4-5. ロケでの撮影
翌日、朝食の後一息ついてから、私たちは撮影に向かった。向かったのは東の浜辺。勿論、花蓮ちゃん達中学生の護衛にも付いてきてもらった。
今回は、私たちのモーションを取りながらカメラでの撮影も行って、あとでバーチャルアイドルの動画を合成するらしい。なので、私たちはどんな格好でも良かったのだけど、姫愛が水着を着ていくというので、私も付き合った。
姫愛は活動的な彼女らしく濃い赤系統の花柄のビキニの水着、私は青と白の柄の入ったビキニの水着にした。どちらも日焼け止めを兼ねて、長袖Tシャツタイプのラッシュガードを着ているので、実は水着はあまり見えない。ラッシュガードの色は、姫愛は白と薄ピンク、私は紺色だ。
水着は姫愛と一緒に買いに行ったのだけど、そのとき姫愛には体の傷のことを教えた。それで、なるべき傷は見せたくないのだけどと相談して色々水着売り場で考えた結果、普通の水着にラッシュガードを着れば良いよね、ということになったのだ。他にも案はあったけど、結局一番無難な路線に落ち着いた感じだ。
顔はお化粧していたので、直接太陽に当たる手を脚に日焼け止めを塗り、足にはマリンシューズを履いて、浜辺に出かけた。花蓮ちゃん達はと見ると、普通に外に行く格好だった。まあ、そうか、彼女たちにしてみれば浜辺に行くのは日常茶飯事だろう。それに今回は護衛だから、遊ばないと決めているのかも知れない。
浜辺に行くには、南御殿の中を通るのが近道とのことだったので、私たちは宿前の広場のところから門を入って南御殿の横を通って裏に抜ける経路を辿った。門の中も広場になっていて宿の前の広場とどう呼び分けているのか瑞希ちゃんに聞いてみたら、宿前の広場は中央広場と呼んでいるらしい。そして門の中の広場は、御殿前広場とのこと。御殿前広場の右側にある道場では、今日も柚葉ちゃんが舞いの練習をしているようだったけど、昨日とは違ってもう怖れるものはない。普通に歩いて道場の横を通り抜けた。
浜辺に着いて、スタッフの人たちがカメラの設置など撮影の準備をしている間、私は瑞希ちゃんに、昨日柚葉ちゃんと会ったことを話した。
「どうでした柚葉さんは?」
「心根が真っ直ぐだと思った。それに観察力があるよね。周りを良く見てる」
「柚葉さんは頭の回転も速いんですよ。それから皆に優しいし。あと、強いです」
「そうだね。瑞希ちゃんは、柚葉ちゃんが好きなんだね」
「はい」
瑞希ちゃんは嬉しそうな顔で、私を見た。強い力は使えないのに、慕われて強いと言われている柚葉ちゃんは幸せだな、と思った。
準備が出来て撮影が始まった。姫愛と私は、浜辺での遊びを色々やってみた。ビーチボールを打ち合ったり、二人でビーチフラッグスをやったり、スイカ割りをしたり、フリスビーを投げたり、砂のお城を作ったり、思いつくことは全部やってみた。私も楽しんでやったし、姫愛も楽しそうだった。良い画が撮れていると良いなぁ。
浜辺での撮影が終わったら、一旦宿に戻り、お昼を食べた。お昼は、好みのメニューを自分で選んでお金を払う形式だった。護衛の子供たちも一緒に食べた。もちろん、スタッフの奢りだ。私は豆腐チャンプルー定食にしてみた。美味しかった。
午後は、南御殿の裏の草原に撮影に行った。撮影の準備を待っている間、護衛の子たちが木剣で訓練を始めたので、姫愛と一緒に混ぜて貰った。中学生たちはいつも訓練をしているようで、型通りの動きが出来ていたが、初心者の姫愛は覚束ない動きをしていた。そんな姫愛に保仁君が一所懸命、型を教えてあげていた。私は、花蓮ちゃん達と順番に打ち合いをやった。スタッフの興味を惹かないように、手抜き気味にやっていたら、瑞希ちゃんに見咎められてしまった。
「陽夏さん、随分と手抜きしていませんか?」
「え?そうかな?」
「そうですよ。何だか手抜きをしている柚葉さんと同じような感じがするんです」
「あー、そういうこと?でも私、あまりスタッフの人たちに知られたくないんだよね。今までその手の話をしたことなかったから。分かっているのが瑞希ちゃんだけなら内緒で、ね?」
