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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-33. 大型魔獣の討伐

夜、家に帰ると藍寧さんから念話で連絡を受けた。藍寧さんと同じ巫女の衣装を用意したのでロゼに着せたいとのことだった。私の部屋で良いとのことだったので、藍寧さんに来て貰うことにした。

「こんばんは、愛子さん」

藍寧さんは、衣装一式を入れた鞄を持って、私の部屋に転移してきた。

「こんばんは、藍寧さん。いつも夜に来てもらってごめんなさい」

「昼間はそれぞれ仕事がありますから、仕方がないですよ。それで、衣装を用意してきましたよ」

藍寧さんは、鞄から衣装を出して広げて見せてくれた。白だけど、衿や袖口などところどころに銀色のアクセントが入っている和装の巫女の衣装だった。丈は膝上くらい、袴はなくて、代わりに上衣と同じ白に銀色のアクセントが入った短パンのようなものを履くようになっている。

「藍寧さん、ありがとう。藍寧さんとお揃いなんて素敵だよ」

「どういたしまして。と言うか、今回は私の方がお願いしていることもあるので、私がお礼を言わないといけないと思うのですけれど」

藍寧さんは本当に真面目だと思う。

「それは問題ないですから、気にしないでください」

「ありがとうございます。それでは、ロゼになって着替えて貰えますか?」

そうだった。私は、体と意識を切り替えてロゼになった。そして、衣装を藍寧さんに着付けてもらう。

着付け終わって、鏡台の鏡を覗くと、渋谷で見た藍寧さんとお揃いの衣装を着たロゼが立っていた。力を体に満たしているので、髪は白に近い銀色に輝き、目は黒に近い銀になっている。

「この衣装はロゼにも良く似合ってますね」

「うん、そう思う。ねえ、写真撮って貰っても良い?」

「部屋の中ですけど、良いのですか?」

「大丈夫です」

私は、自分のスマホを藍寧さんに渡して、写真を何枚も撮って貰った。その後、藍寧さんのお願いのための準備をしてから私は自分の身体に戻り、藍寧さんは後片付けをして帰っていった。

さあ、いよいよ明日は本番だ。




日曜日、世間的には魔獣が現れる日、私としては魔獣を呼び出す日、アリバイ作りを兼ねて、早めに仕事場のある秋葉原に向かう。ここで仕事前に立ち寄った風に馴染みの店に顔を出しておいて、昼前からずっと私が秋葉原にいたことの証人になってもらうのだ。

そうしていくつかの店を回っていたら昼近くなってきたので、路地裏に入り認識阻害陣を起動する。そして、探知で上野駅そばのビルの屋上を特定して転移した。認識阻害はしているが、安全のためにいつもは透明な防御障壁を不透明にして周りに巡らしてから、ロゼの身体に切り替える。身体に力を巡らせて、白に近い銀髪、黒に近い銀眼にする。

防御障壁を外して、大きな横断歩道が見えるところに移動し駅前の様子を観察する。たくさんの人と車が交互に行き交っている。これからここで、念願の戦うヒロインをやるのかと思うと、感慨深いものがあった。同時に、失敗してしまうと一般の人たちに被害が及んでしまうから、緊張感もあった。ここに魔獣を出すとパニックになるだろうけど、出さないと何処に魔獣が出現してしまうか分からないし、仕方がないと腹を決める。

信号の色が変わり、人通りが途切れたところで、私は巫女ロゼとしての最初のステージを開始する。横断歩道の真ん中で旋風陣を起動し、続けて召喚陣を起動する。小さな竜巻のようなものが発生し、その後に魔獣が現れた。予想通りに大型の魔獣だった。見た目は黒いゴリラだったが、その大きさは普通のゴリラの二倍はあった。

突然の魔獣の出現で、人々はパニックになって逃げだした。しかし、一部動きを見せない人達がいた。もしかして、灯里ちゃんの呟きを見て集まった見物人かもしれない。危険と分かってそこにいて、何かあったとしても自業自得ではあるものの後味が悪くなるので、私は急いでビルの屋上から浮遊を使いながら下り、魔獣の方に向かった。

魔獣は、前方に何かを見ながら前進していた。その先に何があるのかと思い、見てみると、陽夏と灯里ちゃんがいた。二人も見物に来ていたみたいだけど、運悪く魔獣のターゲットになってしまったらしかった。見たところ、灯里ちゃんが動けず、陽夏は灯里ちゃんを護ろうとしているようだ。陽夏から、力の波動を感じるので、いざとなれば力を使って灯里ちゃんを護るつもりなのだろう。

