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人間機械 ─マン・マシーン─  作者: 安藤 政
第一部 銀色の男
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第四話 襲撃

 甲高いサイレンの音が私達を現実へと引き戻した。


「エリアA地区にて<マシン>兵の反応を検知。出動可能な人員は直ちに出動せよ。繰り返す、エリアA──」


 緊急放送の音は地響きによってかき消された。

 片付けるという事を一度もやったことがないであろう、このメンテナンスルームでは、今の振動によってありとあらゆる積みあがったガラクタや機材が縦横無尽に私達に降り注いできた。

 私は、倒れてきた身の丈程の得体のしれない装置を横へ押しやると、二人を探した。


「KI-520、アル、無事か?」

「ええ、そちらは無事なようね」

 私と同じように、周囲のガラクタを蹴飛ばしながらKI-520が私の方へ歩み寄った。

 私はアルが何故か置いてある、オイル缶の下で伸びているのを発見した。私は彼の頬を叩いて起しながら、KI-520と話すのを続けた。「まさか、仕掛けて来るとは……」

「向こうも今がチャンスだと分かっているわね」

 人員が少ない極東支部で、さらに欠員が出たのだ。

 戦える<ヒューマノイド>は、もう僅かしかいない。


「PJ-486、LV-913は睡眠(スリープ)状態だ。急いで起動しても間に合わない」となると、戦える<ヒューマノイド>は私と、KI-520だけだ。私は目をぱちくりさせて放心状態のアルに頼んだ。

「アル、FI-440を頼む。それと──」

「分かってるわ。迎撃しましょう」

 私の思念を読んでいたKI-520はすでに行動に移っていた。


 私達は地上へと上がる階段を駆け上がる。

 二重扉の解除コードを隅のターミナルから入力し、一枚目の扉が唸りを上げて開放される。


 KI-520が、索敵思念波を放ったのを感知した。そのまま彼女のイメージを私も覗く。

「<オーガ>五機、<スパイダ>十機、それと見慣れない“重さ”が一機。……、また新型ね」KI-520の舌打ちをセンサがわずかに拾う。

「"人型の<マシン>(マン・マシーン)"か?」

「分からない。でもこの感覚は大型<マシン>兵のものだわ」

「KI-520、どうする?」

 彼女は言葉の代わりに思念波で簡潔に伝えてきた。私の脳裏にイメージが流れ込む。私は<オーガ>と<スパイダ>の担当のようだ。こちらに目線を向けているKI-520にアイコンタクトで了解の意思を伝え、私は二枚目の扉の開放ボタンを押した。


 開き始めた扉の先から硝煙の匂いが侵入してきた。


 ああ、くそ……、戦争の匂いだ。


 私達は、プログラムコマンドを発すると同時に、戦う意思を思念した。


変身トランス!》


 額の<フォース>の輝きと共に、私は全身に装甲を纏う。

 彼女もまた装甲を生成するが、その姿は私とは少しばかり違いがあった。背中に翼に似た、大型のE(エナジー)・ブースターを生成していた。


 扉が、全開近くまで動作して、その先に広がる景色を私は見た。


 私達は軍といえども、軍人以外とも行動を共にしていた。何故なら街は破壊しつくされ、帰る故郷を失った人達ばかりの世界で自衛能力の無い難民らを見捨てておくことは出来なかったからだ。

 支部という言葉よりかは、ジプシー、旅する一団のようなものと説明した方が我々を表すには適切だったかもしれない。


 だが、目の前の光景は、なんだ。

 その難民キャンプが潰され、焼かれ、逃げ惑う人々で溢れかえっていた。

 彼らを<スパイダ>や、<オーガ>は容赦なく撃ち殺してゆく。


 私の<思念増幅装置>に私の思念信号が勢いよく、そして多量に送信される。

 それよりも早いか、KI-520は背部大型E・ブースターを点火させた。


 壁に叩きつけられた<ライヴ>の炎が、KI-520を弾丸に変える。電光石化の如く、地面を蹴って彼女は空へ飛び立つ。

 彼女の姿は、空戦(エリアル・ファイト)ボディ──<バード・フォーム>へと変身を遂げていた。


 超低空を矢の如く進む。両手にM(マシン)・ブラスターを生成し、思念アシストを開始させる。

 バイザーに映る数機の<スパイダ>がマーカーで囲まれロックオンされた。間髪入れず、トリガーを引きマゼンダの光線を撃ち込んだ。撃ち込んだ先の行方を気にせず、KI-520は踵を地面間際まで近づけ、一瞬着陸する。

