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タツノオトシゴくん。 へんなやつ

 Mが故郷の学校に通っていた頃、とてもおもしろい男の子がいた。

 タツノオトシゴくんという名前の、茶髪のくるくるした巻き毛の持ち主だった。彼は泥の中をかき分けて進むブルドーザーのような人だった。


 他の同級生より二つほど年長だった彼は、取り分けて優秀な生徒だった。そして、空気を読まない人だった、のだろうとMは思う。


 Mの故郷の人間は、公の場で、強気で発言することに慣れていない人が多い。故郷の人々はそうした性質を『控えめ』だと評していた。Mを含め、ほとんどの人間は閉じこもるための貝を持っているが、Mの故郷の人のそれはとりわけ大きいのかもしれなかった。


 そして、よくもわるくもMの学校はふつうで、通っている人間もまたふつうなのだった。だから、授業があれば控えめな生徒が進んで発言することなんて、ほとんどないのだった。教師が発言を促しても、ほとんどの生徒は黙り込んでいる。


 そうして中にあって、タツノオトシゴくんは異端だった。

 だれも発言するもののない中で、授業があれば毎回一人、挙手をしていた。へんな人だった。


 よく覚えているのは、語学の授業でのことだった。国際的な言語として使用されているその言語は、Mの得意分野ではなかったが、語学堪能で才能あふれたタツノオトシゴくんにとってもそうだったらしい。


 けれど、彼は自信に満ち溢れていた。

 最初の授業で、自己紹介をすることになった時、『よろしく』『好きなものは〇〇です』『趣味は××です』という程度のことを大抵の生徒は述べた。一人当たり十五秒もかかっていなかっただろう。ところがタツノオトシゴくんは、堂々と長広舌を繰り広げた。

 出身地に始まり、年齢、趣味。将来の夢、その語学を学習することで得たいもの…、優に五分以上は、そのつたないアクセントで喋り続けていた。


 まるで、彼にはどうしても人々に伝えなければいけないことがあるみたいだった。伝えないでいることによる損失に耐えられないと言わんばかりの情熱だった。


 タツノオトシゴくんは気がついていなかったかもしれないが、そのときのクラスはちょっとざわついていた。どちらかといえば、冷ややかな空気だったような気もする。


 Mは、タツノオトシゴくんに見惚れていた。

 前から風変わりな人だと思っていたけれど、ここまで空気を読まない人だとは思わなかったのだ。そのやりたいことをやる、人を傷つけない空気の読まなさが素敵だった。べつにタツノオトシゴくんとは友達という間柄でもないけれど、人としてとても好きだった。


 そのタツノオトシゴくんもMが国を発ったのと同じ時期に、同じ国に来たらしい。なにをしているのかは知らないし、そこに興味もないのだけれど、きっとおもしろいことをしているんだろうな、と思うのだ。



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