ゲーム
Mはすこぶるゲームに弱い。
ポーカーにまぐれで勝つことはあっても、オセロもチェスも勝てない。戦略を覚えていないという訳でもないのに、勝たない。不思議だ。
新年が明けたにも関わらず、Mが相変わらず引きこもりの日々を過ごしていたので、大家に引きずられて彼の実家にやってきた。
一応首都ではあるが、まるで村のような雰囲気を漂わせている区画に、彼の母親は暮らしているようだった。聞くと、元々は大工の街だったが、バラの栽培を経て、飛行機産業に乗り出した人々が住み着いたのだという。
大家の母親の住むアパートの居間は壁一面が窓になっており、そこからは街が見渡せた。透き通るような青い空が、朱くそまり、そして静かに闇に包まれる。時間によって街の様子が変わっていくさまは、まるで印象派の絵画のようだった。
その部屋で、大家と、その母親、そしてMとで『中国の夫人』(別名ダイヤモンドゲーム)で遊び始めた。自分の手持ちの駒を、向こう岸までたどり着かせることで勝利する、簡単な遊びだ。
最初は、実にさくさく進んだ。
自分の駒が相手の駒を飛び越えて、それはもう軽快に進んだ。
ところが、軽快だったのはMだけではなく、対戦相手たちもだった。対戦相手たちの目線に合わせて表現するならMは決して軽快ではなく、むしろ遅れていた。要するに警戒だと思っていたのは、Mの勘違いだったのだ。
しかし、明らかに劣勢だと理解していても、Mの勘違いは止まなかった。明らかに負けていながら、気分だけは軽快だった。
『また脳がバグを起こしてる。もしかして呪いかな』
勝負では結局負けて、Mの気分はスッキリした。
それから大家とMはお暇して、帰路についた。
真っ暗になった道は、肌寒く、コートの前をかき合わせる。
どこかの家から夕飯のいい匂いがした。
今日の夕飯はフォンデュにしよう、匂いにつられてそんなことを考えた。
家から出るのは、悪くない気分だった。