表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第4章 故郷を離れて (陽夏視点)
107/393

4-3. 南の島でのロケ

「おー、沖縄に着いたよ、陽夏」

「そうだね。太陽がまぶしいねぇ」

ロケの旅の初日、姫愛と私は仕事のスタッフとともに石垣島の空港に降り立った。ここからバスで離島ターミナルに移動してから、目的地である島に行く船に乗るのだ。

バスに乗って、離島ターミナルに到着したのは昼過ぎだったが、船は14時半発とのことだったので、食事などしながら待つことになった。

「船の時間までお昼休憩だって。陽夏、何か食べに行こうよ」

「良いよ、出歩くのも暑いし、このターミナルの中で良さそうなお店があるか見に行こう?」

離島ターミナル内にもお店はいくつもあって、その中の一つに入り、ソーキそばを食べてから、辺りをぶらついた。今日は移動日なので、軽くならお酒も飲んで良いと言われていたので、売店で缶ビールを買い、ターミナル内のベンチに座って飲んだりした。私は暖かい南の陽気に当てられてか、気分が大らかになっていた。

「うーん、暑いけど、南の島に来たって思うと、不思議と心が躍るね」

「そうだけど、陽夏、いつになく気の抜けた顔してない?」

「そうかな?まあ、良いよね」

そんなまったりとした気分は、船に乗り、目的地の島が近づいた時にすべて吹き飛んだ。なぜもっと注意深く調べておかなかったのかと後悔したが後の祭りだ。近づきつつある島からは大きな力の波動を感じる。この島に封印がある証拠だ。話には聞いていたものの、見たのは初めてになるこの崎森島は、南の封印の地だった。

私は故郷を捨てた時に、巫女に関係するものすべてから逃げたつもりだった。そんな私が封印の地に来てしまうとは、想定外の事態だった。私は日頃からほとんど力を使わないようにしているが、探知を切ってしまうととても無防備になった気がするので切れずにいるなど、まったく力を使わないで隠すのは無理な話だった。最小限の力で何とか隠し通せれば良いのだけど、と儚い望みを抱いた。

「ん?陽夏、どうしたの?さっきまでは陽気に話していたのに、無口になって」

「え?いや、何でもないから。大丈夫だよ、姫愛」

コバルトブルーの海と抜けるような青さの空の狭間にある緑の島。普通なら、楽しいリゾートライフを思い描いて喜びの気持ちで一杯になるところが、私には憂鬱なものとしてしか映らなかった。


島の港に着くと、宿のバンが待っていた。ここには巫女はいないようだった。皆でバンに乗り込み宿まで行く。宿に着き、バンから降りると、目の前に「崎森荘」と看板の付いた宿があった。宿の前は広場になっていたが、祭りの準備が盛んに行われていた。明日は島の祭りらしい。そして、広場を取り囲む道の一角に大きな門がある。どうやらそこが、黎明殿の南御殿の入り口のようだった。私にはそこから中を覗き込む勇気が湧かなかった。

宿に到着して部屋の割り当てを受けた。私は姫愛と二人で一つの部屋を貰った。まだ15時半で日も高いので、ロケに良さそうな場所を探しに行こうという話になり、荷物を置いて、また外に出た。

スタッフが宿の主人に島を回ってロケに良さそうな場所を探したいと言うと、宿の主人から最近はぐれの魔獣が出現したので、護衛を連れて行くようにと言われた。それで、そのスタッフが誰か適当な護衛がいないか尋ねたところ、宿の主人は祭りの前々日で準備に忙しいから大人は無理だけどと言って、ダンジョン探索ライセンスを取得した子供たちを呼んでくれた。

私たちのところに来てくれたのは、中学生ばかり五人だった。この島では、中学生になると皆ライセンスを取得するらしい。五人の中で、一番リーダーみたいだと思ったのが、中学二年生で宿屋の娘さんである花蓮ちゃんだった。中三の保仁君は、大人しめというか無口。中二の卓哉君と麗奈ちゃんもそれほど前に出るタイプには見えなかった。そして、その四人は剣と盾を持ってきていたのだけど、最後の一人の中一の瑞希ちゃんは何も持たずに来ていた。それと同時に、この子からは力の波動を感じる。いきなり遭遇してしまったのかと思ったけど、私のことがバレていないことに一縷の望みを賭けて、恐る恐る聞いてみた。

「ねぇ、瑞希ちゃんは何も持っていなくて大丈夫なの?」

「ええ、私は巫女の力が使えますから。普通は、他の人の防御や治癒の支援をしますけど、いざとなれば剣を転送して使えるんですよ。だから手ぶらでも良いんです」

「え?剣が転送できるの?実際にやってもらっても良い?」

剣の転送なんて見たことが無かったので、つい喰いついてしまった。

「良いですよ。右手を見ててくださいね」

瑞希ちゃんは右手のところに作動陣を描いた。すると次の瞬間、右手に剣が握られていた。剣の転送なんて私の故郷では見たことが無かった。

「あ、剣が現れた。凄いね。ここでは昔からこうして剣を転送していたの?」

「いえ、これは最近、本家の柚葉さんが発見したんです」

「発見したなんて、柚葉さんて凄い人なんだね」

「そうですね。凄い人だと思います」

私は、柚葉さんはどういう人だろうかと興味を持った。

そうして考えたところで、ふと、自分の知らない力の使い方を見たせいか、少しばかり夢中になり過ぎた自分に気が付いた。自分はもう力を使うことはできないのに、新たな知識を得たところで意味はないし、興味を持つべきことではないのではと、冷静な自分が問いかけてくる。私は複雑な心境になった。

