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黎明殿の巫女 ~Archemistic Maiden (創られし巫女)編~  作者: 蔵河 志樹
第3章 憧れに至る道 (姫愛視点)
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3-32. 出現場所の確認

朝、何か五月蠅くて寝にくいなと微睡(まどろ)みながら考えた。その騒音が目覚まし時計の鳴っている音であると意識するのに幾ばくかの時間を必要としたが、何とか起きることができた。9時に秋葉原のファストフード店に集合することになっている。そこで朝食を食べれば良いので、取り敢えずシャワーを浴びて、髪を乾かしながら漉いて髪留めを付け、外出着に着替え、化粧をするなど出掛ける準備をした。肩掛けポーチに必要なものを詰め、靴を履いて家を出る。忘れ物は無いよなと考えながら、ドアの鍵を掛けマンションの出入り口に向かう。行き先が秋葉原なので、乗り換えなしが楽だと考え、東中野まで歩いて電車に乗った。

秋葉原に着いて、予め皆で決めてあったファストフード店に入り、朝食用のセットを買って席を探した。まだ陽夏も灯里ちゃんも来ていないようなので、内緒話が出来そうな四人席を確保して、一人で食べ始めた。

「姫愛、おはよう」

私が食べ終わらないうちに、陽夏が来た。陽夏も朝食はここで取ることにしたようで、朝食のセットを手にしていた。

「おはよう。陽夏も朝ごはん?」

「そうだよ。姫愛もだよね」

「うん、そう」

「灯里ちゃんは来てる?」

「いや、まだだと思う」

「そっか、まあ食べながら待っていれば良いよね」

「それで良いんじゃない?私も食べちゃってるし」

陽夏も席に着いて食べ始めた。そして、程なく灯里ちゃんもやってきた。

「姫愛さん、陽夏さん、おはようございます」

灯里ちゃんが手に持っていたのはドリンクだけだ。

「灯里ちゃん、おはよう。朝ごはんは食べて来たの?」

「はい、早くに目が覚めてしまったので、家で食べてきちゃいました」

「それは偉いね。まあ、座って」

陽夏と私は向かい合って座っていたのだけど、灯里ちゃんは陽夏の隣に座った。

「それじゃ、悪いんだけど、先に朝ごはん食べちゃうね」

「はい、どうぞごゆっくり」

灯里ちゃんを待たせては悪いなと思いつつ、とはいえ慌てない程度に急いで食べた。自分が食べ終えたので陽夏の方を見たら、既に食べ終えていた。あれ、食べ始めたのは私より遅かった筈なんだけど。

「食べ終わってすぐで悪いけど、姫愛、調べて来たこと教えて貰っても良い?」

「うん、良いよ。ん?」

あ、不味い、本当のことを灯里ちゃんに話しちゃいけないのではないだろうか。いままでどう話すかなんて全然考えていなかったよ。

「どうしたの?姫愛」

「あ、いやぁ、何でもないよ、陽夏。大丈夫だから」

「それで、柚葉ちゃんは、どうやって渋谷を特定していたの?」

「えーと、三ヵ所のうち、二ヵ所に魔獣避けの魔道具があるのを確認していたって言ってたよ」

「魔獣避けの魔道具?」

「うん、それが置いてあると、魔獣が出ないんだって」

「ふーん、そうなんだ。じゃあ、今度もその魔道具があるかを確認すれば?ん?」

陽夏が何かに気が付いたようだった。

「あのさ、姫愛」

「うん、何かな、陽夏」

「魔道具って言ったよね」

「そうだねぇ、魔道具って言ったような気がするねぇ」

「柚葉ちゃんが魔道具のことを知っているのは良いよ。物知りだから」

「うん、そうだよ。お師匠様は何でも知っているよ」

「姫愛の言い方からして、魔道具を置いたのは柚葉ちゃんじゃないと思うんだけど、誰が置いたんだろう?」

「誰だろうねぇ」

「大体、魔道具を置いたのは、渋谷に絞るためだよね。どうして渋谷に絞ろうとしたんだろう」

「どうしてだろうねぇ」

ま、不味い。陽夏が鋭すぎる。ここで真相に辿り着いてはいけないんだけど、陽夏さん、気が付いてくれないかなぁ。

「陽夏さん、渋谷に絞ったのは、渋谷に現れたかったからではないですか?」

「渋谷に現れたかった?魔獣が?」

あ、陽夏がここでボケた。と言うことは、まだ気が付いていないよね。

「渋谷に現れたのは魔獣だけではないですよね?」

「えーと、現れたのは魔獣と、魔獣を斃した、あっ」

どうやら、ようやく陽夏も気が付いたらしい。私に向かって、どうしようかと目でサインを送ってきた。何だかもう遅すぎる気がしているのだけど。

「ええ、魔獣を斃した女の人がいますよね。その人が渋谷にしたかったのではないかと」

「そうだよ、そうなるよね」

陽夏が冷や汗を掻きながらフォローしている。

「そ、それじゃあ、今度もどこかに絞るために魔道具を設置しているかもね」

魔道具がもう設置されている雰囲気を醸して言ってみたけど、陽夏に通じるかな?