 それまでに溜め込んだ両腿のサイ・スプリングを解放し、それと同時にスラスターの向きを変えた背部E・ブースターで押し上げる。

 その動きは燕のようだった。私は、彼女に黒い小鳥を見た。


 私は先ほど感知した<スパイダ>の群れを、ブラスターの狙撃で一機ずつ破壊する。スコープの奥に、<スパイダ>がスクラップへと変わる様を流していると、三時方向に“重さ”を感知した。すぐさま跳躍し、その違和感の正体を見破る。<オーガ>のP(プラズマ)・キャノンが私の居たスクラップの車を削り取る。

 跳躍したが、“重さ”は一つだけではなかった。

 第二、第三のキャノンが私に向かう。


 回避は間に合わない。そう判断した私は、両前腕のP・シールドを展開する。

 P・シールドと、キャノンの砲弾が接触し、真っ白な光の渦が私の目の前に広がった。その渦に包まれ、一瞬意識を手放したが、すぐさま地面に叩きつけられるのを阻止するため行動に移った。


 腰部の小型E・ブースターを最大出力で焚く。落下速度の低減を図ると共に、四肢のE・コンデンサから<ライヴ>を放出し、"CASTROL(カストロール)"する。


 この"カストロール"というのは、<ライヴ>をディレクショナル(指向性)パターンで纏わせることによって動きと反対方向に働かせた<ライヴ>による動作の高速化、円滑化を図る、<ヒューマノイド>の姿勢制御能力のことだ。“Cancel stiffness by reaction of live(<ライヴ>の反作用によって硬直をキャンセルする)”の頭文字を取ってそう呼ばれる能力によって<ヒューマノイド>は人間の限界を超えた様な動作が可能となった。

 <ライヴ>という“力”を自在に操る<ヒューマノイド>のみに許された()だった。


 私は全身を振りかぶり、その反動を"カストロール"によって増幅させ、空中で倒れていた体を起こす。油断していた訳では無かったが、<オーガ>五機は流石に分が悪い。

 追撃で放たれていたミサイルをM・ブラスターで一掃し、地面に着陸、物陰に飛び込み、次弾のキャノンを回避する。


 矢継ぎ早に攻撃され、ブラスターも弾かれてしまう。

 となると……、そう考えた私はブラスターを仕舞い、E・ブレードの柄を生成する。

 近接戦闘を躊躇している暇は無かった。バイザーから熱源接近アラートが鳴り響き、無意識に放った索敵思念波が、ミサイルの“重さ”を検出する。

 サイ・スプリングを溜め込み、反重力(リパルサー)システムと同時解放する。通常の跳躍の倍ほどの距離の高さまで浮き、<オーガ>を真下に見た。


 私に一番接近していた<オーガ>が、宙に跳びたった私を発見した。<オーガ>の赤いレンズと私の瞳が交差する。


 私は再度、"カストロール"を纏い、腰部E・ブースターに<ライブ>を流し込む。

 火を噴くブースターが、私を<オーガ>まで連れてゆく。前転する要領で、体を畳みこみ空中で私は回り始めた。独楽の如く回転した私はE・ブレードに刃のイメージを注入した。

 <思念増幅装置>がイメージを<ライブ>に、そして光刃へと形状を変えさせた。


 逃げ惑う人々に対して感じたやるせなさ、後悔、そして<マシン>たちへの怒りを光刃へ込める。緑青色の粒子が私の頬を撫でた。


 <オーガ>がP・シールドを展開したが、すでに遅かった。

 ここまで近付かれる前に私を墜落させておくべきだったのに。

 <オーガ>を数センチ先に見ながら、足裏の反重力システムを稼働させ、回転を維持したまま足裏を全方位に向けることで、まるで空から吊るされているかのようにその場で静止することが出来た。そのまま何度も、何度も<オーガ>の懐で剣を叩きつけた。


 失った、死んだ命は戻らない。


 そのことを、私は()()()いる。

 だからこそ簡単に人を殺してしまえる<マシン>に、今、思い描いている思念をぶつけなければ収まりがつかないのだ。


 最初の内は、叩きつけた熱量と衝撃をP・シールドが受けきり、逃がしていた。だが、威力を増していく刃が次々と降りかかる内に脆く、薄くなっていく。


 刃がシールドを抜けた手応えを感じた私は、<思念増幅装置>を最大稼働させる。


 FI-440の顔を、人々の生活を、思念する。

 彼らが残した思念が、剣を握る手に触れた気がした。


「これでッ、どうだ!」


 刃が<オーガ>の装甲を貫き、溶かしていく感覚が掌から伝わる。私はそのままE・ブレードを振り抜いた。


 懐を両断された<オーガ>の胴体は、その切断面に沿って滑り落ちていった。


 あと、四機。

 バイザーの内側で汗が滴り落ちた。



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