「うん」

「陽夏さん?」

私の言葉が詰まったので、瑞希ちゃんが気にしたようだった。

「あ、いや、大丈夫。剣を見せてくれてありがとう。もう仕舞ってね」

「はい」

瑞希ちゃんの手からすっと剣が消えた。

ところで姫愛はと見ると、花蓮ちゃんたちに剣と盾を見せて貰っていた。さらに自分で持たせてもらい剣を振り回そうとしていたけど、構えも型も知らないので、剣の方に振り回されている感じで見ていられなかった。


護衛の中学生たちとの顔合わせが終わってから、島巡りを始めた。と言っても歩きなのでそれほど遠くには行けない。まずは宿から少し南に下ってから東に向かいサトウキビ畑の中を進んでいった。30分くらい歩くと島の東端に着いた。そこは岩場になっていて、一番海の方まで行くと、波が岩にぶつかって砕けているのがみえた。波が高ければ、さぞかしダイナミックな光景が見られそうだと思ったけど、今日は穏やかな波だったので、砕けた波で濡れる心配もなく端まで行けた。

その岩場から海に沿って少し北に向かって歩くと浜辺があった。少し入り江のように凹んだ場所にあるためか、砂が流されずに残っている。青い海に、白い砂浜、これぞ南国のビーチのようなところで、砂浜ロケをやるには良さそうな場所だった。聞けば、先日はぐれ魔獣が出現したのがここだったようで、悩む部分ではあったけど、同じ場所にすぐ出ることも無いだろうし、護衛がいれば大丈夫との判断で、明日はここでロケすることとなった。勿論、魔獣が出たら、私も中学生の誰かに剣を借りて戦うつもりだ。いくら強い力が使えないとは言っても、一般の中学生よりかはずっと戦えるだろうと思うから。

その浜辺から島の内側の方へ向かった。海岸沿いには背の高い草が多かったが、しばらく歩くと見通しの良い草原が広がっていた。草原の向こうに見えるのはサトウキビ畑だろうか。右手には森が見える。そして左手の方には南御殿の裏側が見えていた。

「瑞希ちゃん、ここの草原は広いね」

「はい、ここは良く島の訓練で使うんです」

「島の訓練?」

「そうです。この島では二ヶ月に一回、魔獣と戦うための訓練をやっているんです」

「中学生のころからダンジョン探索ライセンス取ったり、定期的に訓練をやったり、この島の人たちは魔獣と戦うことをいつも意識しているんだ」

「そうですね。ここには私たちしかいませんから、自分たちで何とかしなくちゃって思っているんです」

私は島中の意識の高さに驚いた。さぞかし結束も堅いのだろうな。

そんな風に私が瑞希ちゃんと話をしている間に、スタッフの人たちはここの草原でもロケをする方向でまとまっていた。確かに周りの景色は綺麗だし、浜辺とは違った画が撮れそうではある。

そして私たちは、時間を見て、そろそろ宿に帰ろうということになった。必然的に南御殿の敷地内を通らないといけなくなってしまい、憂鬱な気分になった。

「陽夏さん、どうかしましたか?」

「あれ、陽夏、何かあった?暗い顔をしているけど」

瑞希ちゃんの声で、姫愛も私の方を見たらしい。

「あー、いや、何か気圧されちゃって」

「そうなのかな?私は何も感じないよ?」

「姫愛には繊細な私の気持ちが分からないんじゃない?」

「何それ?陽夏は私が繊細じゃないっていうの?」

「んー、どうなんだろうね?」

取り敢えず、その場は笑って誤魔化す。でも何となく瑞希ちゃんには冷静に観察されているような気がしてならない。

私たちは裏手にある草原から、南御殿の左側を入っていった。その左には住居棟が立っている。御殿の造りは、私の故郷と同じだったが、住居棟は違っていた。同じような部分もあるので、元は同じだったものが、長い間に違う改築をしてきた結果なのだろう。

住居棟の先にあるのは道場のようだ。道場は、位置も大きさも故郷のものと同じくらいに見えた。そしてそこから力の波動を感じた。

「瑞希ちゃん、ここって道場?」

「はい、そうです。いつもなら武術や体術の練習をしているんですけど、いまはお祭りの前なので、柚葉さんが舞いの練習をしています」

「お祭りで舞いをするの?」

「ええ、ここでは夏祭りの時に、巫女が舞いをすることになっているんです。去年までは柚葉さんのお母さんが舞いをしていましたけど、今年は柚葉さんが高校生になったので、柚葉さんが舞うんですよ」

「え?柚葉さんって高校一年生なんだ?」

「はい」

まさか高校一年生とは思っていなかった。

「練習を覗いていきますか?」

「ううん、止めておくよ」

ここで顔を合わせてしまったら、何を言われるのか分からない。皆と一緒にそのまま通り過ぎようとしていたら、道場の方から声がした。

「瑞希ちゃん、ちょっと良い?」

「はい。柚葉さん、何ですか?」

瑞希ちゃんが道場から顔を出した子に手招きされていった。あの子が柚葉さんなのか。瑞希ちゃんは柚葉さんと少し話をしたと思ったら、こちらに戻ってきた。道場から出ていた顔が見えなくなったので、柚葉さんは舞いの練習に戻ったのだろう。

「瑞希ちゃん、どうかしたの?」

「陽夏さんへの伝言を頼まれました。後で行きますって」

「そう、分かった」

残念ながら、バレているようだ。まあ、そうだよなぁ、と思いながら皆と宿まで戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