「姫愛、柚葉ちゃんは、どこに絞りそうかって話していた?」

「上野かなぁって言ってたよ。あそこは駅前に大きな横断歩道があるからって」

「だったら、大崎と赤羽に魔道具があるだろうってことだよね。探しに行ってみる?」

「探してみたいですね。ネットで呟くのに、いい加減なことを呟きたくないですから」

灯里ちゃんの言い分はもっともだったので、皆で魔道具を探しに行くことになった。自分で設置したものを自分で探しに行くことになるとは思ってなかったよ。



秋葉原からだと大崎も赤羽もそれほど移動時間は変わらなかったが、まずは大崎に行くことにした。電車に乗って大崎に近づくころ、陽夏は何かを感じたらしい。私も何か靄っとした感覚があった。これは結界の影響なのだろうか。

皆で駅前に降り立つと、陽夏が辺りを見回している。

「んー、何かありそうな気がする」

「陽夏、分かるの?」

「難しいんだけど、いつもと違う何かを感じるんだよね。魔道具って、どう配置されているか柚葉ちゃんは、言ってた?」

「えーと、黒い薄い円筒形のものを、正六角形の形に配置してあったって言ってたかなぁ」

実は柚葉ちゃんじゃなくて藍寧さんな訳だけど、陽夏はちゃんと分かって柚葉ちゃんの名前を出してくれている。

「正六角形ね。だとすると、あっちかな」

陽夏は、駅から出て、ずんずんと歩いていく。微妙の力の揺らぎがあるのは分かるけど、それを辿っているのだろうか。自分は場所を知っているので、そう思えるだけかもしれないし、ここは陽夏に付いていくことにした。

「この辺りが怪しいんだよね」

大きな通りから外れた一角に来た。確かにこの辺りに一つ魔道具を置いたんだけど、陽夏に分かるのかな?

陽夏は、目を瞑り、ムムムと唸っているけど、何を探っているのだろう。突然目を開くと、近くにある電信柱のところまで走っていって、その裏側を確認していた。

「あった、これだよ」

電信柱の陰になるところに、黒くて薄い円筒形のものがあった。そう、藍寧さんと私が置いた魔道具だった。

「陽夏、凄いね。きっとこれだと思うけど、触らない方が良いよ」

「そうだね、下手に触って、ここに魔獣が出てきちゃ困るからね」

「陽夏さん、吃驚です。どうやって見つけたのですか?」

「んー、何か変な感じがしたんだよね。そしたら、あった」

「ともかく、これがあるってことは、大崎では無いよね」

「そうですね。大崎ではなさそうですね。だったら、今度は赤羽の方に行ってみませんか?」

陽夏と私に否は無かったので、皆で大崎駅に戻り、赤羽方面に向かう電車に乗った。



私達の乗った電車は途中で上野にも停まった。

「ねぇ、陽夏。上野だけど、大崎で感じたものって、ここでは感じる?」

「うーん、そういう感じは無さそうだね」

「やっぱり上野に絞っているのかも知れませんね」

「そ、そうだね」

ここで私が焦る必要はなかったが、事情を知りながらシラを切るのは私には難しい。陽夏はよく知らないふりでドッキリしてくるんだけど、どうしてそんなに上手くシラを切れるのだろうと思ってしまう。

ともかく、電車は上野を過ぎて先に向かっていく。そして、しばらく乗っていると赤羽に着いた。

「陽夏、ここはどう?」

「うん、大崎と同じ感じがするよ」

「やっぱり上野で決まりだね」

「そうかもですけど、一応魔道具を確認したいです」

灯里ちゃんの要望を受けて、陽夏が魔道具の位置を探る。大崎は陽夏が見つけたから、ここは私が見付けても良いかなぁ。そんな風に私が悩んでいる間に、陽夏が魔道具の位置を掴んだみたいだった。

「大体分かったと思うから、行くよ」

陽夏が先に進んでいくのを灯里ちゃんと私が追いかけた。駅から離れ、大通りを渡り更に進んで公園に入った。

「この公園にありそうだね」

おお、合ってる。

陽夏は、先ほどと同じように目を瞑って感覚を研ぎ澄ませている。しばらくすると目を開け、生け垣の方に歩いていった。

「うん、あった。ここ」

生け垣の根元に、大崎にあったのと同じ魔道具が置いてあった。

「ありましたね」

「あったね」

「これで赤羽もないから、上野だね」

「じゃあ、上野ってネットで呟きますね。時間はどうしましょうか?」

「え?」

灯里ちゃんは、何の気なしに私を向いたんだと思うけど、後ろめたさのある私は焦ってしまった。

「あ、いや、その、お昼前くらい?」

「ん?姫愛、柚葉ちゃんがそう言ったの?」

陽夏が私の焦りを察してフォローしてくれた。

「う、うん、そうだけど、時間についてはあまり確信が無い風だったよ。だから、外れるかも」

苦しい言い訳になってしまった。

「分かりました。時間については、もしかしたらお昼前かも、ってくらいにしておきます」

そして、灯里ちゃんがスマホを操作してネットへの呟きを終わらせた。

「これで終わりですね。陽夏さん、姫愛さん、ありがとうございました」

「うん、どういたしまして」

「それじゃ、駅に行こっか」

灯里ちゃんと向かい合っていた私から見ると駅は後方だったので、体を半回転させて前に進もうとした。そこで、石に躓いて転びそうになった。

「おっとっと」

私は手を広げてバランスを取り、転びそうになるのを何とか堪えた。

「あははは、躓いちゃったよ」

照れ隠しに笑いながら、頭の後ろを掻く。

「姫愛らしいね」

陽夏にそう言われても、反論できません。

歩いて駅に着くと、灯里ちゃんは、新宿に行くとのことだったので、そこで別れた。陽夏と私は、仕事のために秋葉原に向かう電車に乗った。

「陽夏、フォローしてくれてありがとうね」

「うん。それにしてもアレはいつ設置したの」

「昨日の夜中に藍寧さんと。だから、眠い」

陽夏に、やれやれと言う顔をされた。


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