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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第1章 南国の雪 (柚葉視点)
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1-10. 転移陣

翌日のお昼過ぎ、私は武器庫に行って、剣が納められた棚の箱を2つ持ち出し、家の裏手に向かった。実験するのにどこが良いか悩んだ結果、屋外で人気の少ない場所と言うことで選んだのだ。

箱を開けて、改めて模様を確認する。やはり、封印の間の入り口の転移陣や、従者の像の槍の石突きの下にあった模様と似ている。どちらかと言うと、図案が簡単な槍の石突きの下の模様の方が似ている。いや、ほとんど同じだ。

さて、どうするか。箱の印に力を通しただけでは、何も起きない。それはそうか、転移陣なら2つ一組でないと動かないようだから。

じゃあ、もう一つ同じ模様を描いたらどうなるか?封印の間の入り口の転移陣に最初にしたように、箱の模様と同じ模様を力で作ってから、その模様に触って目を閉じてみた。すると、箱の中に模様の描いてある光景が見えた。やはり転移陣で間違いないようだ。そのまま目を開けると、箱の中の模様も光っている。共鳴のような現象が起きているのか。

念のために、力で作った転送陣をそのままにして、箱の中に描いてある転送陣に触って、目を瞑る。すると、力で作った転移陣の光景が見えた。

結果に満足した私は次の段階に進むことにした。この転移陣でモノを移動させられるかである。

最初に、力で転移陣を一つ作り、箱の中に剣を入れた状態で、箱の中の転移陣に力を注ぐ、そのまま剣を意識してもう一つの側に送るように考えると、剣が反対側の転移陣の上に、持ち手側の端にあった石を転移陣に接する向きで現れた。

「おおーできた」

私は、実験に成功して嬉しくなった。剣が現れた瞬間に剣の柄を持たないと、剣が倒れてしまうが、その問題は後で考えよう。

剣を箱から転送できたとしても、まだ終わりではない。いまやったのと同じやり方では、持っている剣を箱には仕舞えるが、箱から呼び出すことが出来ない。せっかく転送ができるのだから、どこにいても箱から呼びだせるようになりたいのだ。

と、そこに瑞希ちゃんがやって来た。一人での実験も悪くはないのだけれど、お母さんに許可ももらっているし、二人でやった方が楽しいだろうから、力が使える瑞希ちゃんを誘っておいたのだ。

「こんにちは、柚葉さん」

「瑞希ちゃん、来てくれてありがとう」

「いえいえ、今日は力の新しい使い方を教えてくださるのですよね?」

「教えるというか、一緒に実験しながら学ぶ、みたいな感じで」

「実験しながらって面白そうですが、何の実験ですか?」

「転移陣の使い方。あー、転移陣って、同じ二つの転移陣同士の間でモノを転送できるんだけど、それを使って剣を呼び出せるかという実験」

と言っても、瑞希ちゃんには転移陣の知識が無いので、まずはそれをやって見せながら教える。

「力を使ってモノを転送できるなんて知らなかったです。凄いですね」

「そうね。で、いまやったように、普通は、二つの転移陣の間で、モノを行ったり来たりさせたりできるのだけど、この箱の中に入った剣は、同じに作った別の転移陣の方からは呼び出せなかったのよね。でも、何か方法があると思うので、調べたかったの」

実際に、剣を箱の中に入れた状態で、力で作った転移陣に触って、反対側に見える剣を持ってこようとしたが、何か抵抗があるようで成功しないことを見せた。瑞希ちゃんにもやってもらったけど、できなかった。

では剣でなければどうだろうと、手近なところに転がっていた拳大の石を、剣の代わりに転移陣に接するように箱の中に置いて試したところ、こちらは転送できてしまった。

「石だと転送できますね」

「となると、箱の問題ではないね。剣の方に、何か転送を邪魔するものが、仕掛けられているようだね」

改めでマジマジと剣を見る。シンプルなデザインで、模様のようなものも確認できない。そう言えば槍はどうだったかな、と思い出していたら、剣の柄の端にある透明な石が、槍の石突にもあったことを思い出した。

