落雷
烈虎の胸の中心、ちょうど心臓の位置に叩き込まれたその一撃は、烈虎の皮膚の下に包み込まれた臓物を余す事無く激しく揺らし、
「ごぱっ……!」
烈虎にとって何年ぶりかという致命傷と確信しうる激痛を与えていた。
しかし、それだけでは終わらない。
烈虎の視界が一瞬、白く染まり。
次いで強烈な熱波、そして一切の容赦なく烈虎の全身を襲う爆風。
(体に……穴ぁ……空いたか?……)
魔法が解けたかの様に、今までなんて事なかった糸の上に乗るという行為がままならなくなり、烈虎の世界はぐるりと反転、何とも言えない浮遊感が烈虎を包んだ。
地面に叩きつけられたのか、何の衝撃も感じなかった。
うすらボヤけた視界を何とか維持する。
仰向けの状態で地面に落ちたようで、烈虎の視線は自然と上を向く事となる。
おそらく本日は晴天であることを予想させる雲1つない空。
そして――張り巡らされた糸。
その上に立ち、烈虎を見下ろす羅世蘭の姿。
かなり距離があることもあり、その表情を伺い知る事は烈虎には出来ないが、その顔はごみ溜めに吐き捨てられた「タン」の様に薄汚い姿になった烈虎を見て、自らの復讐が達成された事を喜んでいるのだろうか。
いや――復讐に、喜びも何も無いだろう。
復讐とは、決して再び得ることの出来ない物を失ったと言う事を受け入れられず、その感情の捌け口をひたすらに探す様なものだ。
その感情を吐き捨てる事が出来たとしても、それで着くのはけじめくらいであり。
入れていた物を吐き捨ててしまった人間は、ただ虚しさに打ち震えるだけだ。
からっぽになった入れ物は動きを止める。
これ以上、考える事を放棄する。
そして己が行って来た所業の罪深さに気付くのは、少し先の事になる。
「かふっ……だからなぁ……かはっ、復讐何て……やめときゃ……いいものの……」
「そうやって……1つの……感情に取り憑かれる……から……見えなくなる……んだ……」
「だからなぁ……かか、お前……は……玩具の……領域……から……出れねぇ……んだよ……」
烈虎のうすらボヤけた視界の中で。
遥か上空から――早朝の日の光を反射し、落下してくる物体が1つ。
それは――猿羅の槍だ。
烈虎に投擲され、羅世蘭にかわされ、むなしく空を切った長大な槍は、まるで烈虎の下に戻る様に、絶妙なタイミングで落下を開始し。
糸の上に立っていた羅世蘭の右肩から左の脇腹を喰い破り、烈虎の右手の隣にズドンと突き刺さった。