私は魔獣をけん制するように軽く光弾を放ちながら、二人に走って近づいた。二人とも怪我はしていないみたいだった。

「ロゼ?」

灯里ちゃんが呟いた。

「でも髪型が違う」

そう、今回はいつものロゼの髪型ではない。藍寧さんのお願いにより、前回まで街中に魔獣が出たときの藍寧さんと同じ髪型にしていたのだった。それで、これまで藍寧さんがやっていたことを、すべてロゼがやったことにするのだ。それが藍寧さんのお願いだった。

さて、私は灯里ちゃんの呟きに反応する訳にはいかなかったので、黙って二人の前に防御障壁を張り、魔獣に向き合う。私の防御障壁がどこまで保てるかは分からないけど、これがあれば、陽夏が重ねて防御障壁を張っても他の人に察知されることはないだろう。

魔獣は光弾を当てられて怒ったのか、辺りを見回した後、手で地面のアスファルトを剥がして私に投げつけ始めた。私は飛んでくるアスファルトの塊を避けながら魔獣の目の前まで移動した。魔獣は前足でアスファルトの塊を持って私めがけて振り下ろしてくる。私は、その攻撃を避けると、身体強化も使った全力で体ごと下から魔獣の胸元にタックルし、魔獣を仰け反らせた。魔獣はバランスを崩し、重心が後ろにずれたので、ここがチャンスとばかりに更にもう一度タックルをぶちかますと、魔獣は尻餅をついた。

魔獣の方に大きな隙ができたので、私は右手に剣を呼び出した。そして、左手も添えて剣を上段に構え、力を乗せる。剣の刃が力の光で輝き、その輝きは徐々に刃先から上に伸びていく。そして、魔獣が片手を突いて起き上がろうとするところに剣を振り下ろした。魔獣は起き上がろうとした姿勢のまま両断され、二つに分かれて倒れた。

私が簡単に魔獣を斃すのを見た見物人たちからは、ほうっと感心しているような溜息が聞こえて来た。でも、私は見世物をやっているつもりではなかったので、そうした見物人の反応は気にしないのだ。

魔獣との闘いが終わったので、剣を送還し、陽夏たちの方に向き直った。魔獣が投げたアスファルトの塊が直接陽夏たちの周りに張った防御障壁にはぶつかっていないことは探知で確認はしていたけど、改めて異常が無いことを見てから障壁を解除し、二人が無事なことも確かめてホッとした。何ともなくて良かったね、と言う思いを込めてニッコリ微笑んだ後、踵を返して颯爽と去ろうとした。しかし、倒れた魔獣の腕に足を引っ掛けて転びそうになってしまった。

「おっとっと」

両手を広げてバランスを取り、何とか転ばずに堪えた。何とも締まらないことになってしまって悩ましい。

「え?姫愛さん?」

身体強化した耳に、灯里ちゃんの呟きが聞こえてきて、一瞬硬直した。両手を広げ片足立ちしたままの状態で首を灯里ちゃんの方に向けたら、灯里ちゃんと目が合った。

「あのトンマは」

陽夏の呟きもしっかり聞こえてしまった。確かに灯里ちゃんの言葉に反応しなければ良かったんだよね。もう遅いんだけど。

私は陽夏の言葉は聞かなかったことにして、進もうとしていた方向に首の向きを戻し、姿勢を正してから、走ってジャンプして近くのビルの上に登った。そして、周りからの視界の陰に隠れて消え去ったように見せた。

一人になってホッとした私は、先程の戦いを思い出す。以前だったらまったく歯が立たなかった大型魔獣を一人で斃すことができた。非力だった頃の私が憧れていた自分になれたのだと実感した。でも、今日はまだ第一歩を踏み出したに過ぎないのだ。藍寧さんに柚葉ちゃん、私の先に進んでいる人たちにはまだまだ及ばないし、早く追い付きたい。巫女になれたと浮かれずに、もっと頑張らないとと自戒する。


認識阻害を掛けてから元の姿に戻り、秋葉原の裏路地に転移した私は、表道に出てから認識阻害を解いて、馴染みの店巡りを再開した。いくつかの店に冷やかしに入った後、仕事場に移動する。

事務所には、上野に現れたロゼに似た不思議な力を持った女性とバーチャルアイドルのロゼとの関係についての問い合わせが何件か入ったようだったが、秋葉原でのアリバイ作りが役に立って、私が疑われることはなかった。ただ一人心配なのは、上野での闘いの現場を見て、私に疑いかけているに違いない灯里ちゃんだった。


第三章はここまでです。

いかがでしたでしょうか。


第四章は間を置かずに、明日からです。

時間が少し戻りますので、ご注意ください。

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