「これかも知れない」

思えば、御殿の力の扉にあったのも透明な石だった。あれで、利用者登録をしたっけ。

「利用者登録するのかも」

「利用者登録ですか?」

「そう、登録した人だけ転送できるようになっているんじゃないかなって」

今の剣の状態で利用者登録できるか分からなかったが、剣に付いていた石に力を通してみる。すると、石から模様が浮かび上がってきた。転移陣と同じ模様だ。

「転移陣が浮かんで来ましたけど、何だか色が暗いですね」

「そうね」

瑞希ちゃんの言う通り、転移陣が浮かんでいるが、暗いのである。

「暗いときは駄目なのかも」

もう少し力を強く石に込めてみる。すると転移陣が明るくなってきた。

「もう一息?」

更にもう少し。すると、転移陣がいつもの明るさになった。それ以降は、少し力を込めるだけでも、明るい転移陣が出てくるようになった。

「この状態で、瑞希ちゃんだとどうなるか試してもらって良いかな?」

瑞希ちゃんが力を込めてみるが、最初の私と同じように転移陣が浮かんでくるものの暗い。

「私だと駄目みたいですね」

「そうね。やっぱり持ち主が関係していそうね」

改めて剣を箱に仕舞い、実験してみる。箱と同じ転移陣を力で描いて、手を触れる。目を瞑って向こうに見える剣を手元に移動させたいと思う。

今度は転送できた。

「おー」

「できましたね」

2人で成功の喜びを分かち合う。

「柚葉さん、最初から手で握るように転移陣を描けば、転送してすぐに握れて便利になりませんか?」

「そうね、やってみようか」

剣を箱に戻してから、今度は右手を剣の柄を握る形に丸めてから、小指の脇に沿うように転移陣を描いて、力を込める。すると、手の中に剣が現れた。

「おー、便利。瑞希ちゃん、ナイスアイディア」

これなら練習すれば、実用になりそうだ。

「柚葉さん、箱に戻せますか?」

「大丈夫じゃない?」

力で転移陣を作って、剣の柄を転移陣に当ててやれば、予想通り剣を箱の中に転送できた。


「よし、上手くいったところで、もう一つの剣は、瑞希ちゃんが登録して?」

「はい、やってみます」

瑞希ちゃんが、もう一つの剣の柄に付いている石に手を当て、力を込めて登録すると、石から出た転移陣が明るく光るようになった。

「これ、転移陣ですよね?このまま転送すれば箱の中に移動したりしませんか?」

「それは試していなかったわね、やってみてもらえる?」

「はい」

瑞希ちゃんが、石から出ていた転移陣に力を込めると、剣が箱の中に現れた。

「この石を使っても転移できるんだ。色々なやり方があるんだね」

「剣以外も転送できると、もっと便利そうですよね」

「そうね、まあ、普通のものは転送できることは分かっているのよね。ただ、大きさとか重さとかがどう関係するのかが分かっていないから、そういうのも実験したいと思うんだ。だけど、それは次の機会ってことで」

今日はこれで一区切りで良いだろう。

そう言えば、御殿の従者の像の槍も利用者登録すれば転送できるか、あとで試してみよう。

「柚葉さん、ありがとうございました」

「いえいえ。あ、この剣の箱は、いつもはウチの武器庫の棚に置いてあるから。何かあったときには、お母さんや私にお願いしてもらえれば武器庫を開けるけど、剣が必要なときはいつでも転移陣で呼び出して良いからね。この剣は瑞希ちゃんしか利用者登録していないから、専用で使えるよ」

「自分専用の剣がいつでも呼び出せるなんて素敵です」

そういう可愛いこと言ってくれる瑞希ちゃんこそ素敵だよ。


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