炸裂
ただ――いくら蛇腹が凶悪な武器だったとしても。
この糸上戦の支配権を持つのはやはり羅世蘭であった。
「うひっ!?」
烈虎が足場としているか細い1本の糸を操る権利を持つのは、羅世蘭。
羅世蘭は絶妙な力加減で糸を動かし、烈虎の姿勢を崩す。
だが――致命的にはならない程度。
烈虎に糸上戦を放棄させない程度に、その足場をぐらつかせる。
(あまりにやり過ぎると烈虎は糸を切る速度を早め……早々に地上戦に持ち込むでしょう……)
「ははっ!!」
烈虎は姿勢を崩しながらも、蛇腹を羅世蘭に向かって振るう。
それを羅世蘭はかわす事無く受け止めた。
喉元を狙った一撃を、羅世蘭は蛇腹の小さく別れた刃と刃の間、その異様な軌道を可能に所以、間接部分に持ち合わせている中でも最高硬度の糸をくくりつけ、まるで蛇の身体を糸で締め付ける様にして、「蛇腹」の動きを止めた。
(蛇腹を紙一重でかわすのは相手の思う壺……、少し動かすだけで刃は軌道を変え、確実に傷を負わせにくる……ならば、止めるしかあるまい……)
危険な賭けだった。
達人に振るわれた鞭の先端の速度は、音速の域を優に越える。
しかも、刃と刃の間を狙って――。
「……ちっ」
烈虎は蛇腹が完全に止められたのを悟り、それを手放してさらに羅世蘭との距離を詰める。
烈虎は糸の上を跳ぶ様にして加速しながら、あっという間に羅世蘭との距離を無くし
「死ね」
予備動作無しの、右手の突き。
これもまた、人体における技の速度の限界を超越した一撃――それは。
蛇腹と同じ様に、ビタリと、羅世蘭の目の前で制止した。
「……あ?」
この戦いが始まってから初めて、烈虎の口から余裕の無くなった低い声が発せられた。
烈虎の右腕には、数本の糸が巻き付いていた。
その糸は羅世蘭と烈虎の周りに張り巡らされた糸から伸びており、それら全てが烈虎の突きの威力を分散させ、羅世蘭の身体に到達する前にそれを止めていた。
「蛇腹が止められて少し焦ったか……?お前のその肥大した右腕は、技巧を凝らした技を扱うには向いていなかったようだな」
それが、羅世蘭が烈虎に向けた、最後の言葉だった。
羅世蘭の持つ技の中で最大の破壊力を持つ「富士崩し」に、弩真の発破術を組み合わせた忍術。
富士崩しが目標の身体に到達した瞬間、だめ押しの爆発が目標の身体を襲う。
「富士爆心」
ほとんど零距離――烈虎の身体に着弾。