずは、講習会行かないとだね」

それでも姫愛は追及して来なかった。姫愛に情けを掛けて貰ってしまって悔しい気分が半分と、追及されずに助かったという想いが半分という、複雑な気持ちになった。

荒んだ気持ちを癒そうと、ビールを飲んだらジョッキが空になってしまった。もう一杯お代わりしようか悩んだけど、軽くってことで始めた飲みだったし、遅い時間で姫愛もお疲れのようだったので、ここで切り上げようと言う話にした。

この勢いだと、姫愛は、明日にはダンジョン探索ライセンスのC級は取ってきそうな気がする。B級ライセンスを取るには、教わらないといけないけど、誰に教わるかが問題かも知れない。私はライセンスは持っていないことになっているから、手伝えないし、どうしようか。姫愛のことだから何か方法を見つけるかも知れないし、少し様子を見てから考えるか。

「ああ、そうだ、姫愛」

「何?」

「あのさ、巫女の仲間になるって話はあまり他にはしない方が良いと思うんだ」

「うん」

「それで、それに関係するダンジョンの話も、仕事の時にはしないでおこうよ」

「そうだね。分かった」

これで、少なくともスタジオの控室で、周りに聞かせられない話にならないかを冷や冷やしながら会話しなくて済むと信じたい。


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