「私だけじゃなくて、花蓮さん達も皆分かっていると思いますよ。別に剣の腕前だけなら良いんじゃないですか?普通のことだと思うのですけど」
「ここで普通なのは分かっているんだけど、東京じゃあ普通じゃないかなぁ。この島ではダンジョン探索ライセンスを取るのは普通かも知れないけど、東京だとライセンスを取っているのは珍しい方だと思うし」
話ながらも瑞希ちゃんと打ち合いは続けている。瑞希ちゃんの動きは基本に忠実だから受け易い。
「そうかも知れないですけど、私は陽夏さんと本気の打ち合いがしたいです」
「えー、いやー、それは後にしない?」
「今やっても、後にしても、同じだから今行きます」
えー、どういう理屈なんだ。でも、瑞希ちゃんは身体強化をしたらしく、スピードが上がり剣の打ち込みが重くなった。これ、当たると痛いでしょ。今ここで痣を作りたくは無いし、本気ではやりたくないし、しかし身体強化している相手に、身体強化無しで対応しようとすると、動きを最小限にするしかない。何とか手抜きをして動いていないように見せられないかと考えて対応していたら、瑞希ちゃんのスピードがさらに上がった。これ以上は不味い。幸い、瑞希ちゃんは経験不足か動きが単調なので、付け入る隙は沢山ある。瑞希ちゃんが打ち込んできたときに、瑞希ちゃんの剣に私の剣を合わせ、相手の剣を巻き込むように自分の剣を回して跳ね上げた。すると私の思惑通り、瑞希ちゃんの手から剣が離れて上に飛んだ。
「瑞希ちゃん、ちょっと勘弁してよ」
私は多少げんなりした面持ちで瑞希ちゃんを見る。
「だって陽夏さん、全然本気でやってくれないじゃないですか。でも、剣を取られちゃいました。陽夏さん、やっぱり強いんですね」
瑞希ちゃんが尊敬の眼差しで私を見ている。そんな目をされては怒れない。
「瑞希ちゃんも経験詰めば、同じくらい強くなれるよ」
「はい、頑張りますね。陽夏さん、手合わせありがとうございました」
瑞希ちゃんはお辞儀をして去っていった。私は願わくば誰もこちらを見ていなければ良いなと思いたいところだったが、手合せしているときも周りの気配には注意していたので、皆が見ていたのだろうというのは分かっていた。諦めて周りを見渡すと、皆の感心したような顔が見えた。特に姫愛の目がキラキラ輝いていた。
「ねえねえ、陽夏、どうやったらそんなに上手くなれるの?」
「え、いや、私はそれほどじゃないと思うんだけど」
「どれほどだろうと私には十分だよ。ねぇ、私に少し剣を教えてよ」
姫愛の琴線に触れることがあったのだろうか、食いつきが凄い。
「はいはい、分かったから」
私は最早諦めモードに入り、姫愛に剣の稽古を付けることにした。
この草原は、島の訓練でも良く使われる場所ということもあって、スタッフの人たちは姫愛と私の訓練風景をロゼマリの撮影素材にしたいと言ってきた。ここまで来たら同じことなので、私は了解したし、姫愛も異存はなかったので、撮影に入った。
「はい、ロゼ、剣を振り下ろして。もう少し腰を入れて。そう、もう一回」
まずは剣の振り方から。
「受けるときは、ちゃんと相手の剣を見て」
そして攻撃の受け方も教えて。
「それじゃあ、打ち合いをしてみようか。ロゼの方から打ち込んでみて」
二人での打ち合いもしてみた。
「ほら、正しく受けないと、手に衝撃が行って剣を落としちゃうよ」
「マリ、厳しいよぉ」
「あら、ロゼ、強くなりたいんじゃなかったっけ?」
「強くなりたいけど、厳しいのは嫌ぁ」
「ロゼを甘やかせていたら、いつまで経っても強くなる気がしないんだけど」
姫愛の泣き言を聞き流す鬼教官といった風な映像になってしまった。まあ、面白ければ良いけど、この風景は傍から見て面白かったのだろうか。若干疑問に思ったが、スタッフの人たちが満足そうなので、それ以上は気にしないことにした。でも何で私たちは水着姿で剣の訓練をしているんだっけ。




