エンカウンター
作戦は失敗だった。
極東支部の改造人間──<ヒューマノイド>であるFI-440とTK-225は、廃墟となった旧世界の工場へと、雪崩込むように退却したところだった。
FI-440の肩を借りて引き摺られる様に歩く、TK-225の腹部はミミズが纏わり付くかの様に線状に盛り上がっており、そこから生身の人体と改造部位を、境目無く接続させるための生体潤滑液が留度なく溢れていた。そのせいか彼の、フルフェイスタイプのバイザー部から覗く瞳の虹彩は、先程よりも灰色に濁って見えた。
FI-440は彼の思念を視た。
知覚するTK-225の思念は、霧の中を歩くことと似ていた。先が見えない恐怖や途方もなさから来る悲壮感、倦怠感、そしてその先を見たいという、ほんの少しの好奇心。
FI-440が視ていることを感知したTK-225は、大丈夫、とでもいうかのように首を縦に振った。
TK-225はFI-440と思念を通じて対話するための思念波を形成した。
《ここまでくれば……。少し降ろしてくれ》
要望に応えるため、FI-440は周辺に探索思念波を行き届かせ、全ての入り口を見通せる場所にある制御室を発見した。TK-225を担ぎ直し、制御室までの暗い階段をFI-440は登り始めた。
踊り場に足を置いたその時だった。
FI-440は背後から突然、“重さ”を感知した。
それは急速に迫る。FI-440はTK-225を突き飛ばし、自身も真横へ跳んだ。
索敵思念波は“重さ”の正体を正確に捉えた。二股に曲がった鉄骨の端材が、彼らが先程まで居た場所へ、寸分も外れずに突き刺さった。
そう、只の端材がひとりでに飛んできたのだ。
《奴だ!》直ぐ様、FI-440は数段先で蹲る、TK-225に近付こうと階段を駆け上がる。しかし、彼に触れる一歩手前でTK-225は、何処かへ吸い寄せられる様に引っ張られ、指先から逃げていった。
TK-225は宙に浮きながら移動する。その行先には一体の人影が見えた。
“それ”は、掲げていた右腕を下ろした。屋根の切れ目から差す月明かりが腕の動きに反射し、“それ”を照らした。
“それ”は、四肢に、頭部と人の形を模してはいたが、人間的な要素は一切廃された様な外見をしていた。全身が鏡面の銀色の装甲に纏われており、顔面に横切る一筋のスリット以外は特徴という特徴が無かった。
“それ”は浮いていたTK-225を押しやり、足元に転がすと、三十センチ程の棒状の機械を右手に握った。機械は右手に、突然に現れたのだった。
棒状の機械から紅色の粒子が放出し、腕程の刀身を形成した。
FI-440の索敵思念波が光刃を持つ“それ”から発せられる“重さ”──敵意を受けて、沈んだように錯覚させられた。
FI-440の<思念増幅器>がそんな彼の思念波を読解し、銀色の<マシン>兵を分析、分類し始める。
人──<マシン>──人──。
入れ替わり立ち替わる表示は、束の間停止すると、新たな分類へと分かつことに決めた。
“人型ー<マシン>”と名付けられた“それ”は、FI-440へと一歩踏み出した。