スープ
一年に一度のお祭りの日がやってきた。
この日になればだれもが浮足立ち、食べることになるだろうご馳走に心を躍らせる。
とはいえ、今年は世界中に特殊なウイルスが蔓延しているから、大抵のイベントはなくなった。去年までは友人と旅行をしたり、友人の家に招待されたりしていたこのイベントももれなくそれに含まれていて、お姫さまの招待も長距離の移動の難しさから断った。
その代わりというかなんというか、大家と、近所の四人の魔女を自宅に招いてこの祝日を祝うことになった。
お昼になると、ふらふらと招待客が集まりだす。
来客を知らせる玄関のベルが鳴り、そのたびにMや大家はドアを開けにいく。そして、祝いの言葉を交わすのだった。
それから、それぞれが持ち込んだ料理を居間のテーブルに並べていく。六人も集まると食卓はなかなか豪華になる。フォワグラや海鮮類、チーズ、しょっぱいケーキなんかが並んでいる。デザートにはビュッシュもある。
魔女たちはうれしそうに顔をほころばせ、大家は誇らしそうな顔をした。
それでも魔女の一人が残念そうに唇を突き出す。
「牡蠣がないのが少し残念だわ」
「今年はしょうがないね」
Mも首を振る。
シャンパンやワインをあけ、前菜を摘んで、いよいよメインへと身を乗り出す。メインは、みんなで作る特製スープだ。
大きな鉄の鍋に、二日煮込んだカエルとウミヘビの魔女特製スープをブイヨンに、肉や野菜、アニスやシナモン、いろんな具材を放り込んでいく。強火でけっして火の勢いは緩めず、根気よく鍋を混ぜ続ける。
時折、緑色の煙が上がったけれど、そのたびに魔女たちは
「まあ、いい匂いね」
と歓喜の声をあげた。
最後にもうもうと煙が上がったところで、ようやく火を止める。
それから、人数分のスープ用ボウルにスープを注ぎ込むと、全員で乾杯をしたのだった。
「この素敵な日に、乾杯!」
それから、みんなでぐい、と液体を喉に流し込む。あったかくて、Mの体はほかほかした。